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第十一話 女王の休日 Ⅴ

「・・・・ご心配をおかけしました。もう、私は大丈夫です」


 ヴァスティナ帝国城、女王の寝室。

 ベッドで寝ているユリーシアは、自分の見舞いのためにやって来た二人の人物に、心配をかけたと謝罪する。二人の人物とは、彼女の身を案じるリックとリリカである。

 この三人の他に、寝室にはメイドたちが居て、真剣な表情でユリーシアを看病している。彼女があの休日を過ごした際、護衛を担当していたメイドたちだ。

 ベッドで横になっている彼女の傍で、リリカは椅子に座って、リックは立って、それぞれ彼女を見舞っている。


「私の眠っていた間、城は変わりありませんでしたか?」

「はい、宰相とエミリオが上手くやってくれました。信じられない事に、リリカも政務を手伝ってくれたんです。おかげで何とかなりました」

「私が手を貸したんだ。政務の一つや二つ、私にかかれば楽なものさ」


 ユリーシアは魔法の発動によって倒れ、二日間眠り続けていた。

 二日後、ようやく目を覚ました彼女だったが、起き上がる事もできない程、身体から力が抜けていた。彼女を診た医者は絶対療養が必要だと言い、彼女の体調を考え、看病のためのメイド以外は、彼女との面会を禁止されていたのである。

 面会も禁止であり、ユリーシア自身が政務の行なえる状態でなかったために、見舞いを許された今日までの一週間、彼女の代わりに政務を担当したのは、帝国軍軍師エミリオとリリカであった。

 宰相マストールと共に、二人は女王の善政をよくこなした。おかげで政治混乱はほとんど起きず、今のところは大きな問題は起きていない。


「びっくりですよね陛下。普段お茶を飲むのが仕事の我儘女王様が、陛下の代わりに仕事してたんです。熱でもあるんじゃないかと疑いましたよ」

「そうでしたか・・・・・・。マストールの仕事を時々手伝っているとは聞いていましたが、政務をするリリカさん何て、あまり想像できませんね」

「ねぇ、君たちは私を何だと思っているんだい?」

「「帝国のお茶飲み大臣では?」」


 同じ事を考えていたリックとユリーシア。

 寝室に少し笑いが起きる。真剣だったメイドたちの表情が和らぎ、彼女たちがくすくすと笑う。リックとユリーシアも笑っていた。

 いつも通りの、リックの言葉から始まる茶番劇。

 しかし今日は、リックとリリカの表情が硬い。笑ってはいるものの、元気はなかった。


「陛下、そろそろお休み下さい」

「・・・・・そうですね、早く政務に復帰しなければなりませんし、少し眠りましょう」


 メイド長ウルスラに言われ、体調回復のためにと、眠りに入るユリーシア。


「せっかくお見舞いに来てくださったのに、この有り様で申し訳ありません」

「いえいえ、陛下の体調が第一です。俺たちは気にせず、お休みになって下さい」


 リックの言葉に安堵の表情を浮かべ、ユリーシアは眠りに入る。相当身体が辛いのか、眠りに入ってすぐに、彼女は寝息を立て始めた。

 彼女が完全に眠ったのを確認すると、リックは眠るユリーシアに背を向ける。


「軍務に戻る。お前はどうする?」

「・・・・・私は、もう少しここにいるよ」

「そうか・・・・・」


 リリカはリックに振り向きもせず、ユリーシアを見つめ続けてそう答えた。

 そんな彼女の背中は、リックが見た事もない程に、陰がかかっている。故に彼は、それ以上声をかけはしなかった。リリカとメイドたちにユリーシアを任せ、寝室を後にするリック。寝室の扉を開けて外に出ると、部屋の前には彼の部下たちが集まっていた。

 帝国軍参謀長配下の者たち。両腕であるレイナとクリス、軍師エミリオ、発明家シャランドラ、狙撃手イヴ、剛腕鉄壁のゴリオン、精鋭部隊指揮官のヘルベルトとロベルト。さらには、宰相マストールと騎士団長メシアまで、寝室の前に立っている。

 皆が一様に、ユリーシアの身を案じてこの場に集まった。自分たちの仕事を中断し、部屋からリックが戻るのを待っていたのである。


「陛下の容体はどうじゃ?」


 皆を代表して、ユリーシアの容体を聞いたのはマストールである。

 寝室の外で待機し、見舞いをリックとリリカに任せた一同は、彼の言葉を待っている。


「どうやら大丈夫そうです。心配しなくても、冗談を言って笑えるぐらい元気でした」


 その言葉を聞き、一斉に安堵したのはレイナたち帝国軍の面々だ。


「ったく、心配して損したぜ」

「おい破廉恥剣士、陛下に対して無礼だぞ!」

「よかった~、ユリユリ大丈夫なんだね」

「ほんま安心したわ」

「よかったんだな、ほんとによかったんだな」

「今度見舞いに来る時は菓子でも持ってくか。上手い焼き菓子売ってる店見つけたんだぜ」

「おいヘルベルト。だから貴様はロリベルトなどと呼ばれるのだ」


 安心感のせいか、一気に緊張の糸が切れて、普段通りに戻るレイナたち。

 リックの言葉を聞くまでは、一同部屋の前で一言も発さず、静かに彼女の身を案じていたのである。


「さあ、陛下の無事を確認できた事だし、私たちは仕事に戻ろう」


 軍師エミリオがそう言って、この場から皆を解散させようとする。リックはエミリオの言葉に頷き、彼に皆の事を任せた。

 するとエミリオが一瞬、リックに対して何かを伝える様な視線を送る。察しの良い彼はわかっているのだ。

 エミリオ以外の者たちは、一同安心して自分の仕事場へと戻っていく。皆に続いてエミリオも、リックを残して仕事に戻っていった。


「ごほっごほっ、儂も政務に戻らなければな」

「無理しないで下さい。宰相だって-------」

「言うな。・・・・・・貴様に言われるまでもない」


 マストールも自分の仕事場へと戻っていく。

 エミリオもマストールも気付いているのだ。リックが皆を安心させるために、真実を告げなかったと・・・・・。


「リック」

「メシア団長・・・・・・」


 残ったのはリックとメシアの二人だけだ。

 彼女も気付いている。リックが隠した真実に。


「陛下の容体はどうなんだ?」

「大丈夫って言ったじゃないですか。何も問題ありませんよ」

「私に嘘が通用すると思うのか。ここにはもう私以外誰もいない、話せ」


 わかっていた事だ。彼女には嘘がつけない。ついても意味がないのだ。

 それでも、現実を直視したくない思いが、彼に嘘をつかせたのである。


「見舞いに行って、陛下が目を覚ます前です。メイド長から聞かされました・・・・・」

「続けろ。胸の奥に隠した苦悩を吐き出せ」

「・・・・・・医者の診た限り、陛下の身体は・・・・・・もう限界だそうです」


 メイド長から語られた、最悪の現実。これを知った二人は、ユリーシアと話している際、絶望的な気持ちを必死に隠し続けていた。


「陛下の命は・・・・あと一年もつかどうかだって・・・・・!」


 言いたくなかった、最悪で残酷な現実。苦しみながら、どうにかその真実を吐き出し、メシアへと伝える。


「そうか・・・・・・」


 彼女はそれだけしか言わなかった。

 だが、その言葉だけで、今の彼女の気持ちが伝わる。


「どうして・・・・・どうしてだよ!何であの子ばっかり苦しまなきゃならないんだ!!」

「・・・・・・」

「俺は・・・・俺は何のために・・・・・っ!!」


 涙を堪え、溢れる感情のまま叫ぶ。だが、彼が叫んだところで現実は変わらない。

 メシアは何も言わない。いつかこの日が来ると、心の底で覚悟していたのだから・・・・・・。


「リック、私たちのやる事は変わらない」

「・・・・・・」

「陛下の命続く限り、私たちは戦う。泣き叫ぶ暇などないぞ」

「ぐっ・・・・・!」


 厳しい言葉をかける彼女に、彼は決して反発などしない。

 何故なら、彼女は正しいからだ。そして彼女もまた、自分と同じように苦しんでいると知っている。戦う事しかできない己の無力さに、彼女は内心大きな怒りを抱えている。それが彼にはわかる。

 そして彼女は、リックが壊れてしまわないよう、敢えて自分の口から厳しい言葉を放つ。彼女はユリーシアの身を案じながら、同時にリックの身も案じている。

 どんなに表を強く見せようとも、裏は硝子のように脆い。衝撃を加えただけで簡単に割れてしまう、硝子の心。そんなリックの心を、メシアはよく知っている。


「私たちは自分の為すべき事に全力を尽くす。それが陛下のためだ」

「・・・・!!」


 嫌われようと憎まれようと構わない。ユリーシアのため、リックのため、そして自分のために、彼女は凛としてあり続ける。


「前を向け。お前には、それが出来るはずだ」


 彼女は手を差し伸べ、彼の頬に触れる。共に戦おうという、決意の手を。


「・・・・・・・俺も、全力を尽くします。自分にできる事を、全力で・・・・!」

 

 リックもまた、彼女に答えようと前を向く。現実を受け止め、ユリーシアを守るために。

 二人の忠臣は、お互いがその瞳に、新たな決意の火を灯していた・・・・・・。






 この時、二人は気付いていなかった。

 城の通路の物陰に隠れ、先程の会話を、全て聞いてしまった者がいる事に。


「そんな・・・・・・・」


 二人の話を偶然聞いてしまい、慌てて物陰に隠れた。

 リックの話した真実は、想像を絶するものであり、これ以上言葉が出ない。

 女王の身を案じて、恐る恐るこの場へと足を運び、本当に偶然、聞いてはならない真実を知ってしまった。


「こんな・・・・こんなのって・・・・・!」


 様々な気持ちが込み上げ、その場から逃げるように駆け出す。

 寝室には向かわない。とにかく、誰にも今の自分を見られない何処かへと、必死に逃げる。


「嘘だ・・・・誰か嘘だって言って・・・・・・っ!」


 通路を無我夢中で走る、メイド服を着た黒髪の少女。

 己の主人が語った真実は、少女を絶望の底に突き落とした。

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