表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/511

第九話 悪魔の兵器 Ⅲ

 始まりは突然の火災であった。

 ジエーデル軍陣地で、一つの天幕から火の手が上がり、陣地を警備していた兵たちや、休息をとっていた兵が、何事かと集まる。松明の火が燃え移り、天幕が燃えてしまったのだと考えた兵士たちは、火災を広げないために、すぐさま消火活動に取り組み始めた。

 天幕の火災は騒ぎとなり、多くの者の目が、突然の火災に釘付けとなる。幸いにも、火災の規模はそれほど大きくなく、すぐに鎮静化していったのだが、この火災により、陣地の警備に穴が空いてしまう。

 その穴を潜り、陣地内に侵入した者たちがいる事に、警備が気付くのは、あまりにも遅すぎた。侵入者は目的達成のため、とある人物を探している。その人物を捕縛する事ができれば、侵入者の目的は達せられる。

 目的達成のために、侵入者たちは天幕の一つに火をつけた。陣地の松明を奪い、故意に火をつけて、陣地内を混乱させたのだ。火災に気を取られている隙に、侵入者たちは容易く陣地に入り込み、目標を捜索した。

 目標を探す途中、邪魔な警備や兵を静かに排除しつつ、侵入者たちは陣地内を動きまわる。勿論、死体は隠しながらだ。

 侵入者とは、ヴァスティナ連合軍の者たちである。もっと詳しく言えば、ヴァスティナ帝国軍の精鋭部隊だ。帝国軍の精鋭、元傭兵部隊の男たち。部隊の指揮官はヘルベルト、副官はロベルトである。

 二人が率いる、六十人程のこの部隊は、軍師エミリオの指示で、ジエーデル軍将軍ドレビンの捕獲に動いているのである。

 銃火器と刃物を装備し、音を立てずに目標を探す。特にロベルトと、彼の旗下の者たちは、敵陣地の侵入工作が得意であり、張り切って任務に当たっている。手際もよく、実力は相当のものだ。

 火災が鎮静化し、陣地内が落ち着きを取り戻しつつある中、ヘルベルトたちは目標を発見する。

 それと同時刻に、ヘルベルトたちのもとを離れた二人の男女が、彼らとは別の目的を達成しようとしていた。






「なに・・・・が・・・・・?」


 天幕の外が騒がしくなっている。外で何かが起こっているのは、拷問されていながらでも、彼女にはわかった。陣地内に設置された、仮設拷問部屋。ここで、アングハルトは数々の拷問により、痛め続けられていた。

 まず服を脱がされ、天幕の天井に吊るされて、下衆な笑みを浮かべた男に、鞭を打たれた。彼女は鞭の痛みに耐えられず、声が嗄れるまで悲鳴を上げた。

 鞭だけでは何も吐かなかったために、今度は吊るされたまま、足の爪を剥がされた。右足の親指の爪を無理やり剥がされ、激痛が彼女を襲った。爪の剥がされた指から血が滴り、彼女の足元に、小さな血だまりをつくったのである。

 激痛に大きな悲鳴を上げはしたが、それでも彼女は耐えて見せた。拷問担当の男たちは、もう一枚か二枚剥がそうと考えたが、別の方法を試すため、天井から彼女を下ろす。

 椅子を用意して彼女を座らせ、縄で縛りつける。男の一人がペンチを用意し、他の男たちは、無理やり彼女の口を開かせ、閉じさせないよう拘束した。これから何が始まるのか、アングハルトは即座に理解する。口の中にペンチの様な物を入れられ、奥歯を、力任せに引き抜かれようとしていると・・・・・・。

 それは、爪を剥がされるのを超える、凄まじい激痛となる。それがわかったため、必死に抵抗しようとするが、縄と男たちの拘束のせいで、何もできない。

 ペンチが奥歯を引き抜くために、彼女の口元に近付けられた。痛みという恐怖が迫り、表情が絶望に歪む。今にも泣き出してしまいそうになりながら、それでも彼女は話そうとしない。

 裏切りたくないのだ。帝国を、部下たちを、そして何よりも、あの優しい救世主を裏切りたくない。その思いだけが、今の彼女に力を与える。男に触れられる恐怖と、拷問による痛みが襲おうとも、吐かないと決めているのだ。

 そして、ペンチが口の中へと入れられようとした、その直後、外での騒ぎが起こった。何事かと、少し慌てた男たちは、一時的に拷問を中断し、六人の内の二人が、外の様子を確かめに行こうと、天幕の外へと出ていく。

 拷問が止まり、内心安堵したアングハルト。しかし、外で何が起こっているのか、彼女にもわからない。


(一体何が・・・・・・)


 何が起こったのはわからない。思考を働かせてみるが、やはり何も思いつかなかった。

 思いつく事はなかったが、答えはすぐにやって来る。


「んっ?」


 男たちが、天幕の出入り口に、人の気配を感じる。

 見ると、そこには一人の男が立っていた。男の視線は、椅子に縛り付けられている、アングハルトを向いたままで、全く動かない。

 裸にされ、鞭で打たれた彼女の体。爪を剥がされた足の指。恐怖でくしゃくしゃに歪んだ表情。ここで何が行なわれたのかを、完全に理解した男は、異常なまでの怒りを露わにする。


「お前らが・・・・・・やったのか!!」

「お前!一体どこから----」


 そこからは速かった。現れた男はナイフを抜き、天幕の男たちに襲いかかる。

 一番近くにいた男の胸に、素早くナイフを突き立てた。心臓を刺し貫き、そのナイフをすぐに胸から引き抜く。引き抜いたナイフで、今度は別の男の喉元を切り裂き、その隣にいた男の左目に、ナイフを突き刺した。切り裂かれた傷口から大量に出血し、意識が薄れて倒れこむ男と、左目へと深くナイフを突き刺され、激痛に悲鳴を上げながら、絶命していく男。

 拷問担当の男たちは、あと一人。その者へと左腕を伸ばし、顔面を鷲掴みにして、地面へと叩きつける。叩きつけられた衝撃で呻いた男の口に、先程ナイフで殺された男が、死ぬと同時に落としてしまったペンチを拾い上げて、口内へと突っ込む。


「あがっ、あああがっ!」

「糞がっ!!」


 口に突っ込んだペンチで、男の奥歯を挟み込む。そして、力の限り引っ張り、下の奥歯を引き抜いた。

 激痛に悲鳴を上げ、口から出血する男に、容赦なくナイフを突き刺す。心臓を一突きし、これ以上声を上げさせないよう、空いた手で男の口元を塞ぐ。男はゆっくりと苦しみ、死んでいった。


「どう・・・して・・・・」


 目の前で繰り広げられた光景を、彼女は全て見ていた。

 信じられない。この場にいてはならない人物が、自分の目の前に立っている。この現実が信じられないのだ。あの時と同じように、彼は地獄から彼女を救い、優しい言葉をかけてくれる。


「もう大丈夫だ。助けに来たぞ、アングハルト」


 ヴァスティナ帝国軍参謀長、リクトビア・フローレンス。

 彼はあの時と同じように、彼女のもとにやって来た。ただし、あの時と違うのは、彼は、アングハルトを救い出すために、ここまでやって来たという事だ。


「シャランドラ、もう入っていいぞ」

「ほな入るで。やっぱ全員殺したんやな、ほんま容赦な-----」


 帝国一の発明家シャランドラ。彼女はリックに同行し、アングハルト救出を手伝っている。

 リックが中で兵士を排除するまで、外で待機していたシャランドラが、天幕の中へと入っていく。四人の兵士の死体を見た後、アングハルトの姿を見て、彼女は言葉を失う。


「俺は縄を解く」

「・・・・わかったで。うちが手当てして服着せる」


 椅子に縛り付けられている彼女の縄を、リックがナイフで切ろうと手をかける。シャランドラは持っていたバックの口を開き、中から応急手当用の医療器具を取り出す。


(どうして・・・どうして私なんかを・・・・!)


 アングハルトはまだ知らない。どうして二人が、ここに来てしまったのかを。

 軍師エミリオの作戦で、名将ドレビンの捕縛を、ヘルベルトたちの部隊が行なう事になっていた。エミリオが彼らを送り出そうとした時、「同行する」と、無理を言ったのがリックだ。

 アングハルト分隊の部下たちの願いと、自分自身が助け出したいという思いが、この男を突き動かした。当然だがエミリオは猛反対し、彼の両腕であるレイナとクリスも、賛成しなかった。たった一人の兵士を救い出すために、参謀長が直々に動くなど、あってはならない事なのである。

 危険な任務でもあるし、アングハルトが生存しているのかどうかもわからない。軍師という立場と、リックの身を心配するエミリオにとって、彼を行かせるわけにはいかなかった。

 レイナとクリスも、万が一を考えて反対する。どうしても助けたいというのなら、自分たちが助けに行くと、言い出す程だった。特にクリスは、アングハルトに命令を下した張本人であるために、責任を感じているのだ。

 しかし、レイナとクリスは緒戦で善戦し、疲労が大きかった。明日の戦いにおいて、二人の力は必要不可欠であるために、十分な休息をとらせる必要があるのだ。

 リックの同行も、レイナとクリスの志願も、エミリオは全て却下した。話を聞きつけ、イヴまでもが救出に行くと言い出し、その場は混乱を極めた。

 それでも、結局エミリオの意思は変わらず、作戦はドレビンの捕縛のみとなった。今回の戦いの指揮権はエミリオにあるため、誰も逆らう事ができない。リックをはじめ、皆が救出を諦めたと思われた。

 だがリックは、こっそりヘルベルトの部隊に合流し、無理を言って作戦に参加したのである。シャランドラは、リックならば必ず救出に行くと思い、彼を待ち伏せて同行した。

 こうして二人は、エミリオに内緒で、アングハルト救出作戦を開始したのである。


「縄は切った。今服を着せてやるからな」

「参謀長・・・・・・」

「遅くなって悪かった。怖かったろう、もう大丈夫だからな」


 アングハルトは椅子から抱き起され、破かれずに残っていた服を、リックとシャランドラが着せ始める。地獄から解放され、自分が唯一恐怖を覚えない男の、忘れる事のできない優しさを感じ、その瞳から、溢れんばかりの涙を流す。


「参謀長・・・・私は・・私は・・・・・・っ!!」

「何も言わなくていい。ほらほら、泣くのはいいけど服を着てくれ。急がないと見つかっちまう」

「そうやで。セリっちが服着んと、リックが裸見て興奮してまうんやから」

「事実だけどこの場で言うなよ。それと、セリっちって何だ?」

「セリーヌ・アングハルトやからセリっちや。どうや、可愛い呼び方やろ?」


 緊張感のない会話を交わしながら、服を着せ始めたリックとシャランドラ。

 しかし、問題が発生してしまった。騒ぎを調べに出ていた、二人の拷問担当が、拷問を再開するため、ここへ戻って来たのである。


「お前たち!そこで何をしている!!」

「ちっ!!」


 見つかってしまった。拷問担当の二人は異常を叫び、周りが何事かと反応する。

 もう隠す事はできないと、腰のホルスターから拳銃を取り出したリックは、戻って来た男たちへと発砲。二発撃たれた弾丸は、それぞれ一発ずつ命中し、男たちを撃ち殺す。


「シャランドラ、アングハルトに急いで服を着せろ。俺は外に出て時間を稼ぐ!」

「任せたで!気を付けてな、リック」


 拳銃を片手に、天幕を飛び出すリック。外から発砲音が鳴り響き、ジエーデル兵の喧騒が聞こえた。

 急いで着替えさせるシャランドラ。手当は後まわしにし、この場を離れる事を優先する。アングハルト自身も協力し、痛む身体を動かして、急いで服を着ていった。

 服を着ながら彼女は思う。このままではいけないと。

 自分を助けた大切な男が、自分のために危険に晒されている。守らなければならないと、その瞳に闘志を取り戻す。


「シャランドラ殿」

「なんや?」

「背中のそれは武器ですか?」


 発明家シャランドラは、その背中に、自身の開発した試作品を背負っていた。それに見たアングハルトは、これが武器である事を、すぐさま理解する。

 救出中、もしも敵と戦闘状態になった場合に、役に立つかもしれないと持ってきたのが、この試作品だ。


「これはな、うちが開発した新兵器や!こいつがあれば、何百人の敵が来ても一掃できるで。たぶん!!」


 新兵器とは、新しい銃器である。

 まだ試作の段階で、故障する可能性は高いが、確かにこの銃は、弾の続く限り圧倒的な火力を出す。ヘルベルトたちが使用しているライフルとは違う、銃を使う部隊には欠かせない分隊支援火器。彼女はその試作品を、弾薬と共に持ってきた。


「持ってくるだけで疲れたで。無茶重いんやわ、これ」

「シャランドラ殿、お願いがあります」


 着替え終わったアングハルトは、シャランドラの背中の武器を指差す。

 彼女の目には闘志が燃え、恐怖を完全に捨て去っている。今はただ、一人の男のために戦おうと、奮い立っていた。


「その武器の、使い方を教えてください」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ