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第八話 ヴァスティナ連合軍 Ⅰ

第八話 ヴァスティナ連合軍







 へスカル国。

 ヴァスティナ帝国が建国され、それと同時期に誕生したこの国は、帝国と長きに渡り友好関係にあり、帝国周辺の小国の一つで、小さくとも平和な国家でもあった。

 ローミリア大陸南が平定されて以来、この国が戦争をする事は、ただの一度もなかった。そんな、争いのない平和な小国であったこの国に、今まさに、戦争の波が迫り来る。誰にも止める事は出来ない、大きな波。

 へスカル国は建国以来初めて、自国が戦場になろうとしていた。

 激突するのは、独裁国家ジエーデル国軍とヴァスティナ連合軍。へスカルの領内で、この二つの軍勢が戦おうとしている。圧倒的な戦力のジエーデルに対し、連合軍がどう立ち向かっていくのか。

 侵略者を討つため、ヴァスティナ帝国女王が指揮する連合軍は、強大な敵に全てを懸けて挑む。






 オーデル王国軍残党討伐を名目に、ジエーデル軍第三軍の兵力一万五千は、へスカル国の国境線まで進軍していた。

 進軍が開始されてすぐ、ジエーデル軍の使者がへスカルに訪れ、国を治めるへスカル王に謁見し、第三軍総指揮官ドレビン将軍の言葉を伝える。内容は、即刻王国軍残党を我が軍へと差し出せ、と言うものであった。

 使者は今すぐの返事を求め、へスカル王はこれを承諾。軍を動かし、国境線まで残党軍を追い出すと約束した。表向きは、領内に駐留する残党への対処のため。しかし、本当の目的は別にある。

 ジエーデルの使者が訪れる以前より、帝国との共闘を約束していたへスカル王。帝国軍の軍師エミリオの指示で、敵の使者が現れた場合、下手に逆らわず相手の要求に応じて欲しい。そう手紙によって指示されていた王は、前もっての計画通りに、事を進めた。

 さらにエミリオは、密かに残党軍とも連絡を取っており、今後の作戦計画を伝えている。へスカルが表向き、残党軍対処のための兵を出したなら、それは敵ではない。へスカル軍に追われるふりをしつつ、両軍ゆっくりと行動する事。そう指示を出した。

 これは一種の時間稼ぎで、国境線を超えないぎりぎりの所まで、残党軍は追い詰められるふりをし、へスカル軍はジエーデルの脅威に屈し、彼らの命令に従っているように振る舞う。この行動を両軍がゆっくり行なう事で、ジエーデルが討伐のために、進軍出来ないようにするのだ。

 勿論、いつかは痺れを切らし、国境線を無視して侵攻を開始する事だろう。だがその頃には、反ジエーデルのために集まった勢力の、迎撃準備が整っていると言うわけだ。


「陛下、連合軍全軍の戦闘準備が終わりました。いつでも出撃が可能です」

「ご苦労でした参謀長。始まるのですね、私たちの存亡を懸けた戦いが」

「はい。厳しい戦いになると思います。ですが、勝つのは我が軍です」


 ヴァスティナ帝国女王にして、ヴァスティナ連合軍総指揮官、ユリーシア・ヴァスティナ。

 そして、ヴァスティナ帝国軍参謀長、リクトビア・フローレンス。

 二人は、侵略者を討ち滅ぼすために集まった、この場の全兵士に、出撃の号令を下そうとしている。

 ここはへスカル国領内、連合軍陣地。ここに集まっているのは、ヴァスティナ帝国軍と帝国騎士団、そして全ての友好国の全戦力である。総兵力は約三千。この後王国軍残党も加えて、約四千の戦力となる。

 全部隊が整列し、皆が直立して、女王の言葉を待っていた。彼女の号令が、開戦の合図となるのだ。


「この場に集まる全ての者たちに告げます!私たちは必ず勝利しなければなりません!」


 まだ十四歳のこの少女は、その小さい体で無理をして、全軍に聞こえるよう声を張り上げる。

 全ての者たちは一言も発せず、彼女の言葉に黙って耳を傾けていた。彼女の必死な言葉を、一言も聞き逃さないために。


「敗北すれば国は焼かれ、愛する者たちを失う事になるでしょう!勝利する事以外、私たちに未来はありません!!」


 誰もがジエーデル国の占領政策を知っていた。逆らう者は殺し、蹂躙した国の人間を、強制収容所で死ぬまで働かせる。占領された国の人間に人権はなく、家畜同然に扱う非道な国家。勝利しなければ、ここにいる全ての者たちの国は滅ぼされる。


「私は戦います!しかし、私一人の力は非力です!だからこそ、どうか皆さんのお力を私に貸して欲しい・・・・!」


 まだ少女で、体も弱く、目から光が失われた盲目の彼女に、ジエーデル軍をどうにか出来る力は皆無だ。

 だから彼女は訴える。力を貸して欲しいと叫ぶ。


「愛する者たちと国を守るため、共に戦いましょう!全軍、出撃します!!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおーーーーーっ!!!」」」」」


 出撃の号令と、全軍の雄叫び。空気が震え、破られた全軍の沈黙。

 独裁国家ジエーデルと戦うために、今この瞬間、連合軍は進撃を開始したのだ。


「お疲れ様でした陛下。暫くお休み下さい」

「問題ありません・・・・・・。私の事より、どうか軍の指揮を・・・・・・」


 号令を終え、全軍が出撃に動く中、女王ユリーシアの表情には、明らかに疲労が溜まっていた。

 無理もない。初めて感じる戦場の空気に、連合軍最高指揮官としての責任。彼女のか弱い小さな体に、この二つは一層苦しいものだろう。


(相当疲れている・・・・・・。元々体調もよくない。このまま無理をさせるわけにはいかないな)

「リック様・・・・・・?」

「陛下は睡眠をとっていて下さい。このところ眠れていないと聞いています。後は俺たちに任せて、安心して疲れを癒して下さい。もし眠れないのなら、シャランドラに頼んで薬を用意しますので」


 参謀長という役職であるため、リックは軍の指揮などで仕事が山積みだ。それでも、大切な彼女のために、世話を焼き続ける。

 リックは彼女の事が心配で仕方がなく、このところの毎日、彼の気が休まる事はなかった。


(落ち着け・・・・・・、陛下の警護は万全だ。メシア団長もいる。だから落ち着け・・・・・・)


 心の中で、自分を必死に落ち着かせようとしているリック。

 女王が出陣を決意して以来、彼は自分自身と、ずっと戦い続けていたのだ。






「ああ・・・・、あああ・・・・・あう・・・・・」

「ずっとこの調子なの?」

「そうだよ。陛下が決意なさった日から、ずっとね」


 帝国軍が出撃し、ヴァスティナ連合軍が陣地を構築する、少し前の話。次の日が、いよいよ軍の出撃という時に、参謀長執務室においてリックは、自分の執務室で項垂れていた。

 何とか仕事はこなしているものの、空いた時間は項垂れているばかり。女王の身を案じるばかりに、不安で胸が押し潰される思いなのだ。

 そんな彼を、城中の者が気にかけている。この執務室にいる軍師エミリオと、狙撃手イヴもまた、リックの事が心配でならないのだ。


「ううう・・・・・・、やっぱりレイナとクリスを陛下の護衛に・・・・・。いや、ここはゴリオンも・・・・」

「この通り、陛下の護衛態勢について悩んでいるんだ。昨日から寝ないでね」


 目の下にくまをつくり、頭を抱えて悩み続ける。

 例えるならその様は、夏休み最終日、終わらせていなかった宿題に頭を抱える中学生。人には見せられない、非常に残念な姿と言えるだろう。


「明日には出撃・・・・・、どうすれば・・・・・・。斯くなる上は、陛下を寝室に閉じ込めて-----」

「駄目だリック。それは軍事クーデターだよ」


 このまま、一人で悩み続ける彼を放っておけば、どんな暴挙に出るかわかったものではない。

 取り返しのつかない事を起こす前に、何とかしなくては。リック暴走の可能性を、真剣に考えるエミリオ。愛する人が苦しむ姿を見ていられない。どうやって不安を解消させようかと、悩むイヴ。

 結局、答えは出なかった。

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