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第六話 愛に祝福を  後編 Ⅷ

 リックとアニッシュが草原で戦っていた頃。

 レイナとクリスが戦っている、このチャルコの広場では、一方的な戦いが展開されていた。


「つまらねぇ」

「ひっ、ひいいいいいいっ!!?」


 退屈そうな表情のクリスと、衣服の何もかもがぼろぼろのメロース。

 クリスの剣技によって、花婿衣装は台無しである。服全体が切り刻まれ、ズボンのベルトも綺麗に斬られた。そのせいでズボンが脱げてしまい、下着は丸見えで、無様な姿を人前に晒している。

 この圧倒的とも言える実力差に、先程までの威勢を完全に失い、今はクリスの存在に怯えきっているメロース。どの位怯えているかと言えば、恐怖で失禁している程である。

 下着を晒し、失禁までしてしまったこの王子に、無様以外の言葉はない。彼を助けようとした従者たちも、レイナの手によって、完膚なきまでに倒された。エステラン国の人間たちは、広場に集まっていた、多くの人間の前で、無様な姿を晒してしまっている。


「汚ねぇもん見せやがって。ちっ、俺の剣が穢れちまったぜ。こりゃあ念入りに手入れが必要だ」


 汚物を見るような目で、恐怖に震えあがるメロースを見下す。

 もう、メロースに戦う意思はない。これ以上戦意を持っていないのだ。実力も戦意も、全てにおいてメロースは、クリスに敗北を喫した。


「ぐっ、貴様たち!このままで済むと思うなよ!」

「こうなれば一刻も早く国に戻り、貴様たちを討伐する兵を出すまでだ!」


 メロースと違い、従者たちにはまだ余裕がある。

 倒されはしたが、何とか立ち上がって、レイナとクリス相手に叫ぶ。その様はまさに、負け犬の遠吠えと言えた。怯えきった自分たちの王子を介抱しつつ、負けた事を認めない従者たち。

 彼らは今回の誘拐の真犯人が、ヴァスティナとチャルコであると予想していた。二国が結託し、それぞれの利害の一致で、結婚を台無しにしたと考えている。二国はエステランに対して、好意的ではない。故に、そう考えるのは当然と言えるだろう。

 だから従者たちは、急いで自国に帰国し、エステラン王に事の次第を報告するつもりでいる。この国で起こった、エステラン国王子への無礼を報告し、王を説得するのだ。そうすれば、間違いなくエステラン王は兵を起こす。

 王子が受けた仕打ちを理由に、チャルコを侵略する口実を得る。政略結婚で、穏便に済ませる事が望ましいのだが、エステラン王は侵略行為も視野に入れていた。攻める大義名分が手に入るのなら、王はすぐにでも兵を起こすと、従者たちは知っているのだ。

 守らなければならない王子を倒され、自分たちも完膚なきまでに敗北した彼らは、復讐戦を仕掛けようと燃えていた。


「そこまでだよ。お前たちは負けたのさ」


 従者たちが復讐心にかられる中、二人の女性が姿を現す。

 声を発したのは、長く美しい金色の髪の女性。もう一人は、軍隊の制服に身を包む女性である。


「なっ、何者だ!?」

「通りすがりの美人で自由な旅人さ。それよりお前たち、この国を侵略するつもりなのだろう?自分たちの王子が辱められたことを理由にね」

「当然だ!それの何が悪い!」

「王子を辱めたのは怪人アリミーロだよ。この国の人間は関係ない」

「ふざけるなっ!ヴァスティナとチャルコの謀略であろう!」

「いいのかい?このまま戦争を起こせば、エステランは身勝手で理不尽な理由を口実に、チャルコに戦争を仕掛ける愚かな国家という事になるよ」


 従者たちは彼女の言葉に驚愕する。驚いたのはそれだけではない。周りを見まわしてみれば、広場にいた人々や騎士たちから、冷たい視線を浴びていた事に、彼らはようやく気が付いた。

 さらに、現れた二人の女性の後ろには、多くの行商人が集まっている。これこそ、今回の作戦の切り札である。


「後ろの彼らは、国中を旅する商人さ。この広場で起こった事も見ていたし、王子の発言も聞いていたよ。お前たちの無様な姿もばっちり見ていた。この意味がわかるかい?」

「まさか・・・・・・貴様たちはっ!?」

「ふふっ、理解したようだね。お前たちははしゃぎ過ぎたのさ。商人たちがここでの出来事を広く伝えれば、エステランの名は地に落ちるだろう。エステラン王が、自分と国を自ら辱めるような事をすると思うかい?」


 従者たちは気が付いた。最初から、これが狙いであった事に。

 妖艶な笑みを浮かべ、作戦の最終段階を担うのは、自称にして事実の美女リリカである。もう一人の女性は、彼女の護衛として同行している、帝国軍兵士アングハルトだ。

 広場でこの戦いを計画し、エステラン国王子に、無様な姿を晒させるように仕向けたのは、勿論作戦を考えたリックである。この場に商人を集めたのはリリカで、作戦はアニッシュの乱入を除けば、概ね上手くいったと言えるだろう。

 王子をわざと挑発し、この場所まで来るよう誘導する。そして、怒りに燃える王子に対して、帝国軍の二枚看板である、レイナとクリスをぶつけるのだ。当然、戦闘になればレイナとクリスに敵う者は、そうはいない。実際、メロースはこの通り叩き潰された。

 メロースはこの場で、多くの人間が見てる中、自らの醜悪を晒し、チャルコ国を冒涜して、おまけに、王子としてあるまじき姿を見せてしまった。これが他国に露見すれば、エステラン国は自国の名を、地に落とす事になる。さらに、ただでさえ財政難である状況で、この事が自国民に知れ渡れば、王の権威にも影響が及んでしまう。

 しかもエステラン国は現在、周辺諸国に不穏な動きがあるため、国内がこれ以上揺らぐような事は、絶対に避けたいのである。

 この情報は、エミリオによって齎された。この情報のおかげで、リックは作戦を実行に移す決心がついた。作戦通りにいけば、周辺諸国に問題を抱えるエステランが、チャルコに対し、出兵する可能性は低いと考えたのである。


「さあどうする?お前たちは何も出来ない。国に戻ってチャルコに復讐する事も、同じようにヴァスティナを攻める事もね」

「それが貴様たちのっ!ヴァスティナ帝国の目的だったのか!!」

「何の事やら、私にはわからないね。私はただの、通りすがりの美人で自由な旅人さ」


 見事に惚けて見せ、帝国と自分は関係ないという。彼女を知る者が見れば、笑ってしまうかも知れない。

 帝国女王や、帝国軍参謀長と密接な関係を持ち、多くの者からは姉と慕われる。帝国の影の支配者とまで言われている彼女が、関係ないはずがない。


「ええい!もう我慢できん!!貴様のような女狐など、この場で斬り捨ててくれる!」

「奴を殺せっ!」


 逆上した従者たち。王子と同じで、彼らも短気なのか、剣を手に取り、二人に襲いかかろうとする。

 血気盛んと言えばまだ聞こえはいいが、どう見ても愚かにしか見えない。殺意をリリカに向け、剣で斬りかかる従者たち。


「アングハルト、任せるよ」

「はっ」


 帝国軍制服に身を包む、セリーヌ・アングハルトは、リリカの盾となるため前に出る。

 彼女は腰に剣を差しているが、それを抜き放つ事はない。下手にエステラン国の人間を殺せば、それを口実に兵を動かす恐れがある。アングハルトもそれを承知でいるため、素手によって、敵を無力化しようとしているのだ。

 最初に斬りかかった従者の斬撃を躱し、反撃に移る。相手の腕を掴み、それと同時に足を引っ掛け、体勢を崩させた。まるで柔道のように、相手を背負い投げの要領で投げ伏せる。

 次々と襲いかかってくる従者たち相手に、彼女はたった一人で立ち向かい、柔道のような投げ技と、軍隊式格闘術の合わせ技で、意図も容易く無力化していく。

 僅か一分ほどで、彼女は従者全員を捻じ伏せて見せた。


(思ったよりやりやがる。リックに告っただけはあるぜ)

(あの武術。初めて見るが動きに無駄がない。かなりの実力者と見ていいだろう)


 彼女の格闘術に興味津々なレイナとクリス。

 見事な武芸に、彼女に対して称賛の拍手を送るリリカ。

 見ていた周りの人々からも、称賛の拍手が上がる。この場の出来事を見ていたチャルコの人々は、今では立派な反エステランの気運であり、アングハルトを誰もが応援していたのである。


「ふふふっ、一兵士にしておくのが惜しいよ。私からリックに、出世できるよう推薦しよう」

「いえ、私に推薦して頂く資格などありません」

「謙虚なところも魅力的だね。可愛いじゃないか」


 アングハルトの髪を撫で、いつもの様に、気に入った者を可愛がる。

 リックもリリカも、可愛がり方に違いはあれど、他人を気に入る所はそっくりだ。だからこそ、二人は馬が合うのかも知れない。

 彼女たちの仕事は終わった。レイナとクリスも同様だ。

 後は、リックの無事を祈りつつ、この場を後にするのみである。


「私たちの役目は終わったね。アングハルト、どこかでお茶でもしようか」

「宜しいのですか?」

「心配いらないさ。君の愛しのリックはね」


 心中を読まれ、若干表情に驚きを表すアングハルト。

 それを見たリリカは、満足そうな表情を浮かべて、この広場を後にする。

 彼女たちがいなくなった後、同じように役目を終えたレイナとクリスも、予め用意していた、スモークグレネードを使い、煙に紛れて撤退した。

 作戦はほぼ終了している。後は、リックの帰還を待つのみだ。






 草原で対峙する男と少年。

 拳を構える男と、折れたランスを構える少年の戦いは、決着をつける時が来た。


(落ち着け、集中するんだ。相手がどんなに常識外れでも、必ず勝機はあるはずだ)


 砕かれたランスを見つめ、冷静になって勝機を窺っているのは、見習い騎士のアニッシュだ。

 対峙している怪人アリミーロを倒すため、これまでの戦闘を振り返って気付く。この男の戦い方は、素人そのものであると。


(圧倒的な力。ありえない反射神経。でも、武術の覚えはないみたいだ)


 実際怪人アリミーロは、いや、帝国軍参謀長リックに武術はない。戦闘においては素人同然なのだ。

 しかし、騎士団長であるメシアに鍛えて貰っているだけあり、徐々に素人ではなくなっている。とは言え、素人相手の戦闘は、相手が何をしてくるかわからない。アニッシュにとって、これは遣り難い相手である。普段こんな相手と戦う事もないため、遣り難いのも尚更だ


(どうすればいい。次の一撃が、僕の最後の攻撃だ。この一撃に全てを賭けるしかない)


 体力的にも限界なアニッシュ。次の攻撃で倒せなければ、勝機はない。


(そうだ!あの技を使えば・・・・)


 不意に、クリスと鍛錬をしていた時を思い出す。

 彼が教えてくれた、最も単純な技。この技ならば、リックのような相手に、一番有効であるはずだ。






「お前、不器用だよな」

「えっ?」

「ランスで突くばかりで技がねぇ。まあ、お前みたいなガキが技使うなんざ、十年は早えがな」

「そうですね。僕には・・・・・・技が使えるような才能なんてありませんから」


「・・・・・・馬鹿が」

「クリスティアーノさん?」

「才能があろうがなかろうが関係ねえ。悪いのは不器用なのと、お前自身の気持ちだ」

「僕自身の・・・・・気持ち?」


「自分と向き合え。俺みたいになりたくなかったらな」

「どういう事ですか?クリスティアーノさんは尊敬に値する人です。僕はあなたのようになりたいと思っています」

「・・・・・ちっ、余計な事喋り過ぎたぜ。まあいい、お前に一つだけ技を教えてやる」

「教えて頂けるのですか!?」

「簡単な技だ。馬鹿でもできる。言っとくが、大したもんじゃねぇぞ」


「それでもいいです。教えて下さい!」

「しょうがねぇ、教えてやるぜ。その代わり、一回しか教えねぇからな」

「はい!」






 アニッシュは思い出した。

 あの時、クリスが教えた、ただ一つの技を。教えられたのは、基本的で当たり前の技だ。それでも、この状況ならば、最も効果的な技と言える。


(やるしかない。練習では一度も上手くいかなかったけど、これしかないんだ!)


 息を静かに吐き、集中力を高める。ランスを握る手に力を入れ、ただ一点に狙いを定めた。


「準備はいいかいアニッシュ君?そろそろ決着をつけようか」

「はい!勝負です、怪人アリミーロっ!!」


 アニッシュは駆け出した。ランスを前に構え、その狙いはリックの仮面である。

 ランスの切っ先は砕かれているが、鉄製である以上、全力で突けば鈍器のようなものだ。如何にリックと言えども、顔面に直撃をくらえば、ただでは済まない。


(真っ向勝負か。上等だ!)


 リックも受けて立つ。

 正直、これ以上アニッシュと戦う必要はない。この場から逃走して、適当に撒いてしまうだけでいい。

 それでもリックは、彼と戦う選択をした。クリスがわざと用意したこの舞台に、どうしようもない程の面白さを感じた故である。それに、彼のためと思うならば、ここで退くわけにはいかない。


「はあああああああっ!!」

「くらえええええええっ!!」


 間合いに入り、ランスを突き出したアニッシュに対し、己の拳のみで立ち向かうリック。

 今度こそ、彼のランスを粉砕し、勝負に決着をつけるため、右手の拳で、真っ向からランスに立ち向かう。力の差がある以上、このままではアニッシュのランスが砕かれる。

 彼のランスの突きは、今日一番の速さだ。しかし、リックには見えている。ランスを正面から打ち破るため、拳を放つ。

 リックは一瞬思ってしまった。「勝った」、と。

 その一瞬の油断が、命取りになる事を知らずに。


「なにっ!?」


 リックの拳がランスと激突する。と、思われた。

 殴れるはずだったのだが、拳を放った先に、ランスはなかった。間違いなくアニッシュのランスは、リックの仮面目掛けて向かって来ていたのだが、突然ランスが消えてしまったのである。

 拳は、ランスの消えた空間を殴る。外してしまったのだ。これが勝敗を分けた。

 ランスは消えたのではない。アニッシュは確かに、ランスの突きを放った。

 放ちはしたが、狙い通りの場所へ放ち切ってはいない。直前でアニッシュは、放ったランスを戻したのだ。拳と激突する直前で戻し、一瞬で狙いを切り替える。最初から、本当の狙いは仮面ではなく、必ず無防備になるであろう、リックの腹部であったのだ。


「そこだあああああああああっ!!」


 アニッシュがクリスに教わった技。それは、単純なフェイントである。

 突くと見せかけ、直前で狙いを切り替え、本当の狙いを攻撃する、簡単な技だ。そんな簡単な手に、リックは見事に引っかかってしまった。

 体力的に余裕がなく、早急に決着をつけなければならない、この状況ではリック自身、少し冷静さを欠いている。冷静さを失わないようにしていたが、アニッシュとの胸躍る戦いで、内心熱くなってしまっていた。

 熱くなっている時ほど、簡単な事でミスをするものだ。油断しているつもりはなくとも、熱くなっていたせいで、普段なら何て事はないフェイントに、仕掛けたアニッシュ自身が驚くほど、綺麗に引っかかってしまった。

 フェイト程度の技など、やろうと思えば誰にでも出来る。基本の一つだ。

 派手な技など教わってはいない。少年にはまだ早いと、クリスはこの技しか教えなかった。この技をアニッシュは、厳しい教えのもと習得し、実戦で初めて放つ。初めてであったが、意を決して使った価値はあった。

 フェイントに慌て、一瞬アニッシュのランスを見失い、防御が遅れてしまうリック。


「がはっ!!?」

「うおおおおおおおおおっ!!」


 フェイントにかかり、無防備となったリックの腹部に、少年の渾身の一撃が炸裂する。

 気迫の籠った雄叫びを上げ、ランスを放ったまま、そのままの勢いで、リックの体を突き飛ばす。後ろへと突き飛ばされたリックの体は、地面に叩きつけれ、そこから立ち上がる事はない。


「はあ、はあ、はあ・・・・・。やった・・・・・」


 死んだわけではないが、彼の突きの衝撃に負け、気を失っているのだ。

 勝敗は決した。見習い騎士、アニッシュの勝利である。格上の相手に対して、勝利をもぎ取って見せた。


「シルフィ!」


 勝利した事が分かるや否や、眠っているシルフィのもとへと駆け寄る。

 彼女をリックから任されたメイファは離れ、アニッシュはシルフィを抱き起す。


「シルフィ!起きて、シルフィ!」

「・・・・んっ、・・・・あ・・・アニッシュ・・・・・?」

「そうだよ、もう大丈夫だからね」


 騎士は姫を見事助け出して見せた。

 一方、姫を攫った怪人役はというと、自らの専属メイドに頭を蹴られ、無理やり意識を覚醒させられている。


「無様ですね、ご主人様」

「ぐっ・・・・・、負けちゃったな」


 メイファが手を貸し、腹を手で押さえながら、何とか立ち上がる。

 彼にはもう、戦う意思はない。今回は潔く、少年の奮闘に免じて負けを認めた。


「負けたよアニッシュ君。姫は君に返す」

「何かっこつけてるんですか。見習いに負けてる時点でとってもかっこ悪いです」

「まったくだ。でもなメイファ、アニッシュ君の実力は本物だ。まぐれで勝ったわけじゃない」


 不意に、メイファの名前をそのまま呼んでしまった事に気付く。もう気付かれているのだが、正体は隠さなければならない。


「フローレンス参謀長」

「アニッシュ君、我は怪人アリミーロである。フローレンスなどという男は知らないぞ」

「・・・・・・では、怪人アリミーロさん。お礼を言わせて下さい。本当なら、お礼を言うのは間違いだと思います。でも僕は、あなたたちのおかげで、大切な事を思い出せました」

「アニッシュ?」


 見違えるようだ。

 初めて出会った時とは違う。曇りのない瞳に、迷いを振り切った表情。

 少年は変わった。あの時のように、苦悩する事はもうないだろう。


「僕はシルフィが好きです」

「ちょっ、こら、アニッシュ!?あんた何言ってんのよ!」

「この気持ちに嘘偽りはありません。僕は彼女の騎士になりたい。違う、絶対になってみせます。僕の命は、常に彼女と共にある!」


 少年の宣言は、幼き姫の顔を真っ赤にしてしまう。

 恥ずかしいと思う気持ちがある。だが、それ以上に嬉しいという気持ちが強い。愛する少年にそう言って貰える事が、どうしようもなく嬉しかったのだ。


「そうか。良かったですね姫殿下、彼はいい男ですよ」

「・・・・・・当り前よ。アニッシュは私の騎士なんだから」

「お二人の愛に祝福を。そろそろ私は退散しますので」

「早く戻りますよご主人様。ここにいては、お二人の仲の邪魔です」


 作戦は終了した。

 まさかの乱入者が現れ、最後に敗北してしまったものの、シュタインベルガー作戦はほぼ成功した。

 作戦を考えた本人は、とても満足している。専属メイドが呆れるほどに、超ご機嫌だ。


「さらばだ見習い騎士よ!そして姫殿下よ!また会おう!!」

「二度と御免よ、変態仮面」


 高笑いを上げながら、振り返って去っていく、怪人アリミーロとそのメイド。

 二人の背中を見送る。帝国の未来を担う、男の背中を。

 薬のせいか、足元がおぼつかない彼女を抱きかかえ、二人の姿が遠くなるまで見送った。


「あれがユリユリの希望なのね」

「フローレンス参謀長は、この先何を目指すんだろう」

「さあね。今は、そんな事どうでもいいわよ」


 アニッシュが気が付くと、シルフィはじっと、彼の事を見つめていた。

 記憶の中の彼女は、いつもむすっとした表情を見せていた記憶が多い。しかし、今の彼女は、優しい微笑みを浮かべている。アニッシュが見惚れてしまうほどに。


「助けに来てくれて、本当にありがとう」

「これからは、一生君を守り続ける。僕は君の騎士だから」

「まだ見習いのくせに」

「そっ、そうだね。もっと頑張らないと」


 痛いところをつかれ、困り顔のアニッシュを見て、少し笑うシルフィ。

 そんなシルフィ見て、どうして彼女はこんなにも可愛いんだろうと、口に出してしまいそうになった。それを何とかぐっと堪えて、彼女を見つめる。


「大好きよ」

「僕もさ。・・・・・・行こうか、君の帰りを皆が待ってる」


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