第五十八話 そして君が私を撃つ Ⅵ
時は遡り、ジエーデル国旧総統府を舞台とした、激戦の渦中の中で⋯⋯⋯。
「陛下!!」
「⋯⋯⋯!」
負傷したスズラン。自分を守ろうとしていたウルスラとラベンダー。そして、彼女達の盾となるべく我が身を投げ出した、女王アンジェリカ。
自分達を狙う弓兵隊の弓矢。考えるよりも先に体が動いてしまい、死を覚悟したアンジェリカが、最愛の姉の幻影を目にして瞳を閉じる。
弓兵隊が矢を放とうとした刹那、間一髪のところで彼らの一斉射を止めたのは、ジエーデル軍部隊の中を轟音響かせ単身突破した、一台の大型二輪車の登場だった。
疾風の如く走る二輪車が、空気を震わす重い駆動音と共に現れ、アンジェリカの目の前で滑りながら急停車する。二輪車の登場に驚愕した弓兵隊達は、見た事もない乗り物に混乱しながらも、急いで弓を構え直そうとした。
二輪車に跨る男は、車体の横に取り付けたサイドカーの中から、一丁の銃器を掴んで片手で構える。弓兵隊が狙いを切り替える頃には、男が構える擲弾銃の銃口が、完全に彼らを捉えていた。
「ぶっ飛べ」
擲弾銃の引き金が引かれ、銃口から榴弾が飛び出す。弓兵隊に着弾した榴弾は激しく爆発し、並んでいた弓兵を巻き込み爆死させた。
アンジェリカの窮地を救った男は、擲弾銃をサイドカーの中へ再び戻すと、跨っていた二輪車から降り、自分の主たる彼女の前で膝を付く。自分を救った男を前にし、アンジェリカは目を見開いて驚くも、彼女からの言葉は何もない。
「遅くなり申し訳ありません、アンジェリカ陛下」
助けが遅れた事を謝罪しつつも、彼女を救ったのは、同じく助けを必要としている男だった。ヴァスティナ帝国国防軍将軍リクトビア・フローレンスが、単身アンジェリカを救いにジエーデル国へと乗り込んできたのである。
「我が軍の参謀長エミリオ・メンフィスが反抗勢力と共に蜂起しました。我々は敵の策略に嵌り、全ての対応が後手にまわっています。ですが、陛下の御無事さえ確保できれば、帝国国防軍の総力を挙げて反乱軍を討伐して見せましょう」
「⋯⋯⋯メンフィスの反逆は既に知っている。奴の方からそう伝えてきて、結果この騒ぎだ」
「そうでしたか⋯⋯⋯。ここに到着するまでに、駐屯している第一戦闘団には緊急出撃を命じました。自分はこのバイクで先行して来ましたが、遅れて各部隊も駆け付けます」
リックが視線を向ける先には、彼がここまで乗って来た大型二輪車がある。それはかつて、帝国国防軍第一戦闘団指揮官、セリーヌ・アングハルトが乗っていた愛車だった。
アングハルトの亡き後、誰かの手に渡る事なく保管されたいたこの車輌は、ヘルベルト達鉄血部隊によって回収された。ヘルベルトは、リックがこれを使うのであれば、戦死した彼女も喜ぶだろうと思い、彼に二輪車の鍵を託したのである。
サイドカーの中に放り込まれている銃器も、生前のアングハルトが使用していたものばかりだ。散弾銃や突撃銃、弓兵隊を吹き飛ばした擲弾銃など、どれも銃器を満載にして戦う彼女の勇ましい姿を思い出させる。
「陛下、今回の反乱は軍を統括する自分の責任です。反逆者たるエミリオ・メンフィスと、それに加担する賊軍討伐の許可を頂きたい」
アンジェリカには分かっている。エミリオを討つと、目の前で宣言したリックの記憶が、既に戻っている事を⋯⋯⋯。
自分を守るため、自らの危険も顧みず現れ、亡きユリーシアに向けた忠誠と変わらぬものを、彼女の前でも尽くして見せる。リックが目の前に現れた瞬間には、記憶が失われてしまったという男ではなく、自分が憎しみを向けるあの男であると、直ぐに分かった。
アンジェリカは思う。やはりこの男は、自分ではない誰かのためにこそ、我が身を犠牲にして力を尽くせるのだ。その力が、絶望の底に失われた彼の心を、再び呼び覚ましたのである。
元の自分を取り戻したリックが、アンジェリカを守るために駆け付け、仲間であったエミリオの討伐を彼女に求めている。それが自分を絶望させ、嘆き悲しむ結果を生むと分かっていながら、彼は自らが忠誠を尽くすと誓った彼女のために、身も心も犠牲にして戦おうとしている。
リックとエミリオ。共に戦ってきた戦友たる二人が、雌雄を決するべく激突するのを止められるのは、ここで選択を迫られているアンジェリカだけなのかもしれない。
しかし彼女は、リックが大切な仲間と戦う事になり、仲間を討つ覚悟を決めたとしても、その意志を止めるつもりはなかった。
ユリーシア亡き後、彼女との約束を果たすために、自分をヴァスティナの女王とした男。如何なる犠牲を払ってでも、愛した彼女との約束を優先する彼に、同情や愛情でその選択を止める事など許されない。
「⋯⋯⋯反逆者、エミリオ・メンフィスは貴様が討て。そしてそれを阻む者、歯向かう者、この機に乗じて立ち向かって来る者あらば、何であれ貴様の手で討ち滅ぼすのだ」
「仰せのままに、女王陛下」
ヴァスティナ帝国女王アンジェリカは宣言した。逆賊エミリオ・メンフィスら討てと、正式にリクトビアに命じた。
これにより帝国国防軍は、全軍がエミリオを敵と定め、リックの命令で討伐に動く事になる。女王たるアンジェリカがエミリオを敵だと定めた以上、兵士達は戦いに躊躇いを持たず、逆賊を討つために立ち向かっていく事だろう。
正式に討伐の命令を与えられたリックは、アンジェリカの前で深く頭を下げる。変わらぬ忠誠の証を立てたリックは、思考を現状の戦闘に切り替えて立ち上がった。
先ずは、アンジェリカを狙う襲撃者の排除が最優先である。第一戦闘団が駆け付ける前での間、メイド部隊共に戦おうとしたリックだったが、彼が銃を振り回すよりも早く、戦闘はほぼ片付いていた。
リンドウとラフレシア筆頭に、周囲に展開していた敵部隊は残らず殺されている。アンジェリカを小型榴弾砲で狙った、門の外に展開していた部隊も、激怒したラフレシアが一人で皆殺しにしてしまっていた。
「あー⋯⋯、やっぱり来なくてよかったかも」
自分の助けなど、最初から必要なかったのではないかと落ち込むリックのもとに、敵を全滅させたメイド部隊の面々が集まっていく。一番最初に彼の前まで大慌てで駆けてきたのは、やはりリンドウであった。
「リック様⋯⋯⋯!!」
「リンドウさん。無事で本当によかった」
「私の無事よりリック様です!! どうして貴方って人は死に急ぐような無茶な真似ばかりなさるんですか!? レイナ様やクリス様どころか、護衛の一人も付けずにこんなところに来るなんて!」
「みっ、みんなとは別行動を取ってて⋯⋯⋯。だから俺はバイクをかっ飛ばして一人で――――」
「もう!! 陛下の身を案じての行動だというのは重々承知していますが、だからってこんな真似は止めて下さい! これじゃあ、貴方を心配する私の心臓がいくつあっても足りません!」
「心配をかけてしまってすみません。でも俺、リンドウさんのことも凄く心配だったんです。無事な姿を見たら安心できました」
「⋯⋯⋯!」
そう言われてはリンドウも叱る事は出来ず、頬を赤くして黙ってしまう。乙女なリンドウのその姿に、何も知らないラフレシア以外は、分かり易い女だと思わずにはいられなかった。
リックの記憶喪失を知っていたのは、アンジェリカとウルスラのみであり、他のメイド達はいつものようにリックに接しては、彼が駆け付けてくれた事を喜んでいた。ウルスラも、リックの記憶が戻っている事を悟り、安堵の息を吐いて薄く微笑む。
メイド部隊の活躍により敵が殲滅されたお陰で、リックが守ろうとしたアンジェリカの無事は確保された。ここでの戦闘は終了したと考え、戦闘態勢を解いたリックは、周囲の警戒をメイド部隊に任せ、その視線をスズランへと向ける。
アンジェリカを砲撃から庇い、爆風と破片によって傷付いた彼女を見るや、リックはスズランの体に腕を回すと、彼女の身を軽々と抱きかかえるのだった。
「きゃっ!? りっ、リック様⋯⋯⋯!」
「その怪我じゃ歩くのも辛いですよね? 手当てができる場所まで運びます」
「やっ、止めて下さい! こんなの僕には似合わな――――」
「スズランさんのお陰で、俺は自分の気持ちに正直になれました。だから恩返しさせて欲しいんです」
動けないスズランを抱え、彼女が羞恥に頬を染めるのも構わず、その場から運び出そうとするリック。恩返しをしたいという言葉に嘘はないが、これは以前ぼろくそに言われてしまった事への、ささやかな仕返しの意味合いもあった。
メイド達が黄色い悲鳴を上げる中、メイド部隊一の王子様を、お姫様抱っこして運ぼうとするリックを止めたのは、仇の如く彼を睨むアンジェリカだった。
「スズランのことはウルスラ達に任せろ。貴様は急ぎメンフィスの討伐に向かえ」
厳しくもそう命じるアンジェリカの瞳が、エミリオのもとへ急げと訴える。自分が今為すべきは何であるか、それを思い出し、一刻も早く為すべきを果たせと命ずる彼女の言葉が、リックを突き動かす。
「⋯⋯⋯わかりました。後のことはメイド長達と第一の部隊に任せます。リンドウさん、スズランさんをお願いします」
「はい、リック様」
抱きかかえていたスズランの身をリンドウへと預け、リックは再び二輪車の背に跨った。アンジェリカへと背を向け、二輪車を走らせようとしたリックだが、最後に一度アンジェリカへと振り返る。
「さっき、ウルスラさん達の盾になろうとしてましたね。ユリーシア陛下も、きっと同じことをしていたと思います」
「!」
「どこまで冷酷に振舞おうと、やはり貴女はユリーシア陛下の妹君なのです。それを忘れないでください」
最後にそう言葉に残して、二輪車の車輪を回し、リックはその場を後に走り去っていった。風の様に去る彼の背中は、戦友との戦いを決意し、本当の想いを殺して悲しみを背負う。
リック達の会話から、事情を知らなかった他のメイド達も、エミリオの裏切りを知った。驚きを隠せない彼女達は、戦友を自分の手で討たねばならぬ彼の心中を察し、深い悲しみを抱かずにはいられない。
彼女達の悲しみと苦悩に見送られ、リックはエミリオのもとへと向かい走り去る。彼を見送った直後、入れ替わる様に護衛の帝国騎士団と、救援に駆け付けた第一戦闘団の部隊が集まる。
展開した部隊によって、アンジェリカの無事の確保と、残敵の掃討が始まる中、ジエーデル軍の一部隊も彼女のもとに馳せ参じた。先程までの敵と違い、この一部隊に交戦の意思はない。部隊はある人物の護衛をしており、その人物がアンジェリカと面会するべくやって来たのだ。
兵士達に守られながら現れたのは、ジエーデル国防軍に所属するシリウスと、この国の象徴たる国家元首ジークフリーデン・ムリューシュカだった。
軍制服を纏うジークフリーデンは、取り乱した姿は一切見せず、鋭い眼光でアンジェリカを見下ろす。すらりと背が高いお陰で、一層男装の麗人が板に付くジークフリーデンの存在感に、彼女を初めて目にする者達は皆、その存在感と気品に目を奪われる。
だがアンジェリカは、ジークフリーデンの存在に呑まれる事なく、その華奢な身で力強く彼女を見上げた。ウルスラやシリウスが見守る中、二人の間に沈黙と緊張が流れる。両国の支配者が初めて相対し、互いの存在を確かめ合っていた。
アンジェリカよりも歳が上で、体格も大きいジークフリーデンが、アンジェリカを威圧しているように皆には映る。ジークフリーデン自身も、この程度で彼女が自分を恐れるならば、帝国女王など所詮その程度のお飾りだと判断するつもりだ。
しかしアンジェリカは、ジークフリーデンに気圧されるどころか、逆に視線で彼女を威圧する。漆黒のドレスに身を包むアンジェリカが、他を圧倒する覇気をその身から放ち、自身こそが南ローミリアを統べる王であると、ジークフリーデンの瞳に刻み付ける。
「⋯⋯⋯我と対等、ですらなかったか」
自分よりも小さく若い黒髪の少女が、大陸の半分以上をその手に統べ、多くの人々の命を背負い、女王として君臨している。アンジェリカという存在に、確かな王の風格と、人々を導く強さを見たジークフリーデンは、彼女を前にして片膝を付くのだった。
「此度の件、我の首で詫びてもいい」
女王アンジェリカの前で膝を付き、彼女の前で首を垂れ、この襲撃に対する謝罪と、ジエーデル国の支配者として責務を果たそうとする。
実際にジークフリードと相対した事で、アンジェリカはこの襲撃に彼女が関わっていないと、瞬時に見抜いていた。彼女の瞳からは一切の後ろめたさは感じられず、その立ち居振る舞いは堂々としていたからだ。
ジークフリーデンは、姑息な策で騙し討ちを行なえるような、卑怯な真似ができる人間ではない。そう判断したアンジェリカは、怒りも憎しみもなく、ただ帝国女王として言葉を発する。
「許す。顔を上げよ、ムリューシュカ殿」
「我を許すか⋯⋯⋯。それもよかろう」
アンジェリカの許しを得て、ジークフリーデンは膝を上げる。再び両者対峙する姿を見て、緊張の面持ちで控えていたシリウスは、内心胸を撫で下ろす思いだった。
ジークフリーデンは、今回の襲撃に対する責を問われるならば、自らの死すら厭わぬ覚悟でやって来ていた。命で償う必要がある程の事が、この国の中で起こったのである。襲撃を命じたのが自分ではないとしても、一国を治める身として、その責を負うのは当然だった。
もしアンジェリカが彼女を処刑しようとしたなら、シリウスは全力で止めるつもりで控えていた。ジークフリーデンは一切この襲撃に関わっておらず、昨日までの体調不良も本当であり、病弱であるのも事実であるからだ。
一先ず、彼女が責を負って処刑されるような事はなく、一安心できたロイドだったが、ジークフリーデンの尊大な態度は、アンジェリカを護衛するメイド部隊の面々を苛立たせる。
ロイド達からすれば、ジークフリーデンはこれが標準であり、誰に対してもこうであって、決して他意はない。そんな事など知らないメイド達からすれば、ジークフリーデンは何と無礼で傲慢な人間に見える事か、想像に難くない。
冷静なウルスラやリンドウは兎も角、元々喧嘩っ早いラフレシアやカーネーション辺りは、「陛下に何て口の利き方してんのよ。殺そうかな」とか「頭かち割ってやろうか」など、物騒な言葉をわざと聞こえる声量で口にしている。
「我が政務を外している隙に、愚者共が余計な真似をした。逆賊は我らの手で討ち果たそう」
「討伐にはこちらも協力する。彼らを焚き付けたのは我が国の参謀長だ」
「ふっ⋯⋯⋯、よかろう。シリウス、帝国の戦士達に協力せよ」
共同戦線を張るよう命じられたシリウスが、直ちに自軍の兵士達に指示を出し、駆け付けた第一戦闘団と連携を始めさせる。メイド部隊と騎士団の活躍で、既に敵は多くの戦力を喪失しているため、残存戦力も速やかに排除されるだろう。
それよりもシリウスには、一つの不安があった。不安の原因はジークフリーデンにあり、兵達への指示を済ませたシリウスは、この場から彼女を下がらせようと動く。
「ムリューシュカ様。後の処理は我らに任せ、屋敷へお戻り下さい」
「なにを恐れる? 我が倒れぬか不安か?」
「そうです。ルヒテンドルク長官が不在なのですから、貴女の身にもし何かあったら――――」
「気遣い無用。ヴァスティナの女王が引かぬのに、先に我が引けると思うか?」
事態が収拾されるまで、ジークフリーデンはこの場から引くつもりはない。軍人の、それも英雄的将軍の娘であるからこそ、彼女は指導者としての立ち振る舞いをよく分かっている。他国の指導者を自国内で危険に晒してしまい、先に自分が安全な場所まで引くなど、あってはならないのだ。
シリウスを叱責する彼女の眼光は、強き指導者のそれであった。しかしその顔色には、僅かに疲れの色が見て取れる。元々病弱な上に病み上がりであるため、気付かれない様に振舞っているが、実のところは無理をしていた。
シリウスは当然その事に気付いていたが、アンジェリカもそんな彼女に気付き、体調の不良は本当であったのだと理解する。ならばとアンジェリカは、自分の方からきっかけを与えるのだった。
「ムリューシュカ殿、私はこの国へ会談のために来た。そろそろ用を済ませたい」
「⋯⋯⋯反乱などより、我との会談を望むか」
「後のことは我が忠臣達が片付ける。どうせ、我らはここでは邪魔者だ」
「ふっ⋯⋯⋯、ふははははっ! ならば我が屋敷で互いの務めを果たそうぞ」
声を上げて笑ったジークフリーデンの姿に、シリウスを始めとしたジエーデル軍の兵士達は、雷に打たれた様な衝撃を受ける。声を上げて笑う姿すら想像もできない彼女が、人目を気にせず笑って見せたのだ。
シリウス達は知らないが、人前で笑い声を上げるジークフリーデンの姿など、彼女と幼馴染でもある、国防軍長官ロイド・ルヒテンドルクですら見た事がない。シリウスとは別に、反乱の処理で対応に追われているロイドがこの珍事を知れば、まず間違いなく驚愕のあまり冗談かと疑うだろう。
彼らの驚きなど関係なく、アンジェリカを気に入ったジークフリーデンは、自ら進んで彼女を屋敷に誘うのだった。この行動もまた、ジークフリーデンをよく知る者達からすれば、天地が引っ繰り返ったかのような衝撃である。
「これならば、初めから我が屋敷に貴殿を招けばよかった。無用な時間を使わせてしまった」
「お待ちくださいムリューシュカ様。会談の前に、アンジェリカ女王陛下にお願いしたい事が⋯⋯⋯」
「シリウス。我の邪魔をする気か?」
「そうではなく、先に中で戦闘を続けている侍従を止めて頂きたく⋯⋯⋯。兵の報告によれば、逆賊は尽く討たれているようなのですが、建物内は血の海の地獄と変わり、様子を見に行った鎮圧部隊が危うく殺されかけたと⋯⋯⋯」
すっかり忘れていたと、メイド達全員が頭を抱えて盛大に溜め息を吐く。メイド達の視線は全て、メイド長たるウルスラ一人に集まって、その目で全員が訴えていた。
元々そのつもりであったから、ウルスラに異論はなく、最後にアンジェリカへ許可を求める。
「陛下。誠に申し訳ありませんが、暫く御傍を離れます」
「許す。早くアマリリスを連れ戻せ」
「感謝致します」
後のことはリンドウ達に任せ、ウルスラは単身旧総統府内へと戻っていく。その背は強烈な殺気に満ち溢れ、本気を発揮して止めようとしているのが伝わる。
アマリリスの事は全てウルスラへと任せ、メイド部隊と騎士団に護衛されたアンジェリカ達は、ジークフリーデンの屋敷を目指す。ウルスラを残し、旧総統府を後にしようとするアンジェリカは、不意にリックが残していった言葉を思い出していた。
(私は姉様とは違う⋯⋯⋯)
敵の弓兵隊に矢を射かけられた時、アンジェリカは自分を庇って盾になろうとしたウルスラ達を、逆に守ろうとした。
考えるよりも先に体が動いて、彼女達の盾になってしまった。少し考えれば、自分が盾にならずとも、彼女達ならば矢くらい防げると分る。アンジェリカがしてしまった事は、彼女達からすれば愚かな行為だったと言えるだろう。
その行為をリックは、ユリーシアの様であったと言った。同じ状況であったなら、瞳の光が失われてしまった彼女もまた、アンジェリカと同じ事をしたに違いない。
ウルスラ達が傷付く事を、ユリーシアは決して許さないだろう。我が身を盾にしてでも、彼女達を守るために動く。それだけユリーシアは、優しい心を持ち、また彼女達を愛していた。
そんな彼女とアンジェリカが、リックは同じだと言う。ユリーシアを深く愛し、亡き彼女のために命を捧げ続ける彼が、アンジェリカは紛れもなく彼女の妹だと語るのだ。
(私が姉様と同じなら⋯⋯⋯、お前を憎みはしない)
ユリーシアと自分は違う。アンジェリカにユリーシアの姿を重ねたリックが、去る前に残した言葉を、彼女はどこまで否定し続けるのだった。




