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第七話 侵略者 Ⅰ

第七話 侵略者







 昔、この大陸では、大きな戦乱があった。

 大陸全土が戦場となり、戦火が治まる事は永遠に訪れない。この時代を生きた人々は、誰もがそう思い、絶望していた。戦争を始めた各国は総力戦を行ない、あらゆる武器をかき集め、魔法まで使って戦火を広げる。その様はまさに、この世の地獄を思わせた。

 長い戦いであったが、十年以上の戦いの後に、戦争は終結する。数え切れない、多くの犠牲を出して。

 この戦争は、ローミリア大戦と呼ばれて語り継がれた。人類の愚かさを象徴する、地獄の戦争だ。

 そんな大戦から、長い時が流れても尚、このローミリア大陸から、争いが消える事はなかった。大戦を経て、大きな力を持った現在の大国は、未だ争いを繰り返している。さらには、急速に成長する国家が、周辺の国に対して侵略行為を行ない、戦火の拡大を止めない。

 今現在、急成長し続けている、とある国家が、このローミリア大陸で、非情で残酷な争いを繰り返している。その国家によって、最近、一つの大国が滅ぼされてしまった。

 独裁国家ジエーデル。領土の拡大を狙い、独裁国家が次に獲物と定めたのは、ローミリア大陸南の、広大で豊かな土地である。






 かつて、ローミリア大陸の南は、多くの小規模勢力があった。

 里、村、街、山賊、野盗、貴族、小国などの勢力が、この豊かな土地を巡って争っていた。全勢力は独自に武装し、規模も何も関係なしに、度重なる紛争が、この地で繰り返されたのである。

 ローミリア大戦と比べれば、地方の小規模の争いだ。しかし、終わりが見えなかったのは、大戦と同じである。紛争は、争いを求めない多くの人々を苦しめ、誰もが終結を求めた。

 そんな中、一人の男が立ち上がり、志同じくする者たちと共に、武装蜂起したのだ。

 男は身分の低い、村の人間だった。しかし村が戦場となり、自分の両親を戦火に焼かれて失う。

 深い悲しみに暮れた男は、こんな争いばかりの世界を恨んだ。そして誓った。もう二度と、このような悲劇を繰り返してはならないと。

 悲しみを乗り越え、男は、争いの終結を望む者たちを集めた。老若男女、多くの同志が彼のもとに集う。集まった同志の中には、とある街出身の、武芸に秀でた、美しい女の姿もあった。

 女は、男と同じ気持ちを抱いていた。これ以上、愚かな争いで無駄な血を流してならない。二人は平和を願った。平和のために武器を取り、多くの同志と行動を起こしたのである。

 男の名前はラング。女の名前はリクトビア。二人は共に、戦場を駆けた。大陸南で覇権を争う、全ての勢力と二人は戦い続け、その全てを討ち果たす。

 やがて、この地は統一された。二人を中心に、平和を願った人々が、二度とこの地で争いが起こらないよう、一つになる事を望んだのだ。

 さらに二人は、二度と争いが起きないよう、国を建国する事にした。争いは内だけとは限らない。外からもやって来る。そう考えた二人が建国しようとした国は、他国が侵略のできない、力を持つ国家であった。

 大きな力を抑止力とし、他国が侵略するのを躊躇う国家にする。二人は建国のために奔走した。

 時に苦悩しながらも、共に手を取り合い、お互いを励まし合う。気が付けば、二人は、永遠の愛を誓うまでになる。新たな国家を建国し、式を挙げた二人を誰もが祝福した。建国後、即結婚した二人によって、新国家は動き出したのである。

 ローミリア大陸の南。豊かな自然に恵まれた、争いのない国。

 国の名前は、ヴァスティナ帝国。建国の英雄ラング・ヴァスティナが王となり、王妃は、最強の武神と呼ばれ、後に戦妃と呼ばれる事になる、リクトビア・フローレンスであった。






 建国から時は流れ。

 一時期は、大国と呼ばれるまでになったこの帝国も、今では南の小国でしかない。

 だが今現在、この国を統べる女王と、大陸に迷い込んだ男によって、帝国は変わりつつある。強力な戦力を有し、誰も見た事のない武器を使う、軍事国家のようになりつつあるのだ。

 そんな帝国に、春の暖かさが過ぎ去り、暑い夏の季節がやって来た。

 帝国が変わり始めたのは、丁度春がやって来た時である。大陸に迷い込み、女王に忠誠を誓った男が、彼女のために奔走し、気が付けば、季節が移り替わっていた。

 強い日差しに照らされ、心地よい暖かさではなく、蒸し暑い気温に悩まされる季節。誰もが服の袖を捲り、暑さに耐えかねた者は、避暑地を求めて動く、夏という暑い季節。

 そんな暑さの中、ヴァスティナ帝国城の中庭では、夏の暑さにも負けない、女の戦いが勃発しようとしていた。


「ふふっ、ふふふふっ。とうとう決着をつける時が来たようだね」

「この戦いに意味はない。それでも、私と戦うというのですか?」

「当然だよ。私たちは光と闇なのさ。だからね、いつかは戦わなければならない運命にある」


 中庭に緊張が奔る。集まった誰もが、固唾を呑んで見守っていた。

 女の戦いが始まろうとしている。真っ赤で派手な赤いドレスに身を包む、妖艶な笑みを浮かべた、金色の髪の女性と、右手に剣と左手に盾を持つ、褐色の肌と長い銀髪の女性の戦い。

 金色の髪の女性はリリカ。自称にして事実の、美人で自由な旅人だ。

 銀色の髪の女性はメシア。帝国騎士団の騎士団長にして、帝国最強の女性である。

 そんな二人が、今日この時、雌雄を決しようとしているのだ。


「さあ、観客も集まった事だし、始めるとしよう。お前たち、用意はいいね?」

「はい・・・・・」

「何で僕まで・・・・・・」

「諦めようや。リリカの姉御には逆らえんのやから」


 本来、戦闘要員ではないリリカは、騎士団長であるメシアに対抗し、三人の戦力を用意した。

 十文字槍を武器として、炎属性の魔法を操る赤髪の少女、レイナ・ミカズキ。飛び道具の申し子で、狙った獲物は百発百中の男の娘、イヴ・ベルトーチカ。帝国一の天才発明家にして、訛りのある口調の眼鏡少女、シャランドラ。

 三人はリリカに無理やり連れて来られ、メシアと戦えと命令されて、ここにいる。


(リリカ様には逆らえない・・・・・・、一体どうすれば・・・・・・)

(どうせ勝てっこないよ。メシア団長は帝国最強なんだしさ・・・・・・)

(えらい戦いに巻き込まれてもうたで。うちは戦闘員やないんやで、マジで)


 内心不満だらけの三人ではあるが、彼女には逆らえない。彼女に逆らう事が出来るであろう人間は、目の前にいるメシアと、帝国軍参謀長と宰相位のものである。

 三人ともそれぞれ溜息を漏らす。勿論、諦めの溜息である。


「レイナ、イヴ、シャランドラ。お前たちは私の親衛隊だよ」

「なんやてっ!?いつの間にか親衛隊にされとる!」

「拒否権はない。それと、万が一私が負けるような事があれば、三人ともお仕置きだよ」

「待ってよリリカ姉様!相手はメシア団長なんだよ。僕たち三人がかりでも勝てるわけないよ!」

「ふふっ、こんな言葉を知っているかい?やってみなければわからない」


 帝国最強を前にして、何故こうも自信満々に、尚且つ余裕でいられるのだろうか。

 流石は、帝国を陰で支配していると言われる、帝国最凶の女性である。恐れるものが何もない。


「やるしかないのか・・・・・・。騎士団長、お覚悟を」

「お仕置きは嫌だしね。頑張って勝とうか」

「相手が騎士団長なら実弾でもよさそうやけど、一応麻酔弾使ってくれや。こんな阿保な戦いで死人出すわけにもいかんで」


 レイナは槍を構え、イヴは腰に収めていた銃を抜く。メシアもまた、剣を構えた。

 どちらが勝利するか、周りで観戦する者たちは賭けを始める。観客は帝国騎士たちや兵士たち。さらに、参謀長直属の精鋭部隊である、元傭兵部隊の面々。そして・・・・・・。


「君はどちらが勝つと思う?」

「知るかよ。普通に考えりゃ騎士団長だろうが、相手はリリカ姉さんだからな」

「けっ、喧嘩は良くないだな。止めなくていいんだか?」

「気にすんな、やらせとけ。女の戦いに口挟むとろくな事がねぇぞ」

「ヘルベルト、それはお前の経験則か?」


 観客の中には、元傭兵部隊を指揮する、二人の男の姿もある。元隊長のヘルベルトと、昔彼に命を救われたというロベルトだ。

 喧嘩は良くないと言いつつ、二人の隣にいるのは、身長が二メートルを軽く超え、情人離れした体格を持つ、帝国一の巨漢ゴリオンである。

 そして、帝国最強対最凶の戦いを分析している、眼鏡をかけた顔立ちの良い男と、呆れながら見物している、これまた顔立ちの良い金髪の青年。軍師エミリオ・メンフィスと、剣士クリスティアーノ・レッドフォードである。


「ところで、この状況は何が原因なんだい?」

「俺は知らねぇぞ」

「オラもなんだな」


 普段から、口での女の戦いを繰り広げる、メシアとリリカであるが、実戦に発展する事は、今までなかった。

 リリカに至っては、勝つための手段として、自分に逆らえない三人を用意し、帝国最強相手に勝利しようとしている。珍しく本気だ。

 四対一では卑怯だと言う、周りの声もあったが、リリカ曰く、「彼女たちは私の武器だよ、文句あるかい?」と言って黙らせた。

 メシアは相手が何人でも構わないらしく、文句の一つも言わない。いつもの、真面目で寡黙な表情である。


「喧嘩の原因はこの男にある」

「口は災いのもとだな。気を付けちゃいるが、ついやっちまうんだよ」

「お前が原因かよ。何したんだ?」


 ロベルトは知っている。

 喧嘩の原因は、ヘルベルトの言葉にあると。何故なら、偶然その現場に居合わせてしまったからである。


「俺が見かけた時には、いつものが始まってたんだよ。そんで、火に油を注いじまった」


 今日も平和であった、ヴァスティナ帝国城。その平和が壊れたのは、一時間ほど前の事であった。

 城の中では、皆が自分の職務に取り組み、忙しく過ごしている。そんな中、一人だけ暇を持て余し、城の中を散歩していたリリカは、参謀長室に暇つぶしに行こうとしていた。

 そう考えて、部屋の扉の前まで辿り着いた、丁度その時、彼女はメシアと偶然遭遇したのだ。

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