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第十話 宴 Ⅰ

第十話 宴







 戦勝を祝う宴の席が設けられた。

 ここは城内で、宴の間と呼ばれている場所であり、中は広々としている。豪華な装飾などは少ないが、清潔感があり、宴の席としては上々だと言えるだろう。大きな円形のテーブルがいくつも用意され、料理人が腕によりをかけた料理の数々が並び、酒蔵から沢山の種類の酒が用意された。

 設けられた宴の席には、この国の重要人物たちが集まり、場に相応しい格好で酒を飲んでいる。男は礼装で、女は美しいドレスを着こなし、酒と料理を口に運びながら、様々な人物と挨拶を交わしていた。


「・・・・・・」

「なに緊張してやがんだ。いい加減慣れろよ」

「・・・・・・無理だ。私はこんな宴を経験した事がないのだぞ」


 ヴァスティナ帝国城の宴の間。

 今ここには、ヴァスティナ帝国を動かしている、様々な人物の姿がある。帝国の政務官や軍関係者に、貴族たちも集まっており、この席で緊張している赤髪の少女は、自分がこの場に不相応であると感じていた。


「せっかくの料理だというのに、緊張で味が全くわからない・・・・・・」

「戦う事と食う事しか頭にねぇのか。だからてめぇは脳筋なんだよ」

「貴様には言われたくない。だが、貴様の言う通りだ・・・・・・」


 溜息をつきながら落ち込む少女。その姿を見て呆れる青年。

 少女の名はレイナ・ミカズキ。青年の名はクリスティアーノ・レッドフォード。

 ヴァスティナ帝国軍参謀長の両腕であり、つい最近、独裁国家ジエーデル国の軍隊相手に、その力を遺憾なく発揮した。二人の実力は本物で、一人で何十人もの敵兵を討ち取り、圧倒的な力を示したのである。

 戦勝祝いの宴の席であるため、レイナは赤を基調としたドレスを着て、クリスは白を基調とした礼服を着こなしている。場に慣れないレイナと違い、先程から動じずに、貴族相手の対応も手馴れているクリス。

 自分と青年の差を見せつけられ、ますます彼女は自信を無くしていた。


「リック様は凄いな。先程まではあんなに嫌がっていたというのに・・・・・・」


 レイナが視線を向けた先には、貴族たちと挨拶を交わしている、自分たちの主と、優秀な彼の軍師、そして深紅のドレスに身を包む、金色の髪の美しい女性の姿があった。

 二人の主は宴が始まる前、「こういう席って絶対めんどくさいから嫌だ」と言って、出席するのを嫌がっていたのだが、いざ宴が始まると、嫌々だったのが何処いったのやら、丁寧な言葉遣いで対応している。


「あいつはやろうと思えば何でもできんだよ。流石俺のリックだぜ」

「エミリオも隙が無いし、リリカ様はこの場の誰よりも美しい。それなのに私は・・・・・・」

「ったく、めんどくせぇ女だぜ」


 この宴は、先日の対ジエーデル戦での勝利を祝う席である。

 正確には勝利したというわけではないが、強力な軍事力を持つ独裁国家を退けた事で、戦勝の宴が開かれたのだ。

 宴の主役は、対ジエーデル戦において、連合軍の最高指揮官を務めた帝国女王である。だが、宴の席を用意したのは、帝国貴族たちであった。普段は女王に反感を抱いているというのに、宴の席を用意した理由は、女王の剣である帝国軍を直に見るためだ。帝国軍というより、軍を指揮する帝国参謀長を見るためだが。


「だったらこう考えろよ。この宴にはリックの護衛としているってな」

「?」

「城の中だって安全とは限らねぇ。外から来た貴族の奴らにまじって、あいつの命を狙う奴がいるかもしれない。そう考えたら護衛は必要だろうが」

「・・・・・・そうか!確かにそうだな!今ここでリック様の護衛ができるのは私たちだけだ」


 クリスの言葉で元気を取り戻し、護衛のために主を凝視するレイナ。こういう時彼女は、呆れるほど単純だ。

 ちなみに、レイナとクリス以外の他の者たちの姿は、現在この場にはない。面倒くさいだの、そういう席は苦手だのという理由で、皆が嫌がったからである。

 色々あって、結局二人だけが出席するという事になり、皆でじゃんけんをした結果がこれだ。


「貴様も偶には良い事を言う。少しだが見直したぞ」

「てめぇみたいに、筋肉でものを考えてねぇからな」


 そんな二人のやり取りが行なわれながらも、宴は何事もなく進行していく。






 女王陛下の言葉から始まった、戦勝を祝うこの宴の席。

 表向きは祝いの席だが、裏の目的は違う。貴族たちは軍関係者に近付き、今のうちに何かしらの関係性を持とうとしている。そのために用意された宴である。

 裏の目的を理解しているため、面倒臭さと窮屈さを感じながらも、自分の職務と責任の関係上、出席しなければならなかったこの男。帝国軍参謀長リクトビア・フローレンスは、とりあえず愛想の良い笑顔を表情に張り付け、様々な人物と挨拶を交わしていた。


(はあ・・・・・・早く終わってくれないかな・・・・・)


 寝室か執務室に帰りたいと思いながらも、反女王の勢力である貴族たちの、顔や性格を知るために出席している。嫌な仕事ではあり、やる気は下がっていく一方だが、そんな時は一緒に出席している、深紅のドレスを着たリリカの姿を見る事にしている。

 彼女の姿は、この場の誰よりも美しく、その美貌は一級品だ。どんな貴族の夫人や娘も、彼女の美しさには敵わない。ドレスの色のせいもあるが、例えるならば彼女は、この場に咲いた一輪の薔薇。

 ただし、綺麗な薔薇には棘があるものだ。彼女の美しさに多くの男たちが魅了され、何も考えずリリカに近付いて行ったが、次々とあしらわれて尽く玉砕した。

 そんな彼女の美しさを見ると、この宴に出席した価値があると思える。流れる長い金髪に、豊満で形の良い胸。妖艶な笑みを浮かべる彼女はまさに、魔性の女と言えるだろう。魔性の女の美しさは、リックの眼の保養にぴったりだ。

 自称で事実の美人で自由な旅人リリカは、この場で一層の存在感を放ち続けている。


(あの胸の中に顔を埋めたい。頼んだらいけそうな気がする)

「リック、彼女を凝視し過ぎだよ」

「しょうがないだろ。あんな最強美人を見るなっていう方が無理だ」


 傍でリックの手助けをしているのは、帝国一の軍師エミリオである。

 リリカは宴の席を利用し、自由気ままに酒と料理を楽しんでいるのだが、リックとエミリオは対応で忙しい。ようやく対応が半分終わったところで、リックの集中力が途切れてきたため注意したのだ。


「あと少しで終わりだから。終わったら君は自由だ」

「今すぐ自由になりたい。だってよ、メシア団長がいないんだぞ?せっかくメシア団長のドレス姿が見られると思ってたのに・・・・・」


 リックが最も尊敬する女性。帝国騎士団長のメシアは、本来この宴に出席しなければならなかった。

 騎士団長であるし、ジエーデルとの戦いで武功を立てたのだから、出席はあたり前である。だが彼女は、「そういう席は苦手だ」と言って拒否し、出席を断った。

 彼女もまた美しい女性であるから、どんな格好をしてくるか楽しみであったリック。希望としてはドレス姿を拝みたかったのだが、結局叶う事はなかった。おかげで、余計にやる気が無くなったのである。


「ほらリック、しっかりしないと。次の人が来たよ」


 前を見ると、また別の貴族の男が二人に近付いて来ていた。

 対応のために表情を戻し、二人は男に対応する。


「貴方がフローレンス参謀長ですな?ヌーヴェル家当主の、マルクル・ビル・ヌーヴェルです。以後お見知りおき下さい」


 典型的な貴族の男。

 しかしリックは、彼の名前を聞いて即座に思い出す。この男は、反帝国女王勢力の重要人物であり、エミリオも警戒している貴族なのである。


(マルクル・ビル・ヌーヴェルか・・・・・・。その顔、確かに覚えた)


 マルクルに握手を求められ、リックは嫌がる事なく手を差し出す。

 その後この男とは、少しだけ会話を交わす程度であった。

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