第十話 宴 Ⅳ
時を同じくして。
「えーと、皆集まったかいな?グラスも持っとるな?」
ヴァスティナ帝国城、食堂にて。
この場に集まった者たちは、先日の対ジエーデル戦に参加した人間である。食堂のテーブルには沢山の料理と、街で購入された酒の数々が並ぶ。料理は食堂の料理係が腕を振るい、今日のために準備したものだ。
「ごほんっ!じゃあうちが乾杯の音頭をとらせて貰うで。でもその前に、皆に一つ報告があるんや!」
この場の代表として、グラス片手に声を上げているのは、発明家シャランドラである。その独特な口調で、乾杯の音頭をとる担当になった彼女だが、折角皆が集まっているのだからと、彼女は昨日から報告したかった事を話し出したのである。
「この前の戦いでな、皆が使った銃火器の事なんやけど、皆のおかげで新作の開発が上手くいきそうなんや。例の機関銃と榴弾砲もな、ぶっ壊れてもうたけど、おかげで改善点が見えてきたんやで」
対ジエーデル戦となった南ローミリア決戦では、彼女と技術陣による兵器のおかげで、戦局を有利に進める事ができた。帝国の弾薬備蓄をほとんど使い尽くしてしまったものの、実戦データは十分にとれたのである。
「出来ればな、機関銃と榴弾砲は壊さんでくれたら良かったんやけど、機関銃は乱暴に扱われるし、榴弾砲は壊れてもいいから撃ちまくれって命令されるし、ほんま何度泣きたくなった事か・・・・・・」
ぎくりと肩を震わせた者が、この場に約二名。
「でもな、次はもっと強くて丈夫でかっちょいいの作ったるでな!新作の設計図はもう完成してるから、皆期待しててくれや!!」
相変わらず開発に関しては行動が早く、短期間に兵器を完成させてしまう彼女に、皆が感嘆の声を上げる。
彼女がまだ帝国ではなく、南の大森林の隠れ里に住んでいた頃は、今のように開発資金もなければ、資材も極僅かなものであった。
今は帝国軍の軍事予算がまわされ、昔以上の資材を使用する事ができ、自由に何でも開発が行なえるのだ。この環境が、彼女に元々あった天才的才能を、完全に開花させたのである。
その才が、短期間での新兵器開発を可能とし、帝国に勝利をもたらしたのだ。
「ほんま期待してくれてええで!次の兵器たちはな、もう敵兵の一万や二万簡単に------」
「どうでもいいから早く飲ませろー!」
「俺たちは酒が飲みたくて来てんだぞ!」
「話長いんだよ!さっさと始めろー!」
一刻も早く酒を浴びるように飲みたい、食堂に集まった屈強な男たちから、乾杯を急かす声が上がる。
まだ話し足りないと、かなり不満な顔のシャランドラ。だがしかし、この場の大多数が早く始めたいという様子であるため、渋々話を終わらせた。
そして、グラスを高く掲げて・・・・・・。
「ほないくで!遅くなったけど、ヴァスティナ帝国の勝利を祝って。乾杯や!!」
「「「「「「乾杯っ!!!」」」」」」
ようやく乾杯の音頭がとられ、帝国の勝利を祝う宴が始まった。
「よーし皆!今日は好きなだけ食って飲んで歌って踊れ!!これは参謀長命令だ!」
「今までで一番最高の命令ですぜ!久々にぶっ倒れるまで飲んでやる」
リックが命令という名の許可を出し、男たちは酒を飲み、料理を次々と口に運んでいく。
酒が飲み放題だという事で、宴を楽しみにしていたヘルベルトたち。元傭兵部隊の屈強な男たちは、勝利をつまみに、酒を楽しんでいる。
「あむあむあむあむ、がつがつがつがつ、ごくごくごくごく、ごっくん・・・・・・・」
「がぶがぶがぶがぶ、ばくばくばくばくばく、ごっくんごっくんごっくん・・・・・・」
用意された大量の料理。肉料理と魚料理、野菜のサラダに果物の盛り合わせなど、沢山の料理を一心不乱に食べまくっているのは、帝国の二大大食い戦士である、レイナとゴリオンだ。
「そんなに急いで食べなくても、料理は逃げたりしないよ」
「あむあむ、ごっくん・・・・・・。わかってはいるのだが手が止まらない」
「うまいんだな。これならいくらでも食べられるだよ」
宴のために、今日はいつも以上に鍛錬し、いつもより朝食と昼食の量を減らして、腹を空かせて来ているレイナとゴリオン。腹が空く故に、食べる手が止まらないのだ。
そんな二人を見て、毎度の事ながらその大食いっぷりに凄さを感じてしまうイヴ。
「いいよねーレイナちゃんは。食べても太る体質じゃないし」
「日々鍛錬していれば、余分な脂肪など付きはしない」
「それはレイナちゃんだけだよ。僕は今の体系維持したいから、普段から献立と食事量気を付けてるの。油断するとすぐ太っちゃうもん」
相変わらず露出の多い格好で、へそを出した服装のイヴ。余分な脂肪のない、細く綺麗な形のお腹をしているが、本人曰く、油断すると危険らしい。
「イヴは太ってもきっと可愛いんだな。心配ないだよ」
「僕、ぽっちゃり系になりたくないんだよね。もし太ってリック君に嫌われちゃったらって考えると、どうしても恐いの」
「そうか。ではお前の分も私が料理を頂くとしよう。残してはいけないからな!」
頭の中が半分以上「食べる」しかなく、食事を再開したレイナ。最早呆れて何も言えなくなったイヴは、同じく食事を再開したゴリオンも見て、とりあえず溜息一つ。
それでも、「今日ぐらいは気にしなくてもいいかな」と、レイナの隣で沢山の料理に手を付け始めた。
「ごくごくごく・・・・・ぷはぁ!くぅ~、やっぱ仕事終わりの酒は格別やで!!」
別の所では、乾杯の音頭を務めたシャランドラが、グラス一杯にビールを注いで一気飲みをしていた。彼女の象徴とも言える眼鏡をかけ、酒の酔いに頬が若干赤くなっているシャランドラ。
眼鏡少女が屈強な男たちに混じり、ビールを一気飲むこの光景。まともな人間が見れば、異常な光景に見える事だろう。
「シャランドラ殿」
「おお、セリっちやんか!もう怪我は平気なんか?」
今回の戦いで、ジエーデル軍の精鋭カラミティルナ隊の一人を討ち取り、味方の危機を救う活躍をした女戦士、セリーヌ・アングハルトが彼女に声をかける。
戦いと拷問による怪我で、身体中に包帯が巻かれた痛々しい姿ではあるが、見たところ怪我は大分良いようだ。
「アングハルトは、あなたに御礼と謝罪を述べるため参りました」
「何や改まって。戦いの時の事なら気にせんでええで」
「いいえ言わせて下さい。私が生き残れたのは参謀長と、あなたの御力があったからです。あの時は言う暇もありませんでしたが、本当に感謝しています。あなたは命の恩人であります」
頭を下げて感謝する彼女に、照れくささが隠しきれないシャランドラ。
レイナのように真面目で、メシアの様な女戦士であり、シャランドラの機関銃を存分に使いこなした、リックの大切な仲間の一人。
アングハルト流、直球の感謝の気持ちは、とても美しく、眩しく感じてしまう。だから余計に照れてしまうのだ。
「ええんやで御礼なんて。うちはリックに付いてっただけやしな」
「そして謝罪したい。あの時、機関銃を壊してしまい誠に申し訳ありませんでした」
アングハルトの表情は曇り、深く反省しているのがよくわかる。
あの戦いで、シャランドラから例の機関銃を借り、弾薬を使い切るまで撃ち続けた彼女は、結果的に銃を壊して返した。シャランドラからは、「絶対に壊すな」と、念を押されていたのにも関わらずである。
そう、彼女は先程の、ぎくりと肩を震わせた一人である。ちなみに、もう一人ぎくりとなったのは、全軍を指揮した軍師エミリオだった。何故ならば、榴弾砲を撃ちまくれと命令したのは、リックと思わせて、実はエミリオであったからだ。
「あー、あれな・・・・・・。あれはショックやったわ、流石に泣いたで・・・・・・」
「お詫びに何でも致します。どのような事でも私にお申し下さって結構です」
「・・・・・ほんまに?」
「帝国軍兵士の一人として、二言はありません」
「じゃあな、今度造る予定の魔法動力機関搭載の新型荷車に、一緒に試乗して欲しいんやけど」
「・・・・・・了解」
「めっさ嫌そうやな」
魔法動力機関搭載荷車。一度乗った経験があるアングハルトの脳裏に、チャルコ国での激突事故の記憶が蘇る。
内心凄まじい不安を感じながらも、彼女は同意した。
「クリス様、こちらの料理は如何ですか?」
「エミリオ様、グラスにお酒を注ぎ致しますね」
さらに別の所では、クリスとエミリオが、共に従軍したメイドたちに囲まれていた。
顔立ちがよく、気品もあるこの二人は、帝国軍きってのイケメンアイドルと言える。金髪青年と長髪眼鏡のこの二人は、実は帝国内でかなりの人気があるのだ。勿論、女性限定ではあるが。
「女にモテても何も感じねぇ」
「でも君は、元は女好きじゃなかったのかい?」
「・・・・・・今は違うんだよ」
メイドたちに好意を持たれる事が、心底どうでもいいと思うクリスと、自分が好意を持たれている事に、少々戸惑いを見せているエミリオ。
このメイドたちはメイド長ウルスラ旗下の、実はやばいメイド部隊の者たちだ。今回の戦いでは、女王の身辺警護のために従軍していた。
元女軍人のウルスラが集めた、訳在りのこのメイドたち。今回の戦いでは、その力を見る事はなかったが、話ではヘルベルト率いる鉄血部隊に匹敵する、高い戦闘力を持っているという話だ。
本当は恐ろしいメイドさんたちではあるが、宴の席では普通の女性である。かっこいい男が好きな、普通の女性であるのだ。
「クリス様クリス様♪リック様との関係は進展ありました?」
「ちょっと、こんなところで腐らないでよ!皆あんたと同じだって勘違いされちゃうじゃない」
「いいじゃない、せっかくだから聞いてみたいの。で、どうなんですかクリス様!」
メイドの一人に少し困った者がいる。
リックがこの場にいれば、必ずこう言うだろう。「こいつ・・・腐ってやがる・・・・」と。
「相変わらずだぜ。何かいい知恵があったら教えてくれ」
「やっぱり私が思うに、クリス様が攻めでリック様が受けだと思うんですよ♪それでですね、リック様は押しに絶対弱いです。お酒でべろんべろんに酔わせてベッドまで運んで、一気に押し倒しちゃってニャンニャンすれば大勝利間違いなしです!!」
自信満々に叫ぶ腐ったメイド。エミリオは思う。「リック・・・同情するよ・・・・」と。
いつの間にかこの腐ったメイドの脳内では、クリス攻めリック受けの、とんでも妄想が展開している。
「・・・・・・よし、俺は今日勝負をかけるぜ」
「やめてあげなよ。リックの性癖は知っているだろうに・・・・・・」
「ところでクリス様とエミリオ様は、いつになったら絡んでくれるんですか?」
「「・・・・・・・・・・・」」
場が凍り付いてしまった。腐ったメイドの妄想によって・・・・・・。
「何だろう、宴の場が混沌としてきたな」
「ふふふ、いいじゃないか。今日は無礼講だよ」
この宴の席を開こうと計画し、皆を集めた張本人。
帝国軍参謀長のリックは、リリカと一緒に酒を飲んでいた。飲んでいるのは、チャルコ国製最高級ワインのシュタインベルガーだ。これは帝国友好国の一つ、チャルコ国へ行った時に、リリカが何をどうやったのか貰って来たものである。
「メイファも飲むかい?」
「いえ、私にお酒はまだ早いので」
「おい、メイファに酒は早過ぎだ。メイド長は如何ですか?」
「頂きます参謀長」
グラスにワインを注ぎ、メイド長ウルスラにそれを手渡すリック。
参謀長専属メイドのメイファは、グラスに酒ではなく、葡萄ジュースを注いでいた。
「いやー、酒は飲み放題で飯も美味い!最高だなロベルト」
「タダで飲み食いできるのがそんなにも嬉しいのか。よっぽど懐が寂しいと見える」
「誰かさんが減給ばっかするおかげでな・・・・・・」
リックが共に飲んでいる面子は、隣にリリカを始めとし、メイドであるウルスラとメイファ、精鋭部隊を率いるヘルベルトとロベルトである。
大好きな酒を容器ごと掴み、グラスに注ぐ事なく飲みまくるヘルベルト。宴の席は酒場で飲むのと違い、自分の金を使わない。それ故彼は、懐事情を気にせず飲みまくっているのだ。
「そう言えばヘルベルト様。先日の飴、陛下は大層御喜びでした」
「何ですかメイド長、その話?」
「まっ、待ったメイド長!」
「リクトビア様は御存じありませんか。先日ヘルベルト様が陛下に、街で美味な飴を買ったと言って、陛下へと献上なさったのです」
「ほほう、人は見かけによらないね」
どうやら事実らしく、ばつの悪そうな表情を浮かべるヘルベルトだが、この男が少女に飴をあげる光景を想像すると、どうしても犯罪臭が漂う。屈強な身体つきの、髭を生やしたおっさんが、少女に飴をあげるのだ。違和感があり過ぎる。
「変わらんなお前は。その病気、いい加減治したらどうだ」
「病気じゃねぇ!」
「何だよ病気って。こいつどこか悪いのか?」
何かの病気を患っているのかと、リック真面目に心配している。
こういう時、彼は仲間の事をとても心配してしまう。たとえそれが、戦闘狂の元傭兵であろうと変わらない。
「参謀長殿が心配するまでもない病気だ。実はヘルベルトは、昔から少女が好きなのだ」
皆の酒を飲む手が止まり、一同一斉にヘルベルトを凝視する。
「えっ・・・・お前ロリコンだったの・・・・・・?」
「違う!俺は子供が好きなんだ!隊長みたいな変態と一緒にすんじゃねぇ!」
「何を言う我が戦友よ。皆に黙ってお前が娼家に一人で行き、必ず店で一番若い娘を抱くのは知っているぞ」
「おいロベルト!てめぇ余計な事言うんじゃねぇよ!!」
文句を言った時にはもう手遅れだった。ヘルベルトに刺すような視線が集まる。彼のまさかの趣味を知ったこの場の者たちの、恐い視線。
「あっ、私この前ヘルベルト様にお菓子を頂きました。今思えば・・・・・・そういう事だったのですね」
「お前俺のメイファにまで手を出したのか!?このロリコン野郎!!」
「誤解だ誤解!俺は子供好きなだけでやましい気持ちがあるわけじゃない!」
「それを言うなら、レイナやイヴだって年齢的には子供だね。どうして二人には優しくしないんだい?」
「いや姉御、あいつらはもうガキじゃねぇ。女王とメイファは子供なんだから、何か買い与えたりするのは大人の特権だ」
「つまりあれか、十五歳以上は子供じゃない理論てやつか?筋金入りのロリコンだなお前」
もう、自分が子供好きなのを隠すのを諦め、潔く認めたヘルベルト。
明日から彼はこう呼ばれるのだろう。ロリコンヘルベルト、略してロリベルトと。
「ヘルベルトは陛下とメイファに近付くの禁止な。それと減給」
「待ってくれ隊長!これ以上減給されたら俺の給料が!!」
「大丈夫大丈夫、お前が酒と煙草と風俗やめれば今の給料でもなんとかなるさ」
「煙草は子供に嫌われるから昔やめた。だが酒は許してくだせぇ」
いつも通りの馬鹿らしい話。いつも通りの面子の茶番劇。
いつも通りがこうして行なえるのも、戦いから無事に生き残ったが故だ。宴を計画したリックは、その事にとても満足している。
帝国が大きな戦いを経験するのは、今回で三度目だ。そして三度目の今回の戦いは、帝国の損害が最も少なかった戦いである。レイナとクリス、ゴリオンやイヴの活躍に、精鋭のヘルベルトとロベルトの二つの部隊。シャランドラの兵器とエミリオの作戦もあり、帝国の戦死者は連合軍の中で最も少なかった。
この宴に集められた、リック自身が集めた仲間たちなど、誰一人として欠けずに生還し、その精強さを見せつけたのである。
それが嬉しいリックは、皆を労う目的と、未だ皆に合う、ちゃんとした宴を行なっていなかったという事で、皆の仕事が落ち着いた、この日に宴を開いた。
戦勝を祝う宴は行なわれたが、あれはリックからすれば宴ではない。宴というのは、皆で楽しくカオスに、食いまくり飲みまくるというのが、帝国軍流の宴だと考えているのだ。
「よっしゃ、そろそろ始めようや!宴の席と言えば一発芸やで!」
「いいぞー、やれやれ!」
「第一回ヴァスティナ帝国一発芸大会の開催をここに宣言するで!!我こそはと思うもんは参加してくれや!」
酒に酔ったシャランドラが、いきなり一発芸大会を開催してしまった。
同じく酒に酔った男たちが、待ってました言わんばかりにのってきた。
「面白い事になってきな」
「一発芸大会とはね。シャランドラらしいじゃないか」
「じゃあ盛り上げるか。おい、レイナとクリスとヘルベルトとシャランドラとイヴは、一発芸に強制参加だぞ」
「「「「「えっ!?」」」」」
「エミリオの事、書類整理担当軍師だと思ってた組は、面白い芸しないと許してやらない」
リックの無茶振りが飛び、宴の盛り上がりと狂う様は加速度的に進行する。
今宵の宴は始まったばかり。酔いがまわり、場が温まり始める。テンションがおかしくなっていくのはこれからだ。参加者全員は今日、倒れるまで宴を楽しむ事だろう。
「芸の一番手は誰だ?とびっきり面白いのを頼んだぞ!」




