第十一話 女王の休日 Ⅰ
第十一話 女王の休日
剣と魔法の世界ローミリア大陸。
地図で見るとこの大陸は、様々な国家群が存在する、大きな大陸である事がよく分かり、東西南北に多くの人々の生活がある。
しかし、大陸の地図に描かれているのは人間の生活圏のみ。この大陸にはまだまだ謎が多く、大陸はもっと先まで土地が続いている。
何故新しく土地を開拓し、人間の生活圏を拡大しないのか?その理由は、地図で描かれているより先は、恐ろしい魔物の生活圏であるからだ。
人間と魔物の生活圏は分けられている。それでも、人間の生活圏にも魔物は存在し、ある時は討伐され、ある時は人間の生活のために利用される。一方魔物の生活圏には、人間は存在しない。
極稀に、新しい土地を求めて人間が冒険に出る事がある。だが冒険者たちは、ほとんどとして生還しなかった。運よく生き残った者はこう言った、「大陸の外は地獄だ」と。
以来、命知らずの者を除けば、外に出ようとする者は現れなかった。人間の生活圏にはいない、恐ろしい魔物たちの手によって、殺されてしまうと知ったからだ。
ローミリア大陸に生息している野生の竜も、元は大陸外から迷い込んだ魔物だと考えられている。元々ここにはいなかった存在なのだから、その異常な生命力と戦闘力にも納得だ。
そして、この大陸には問題がある。魔物の生活圏から、大量の魔物が人類の生活圏を襲う危険性である。それを危険視する学者も多い。竜のような魔物がもっと迷い込んで来れば、人類の生活圏が脅かされる事を意味し、今の大陸の状況では、それに対抗する事ができない。
魔物という脅威があるにも関わらず、ローミリア大陸では昔も今も、人類同士の争いが続けられている。人間の愚かさを象徴するような、様々な目的の戦い。
ある国は野望のために、ある国は正義のために、ある国は繁栄のために、それぞれの目的を抱いて争っている。この大陸から争いが無くなる事は、考えられない。
争いが続くローミリア大陸において、唯一平和な地は南にある。
若き女王の治めるヴァスティナ帝国。そして、帝国周辺の友好国。これらの国が存在する大陸南は、外からの侵略がない限り、争いの無い平和の地だ。
ヴァスティナ帝国を中心とした、「南ローミリア連合」。
平和の地を治める国家群は、いつしかこう呼ばれるようになっていた。
「この村の井戸には、至急人を送って下さい。壊れた井戸を直さなければ、村が干上がってしまいます」
「陛下、例の案件は如何なさいますか?」
「街道の整備ですね。将来的に見れば、この街道は交易や軍事に必要です。早速整備の用意を進めて下さい」
ヴァスティナ帝国城、女王の執務室。
執務用の机には書類が山のように積まれ、椅子に腰かけ政務を進めている少女がいる。彼女の傍には数人のメイドが控え、政務を助けていた。
少女はこの国の女王だ。そして政務は、この少女の仕事である。
しかし少女は、光を失っている。彼女は盲目なのだ。
よってメイドたちは、目の見えない彼女の政務を助けている。書類を読み上げ、彼女の判断を仰ぎ、書類を整理していく。彼女の疲れを少しでも癒すため、紅茶を淹れるのも欠かさない。
十四歳の盲目の少女が、女王として国を治める。この国は異常と言えるだろう。
それでも彼女以外に、この国を治める事のできる人間は、存在しないのである。
「次の案件は何ですか?」
「陛下、そろそろお休み下さい。朝から休息もなしに働き過ぎです」
「そうです陛下。もうすぐ日が暮れてしまいます」
ヴァスティナ帝国女王、ユリーシア・ヴァスティナ女王陛下。それが少女の名前である。
仕事を続けようとするユリーシアに、メイドたちから反対の声が上がる。理由は簡単で、彼女が今日、正確にはここ最近ずっと、政務で無理を続けているからだ。
まるで焦っているかのような、ここ最近の政務への取り組み。メイドたちは、彼女の身が心配でならない。
「私に休んでる暇などありません。私が休めば、その分だけ人々が苦しんでしまいます」
少女の言う事は正しいのだが、それでも彼女が倒れてしまえば本末転倒である。
彼女は必死に隠しているが、元々の身体の弱さと無理が祟り、酷く体調を崩している。本当ならば、ベッドで寝ていなければならない。だからこそメイドたちは、すぐにでも彼女に休んで欲しいのだ。
下手をすると、このままでは命に係わるかもしれない。
「マストールも無理をしているのです。私だけが休むわけにはいきません」
帝国宰相の老人マストール。ユリーシアが生まれる以前から、帝国に仕え続けている老人だ。
彼もこのところ体調が悪く、しばらく政務を休んで臥せっていたのだが、つい最近復帰を果たした。だが、彼の体調は万全でなく、いつ倒れてもおかしくない。それでも彼は、帝国と女王のために政務を続けている。
マストールばかりに負担をかけられないと、優しい彼女は自分の身体に厳しくあり、休む事はない。
「貴女たちにも苦労をかけます。私の目さえ見えたなら・・・・・・」
「いえ陛下。私たちの事なら御心配の必要ありません」
「私たち、これでも結構丈夫なんです。好きなだけ使って下さいね」
メイドたちは明るく振る舞い、笑顔を浮かべている。彼女には見えなくとも、自分たちは大丈夫だと感じて貰いたいのだ。
盲目のユリーシアは、自分が目の見えないせいで、メイドたちを政務に付き合わせてしまっているのを、心から申し訳なく感じている。自分のせいで、余計な仕事を彼女たちに課していると、そう思っているのだ。
その思いを理解しているメイドたちは、優しい彼女らしいと思いながらも、彼女を手伝う事しかできない、自分たちの無力さを感じていた。
「貴女たちは無力などではありません」
少女の言葉に、メイドたちは全員息を呑む。自分たちの感じていた思いが、彼女に読まれてしまったからである。
昔から彼女は、人の気持ちや思いを読むのが上手い。メイドたちはその事を忘れていた。
「無力なのは私です。貴女たちが気に病む必要はありませんよ」
そう言って彼女は政務を続けた。
無力さを感じていたメイドたちは、そんな彼女を手助けする事しかできなかった。
「それで、陛下はずっと政務を続けているわけですか」
「その通りです。このままでは陛下の身が持ちません」
「うーん、陛下は俺が言っても政務はやめませんよ。メイド長はどうですか?」
「私も参謀長と同じです。メイドたち全員、陛下の身を案じて休息を勧めるのですが・・・・・・」
「優しくあしらわれると?」
「あしらわれるとまでは言いませんが、休んで頂けないのは事実です」
ヴァスティナ帝国城内の、とある一室。
ここで二人の男女が、誰にも聞かれないよう、内密の相談を行なっている最中だった。
「私に良い案は浮かびません。騎士団長と宰相も同じでしょう」
「でも俺だって、上手い手は思いつきませんよ」
「参謀長ならば思いつくはずです。今までも貴方の奇策によって、この国は守られてきたのですから」
「そう言われても、俺の専門は一応戦争です。働き過ぎの女王陛下を休ませる作戦参謀じゃないんですよ」
相談している女性も、相談を受けている男も、良い案が浮かばない。
二人の話の中心は女王ユリーシアの事であり、この会話は特に、彼女には聞かれてはならなかった。もしも彼女の耳に入れば、自分のせいで迷惑をかけたと気に病まれてしまう。
故に二人はこうして、誰もいない一室で、他人に聞かれないよう話し合っているのである。
(とは言っても、このままにしておけない。あのお姫様と約束したじゃないかよ・・・・・・)
「ほんと久しぶりだわ。ユリユリとまたこうしてお茶出来るなんてね」
青い空。涼しい風が夏の暑さを和らげ、鳥のさえずりが心地よい音楽のように聞こえる。
チャルコ城のテラスでは、お茶会用のテーブルと椅子が置かれ、テーブルには紅茶とお茶菓子が置かれている。周りにはメイドたちが控え、紅茶を淹れ、椅子に腰かける者たちへカップを運ぶ。
「私も再会できて嬉しいです。お元気そうで何よりでした、シルフィ」
「あんたは少しやつれたんじゃない?ちゃんと寝てんの?」
「このところはあまり・・・・・・」
「何がこのところは、よ。馬鹿みたいに働き過ぎなのよ、あんたは」
お茶会の主役が座る席。
その席には二人の少女と、二人の大人の女性が座ってお茶をしている。
「てきとーに働いて、めんどくさい事は下の奴らに任せりゃいいの。女王ってのはね、城でどーんと玉座に座ってるだけで仕事してる事になるんだから」
「ふふ、確かにそうだね」
「メッシーも何か言ってやんなさいよ。素人のくせに戦場に出るんじゃないよバーカ、とか言ってやったら大人しく城で待ってたんじゃないの?」
「恐らく、言っても無駄だったと思います」
この席最年少の少女が、その見た目からは想像できないような暴言を吐き、優雅に紅茶を飲む。
七歳の幼い身体に、装飾の施された水色のドレス。肩の上までで切り揃えられた茶色がかった髪と、宝石のように光る青い瞳。この少女は、チャルコ国国王アグネス・スレイドルフの娘、シルフィ・スレイドルフである。
乱暴な言葉遣いで性格も悪いが、これでも彼女はこの国の姫殿下であるのだ。
姫のお茶の相手は、ヴァスティナ帝国女王ユリーシアである。そして二人の女性というのは、帝国騎士団長メシアと、自称で事実の美人で自由な旅人リリカだ。
「まあいいわ。ユリユリ、とにかく身体は大切にしなさいよ。あんま身体大切にしないと、そこの無茶ばっかする駄犬と同じになっちゃうわよ」
「わんわん・・・・・」
椅子には座らせて貰えず、シルフィの傍でお座り状態の男がいる。
犬の鳴き真似をさせられ、頭に犬耳のカチューシャをつけられている、無様な男の姿。一応、全身の多くに包帯が巻かれた、怪我人ではあるのだが・・・・・・。
「シルフィ、もう許してあげませんか?」
「駄目に決まってるわ。こいつが私に何したか知ってるんでしょ?んでこの変態野郎は、この前の戦いで皆に心配かけたわけだし、これは罰なのよ」
「ふふ、ふふふ。いい姿だねリック」
「笑うなリリカ」
「おい、誰が人間様の言葉喋っていいって言った?変態駄犬野郎」
「わ・・・・わん」
七歳の少女に命令され、逆らう事もできない犬耳男。首には首輪までつけられている。
声に元気がなく、明らかに今の状態が不満なこの人物は、帝国軍参謀長リクトビア・フローレンス、通称リックである。彼はこの時、姫殿下シルフィに犬にされてしまっていた。そう、犬である。
彼がこうなっているのは、シルフィが仕返しのために命令したからだ。仕返しとは、前にチャルコ国で起こった事件での事である。この仕返しに乗って来たのはリリカで、彼女も協力し、今回の戦いでリックが皆に心配をかけた罰として、犬の真似事を強制的にさせたのだった。
初めはユリーシアも、罰には丁度良いかも知れないと思っていたが、今はやり過ぎたと後悔している。犬耳、犬の首輪、犬の鳴き真似に、お座りの状態。優しい心の持ち主である彼女は、既にリックを許していた。
「おい駄犬、お手」
「・・・・・・わん」
「おかわり」
「・・・・・・わん」
「いいわ、無様ね変態野郎。七歳の美少女に罵られる気分どうよ?もしかして感じてんじゃないの」
超お楽しみである、極悪姫殿下様。邪悪な笑みを浮かべて、犬真似状態のリックを罵る様は、ドS女王様以外の何者でもない。
小国の姫という身分で、友好国の女王と対等に会話し、参謀長を罵って虐める。その振る舞いは、一国のお姫様に求められる姿ではない。
「そう言えばシルフィ姫、あの見習い騎士の少年とは上手くいってるのかい?」
「アニッシュの事?まあ、たまに顔合わせて話すぐらいよ」
「話すだけかい?デートにでも出かけたりすればいいのに」
「あいつ馬鹿だから、そういうのに鈍感なのよ」
シルフィは難しい表情で、最近の悩みを打ち明ける。
話題は恋愛相談になった。
「毎日毎日騎士になるための訓練して、休日も鍛錬してんのよ。そんで、たまに顔を合わせて話すと、やれクリスさんだのレイナさんだのの話題ばっかり。この駄犬の事も話すのよ、帝国のあの人たちは尊敬する戦士だとか何とか言ってね」
「なるほどね、あの少年らしいよ」
「大丈夫ですよシルフィ。彼はいつだって貴女のことを第一に思っています。だから日々、一人前の騎士になるために励んでいるのではないですか?」
「わかってんのよそんな事は。わかってるんだけど、もう少し・・・・・・」
少し顔を逸らし、思いつめた表情を見せる。
乱暴なところもあるが、彼女は立派な、恋する乙女であるのだ。
「文句があるのはわかります。でも、そんな彼の事が好きで仕方ないのですよね」
「まっ、まあたまにね・・・・・、私の事褒めてくれるし。すっ、好きって言ってくれるし・・・・・・」
「もっと素直になった方がいいですよ。その方がシルフィは可愛いです」
「揶揄わないでよ・・・・・・もう」
どちらかと言えばツンデレの部類である、七歳の恋する乙女シルフィ。
見習い騎士アニッシュとは前の事件以来、すっかり両想いの良き仲である。しかしお互いの立場上、頻繁に会う事はできず、付き合いにも制限がある。
顔を合わせて話す事ができるのも、僅かな時間しかない。会話の時、素直になれない彼女は、愛する彼に上手く気持ちが伝えられないのだ。相手から見れば、それも可愛く映るのだろうが、ツンデレ本人は苦労している。
シルフィの親友であるユリーシアには、彼女の気持ちがよくわかっているのである。
「あんたはどうなのよ?この駄犬とは上手くいってんの?」
「私とリック様はそのような関係ではないので」
「ふーん、そういう事言っちゃうんだ・・・・・・」
悪戯好きの彼女が、何かを思いついた。
純情少女ユリーシアを揶揄うための、悪い思い付きだ。
「おい駄犬、良い事教えてあげようか」
「?」
「ユリユリが昔教えてくれたんだけど。この子、何歳までお漏らししてたと思う?」
「「なっ!!?」」
心底驚いたのは、リックとユリーシアの二人。
リックは興味津々となり、ユリーシアは持っていた紅茶のカップを落としそうになった。
「シルフィ!」
「お返しよ。どうよ駄犬、気持ち悪いぐらい主人が大好きな変態としては、この子が何歳までお漏らししちゃってたか気にならない?」
「わんわんわんわん!!!」
「気になるわよねぇ~、教えてあげましょうか?教えて欲しけりゃ、絶対服従のポーズとって鳴きなさい」
「くぅ~~~~ん・・・・」
恥も誇りも捨てて、己の主人の恥ずかしい過去を知ろうとする、帝国軍最高責任者の痴態。
犬の絶対服従のポーズを真似て、テラスの床で仰向けになる。しかも鳴いて見せる。
彼の部下たちがこの場にいなかったのが幸いだ。と言っても、どうせリリカの口から、この痴態は広まってしまうだろうが・・・・・・。
「流石変態ね、気持ち悪いけどいいわ。向こうでユリユリお漏らし伝説を聞かせてあげる」
「まっ、待って下さい!」
「い・や・よ。たまにはあんたの恥ずかしがる顔が見たいの。ほら行くわよ駄犬」
「わんわん!」
席を離れるシルフィと、元気よく返事をして彼女に付いて行くリック。
「ふふふ、私も気になるかな。帝国に帰ったら宰相にでも聞いてみよう」
「リリカさん!」
「リリカ殿、宰相だけでなく私も知っています。前にシルフィ様に教えて貰いましたから」
「メシアまで!?私の恥ずかしい過去を知ろうとしないで下さい!!」
テラスでのお茶会の席を外し、シルフィとリックの二人は、三人に声が聞こえない距離まで離れた。
彼女は話そうとする。お漏らしの話ではない、真面目な話をだ。
「ユリユリの体調、相当悪いんじゃないの?」
「・・・・・・正直、しばらく静養が必要だと思います」
「ちっ・・・・・・、あんた何やってんのよ。ユリユリが優し過ぎるとんでも女王だってわかってるでしょ。これ以上無茶したら、壊れるわよあの子」
「・・・・・・」
「使えない糞駄犬ね。少なくとも、ここにいる間はあの子をしっかり休ませるわ。政務の事は忘れさせて、無理やりにでも休息をとって貰うから」
「よろしくお願いします」
親友であるユリーシアの身を案じていた彼女は、父親であるチャルコ王に頼み、連合軍総指揮官であった彼女を、自国に招くよう頼み込んだ。表向きは、連合軍の英雄を称える宴の招待であり、女王という立場上、彼女が招きに応じないわけはない。
ユリーシアは招きに応じ、軍の本隊はそのまま帝国に帰還させ、護衛の騎士団とメイドたちと共にこの国に訪れた。リックとリリカがいるのは、彼女を心配しての事だ。
彼女を招いたシルフィの目的は、ユリーシアの今を知るためと、彼女の身を案じていたため、そして何よりも、大切な親友との再会。それこそがシルフィの目的だった。
「あの子、一体何を考えてるの?あんたとあの子の目的は何なの?」
「・・・・・・」
「都合悪いとだんまり。ほんと屑ね」
「俺の事はどれだけ嫌ってくれてもいいです。でも、陛下だけは嫌わないで下さい」
「嫌うわけないでしょ。あの子は私の親友、これからもずっとね」
シルフィがここまで言うのも、大切な親友を思っての事に他ならない。
そして、彼女がここまでリックに厳しく当たるのも、ユリーシアを思ってこそだ。自分の理解の及ばないところで、リックとユリーシアは何かの目的をもって動いている。それを察したシルフィは、親友が大切にするこの男の存在が、いつか彼女を不幸にするのではと考えているのだ。
「約束しなさい。帝国に戻ったら、ユリユリをもっと大切にするって。それが出来ないって言うんなら、あんたは私がこの場で殺す」
彼女の眼は本気だ。本気で殺意を秘めている。
シルフィとユリーシアの間に、どんな絆があるのかリックは知る由もない。だが彼は、彼女の守りたいという強い思いを感じ取り、彼女の言葉を胸に刻む。自分に厳しくあってくれる、恐らく一生頭が上がらない、彼女の強い言葉を。
「約束します。シルフィ様に代わり、俺が陛下を守ります。今よりもしっかりと」
「それと、あの子に何かあったら私に真っ先に報告しなさい。あの子の事なら、いつだって頼ってくれていいから」
「了解です。その時は頼りにさせて貰います」
二人の交わした約束。
シルフィという心強い味方。自分の事を屑だと言い、存在そのものを貶す彼女に、リックは頼もしさと尊敬の念を抱いている。メシア団長とはまた別の尊敬を、七歳の少女に抱いてしまっているのだ。
しかも、彼女に抱いている尊敬とは、人として恥ずべきものである。彼女が悪いというわけではなく、問題は彼自身にあった。
言動や態度はともかく、彼女は人としてあたり前の事をしているに過ぎず、彼女だけが特別な存在というわけではない。その彼女を、普通の人間とは違うものと思い、まるで神様のように考えて、勝手に愚かな尊敬を抱いている。
自分自身、それがいけない事だとわかっていても、彼は尊敬してしまうのだ。何故なら彼女は、彼にとって、とても眩しい存在であるのだから・・・・・。
「あんたを信じたわけじゃない。でも託したから」
少女は右手を握りしめ、拳をリックの胸に当てる。
痛くはない。それでもこの拳には、彼女の思いが詰まっている。とても重い拳だ。
二人はここで約束した。強い思いがこもる、固い約束を・・・・・・。
「で、シルフィ様。陛下は何歳までお漏らししてたんですか?」
「あんたみたいな変態に教えるわけないでしょ。内緒話するための口実に決まってるじゃない」
「えっ・・・・・・」
「なに世界の終わりみたいな面してんのよ。本気で教えて貰えると思ってたの、駄犬が」
「・・・・・教えてくれないならいいですよ。嘘つかれたこの悲しさ、帝国に帰ったらメイファに犬耳付けて犬真似させて晴らしますから」
「何ですって!?私のもう一人の親友に変な事すんじゃねぇ!」
「嫌なら教えて下さい。うちの専属メイドは人質ですよ?あっはははは!」
「下衆がっ!!」




