第九話 悪魔の兵器 Ⅳ
「おらっ!!」
見つかってしまったリックは、自分に注意を引き付けるため、なるべく派手に戦っていた。
銃を撃ちまくり、兵士を殴り飛ばし蹴り飛ばす。陣地内のジエーデル兵は、暴れまわるリックに釘付けで、侵入者排除のために立ち向かう。
(数が多い!俺一人じゃ長くはもたないか)
周りは兵士たちに囲まれ、逃げ場はなくなっている。敵軍陣地内であるため、兵の数が多すぎるのだ。
しかしリックは、アングハルトとシャランドラのために暴れ続けて、時間を稼ごうとしている。正直、昼間の戦いで体力を消耗しているため、いつもの力は出せず、戦闘力は半減しているが、それでも、雄叫びを上げて暴れ続けた。
自分がここで踏ん張らなければ、守るべき二人に危険が及んでしまう。体力を振り絞ってジエーデル兵と戦うが、相手の数と自身の疲労で、隙が多くなる。
隙を突いた兵の一人が、リックの背中を剣で斬りつけた。苦痛に呻きながらも、振り返ってその兵士を蹴り上げる。さらに別の兵が、槍の切っ先を、リックの左腕に突き刺した。
「っ!!痛いんだよ畜生が!」
突き刺した兵士の眉間に、拳銃の銃口を向けて、その引き金を引いた。至近距離からの銃撃で兵を殺し、腕から槍を引き抜く。
すると今度は、何処からか放たれた矢が、リックの右足に突き刺さる。誰の目から見ても、一人で戦うリックが劣勢である。既に三か所も負傷し、徐々に追い詰められていく。
そこでようやく、守るべき二人が天幕から姿を現した。最初に外に出たシャランドラは、負傷したリックの姿を見て、悲鳴のように名を叫ぶ。
「リック!?」
「やっと来たか!逃げるぞ二人とも、俺が道を----」
二人が来たことで、即座に脱出を指示しようとしたリックだったが、アングハルトの姿を見て、言葉を詰まらせた。
天幕から姿を現した彼女は、言うなれば、重装備の武神。右手に、長く大きな銃火器と、左腕に巻き付けられた、弾薬つきのベルト。燃え盛る闘志が伝わってくる、板についてしまっているその姿に、リックもジエーデル兵も、一瞬恐ろしさを感じた。
「参謀長を・・・・・・リクトビアを、これ以上傷つけさせはしないぞ!!」
「伏せるんやリック!セリっちがぶっ放すで!!」
「マジかよおい!」
急いでリックが伏せると同時に、アングハルトは右手に持った銃火器の引き金を、怒りと闘志を込めて引き絞る。
耳を塞ぎたくなる、凄まじい発砲音とともに、連続で撃ち出されるライフル弾。銃声は鳴り止まず、放たれ続ける弾丸は、リックを取り囲んでいた兵士たちを、まるで将棋倒しの様に撃ち倒していった。
シャランドラとその仲間たちが共同開発した、まだ試作段階の新式銃。この銃は、リックが待ち望んでいたものであり、ずっと実用化の目途がつくのを待っていた。
ヘルベルトたちが装備しているライフルとは違う。引き金を引く限り、撃つのを止めない驚異の銃器。その連射力の前には、どんな人間も敵ではない。・・・・・・メシア団長は別かもしれないが。
彼女が使用している新式銃は、重量およそ十キロ越えの機関銃である。とうとうシャランドラたち技術陣は、機関銃の開発に成功したのだ。まだ問題も多いのだが、それでも、使用は可能であった。
「うおおおおおおおおっ!!」
重量十キロ越えの機関銃を片手で持ち上げ、発砲の反動など気にしない様子で、撃ちまくる。
雄叫びを上げて機関銃を撃ち続け、目につく敵兵を次々と餌食にしていった。とても女性兵士がやるような戦い方ではない。例えるならば・・・・・・。
(女版コ〇ンドー?いや、女版ラ〇ボーかな・・・・)
シュ〇ちゃんやス〇ローンもびっくりの、男顔負けの戦闘スタイル。
大胆で豪快な戦いぶり。最強の女兵士が、今ここに爆誕したのである!!
「いいぞアングハルト!好きなだけ撃ちまくれ、俺が許可する!!」
「はい参謀長っ!!」
「絶対壊さんでくれや!作んのめっちゃ苦労したんやで!!」
機関銃の銃声に負けないよう、大声を上げて喋る三人。
凄まじい銃声を鳴らすこの機関銃には、ベルト給弾というものが採用されており、ベルトのような金具に、沢山の弾丸が取り付けられている。弾丸付きのベルトを、銃本体に取り付けることにより、弾倉では真似できない装弾数で、何百発もの弾丸を、ベルトが続く限り放つ事ができるのだ。
言うだけならば確かに凄いのだが、機関銃にしろ、給弾ベルトにしろ、全て装備すればかなりの重量となる。だが、一番凄いのはこの銃でなく、この装備全てを軽々と操る、女兵士セリーヌ・アングハルトと言えるだろう。
「私に近付くなあああああっ!!」
休む事なく撃ち続けた結果、銃身が過熱し始めた。このままでは壊れるのも時間の問題だが、それでも彼女は、撃つのを止めない。
恐らく、トリガーハッピー状態で、最高にハイになっているのだろう。
「隊長!!」
「ヘルベルトか!ロベルトも一緒だな!」
「無事か参謀長殿!この状況は一体何なのだ!」
ようやく救援が現れた。リックたちを助けるために、ヘルベルトとロベルトが、仲間を数人引き連れて駆け付ける。しかし、救出対象であった女性兵士が、機関銃片手に敵兵を薙ぎ倒している様を見て、どういう状況なんだと、理解できないでいた。
「二人とも、作戦はどうなった?」
「完璧ですぜ。後はずらかるだけだ」
「あの女兵士は大丈夫なのか・・・・・・?」
「まあ・・・・・・、見ての通り問題ない。作戦が成功したのなら長居は無用だ、早く逃げよう」
リックたちが暴れていたおかげで、陣地内の兵士の注意は、全て彼らに向いていた。その隙をついて、作戦を成功させたヘルベルトたち。今頃目標は、拘束されて連合軍陣地へと連行されている。
後は、全員無事に撤退すれば、全て上手くいった事になる。
撤退のために、ヘルベルトとロベルトが銃撃を開始。仲間たちは手榴弾を投げ、敵兵を排除しつつ、撤退のための道をつくる。そして、機関銃の弾を全て撃ち尽くし、銃を壊したアングハルトは、ようやく我へと返った。
シャランドラに銃を返した彼女は、負傷したリックを肩に載せ、ヘルベルトたちとともに撤退を開始する。
「退くぞ野郎どもっ!」
ヘルベルトが撤退指示を叫ぶ。逃げ伸びるために、ロベルトがスモークグレネードを投げ、巻き上がった煙幕に紛れて、その場から全員急いで逃げ出す。
救出対象であるアングハルトに運ばれて、この時リックはこう思った。
「本当に、助け出せてよかった」と。
それから数時間後。
夜が明けようとしている。朝日が昇り始め、東の空が、薄っすら明るくなっていた。
リックたち全員が、一人の死者も出さずに無事帰還したのは、今日が朝を迎えようとしていた、早朝である。ぼろぼろになって帰還した、リックとアングハルト。その姿に、連合軍陣地は一時騒然となった。
レイナとクリスは、急いでリックへと駆け寄り、イヴは傷ついた彼を見て、悲鳴を上げる。ゴリオンは衛生兵を急いで探しに行き、他の兵士たちも大慌ての状態だった。
「大丈夫だ皆、シャランドラに手当てしてもらったから。・・・・・・いててっ」
「リック様!!今すぐに医者を呼んで参ります!」
「しっかりしろよリック!!死ぬんじゃねぇぞ馬鹿野郎!」
「いやっ!リック君死なないで!!」
「お医者さんはどこなんだな!!リックが大変なんだな!」
勝手に死ぬ事にされている。
異常なまでに大慌てなレイナたち。何も知らない他人が見れば、確実に引くレベルの異常さだ。
レイナとクリスがリックを担ぎ、傷に障らないよう、慎重に医療天幕に運ぶ。手当していると言っても、傷を縫う必要があるため、急いで治療しなければならないからだ。
しかし、運ばれたリックが天幕に入ろうとした瞬間、彼を見守る兵たちの群衆をかき分けて、一人の男が現れる。
「リック・・・・・・」
「エミリオか・・・・・・」
眼鏡をかける、長髪の軍師エミリオは、リックの目の前に立ち、彼の瞳をじっと見つめている。二人の間に緊張が奔り、誰もが息を呑んでしまう。
エミリオは、誰にも見せた事のない表情を、この場で見せてしまっている。いや、彼自身も、こんな表情を浮かべるのは初めてである。彼は今、人生でこれまで感じた事のない、激しい怒りが沸き上がっていた。
その怒りの意味を、リックは理解していた。だからリックは、言い訳を口にはしない。
「すまないエミリオ」
「・・・・・・リック、歯を食い縛って欲しい」
次の瞬間、エミリオは右手で、リックの頬をひっぱたいた。
この場の全員が衝撃を受け、立ち尽くしてしまう。あのエミリオが、リックの事を親友と思っている彼が、怒りを露わにして、手を出したのだ。
「私が言いたい事はわかるよね?」
「・・・・・・ああ。勝手して悪かった」
「えっ、エミリオ!リック様になんて事を!」
「ぶっ殺すぞ眼鏡軍師!こいつは怪我人なんだぞ!」
「黙っていてくれ二人とも!!」
声を荒げて怒鳴ったエミリオに、流石の二人も押し黙る。本気で彼は怒っていた。レイナとクリスが、これ以上何も言う事ができない程に。
エミリオはもう何も言わず、医療用の天幕への道を開ける。二人に担がれたリックは、治療のために入室した。
周りの兵士たちは、リックの安否を気遣い、イヴとゴリオンも天幕の中へ入って行く。シャランドラはアングハルトの手を引いて、彼女の治療をするため、天幕の中へと連れて行った。
ただし、エミリオだけは天幕の中に入らず、帰還したヘルベルトとロベルトのもとへと向かう。
「作戦は?」
「成功だ。こいつが例の奴だぜ」
作戦の結果を確認したエミリオ。作戦は成功であった。
部隊の中に、腕を縄で縛られ、頭に布袋を被せられた人物がいる。この戦いを終息させるために、絶対必要な人物。敵軍陣地から拉致したこの人物に、エミリオは用があった。
頭の布袋をロベルトが取り払い、拉致された人物の顔が公開される。
「連合軍陣地へようこそ、将軍」
「・・・・・・やれやれ、まさか捕まってしまうとはな」
名将ドレビンと軍師エミリオ。
ドレビンも予想外であった、大胆な作戦。自分を捕まえる指示を出したのが、眼鏡をかけたこの男だと、長年の直感で感じ取る。
エミリオもまた、拉致されても尚、堂々と威厳ある姿を崩さない、この名将の風格を肌で感じていた。
そして、二人が初めて顔を合わせたその日の午後。ヴァスティナ連合軍とジエーデル軍の、二度目の戦いが開戦したのである。




