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第六十三話 策謀行路 Ⅺ

 車輌に乗って脱出を急ぐリック達は、住宅街の狭い道で車輌を後退させながら移動している。道幅が足りないため、車輌を反転させる事ができず、止む無く後進で走るしかないのだが、そのせいで思うように速度が出せない。

 移動速度の低下している今を好機と考えてか、新手の敵が追撃に向かって来る。リック達の乗る車輌を追って、またも騎乗した敵が馬を走らせ追いかけてきていた。

 三頭の馬に跨っているのは、敵の魔法兵である。魔法兵が詠唱を行ない、炎魔法による火球を一斉に放つ。それを背中越しに察知したクラリッサは、愛馬に跨ったまま自身の風魔法を無詠唱で発動し、突風によって放たれた火球を消滅させた。

 反撃に出たのはイヴである。クラリッサの背に摑まっていたイヴは、彼女に自身を掴んでおくよう指示すると、上体を捻って自分の身を敵へと向けさせる。

 馬から落ちそうになっているイヴを、慌てたクラリッサが服を掴んで捕まえる。クラリッサが掴んでいるお陰で、如何にか落馬せずにいるイヴは、その状態から短機関銃を構えた。

 イヴは指切りの射撃で三発を三回行ない、向かってきていた魔法兵を正確に撃ち抜き沈黙させ、再びクラリッサの愛馬に跨り直す。殿の務めを果たした二人であったが、イヴの身を守ると宣言したクラリッサとしては複雑な心境であった。


「イヴ殿。そのような無茶をせずとも、あれくらいの敵は私の魔法でどうにでもなる」

「心配してくれてありがとう。でもクラリッサちゃんが魔法で攻撃したら、敵どころか家とかも吹っ飛んじゃうでしょ?」

「うっ、それは⋯⋯⋯」

「こういう状況なら僕の方が向いてるよ。敵は僕が片付けるから、クラリッサちゃんは防御に専念してね」


 確かにクラリッサの強力な風魔法より、イヴの正確な射撃で倒す方が、周りの被害は最小限に抑えられる。頭では理解できる事だが、帝国風将としての立場上、格好が付かない事にクラリッサは悩んでいた。

 何より、婿に迎えたいと考えている好きな相手の前で、格好良く振舞いたいという気持ちがある。だからと言って、誇りを優先するわけにもいかない状況であるため、クラリッサは大人しく従うしかなかった。


「イヴ殿が婿に来たら、私は毎日言いなりにさせられそうだ」

「そう? 結婚したら僕優しいと思うけどな~」

「優しいのは間違いないが⋯⋯」

「でしょでしょ。でもね、もしクラリッサちゃんが浮気なんてしたら―——」


 突然、冷たい殺気と共にイヴの持つ短機関銃の銃口が、クラリッサの背中に突き付けられる。背中から心臓を狙うイヴの銃口に、クラリッサは一瞬で怯えさせられた。


「⋯⋯⋯僕ね、頭より心臓(ハート)を射抜く方が得意なんだ」

「!!」

「僕を裏切るような真似だけは、絶対にしないでね♪」


 不敵な笑みを浮かべて背中から脅すイヴに、クラリッサは何もできなかった。彼女はつい先程レイナから受けた忠告の意味を、その身を持って体感したのである。

 そんな二人のやり取りを、車輌に乗っているリックとアリステリアが眺めていた。イヴとクラリッサの様子を見て、いよいよ結婚が現実味を帯びてきたと考え始めていた二人だったが、その時リックは、道に建て並ぶ家屋の屋根から殺気を感じ取る。


「伏せてろ、アリステリア!」


 先回りされたのか、それとも待ち伏せていたのか、夜の闇に紛れて建物の上に潜んでいた敵が、リック達の車列に攻撃を仕掛けようとしていた。

 真っ先に気付いたリックは、車輌の備え付け機関銃を構え、建物上の敵目掛けて発砲を開始する。車列を狙い、各建物の上から何人もの敵が、弩を構えて矢を一斉に発射した。

 車列に降り注ぐ矢の雨。応戦するリックの機関銃と、護衛の兵達による射撃。アリステリアに当たりそうな矢はクラリッサの風魔法が払い、イヴの射撃も応戦に加わった。

 リックに伏せろと言われたアリステリアだが、敵の攻撃に怯える事も悲鳴を上げる事もなく、乾いた甲高い発砲音に耳を塞ぎ、彼の操る機関銃を興味津々になって見つめていた。


「私にも撃たせなさい」

「はあ!?」


 この忙しい時に何を言ってるんだと、リックが言うよりも先に、アリステリアの手は機関銃に触れていた。銃器に興味を持っている彼女は、射撃するリックの姿を観察していたため、彼の真似をして銃を構えようとする。

 

「ここを引けば撃てるのよね? リクトビア、足場が悪いから私を支えてて」

「やめろって言っても聞かないんだろうな!? ああもう、わかったからちゃんとそこ持ってろ!」


 仕方なくリックは彼女の身体を支え、一緒に機関銃を構えて手早く使い方を教える。引き金に指をかけ、揺れる車輌の上で照準器の中に敵を捉えたアリステリアは、初めての発砲を行なった。

 引き金を引き、機関銃の銃口から弾丸が連射されていく。放たれた弾は弩を構えていた敵に向かって飛んでいき、数発の弾丸が敵の胸を貫いた。


「やるな。上手いじゃんか」

「結構楽しいじゃない。まだまだいくわよ」


 機関銃を気に入ったアリステリアが、リックの支えを借りて射撃を継続する。最初こそ聞きなれない発砲音と反動に驚いていたものの、それも慣れていって射撃が安定していく。応戦にまさかの形で参戦した彼女を、殿を務めるクラリッサが心配しているが、その心配をよそにアリステリアは次々と敵を射殺していった。


「⋯⋯⋯お前、皇女なんかやめて、うちにきて射手にならないか? 結構向いてるぞ」

「冗談。貴方が私のところにきて、銃とやらの使い方を教えなさい。教え方上手いわよ」


 銃火器による応戦と、クラリッサの風魔法の活躍もあって、無事住宅街を抜けた車列は街の広場に飛び出した。運転手が急いで車輌を方向転換させ、一気に屋敷へと向かおうとするが、そこへ向かう道は、荷馬車や積み上げられた木箱などの障害物で封鎖されていた。

 リックもアリステリアも、自分達が誘い込まれたのだと悟る。封鎖された広場で孤立したリック達のもとに、新手の敵が奇襲を仕掛ける。物陰から突如姿を現したローブを纏いし十三人の敵が、リック達目掛け一斉に駆け出した。

 その十三人に向かい、リック達は応戦するべく発砲した。アリステリアも機関銃を連射し、イヴも短機関銃で弾幕を張るが、向かって来る敵は並みの動きではなく、飛んでくる弾が見えているかのように躱しながら急接近する。


「吹き飛ぶがいい!!」


 先程までの敵とは違う。誰もがそれを実感する中、危険だと判断したクラリッサが、風魔法で強力な突風を発生させる。接近してきた敵も、何もかもを吹き飛ばすこの突風には抗えず、全員その身を吹き飛ばされていった。

 ある者達は空高く舞い上がった後に地面に落下し、またある者達は家屋の壁に叩き付けられ、常人なら死ぬ程の衝撃を受けた。だが敵は一人も死ぬ事なく、何事もなかったかのようにすぐさま起き上がる。

 そして、邪魔なローブを脱ぎ捨て、身軽となった十三人の敵がその正体を露わにする。今の手応えで、敵の正体に察しを付けていたクラリッサは、自分の予想が当たってしまった事に怒りを抑え切れない。


「貴様ら⋯⋯!! これが皇帝の望みか!?」


 激昂するクラリッサの眼前に立つ者達。全員、月明かりで光る銀髪と奇妙な程に色白い素肌をしており、肩当てや胸当てなどの最低限の防具で身軽さを重視している。男が八人と女が五人で、皆若く、誰も武器の類は持っていない。全員が素手であり、武装したリック達に戦いを挑んでいるのだ。

 彼らの姿を目撃したリックの脳裏で、ある人物の姿が彼らと重なって見えた。肌の色こそ真逆だが、その銀髪と身に纏う雰囲気には、見覚えがあるどころではない。


「まさか、あれがアビス⋯⋯?」

「その通りよ、リクトビア」


 かつて、リックが一度だけ教わった事のある者達の名。彼が口にした名を肯定したアリステリアが、憎悪を宿した瞳と共に、彼らの正体を語る。


「ローミリア最強の戦闘民族にして、ゼロリアス皇帝直属の切り札。奈落(アビス)と呼ばれし獣達よ」


 亡きヴァスティナ帝国騎士団長メシアがそうであったという、戦いに生きる民族。それが今、初めてリックの前に現れた。

 敵がメシアと同じアビスであるなら、その強さは怪物級である。メシアはリックに、自分はアビスの里で最も弱かったのだと語った事があるが、それが本当であるなら状況は非常に悪い。

 最悪の敵を前に、愛馬から降りたクラリッサが、アビス達と対峙する。同じく馬を降りたイヴと、車輌に乗っていたレイナは、リックとアリステリアの傍で護衛にまわり、他の兵も銃を構えて迎撃の態勢を取る。

 クラリッサの背は、手出し無用と語っていた。何よりも彼女の纏う憎悪と殺意が、自分一人で連中を皆殺しにすると宣言している。それを悟ったが故に、レイナとイヴは加勢するのを止め、リック達の守りを優先した。

 

「ファッ〇ン皇帝が!! 殿下の御命を狙い、溝鼠共を差し向けるとはな!」


 憎き皇帝の差し金と察し、クラリッサは収まらない怒りのまま激しく罵倒する。それを聞いたアビス達は、怒るどころか逆に彼女を嘲笑うと、一人の男が皆を代表して口を開いた。


「笑わせんな、溝鼠はお前の方だろ。スラム育ちのビチクソの分際で、調子に乗るんじゃねぇよ」

「ふん、それがどうした。貴様らと違って私は、皇帝の足下をちょろちょろと走り回るような恥知らずではない」

「⋯⋯そりゃあどういう意味だ?」

「何者にも従わぬという誇りを持っていたはずの貴様らは、我が帝国に恐れをなして軍門に降った。どうだ、皇帝のペットになった気分は?」

「雌豚の飼い犬が舐めた口きいてんじゃねぇぞ」


 流石、口の悪さと挑発でヴィヴィアンヌと張り合うだけの女である。一瞬の内に相手を怒らせたクラリッサが次の言葉を出すより早く、アビスの男は再び地を蹴って駆け出した。

 クラリッサとの距離を一気に詰め、彼女が対応するより早く男はその懐に飛び込んだ。無防備なクラリッサの腹部目掛け、男の強烈な拳が放たれる。彼の拳は見事打ち込まれ、並みの人間なら臓器を潰される程の衝撃がクラリッサを襲った。

 直撃を与えた男は口元を釣り上げて笑みを浮かべたが、クラリッサは身動き一つせず、呻き声すら漏らさない。不審に思った男がもう一撃与えようとするが、既に彼の腕はクラリッサの手に摑まれていた。

 

「この程度か、溝鼠」


 相手の腕を掴んだまま、クラリッサは男の身体を軽々と持ち上げて見せ、男の身体を勢いよく地面に叩き付けた。地面が割れようが、相手が気を失おうが構わず、何度も何度も地面に男を叩き付ける。

 やがて、叩き付けられ続けた男が息をしなくなったところで、二度と目を覚まさぬように、クラリッサは男の首の骨を圧し折るのだった。


「アビスの戦士、噂ほどではないな」


 一人を殺し、残りは十二人となった。仲間を殺されたアビス達は、その死に怒る事も悲しむ事もない。死んだ者は弱者であり、彼らにとっては価値がないのである。仲間の死を嘲笑う彼らには、初めから仲間意識など存在しないのだ。

 ローミリア最強の戦闘民族と呼ばれるだけあり、強さの証明だけにしか興味のない者達である。その精神も恐ろしいものがあるが、脅威となるのはこの戦闘力だ。

 クラリッサが念を入れて殺したのも、相手が人造魔人よりも頑丈であったからだ。動きも非常に素早く、格闘による一撃は人間を容易く殺せる程の力を持つ。先程彼女が受けた一撃も、クラリッサが魔人でなければ致命傷であった。

 アビスの強さは、戦闘を見守っていたリック達にも伝わっている。こんなものまだ十二人もいると思うと、厳しい戦いを予感させた。一人を始末したクラリッサですら、一切の油断はない。

 張り詰める緊張感の中で、リック達に守られているアリステリアが、自身の身を盾としているクラリッサの背に向かい口を開いた。


「クラリッサ。自らが何者であるかを忘れたか」

「!」

「お前は私の剣だろう。我が道を阻む敵、早々に打ち払え」


 主君たるアリステリアの命を受け、彼女の身を守ろうとするばかりであった弱気な自分に気付く。アリステリアの言葉で、自分が彼女の盾ではなく剣である事を思い出し、クラリッサは直ちに主君の命を実行に移す。


「殿下の剣となりて、奴らを皆殺しにして御覧に入れます」


 アリステリアの命令によって、クラリッサがアビス達へと突撃する。仕掛けてきたクラリッサに、アビス達も正面から立ち向かって行く。両者が拳で激しくぶつかり合う中、アビス達の内、三人の男と二人の女がクラリッサではなく、リック達へと向かって行った。

 残りの七人がクラリッサとの戦いに熱中している間、この五人は命じられた仕事を果たす事を優先したのである。五人に対するは、レイナとイヴに加え、銃で応戦を開始した兵士達だ。

 銃弾を掻い潜り、二人の女が迎撃に出たレイナと戦う。男の一人はイヴと兵達に狙いを定め、後の二人はリックとアリステリアに迫った。

 リックは車輌に積んであった短機関銃を、アリステリアは備え付けの機関銃をそれぞれ構えて発砲する。相手を蜂の巣にすべく放たれる弾幕を躱し続け、遂に一人がリックに掴みかかった。

 

 懐に入られ、服を掴まれ逃げられないリックに、男の放つ拳の連打が叩き込まれる。それらを全て腕を盾にして防ぐリックだが、今度は相手の回し蹴りが打ち込まれた。防御の隙間を縫ったその一撃に、苦痛に呻いたリックの身体が大きく揺れる。

 しかしリックは負けじと相手に掴みかかると、必殺の頭突きを顔面に叩き付けた。石頭であるリックの頭突きは強力だが、相手はあまり堪えてはいない。それでも一瞬の隙ができたお陰で、リックの左手が相手の顔を鷲掴む。

 そこからは先程のクラリッサ同様、敵が戦闘不能になるように、相手の後頭部を力の限り地面に叩き付けた。地面が砕ける程の衝撃ではあったが、アビスはまだ死んではない。リックの常人離れした力尽くの一撃でも、アビスを簡単には殺せなかったのだ。

 ならばと、リックは腰のホルスターから拳銃を抜き、相手の額に銃口を近付けると、弾倉が空になるまで銃弾を撃ち続けた。男の額に風穴が空き、弾丸が貫通した後頭部から男の脳味噌が飛び出すまで、リックは発砲を止めなかったのだ。

 

 そうしてリックが一人片付けたところで、彼の視線はアリステリアへと向けられた。自分が襲われている間に、もう一人はアリステリアの首を取るべく仕掛けていたからだ。

 アリステリアを守らねばと焦るリックだったが、彼の心配は全く不要であった。既にアリステリアは、相手を水魔法で拘束していた。大きな水の球体を生み出し、その中にアビスの男を閉じ込めていたのである。

 このまま溺死させるつもりかと思われたが、それでは生温いというのか、アリステリアは新たな魔法を発動させる。アビスを閉じ込めた水の牢獄に、眩い程の光が落ちたのだ。

 あまりの眩しさで咄嗟に瞼を閉じ、それが雷だと理解しながら再び目を開く時には、アビスの男は感電死して地面に倒れ伏していた。人を即死させる落雷を起こしたのが彼女であると察し、リックは驚愕と共にアリステリアの傍へ歩み寄った。


「火と水だけじゃなく、雷属性魔法まで使えるのか⋯⋯」

「二つの魔法しか使えないなんて言った覚えはないわ。思い込みは良くないわよ」

「三つ魔法が使える人間なんて聞いたことないぞ。人造魔人よりお前の方がよっぽど化け物だ」


 アリステリアの力の新たな部分を知った事で、リックは彼女こそが、人造魔人やアビスなどより恐ろしい怪物に思えた。守られる事を必要としないゼロリアスの血は、皇族を人々を統べる支配者とするだけでなく、戦いの神にでもするというのだろうか。

 少なくともリックの目には、アリステリアがその力を持ってローミリアを支配する光景が見えた。ヴァスティナの女王たるアンジェリカとは違う形で、やはり彼女もまた皇なのだ。

 リックとアリステリアがアビスの戦士を倒した間に、レイナも相手の二人を討ち取り、イヴ達も一人を片付けていた。レイナは神速の槍捌きでアビスの反応を上回り、イヴは得意の精密射撃で相手に弾丸を撃ち込み、それぞれの得物で敵を仕留めたのである。


 対してクラリッサは、未だアビス達と交戦中であった。武器のない状態でありながら、素手と魔法でアビス達と互角以上に戦っているが、簡単に勝てる雰囲気ではない。

 アビスの驚異的な素早さと力を前にしては、魔人であるクラリッサの強靭な肉体をもってしても、やはり手古摺ってしまう。敢えて敵の攻撃を喰らい、その相手を腕力のみで殺すという挑発によって、アビス達の注意は完全にクラリッサに向いたため、一度に七人ものアビスを相手にしているのだ。

 自らに注意を集め、アビス達をアリステリアから遠ざけたクラリッサだが、ここは任せろとその背中が語っている。見捨ててはおけないと、イヴとレイナが彼女の加勢にまわろうとするが、広場を囲む建物の屋根に新手の気配を感じ、駆け出そうとした足が止まる。


 新手はアビスの援軍であった。新たに二十人のアビスがこの場に集結し、その姿を月明りによって照らし出している。こんな敵が追加で二十人きたとなれば、苦戦は必至だ。

 レイナとイヴが新手に対して戦闘態勢を取り、二十のアビス達が一斉に襲い掛かろうとしたその刹那、それは突然出現した。アビス達の立つ建物の屋根を、何処からともなく現れた青い炎が焼き払ったのだ。

 アビス達は炎を散開して躱すが、彼らを狙って次々と青い炎が現れ、炎から逃げる彼らを呑み込もうと追いかける。更には青い炎による火球が降り注ぎ、広場を炎が焼き尽くしていく。

 炎を躱し切れず、二人のアビスが炎に吞まれてしまう。炎に巻かれる程度で簡単に死ぬ事はないアビスだが、この青い炎は吞み込んだアビスを絶叫させる程の苦痛を与え、その肉体を灰に変えていった。

 ただの炎ではないと誰もが察する中、いつの間にか広場を封鎖していた障害物も、青い炎の力で破壊されていた。脱出の好機を得たリックは、レイナとイヴへ車輌に戻るよう命令を飛ばし、この場からの脱出を図る。

 

「待って!! まだクラリッサちゃんが⋯⋯!」


 脱出を急ぐリック達だが、まだクラリッサはアビス達と交戦中であった。彼女を残してはいけないと、イヴはクラリッサを助けようとする。

 だがクラリッサは、自分を救おうとするイヴの叫びに気付き、アビス達を風魔法で攻撃しながら振り返った。


「連中は私に任せろ! イヴ殿は早くここを離れるんだ!」

「でも⋯⋯!!」

「案ずることはない。私の代わりに、殿下を頼む」


 自らを囮として、アビス達相手に脱出の時間を稼ごうとクラリッサが奮闘する。彼女の覚悟を無駄にするわけにはいかず、イヴはクラリッサの身を案じる思いを押し殺し、急いで車輌に飛び乗った。

 リック達は広場にクラリッサを残し、車輌を加速させてその場から走り去る。

 燃え盛る青き炎に照らされた広場では、クラリッサと彼女の愛馬だけが残され、炎に包まれていく広場の中で、彼女はアビスの戦士達と熾烈な戦いを繰り広げるのだった。

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