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第九話 悪魔の兵器 Ⅷ

「なっ・・・・なんだこれは・・・・・・」


 戦局を見ていたドレビンの口からは、その一言しか出でこなかった。

 自分の指揮する軍団が、謎の攻撃によって吹き飛ばされているのだ。最初は、炎属性魔法の類かと考えたが、すぐにこれが、兵器の仕業である事に気付く。自軍が砲撃されていると理解した彼は、帝国軍が特殊な大砲を使用していると予測した。

 大陸では一般的な、金属球を撃ち出すものでなく、炸裂する弾頭を発射する兵器。その兵器が、自軍の魔法兵部隊を壊滅させ、兵たちをことごとく殲滅している。まさに悪夢だ。


「悪魔の兵器だ・・・・・・」

「やはりあなたには、これが兵器によるものだと、わかってしまいますか」

「・・・・・・大砲の一種だな。それも、かなり大型の砲だろう」


 頷いて肯定したエミリオ。

 ドレビンの分析力は恐ろしい。自軍が砲撃によって大損害を被っていても、冷静に敵軍の戦力を分析し、これが大砲による砲撃だと理解する。そして、この砲撃が長く続かない事にも気が付く。

 帝国の工業力を知るドレビンは、砲弾の生産数が少ないと見抜いている。そのため、砲撃をこのまま耐え続ければ、魔法兵部隊を失いはしたものの、再び軍団を突撃させて、数で押し切る事はできると知っていた。

 さらに、後方からは援軍の部隊も動いている。結局、帝国軍が如何に兵器を駆使しようとも、勝利は揺るがないのである。だがそれは、ドレビン自身が、陣地で指揮を執っていればの話だ。

 彼は冷静に分析できる、優秀な指揮官だが、彼の部下たちはそうもいかない。無能というわけではないが、カラミティルナ隊の壊滅と、砲撃による魔法兵部隊の壊滅があったせいで、冷静な分析と指揮ができない。今頃ジエーデル陣地で彼の部下たちは、帝国軍の榴弾砲に為すすべなく、有効な対応が取れずにいる事だろう。

 エミリオの狙い通りに事が進んでいる。ドレビンが指揮を執っていなければ、ジエーデル軍はこれ以上の進撃が出来なくなるからだ。

 砲撃の威力を知った敵軍は、これ以上の突撃は被害を増すだけだと考える。よって、突撃という選択肢を失う。

 しかも、敵軍が気付かない内に、エミリオの指揮で帝国軍と王国軍以外の、残りの連合軍戦力が左右に展開し、ジエーデル軍を包囲する形をとっていた。正面には帝国軍と王国軍。左右には各国の騎士団。連合軍陣地からの砲撃で、どうする事もできないジエーデル軍。残っている道は、陣地への後退しかなかった。


「我が軍を本気で撃破するつもりなのか?」

「まさか。正面から戦って撃破できるのなら、最初からそうしています。もし撃破できたとしても、こちらの損害は計り知れない。後方からの五千の兵力の存在があるのですから、ここで一万五千の軍団を倒せても、残り五千の兵力を防ぐだけの戦力は残らないでしょう」

「では、貴殿の真の狙いは・・・・・・」

「薄々気付いておられるのですね。予定通りならば、じきに報告が届く事でしょう」


 果たして、エミリオの予想は的中した。

 報告のために、重要な情報を持ち帰った兵士が高台に上がり、エミリオのもとへ駆け付ける。


「報告します!!エステラン軍が国境線を超え、旧オーデル王国領に進軍しました!」


 兵士の報告は、この戦いの行く末を決定付けた。






 ジエーデル国とエステラン国の関係は、長年の敵対関係にある。

 特に、名将ドレビンの指揮するジエーデル軍によって、今まで何度エステラン国が苦戦を強いられ、防衛線を破られそうになった事か。

 名将ドレビンは、エステラン国とオーデル王国を狙っていたため、対エステラン戦を行なう機会が多かった。そのためドレビンは、エステラン王が演説で名指しするほど、大きな脅威と思われている。

 ドレビンは幾度となく、エステラン防衛線に対し、大きな損害を与えて来た。南進が成功した後は、満を持してエステラン国も侵略しようと狙っていた。そのエステラン国が、国境線を超えて旧オーデル領に進軍したのである。

 エステラン国は、南進を好機と捉えている。名将ドレビンが連合軍と戦っている隙を突き、彼のいない王国領を侵略しようとしているのだ。このためにエステランは大軍を用意しており、進軍速度も速い。ドレビンさえいなければ、ジエーデル軍を倒す事など、容易いと考えているのだ。

 このエステラン国をたき付けたのは、軍師エミリオの書状である。

 エステランはジエーデルの動きに対し、国境に防衛のための兵力を増員していた。ジエーデルの動きを警戒していたエステラン王のもとに、彼の書状が届いたのは、ジエーデルの侵攻が始まる、その直前である。

 書状の内容は、エステラン王に王国領への侵攻を促すものであった。連合軍がドレビン指揮のジエーデル軍を抑えれば、エステランが長年の宿敵に勝利する事ができる。エミリオはエステラン王に、勝利の可能性を説いたのだ。

 エステラン王はこの誘いに乗った。これがヴァスティナ帝国の助けになってしまうと理解していても、国内の問題を考えると、誘いに乗らない手はない。国内が乱れ、国民の王に対する支持が低下している現状、長年の宿敵に勝利する事ができれば、国民の支持を取り戻す事ができる。

 エミリオの提案は、絶好の好機であった。エステラン王は国境の部隊に命じ、侵攻準備を密かに進めていた。ジエーデル軍は万が一の時に備え、王国領に一万の戦力を残していたが、エステランの用意した戦力は、約二万人の大軍である。

 侵攻を開始したエステラン軍に、ジエーデル軍は防衛線を展開したが、防御陣地構築が満足にできていないために、突破されるのは時間の問題であった。

 しかも、ジエーデルに侵攻を開始したのは、エステランだけではない。ジエーデル国周辺の国家が、侵略行為を繰り返すこの国に、反撃の狼煙を上げたのである。多くの国家がジエーデル軍に攻撃を開始し、ローミリア大陸全体が動き出す。

 周辺国家の反抗など、ジエーデル軍からすれば、それほどの脅威ではない。だが、とある二国の進軍だけは、今のジエーデル国にとって、最も恐るべき問題であった。






ローミリア大陸北方。


「将軍、全軍の進攻用意が完了致しました」

「そうか。ゆくぞ戦士たち!皇女殿下への忠誠を見せる時は、今である!!」


 約三千人の兵力。将軍と呼ばれた若い女性が叫び、三千人の兵士たちがそれに答えて、雄叫びを上げて大気を震わす。彼らは精強な軍隊だ。恐らく、ローミリア大陸全体で見ても、その実力は間違いなく上位である。

 そして、将軍であるこの女性もまた、大陸の実力者たちの中で、必ず、最強の戦士の一人として数えられる事だろう。


「貴様たちの命は預かった!共に行こう、殿下に勝利を捧げるために!!」

「「「「「「勝利を捧げるためにっ!!!」」」」」」


 ローミリア大陸極北にある、最強にして最大の大国。

 国の名前は、ゼロリアス帝国。かつてのローミリア大戦を戦い抜き、極北の王者として君臨する国家が、大陸の覇権を狙う独裁国家に、裁きを与えるべく動き出す。

 帝国第四皇女旗下、風将と呼ばれる彼女に率いられ、精鋭の軍団が進軍を開始した。






 時を同じくして。


「諸君、我々の戦いには大義がある!!」


 一万の兵士。その軍団を指揮する、若き王子が訴える。

 彼は正義に燃え、悪逆非道の限りを尽くす独裁国家へ、正義の鉄槌を下そうとしている。


「諸君らも、ジエーデル国の残虐な行ないを知っているだろう。これは、我が国にも無関係な事ではない!いずれあの国は、愛すべき我らの国もその毒牙にかける。ならば、我々の為すべきは一つ!!」


 王子の演説は正義を訴え、各国を独裁国家の魔の手から救おうと、この場で呼びかけているのだ。

 ジエーデル国の成長は、自国に無関係な事ではなく、将来的脅威だと兵士たちに説き、正義をなすための戦いを、始めようとしている。


「戦おう、我々は戦わなければならない!王国の戦士たちよ、共に正義のために戦おう!!」


 王子が率いる一万の軍勢。

 軍団の属する国家は、ゼロリアス帝国と同様に、かつての大戦を戦い抜いた王国だ。王国の名は、ホーリスローネ王国。歴史ある大陸最古参の王国である。

 この国もまた、ジエーデルと戦うために動き出した。全ては、正義のために。






「まさか・・・・、あの二国まで動くとは・・・・・・」


 エミリオのもとに駆け付けた兵士の報告は、ジエーデル国の危機を伝えた。

 報告を聞いてしまったドレビンは耳を疑ったが、すぐに冷静になり、考える。何故、この時期に、大陸を代表する二大国家が動いたのかを・・・・・・。


「そうか、これは貴殿の仕業だな」

「如何にも。とは言え、あの二国が動くかどうかは、運に任せたものでありました」


 エミリオが仕込んだ、必勝の策が動き出した。

 大軍であるジエーデルに対して、彼がとった策。簡単な事である、兵力が足りないのならば、兵力を持っている国を動かせばいいのだ。

 開戦前、エミリオはヴァスティナ女王の名を使い、大陸全土の反ジエーデル勢力に書状を出した。書状の内容は、ジエーデル国の将来的脅威を訴え、共に戦おうというものである。書状が各国に届いた丁度その時は、周辺諸国に侵略行為を繰り返すジエーデルに対し、反ジエーデルの気運が高まっていた時であった。この気運を彼は好機と捉え、反抗を促す書状を送ったのである。

 書状の効果は絶大であり、各国は連携して軍を起こした。国境線を脅かしていたジエーデル軍へ、防衛から一転して攻撃に移り、各前線の軍団を苦戦させている。

 この動きに呼応して、ジエーデルの勢力を削いでおこうと考えたのが、ゼロリアス帝国とホーリスローネ王国である。ジエーデルの勢力拡大は、いずれ自国の脅威となり、必ず侵攻を開始してくると読んでいた、この二国。実際その読みは的中しており、ジエーデル国総統は、北の大国の侵略を狙っている。

 よって両国は、ジエーデルの勢力拡大を阻止すべく、軍団の一部を動かした。軍団は、侵略行為を行なっているジエーデル軍討伐のために、両国の周辺諸国と協力して、進軍を開始した。

 とは言え、二大国は協力関係を築いているわけではない。帝国と王国は、長年の因縁がある相手同士だ。故に、ジエーデル国相手に、二国が大規模な軍を起こさないのは、お互いを警戒しあっているためである。

 二大国が軍を起こすきっかけを作ったのは、やはりエミリオの書状であった。そしてこの書状は、ジエーデル国がオーデル王国を滅ぼすよりも前に、密かに送られたものである。

 エミリオは、チャルコ国での政略結婚阻止時、ジエーデル国の動きを掴み、その戦略目標を読んでいた。ジエーデルの侵攻は、必ずヴァスティナ帝国の脅威になると考えた彼は、この二大国へと書状を用意して、使者に送らせた。開戦前に、無事に書状は両国へと届き、帝国皇帝と王国国王は、彼の考えを知った。

 ゼロリアス帝国は以前、友好国の一つがジエーデルに侵略された覚えがある。その時帝国は、友好国の救援のために軍を派遣しようとしたが、ホーリスローネ王国を超えた先に、その国はあった。軍隊を派遣すれば、王国を刺激する事になり、どんな理由があろうとも、外交問題になりかねない。

 幸い友好国は、滅亡こそしなかったが、領土の半分を失ってしまった。ジエーデル国は帝国の友好国を侵略し、帝国はこれに対して、満足な手を打つ事のできなかった、苦い記憶がある。そのためゼロリアス帝国皇帝は、ジエーデルとの戦争を望み、エミリオの書状に真剣に向き合った。

 王国の場合は、国王が対ジエーデル戦に消極的であったが、国王の息子である王子が戦いを望んだ。正義を志す王子は、ジエーデルの非道に心を痛め、今こそ王国が、大陸のために起つ時だと訴えた。王子の必死の訴えにより、国王は息子の説得を諦めて、彼の訴えを聞き入れたのである。

 だが、両国の支配者には懸念があった。書状には、今後のジエーデル軍侵攻予測が記されていたが、あまりにも先を読み過ぎた考えであったため、その予測が信じられないでいた。

 しかし、現実は書状の予測通りになる。ジエーデル軍のオーデル王国への侵攻に、南ローミリア大陸への侵攻。これらは全て、書状に予測として記されていた。

 さらに書状には、ここでジエーデル国を放っておくのは、将来的にこの独裁国家が、大陸最大の生産力と工業力を持つ、未だかつてない大国に急成長を遂げると、記されていたのである。

 両国の支配者は、ジエーデルの危険性を考え、軍団を動かす事を決意。ジエーデルの勢力拡大を阻止する、絶好の機会だと考え、侵攻軍討伐のための軍を進軍させたのだった。


「貴殿は大陸全土を利用したのだな」

「はい。如何にジエーデルと言えども、ゼロリアスとホーリスローネを含む勢力を相手にすれば、苦戦は必至です。上手くいけば、ジエーデル国そのものが滅亡するきっかけになるでしょう」

「貴殿の作戦と狙いは全てわかったぞ。私と交渉する事が目的か・・・・・・」


 エミリオの狙い。それは、名将ドレビンとの停戦交渉である。

 二大国が動いたのも、反ジエーデル勢力が反抗したのも、きっかけはエミリオの書状だ。エミリオの作戦は、大陸各国が動いて全てが成立する。各国が思惑通りに動くかは賭けであり、彼の最大の不安要素であった。

 各国を動かすために彼が行なったのは、大陸全土のあらゆる情報を統合し、分析して出した予測である。書状には長い文章で細かく、ジエーデルの今後の軍事予測と、将来的危険性が記されていた。 この予測を信じ、ローミリア大陸南での、反ジエーデルの動きに呼応しようと考えた国家が、軍団を進軍させたのである。

 一介の、しかも、名も知られていない軍師の書状ではあったが、ジエーデル国が大陸全土で、相当な恨みを買っていたのが幸いした。書状の内容に動かされたのもあるが、多くの国家は、ジエーデル国の野蛮な振る舞いが許せず、反抗の機会をずっと狙っていたのである。これもまた、エミリオの狙い通りであった。

 かなり運任せなところはあったが、軍師エミリオは、書状だけで多くの国家を扇動し、大陸全土を動かすという、前代未聞の偉業を成し遂げた。

 そんな彼が、何故大陸全土を動かしてまで、ドレビンとの停戦交渉を望むのか。

 その理由は、連合軍がこの戦いで勝算がない事を、誰よりも理解していたからである。

 彼が守らなければならないのは、ヴァスティナ帝国なのだ。反ジエーデル勢力が各前線で勝利しても、連合軍が敗北しては元も子もない。勝てない戦争である以上、戦いの勝敗を付けるのではなく、早期に戦いを終わらせる事が重要なのである。


「将軍は一刻も早く退却しなければなりません。違いますか?」

「ここでの戦いは最早無意味か。旧王国に戻り、まずはエステラン国を迎え撃たなければならん」

「そうして頂けないと困ります。まだ我々と戦うというのなら、将軍の身柄をエステラン国に差し出さなければなりません」

「私はあの国の王に憎まれているからな。私の命と引き換えに、エステランを味方につけるか」


 ドレビンに他の選択肢は残されていない。

 このまま連合軍と戦い続ければ、エステラン国軍が後方を制圧する危険性がある。そうなれば退路を断たれ、連合とエステランに挟み撃ちにされる。

 だがそれ以上に、反ジエーデル勢力の反攻で、守るべき祖国が危機的状況に晒されている今、すぐさま自国防衛のために動かなければならない。故に、将軍としての彼が取るべき選択肢は一つ。


「いいだろう。戦いは終わりだ」


 ジエーデル侵攻軍最高指揮官、名将ドレビン・ルヒテンドルク将軍は、今この瞬間、停戦の意思を示した。

 最早ここでの戦いは、損失しか生み出さないからである。

 ドレビンが感じていた、連合軍の作戦の違和感の正体。それは、勝利するつもりのない戦略だった。

 戦争は、勝利を目指さなければ意味がないのだが、作戦を立案したエミリオは、初めから引き分けを狙っていたのである。どちらかが勝利するのではなく、お互いが敗北しない結果にする事で、ヴァスティナの滅亡を防ぐ作戦だった。

 今回の戦いは、連合軍とジエーデル軍の戦いではあるが、実際は帝国軍と王国軍が主戦力となり、ジエーデルと戦っている。そうなる事を予想していたエミリオは、帝国軍の被害を最小限に抑えるために、帝国の切り札と言える銃火器を、緒戦から投入した。そのおかげで、帝国軍の損害を微々たるものに抑えられた。

 帝国が緒戦から、自軍の手の内を晒す事に対し、昨日まで違和感を覚えていたドレビン。軍師エミリオによる作戦の、違和感の正体がわかり、頭の中で全てが繋がる。


「私の身の安全は保障してくれるのだな?」

「心配ありません。停戦して下さるのであれば、早急に陣地へとお送り致します」

「随分とあっさりだな。何か条件を付けはしないのか?」

「そうですね、一つだけあります。いつの日か、将軍が行動を起こすのであれば、我々はそれを支援する用意があります。その時は、お互い協力関係を築きたいのです」

「ほう・・・・・」


 これはエミリオの誘いだ。ここでドレビンが誘いに乗るかどうかで、今後の帝国の未来が、大きく変わる。


「何を言っているのかわからないな」

「独裁者の治める国は、近い将来必ず滅亡する。それは歴史が証明しています。将軍は総統に忠誠を誓っておられますが、内心の考えは逆のはずです」

「逆とは?」

「国家の未来を憂うのであれば、将軍閣下は独裁者を討たなければならない。それこそが、貴方の望みではないですか?」


 ジエーデル軍名将と呼ばれているドレビンは、現国家元首である総統に忠誠を誓い、今日まで軍を指揮してきた。

 だが彼には、密かに狙っている事があるはずだ。これはエミリオの予想であり、根拠はない。エミリオがそう思う理由は、ジエーデルの情報を集めたからである。

 ジエーデル本国では、総統の独裁政治が続いている。そのため、総統の政策に異を唱えるのは、自らの破滅を意味していた。総統に逆らった者は即座に捕らえられ、強制収容所送りか、処刑される。冷酷なジエーデル総統は、自分に逆らう者を決して許さない。

 それが多くの者の反感を買い、国家が急成長を遂げる陰で、反独裁者の気運が高まっていった。首都では反抗勢力が地下で活動し、独裁者を討ち倒すための、革命起こそうとしているという、信憑性の高い噂もあるほどだ。

 反発しているのは国民だけでなく、軍内部でもその動きがある。冷酷非道な占領政策に、総統の無理難題な命令が、兵たちの反感を買っていた。しかも、総統は敗北を許さず、時には後退も撤退も許さない。勝利以外は許されないのである。

 これでは、兵の反感を買うのは当然であるが、逆らえば命はない。よって、軍内部でも国民同様の、反独裁者の動きが起き始めているのだ。

 この情報を得たエミリオは、近い将来必ずジエーデルは、内部崩壊を起こすと考えている。


「国民の多くは、打倒独裁者の指導者に賛同するでしょう。閣下は英雄となり、国を救済できます」

「総統閣下を討つ事が国を救う・・・・・・。総統に忠誠を誓う私が、そのような不義に出ると思うのか?ありえない」

「そうですか。もしも閣下が革命を起こすのであれば、お役に立てると思ったのですが・・・・・・」


 エミリオとドレビンによる、話し合いという戦いを、リックとリリカが、傍で黙って見守っている。

 目に見えない激しい戦いが、この二人の間で行なわれている。そしてこの戦いは、お互いの国の未来が懸かっている。


「そうだな、もしも私が革命を起こしたとして、貴殿はどの様な支援を約束できる?」

「我々が今回使用した兵器で完全武装された、大部隊を用意しましょう。この部隊でジエーデル国境線を突破し、ジエーデル全軍の目を引きつけます」

「その隙に事を起こせと言うのだな?」

「ええ、存分に利用して頂いて結構です」

「私の行動で、貴殿が得られるものはなんだ?」

「ヴァスティナ帝国にとっての、最大敵対勢力の消滅です」

「そうかそうか。・・・・・・ふっ、はっははははっ!!」


 ドレビンが声を上げて笑う。その表情は楽しそうで、周りの目など気にせず、大声で笑っている。


「宜しい!気に入ったぞ、帝国の軍師よ。名前はエミリオであったな」

「エミリオ・メンフィスです、将軍閣下」

「名前は覚えたぞ。それから貴殿の誘いだが、考えておく事にしよう」

「感謝します将軍」


 二人の戦いは幕を下ろした。

 エミリオの作戦のおかげで、当初の目的を果たす事ができなかったドレビンだが、表情は晴れやかで、とても満足げだ。彼は心の底から満足している。これほどまでに、自分が戦略で負かされたのが、嬉しくて仕方なかったのである。

 こんな風に、完全に相手の掌の上で踊らされたのは、彼の今までの人生で、経験のない事である。


「さて、そろそろ陣地へ戻るとしよう。送って貰うぞ」

「勿論です。喜んでお送り致します」


 エミリオが兵を呼び、ドレビンを陣地まで送るよう命令する。

 兵に丁重に連れられ、戻るべき場所へと帰ろうとするが、不意に足を止めて、ドレビンはエミリオに向き直った。


「そうだ若き軍師よ。一つ私から忠告しよう」

「忠告ですか?」

「貴殿の駆け引きは、まだ未熟だ。使う時は気を付けるのだな」

「!!」


 名将に対して、エミリオは誘いをかけた。

 ドレビンの中に、打倒独裁者の考えがあると賭けたのだ。だからエミリオは誘いをかけ、もしもドレビンに、その考えがあるのならば、この場で帝国とジエーデルによる、裏の関係を築く事ができ、将来再びジエーデル国と戦う事になった時、何かと都合が良くなる。

 ドレビンに打倒独裁者の考えがない時は、その野心を持つように揺さぶりをかけ、裏の関係を築こうとしていたエミリオの策は、この名将に見破られていたのである。


「此度は不覚を取ったが、次に戦う機会があれば、こうはいかんぞ。覚えておくのだな」


 そう言葉を残して、ドレビンは連合軍陣地を後にした。

 彼の背中を見送ったエミリオは、内心こう思っていた。「自分はまだ、あの男を超えられない」と。


「終わったな」

「そうだね。この場にいてくれて、とても心強かったよ」

「後の事は俺に任せろ。お前はゆっくり休んでてくれ」

「大丈夫さリック。私の事は気にせず、むしろ君が休んでいてくれ」


 榴弾砲の砲撃が止み、ジエーデル軍への包囲が解かれる。

 戻るべき陣地へと将軍が帰されて、全ての戦闘行為が終了した。


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