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第五十八話 そして君が私を撃つ Ⅱ

 トロスクスの街中では激しい戦闘が続き、特に侵攻した側の反乱軍は、多大な犠牲を払いつつも攻撃を続行していた。

 街中の建物を有効活用した鉄血部隊は、ある時は建物内から外に掃射して奇襲を行ない、またある時は扉に起爆装置付きの罠を仕掛け、建物に入ろうとした敵を爆散させた。街の馬小屋にいた馬に爆薬を括り付け、無人の馬を敵目掛けて突進させた後、時限式の爆発で敵諸共吹き飛ばす戦法も行なった。

 彼らに負けじと、烈火と光龍の騎士団も、数で勝る敵に善戦していた。騎士団の兵士達は、日頃からレイナとクリスに鍛え抜かれているだけあって、並みの兵士では相手にならない。例え三対一の状況になっても、敵に勝って見せるだけの強者揃いである。

 鉄血部隊と両騎士団の活躍によって、第零戦闘団は敵に大きな損害を与えながら、何とか持ち堪えていた。第零戦闘団はこの激戦の中、ほとんど死傷者を出さずに戦闘を継続している。彼らが生き残れているのは、鉄血部隊が巧みに扱う銃火器と爆薬のお陰だった。

 散々証明してきた帝国国防軍製兵器の恐ろしさは、この戦場でも遺憾なく発揮されている。しかもこの兵器を使うのは、製造初期から使い方を学んできた鉄血部隊である。彼らによる運用方法は、数的不利の状況でも尚、敵軍と五分の戦いを展開し、大勢の敵兵による屍の山を築き上げたのだ。

 だがそれも、限界は近い。既に第零戦闘団は、最終防衛線である街の広場まで後退し、そこで最後の抵抗を続けているからだ。


 街にあった荷車や廃材など、使えそうな物をかき集め、広場へと続く道々に予め作っておいた障害物。防柵代わりのそれで道を阻み、第零戦闘団はその防柵から、敵を一兵たりとも通さない。

 広場は全方位に道が存在するため、集結した第零戦闘団の全戦力が、各防御柵に兵を割いて抵抗を行なっている。残存する敵戦車が何処から現れてもいいように、たった一両の重戦車は広場の中心に配置され、そこで固定砲台の役割を担っていた。

 残った三両の敵戦車は、散開して三方向から迫り来る。重戦車は砲塔を回頭させ、主砲を撃って敵を牽制する事で、敵戦車による突破を防いでいた。

 固定砲台になりながらも、何とか戦車戦を続ける重戦車の様子を見たヘルベルトは、空になった突撃銃の弾倉を交換しながら、一人不満気に毒づいた。


「砲弾は無限にねぇんだぞ! 一発で仕留めろ!」

「怒鳴ったってあたりゃしませんって。あそこから動けないどころか、照準器やなんやらまで不調らしいですぜ」

「そんなことわかってんだよ! 気合で当てさせろ、気合で!」

「無茶言うぜ。それよりも部隊長、弾持ってますかい?」

「こいつで最後だ。欲しけりゃどっかからかっぱらってこい。まあ、残ってるのがあればだがな」


 防御柵の一つ仲間と共に支えるヘルベルトだが、敵の猛攻を耐え凌ぐ中、防衛の限界を迎えた事を悟っていた。最終防衛線への後退を余儀なくされただけでなく、弾薬と爆薬の残りが僅かになっているのだ。

 鉄血部隊は搔き集められるだけの武器弾薬と共に、逃亡中だったリック達との合流を果たした。移動に使った車輌に積めるだけ積んできたが、万の敵を相手にするには弾が足りなかったのである。勿論それは、最初から皆分かり切っていた事だった。

 問題なのは、敵軍を率いているのがミュセイラだったという点だ。彼女は銃火器の恐ろしさと、その弱点を正確に把握している。反乱軍の兵士達は、銃火器の弱点である弾切れ等の問題点を教え込まれ、発砲時は遮蔽物に隠れて弾丸を防ぐよう徹底されている。

 射撃が止んだ瞬間、敵は銃を恐れず突撃し、鉄血部隊に肉薄しようと試み続けた。結果は大勢の戦死者を生んだが、その戦い難さは、鉄血部隊に想定以上の弾薬を消費させた。

 相手がミュセイラであるため、こちらの手は全て知り尽くされている。第零戦闘団に対する対抗策の数々が苦戦を誘い、想定以上に早い後退を強いられた。

 本来の作戦では、銃火器と爆薬を用いて、徹底的な抵抗を行なって敵の戦意を挫き、敵軍を何度も後退させて時間を稼ぐはずだった。その作戦を見抜いていたミュセイラは、各部隊に徹底して後退を許さず、前進を続けるよう命じた。

 この命令を可能にしたのが、兵士達を指揮するザンバの存在だ。命令に背いて後退する者を、自らの手で斬り殺すのも厭わないであろう彼の存在が、兵士達を前進させ続けたのである。

 結果、第零戦闘団は予想以上の早さで追い詰められ、戦局は包囲に成功した反乱軍が優勢となった。例えかつての味方が相手でも、やるからにはどんな相手も徹底的に叩く。まさにミュセイラらしい戦い方ではあったが、今はそれが最悪の状況を生み出していた。


「ミュセイラの阿保が⋯⋯⋯。これで死んだら恨むぞ」

「楽しいからいいでしょうよ。弾がなくなりゃ銃を棍棒代わりに使うまでだ」

「そうなる前に隊長が間に合えば、俺達は明日も酒が飲めるわけだが、年貢の納め時ってやつがきちまったかもな。そう言えば、レイナとクリスはどこで油売ってやがる?」


 最終防衛線に二人の姿が見えないと、ヘルベルトが気付いた次の瞬間、彼が守る防御柵の向こう側にいる敵を、突然の炎と雷が襲った。魔法攻撃に多くの敵兵が巻き込まれ、敵部隊が怯んだ隙に、防御柵に噂の二人が飛び込んで来た。


「遅えぞ! どこほっつき歩いてやがった!?」

「俺のせいじゃねぇ! 槍女が見境なく突っ込んでいきやがるから遅れちまったんだ!」

「それはこっちの台詞だ破廉恥剣士! 貴様がこっちだというから向かってみれば、道には迷うは敵に囲まれるは散々だったぞ!」

「こんな時まで喧嘩すんな馬鹿!!」


 恐らくどっちもどっちなのだろう。付き合いが長い分、もう嫌という程分かっているからこそ、やっと合流したレイナとクリスの頭に向け、ヘルベルトの拳骨が飛んだ。

 怒られて少し静かになるも、「お前のせいで怒られたぞ」という目で互いを睨む二人。そんな二人を前にして、盛大に溜め息を吐くヘルベルトといういつもの流れの後に、彼はレイナとクリスの様子を確認する。

 どちらも相当暴れてきたらしく、着ている軍服は返り血や汚れが目立ち、所々武器で破かれた小さな跡がある。二人共汗だくで、髪は汗で肌に張り付き、いつもより呼吸も荒い。たった二人で敵の真っ只中を駆け抜けただけあり、二人共普段の余裕はない状態だった。

 一体どれだけの敵を屠ってきたというのか。それを聞こうものなら互いに張り合って、また喧嘩するため敢えて聞かない。ただ、二人が敵軍を搔き乱したお陰で、敵部隊の連携が乱れたのは事実だ。おまけに二人は、敵魔法兵部隊もいくつか潰しており、防衛線の維持に大きく貢献していた。

 

「ヘルベルト、リリカ様は何処だ?」

「まさかリリカ姉さんも敵に突っ込んでったとか言わねぇだろうな?」

「馬鹿、お前らみたいな猪と一緒にすんな。姉御ならあそこだ」


 リリカを探す二人のために、ヘルベルトが人差し指で指し示す。指が刺された方向に二人が視線を向けると、無反動砲を担いで敵戦車を吹き飛ばそうとする、我らが宰相リリカの姿がそこにあった。


「リリカ様!?」

「リリカ姉さん!?」


 驚愕する二人の声は届かず、リリカは無反動砲の引き金を引いて発砲し、油断していた敵戦車の装甲を撃ち抜いた。直撃を受けた敵戦車は内部から爆発し、火災と黒煙に巻かれて沈黙する。戦車を一両片付けたリリカは、弾切れとなった無反動砲を地面に捨て、ベルトで肩にかけていた突撃銃を持ち直す。


「戦車は黙らせたよ。残りは重戦車に任せ、君達はここを死守しなさい」


 リリカが戦車の脅威を排除した事で、絶望的な状況下でも味方の士気が落ちる事はない。自らも前線に赴いて戦う、その余りにも勇ましく、しかし女神の如く華麗なリリカの姿に、味方の誰もが奮い立つ。

 疲労も限界に近付き、得物が折れ、弾が尽き果てようとも、彼らは戦いの手を止めはしない。味方は必死に抵抗を続けるが、敵もまた必死に喰らい付こうとする。

 弾幕が弾切れと同時に途切れ、隙を生んだ防御柵に敵が雪崩れ込もうとする。すぐさま弾を補充しつつ、烈火と光龍の兵が敵を押し止めつつも、敵兵の一部が防御柵を突破してしまう。

 敵の突破を許してしまった戦況の中、冷静かつ即座に対応したのがリリカだった。突撃銃を構えて引き金を引き絞り、弾倉内の弾丸を全て敵兵に叩き込む。弾丸が相手の皮膚を貫き、肉を引き裂いて命を奪う。そうして敵を射殺するも、残り二人を残して彼女の銃の弾が切れる。


「紅蓮式投槍術、飛槍!!」


 リリカへと向かって行く一人は、咄嗟に放たれたレイナの十文字槍によって貫かれる。遅れてヘルベルトが発砲しようとするも、彼が狙いを定めようとした直前には、リリカと敵兵の距離が近過ぎた。ヘルベルトが射撃を躊躇した瞬間、敵兵の持つ槍がリリカに向けて突きを放つ。

 突きを躱そうと身を翻すも、相手の槍は彼女が思った以上に鋭く速い。左胸を刺し貫こうとした刃を躱すも、躱し切れず彼女の左腕に切っ先が掠めた。


「っ⋯⋯⋯!」


 火傷の様な熱さを肌に感じ、リリカは顔を歪めた。しかしそれはほんの一瞬の事であり、反撃に出た彼女は弾切れの銃を棍棒代わりに、相手の顔面を殴り付けた。

 衝撃と痛みで怯んだ敵に、装備していたナイフを抜き放ったリリカは、相手の喉をその刃で掻っ切った。血飛沫を上げて地面に倒れる敵が、苦しみ藻掻いて叫ぼうとするも、喉を斬り裂かれて声が出ない。

 そんな相手でさえも、リリカは相手が落とした槍を拾い上げると、止めの一撃を加えるために、相手の左胸に槍を突き立てる。拳銃を使う手もあったが、弾を節約するべく、相手の得物で止めを刺したのだ。

 

「リリカ様!!」

 

 突破した敵を全て片付けたリリカのもとに、悲鳴交じりに彼女の名を叫んだレイナが、大慌てで駆け寄った。そこへ急ぎ、クリスとヘルベルトも駆け付ける。リリカの怪我でそれどころではないレイナに代わり、クリスは彼女の投げた槍を回収した。

 

「私が至らないばかりに、リリカ様が怪我を⋯⋯⋯!」

「掠り傷だよ。心配してくれるのは嬉しいけれど、少し落ち着きなさい」

「守るとリック様にも約束したのに! 私のせいでこんな――――」


 言いかけたレイナの言葉を遮ったのは、彼女の唇を奪うリリカの口付けだった。唖然としているクリスとヘルベルトの前で、リリカはレイナが大人しくなるまで口付けを続け、ゆっくりと唇を離した。


「落ち着いたかい?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯はっ、はい」

「私のレイナは可愛いね。こんな状況じゃなければ、ベッドで二人きりで過ごしたいところだよ」


 さっきと違って落ち着いたものの、レイナは顔を真っ赤にして固まってしまった。羞恥で今にも頭から火を噴きそうな彼女の頭を、槍を渡しにきたクリスが容赦なく叩く。正気に戻ったレイナは、クリスから自分の槍を奪い取ると、「強く叩き過ぎだ!」と文句を言って彼を蹴った。 

 レイナとクリスがいつもの喧嘩を始めている間に、ヘルベルトは自分の銃を彼女に手渡そうとした。彼女の予備弾倉が底を付いたと気付いたからだが、リリカはその銃を受け取る事はなく、腰のホルスターから自分の拳銃を抜いた。

 

「ふふっ⋯⋯⋯、私にはまだこれがある」

「ったく、姉御はほんと恐いもの知らずで可愛げがねぇ。こうなるといっそ、女に飢えた野郎共の前にでも放り出して、どんな悲鳴を上げるか試してみたいもんだ」

「ヘルベルト、君は次の給料無しだ」

「ちょっ、待った!! それ貰えねぇと酒代のツケが払えねぇんだって!」

「ふんっ、知らないよ。いっそ君が敵戦車に轢き殺されてしまえば、私の気分も晴れそうだ」

「だああああああああもおおおおおお悪かったって!!!」


 絶望的な激戦の中でも、いつもの調子を崩さない面々ではあるが、今回ばかりは彼女達にも余裕がない。それでも、普段と変わりなく振る舞う彼女達の姿は、味方に希望の光をもたらし、勝利を確信させる。

 

「姐さんに部隊長がまた怒られてんぜ。懲りないよなほんと」

「こっちが必死こいて戦ってる間に何やってんだかな! うわやべぇ、機関銃の弾が切れたぞ!」 

「迫撃砲の砲弾なら残ってるが、こいつを敵に投げ付けるか?」

「さっきの見たかよ! ミカヅキ隊長と宰相って、やっぱりそういう関係だったってことだよな!?」

「馬鹿落ち着けって! 宰相は誰にだっていつもああだろうが!」

「レッドフォード隊長、またミカヅキ隊長とやりあってるよ⋯⋯⋯」

「孤立無援で暴れ回ってきたばっかだっていうのに、どこにそんな元気あるんだろうな⋯⋯⋯」


 両軍が死闘を演じる中で、第零戦闘団の者達だけが、戦いの中で笑い合い、その身を奮い立たせる。彼らはより一層激しく抵抗して見せ、これ以上の敵の突破を許さなかった。

 リリカは再び戦いへと赴き、拳銃を発砲しながら指揮を継続する。クリスもヘルベルトも最前線へと戻り、皆に負けじとそれぞれの得物を振るった。

 レイナもまた二人に倣い、なるべくリリカの近くにその身を置きつつ、最前線でその武を存分に振るい向かう。敵を目指し駆けて行ったレイナは、リリカを背にしながら、先程彼女が敵兵を殺した瞬間を思い出していた。

 何故リリカが、敵とはいえ人間を簡単に殺す事ができるのか、その理由がレイナには分からなかった。

 レイナやクリス、更にはヘルベルトは、戦いという命のやり取りに慣れているから、戦場では躊躇なく人を殺す事ができる。その一方でリリカの殺しは、戦い慣れた果てに行きついたものではなく、ただ純粋に人を殺し慣れた存在の成れの果てに感じられたのだ。

 

(リリカ様⋯⋯⋯。あなたは一体、どれほどの人を殺めたというのですか⋯⋯⋯)


 リリカの事をヴィヴィアンヌは、危険な女だとレイナに警告していた。改めて彼女は、その警告が正しいものであると理解する。

 妖艶な笑みの裏に隠れた混沌。その歩く姿の後ろには、夥しい数の亡者の列が続き、彼女に奪われた新しい命もまた、その列に続々と続いていく。

 きっとヴィヴィアンヌの瞳にも、リリカはこのような化け物に映っているのだろう。そう思うレイナだったが、だからと言って、彼女を信じ続ける事をやめはしなかった。

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