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第七話 侵略者 Ⅶ

 旧オーデル王国軍会議室。

 ここでは現在、ジエーデル国軍将軍とその部下たちの間で、南進のための作戦計画が確認されていた。王国を占領したジエーデル軍は、王国軍が使用していた兵舎等の建物を、そのまま利用しているのである。


「閣下、我々の戦力を持ってすれば、南への侵略は容易です」

「全部隊は明日にも準備を完了致します。これで閣下の思惑通りとなりますな」


 閣下と呼ばれている男がいる。年齢は五十歳位の男で、髭を生やし、鋭い目つきを放つ。この男は軍の将軍であり、先のオーデルとの戦いにおいては、この男の指揮によって、ジエーデル軍は勝利を収めたのである。


「順調ではあるな。我らが総統閣下の野望のためにも、この南進は失敗が許されない。順調であるのは非常に良い事だ」

「これも、閣下の指揮のなせる業と言えるでしょう。ヴァスティナなど、閣下の指揮と我らの精鋭部隊が進軍すれば、敵ではありません」

「油断はできん。圧倒的な兵力で侵攻したオーデルは、あの国に二度も敗れた。決して侮ってはならんぞ」


 独裁国家ジエーデル国、領土拡大遠征軍第三軍。

 三万人の兵力を指揮するこの男。ジエーデル国の名将、ドレビン・ルヒテンドルクは、顎に生えた髭を撫でながら思案する。

 ヴァスティナ侵攻作戦。この作戦は半分、名将ドレビンの独断である。本来この軍の目標は、国内が混乱を極めたオーデル王国の占領。それが第一の目標であった。可能であればそのまま南進を進めてよいと、ジエーデル国総統からは許可を貰っていたが、当初ドレビンは、王国の占領だけしか考えてはおらず、帝国へ侵攻するつもりはなかった。

 状況が変わったのは、降伏を拒否した、一部の王国軍部隊の存在である。

 王国への侵攻は予想以上に簡単に進み、何の問題もないまま、当初の計画よりも早く占領が完了した。ジエーデル国自慢の占領政策を進めていく中、王都防衛を行なっていた王国軍精鋭部隊残党が、密かに王国を脱出。再起を図って、へスカル国領内に逃げ込んだのである。

 これを好機と捉えたドレビン。上手くこの残党を利用すれば、南進に大義名分を作る事ができ、電撃的侵攻が行なえると考えた。この好機を逃す手はないと思い、南進の障害となるであろう、対ヴァスティナの作戦計画を練り、侵攻準備を進めるよう部下に指示を出して、現在に至る。


「王国軍残党討伐を名目に、三日後には軍を動かす。それまでは、十分に兵士たちの英気を養わせるのだ」

「王国侵攻時に全速力の奇襲で進軍しましたからな。今日まで占領作業などをさせ、兵が休む暇はなかった。確かに休息が必要ですな」

「今度の敵は恐らく、王国軍以上に骨があるだろう。確実な勝利のためにも、兵たちには万全でいて貰わねばならない」


 名将ドレビンは総統に忠誠を誓い、これまで多くの武勲を立て、勲章を何度も授与された経験を持つ。

 そんな男だからこそ、戦争においては勝利のために、確実性を重要視する。戦場で戦う兵士の疲労度を考え、明日進撃するのを止め、兵たちが回復する三日後を出陣と定めた。

 三日後には、完全回復した全兵士たちと、将軍である彼に忠誠を誓う部下たちが、自国の領土拡大のために、その刃を、ヴァスティナへと向ける事だろう。


「では諸君、我らが総統閣下のため、必ずや勝利をこの手に掴むのだ。総統万歳!!」

「「「「総統万歳!!」」」」


 既に戦いは始まっている。

 ジエーデル国軍とヴァスティナ帝国の戦い。三日後、この戦いは動き出す。






「今・・・・何と仰いましたか・・・・・?」


 時は夕方。城に戻ったリックは、宰相からの言伝をエミリオから聞き、彼と共に、女王のもとへと赴いた。

 女王は既に謁見の間で待っており、何やらマストールと話し込んでいたのだが、どうも様子がおかしい。マストールが慌てて女王へ、「どうか思い留まって頂きたい」と叫んでいたのだ。

 この場にはメシアの姿もある。彼女もまた、いつも以上に真剣な表情であり、何かが違うと、すぐにわかった。

 何か問題が起きてしまったと悟った、リックとエミリオ。心の中で不安を覚えながら、女王ユリーシアの前で膝をつく。

 リックを呼んだ彼女には、一つの決意があった。その彼女が口を開き、この場で彼へと伝えた言葉。リックにとって彼女が放った言葉は、耳を疑う信じられない言葉であった。


「もう一度言います。此度のジエーデルとの戦争、私はヴァスティナ連合の総指揮官として共に行きます」

「まっ・・・・待って下さい!戦闘の指揮は俺に全て任せて下さい!陛下が戦場に出る必要などありません!!」

「いいえ、これは帝国と周辺諸国の命運を懸けた戦いです。私は友好国を扇動しました。ですから、今回の連合軍の最高責任者として、私が全責任を負う義務があります」

「陛下の言う事は間違っていません・・・・・・。ですが!陛下の身の安全のためにも了承出来ません!!」


 女王ユリーシアに絶対の忠誠を誓い、彼女が自分の全てである彼にとって、ユリーシアを危険極まりない戦場に赴かせる事は、断固拒否したいのだ。

 完全に彼女を守り切れる保証はない。戦場では、何が起こるかわからない。

 勿論ユリーシアも、リックならば、絶対に拒否するとわかっていた。それでも、自分がやらなければならないという、彼女の決意は固い。


「メシア団長!マストール宰相!何で黙っているんですか!?二人とも陛下を止めて下さい!!」

「落ち着くんだリック!ここは陛下の御前なのだよ」

「止めるな!これが落ち着いていられるわけないだろ!」


 今にも暴れ出すのではないかという位、断固として女王の出陣を拒否するリック。

 彼を落ち着かせようとするエミリオだったが、冷静ではない今のリックには、どんな言葉も届かない。


「陛下の身に万が一があったら・・・・・、俺は・・・・・!!」

「陛下、参謀長の言う通りですぞ。この戦いは激戦必至、御身に危険が及ぶ可能性は高いのです」

「二人が心配する気持ちはわかります。それでも、これは私の責務であり、私にしか出来ない事なのです」


 彼女の決意は揺らがない。どんな危険が待っているかわかっていても、決して戦地へ赴く事を考え直さないのだ。

 参謀長であるリックと宰相マストールの反対も、彼女の考えを変える事が出来ない。決意は固く、揺らぐ隙間もない。

 二人にもそれは理解出来た。だが、理解出来ていても、彼女が大切な存在である二人からすれば、反対は当たり前である。慌てずにはいられず、叫ばずにもいられない。例え彼女に嫌われる事になったとしても、それで彼女の身が守れるのならば本望なのだ。

 ユリーシアの命が、自分の命よりも大切なリックは、彼女の身を守るためには、手段を問わないだろう。出陣出来ないよう、城の一室に監禁する位の事はやるかも知れない。それだけ彼女の身が優先なのだ。


「メシア」

「はい」


 ユリーシアは、腰かけていた椅子より立ち上がり、メシアに手を引かれながら、ゆっくりとリックに近付いた。膝をつくリックの目の前まで来ると、彼の頭に両手をまわし、優しく抱きしめる。


「陛下・・・・・!」

「心配ありません、私は大丈夫ですから」

「どうか思い留まって下さい・・・・・・、俺には貴女が・・・・・・!」


 リックを抱きしめる彼女には、彼の苦悩が痛い程伝わった。

 絶対に失いたくないという思いと、彼女を守り切れるのかという不安。揺れる彼の胸の内は、想い不安が渦巻き、自身を苦しめている。

 彼を苦しめる結果になる事も、承知の上で、決意した彼女の思い。彼と帝国の未来のために、今自分が動かなければならないと、この少女は悟ったのだ。

 もう誰にも止められない。メシアもマストールも止める事を諦めている。彼女の決意を受け止めたのだ。


「私は死にません。絶対に死ぬ事はありません。だからリック様、私を許して下さい」


 何も言えなかった。この時リックは、何も言う事が出来なかったのだ。

 彼女の決意は揺るがない。反対意見を聞き入れる事もない。もう、諦めて受け入れるしかないと、わかってしまったのだ。それ故に、言葉が出なかった。


「私はヴァスティナの女王として、共に戦います。侵略者の脅威から国家と国民を守るため、私たちは全力を尽くさなければなりません。全ては、ヴァスティナの未来のために」


 女王の出陣。これが、女王ユリーシア・ヴァスティナの初陣となる。

 帝国を狙う新たな侵略者。彼らを討ち倒すため、帝国女王が立ち上がる時が来た。






 避けられない戦いが始まろうとしている。

 後に、「南ローミリア決戦」と呼ばれる事になるこの戦争。激突の瞬間は、刻一刻と迫っていたのだった。


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