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第五十七話 侍従乱舞 Ⅲ

 トロスクスの街を舞台に、第零戦闘団と反乱軍の戦闘は始まった。

 初撃を放ったのは反乱軍であり、戦闘開始は反乱軍砲撃部隊による砲声となった。帝国国防軍がジエーデル国にて鹵獲した小型榴弾砲を展開し、一斉に砲撃を開始したのである。

 簡素な構造かつ小型軽量で運用し易いこの砲は、帝国製の兵器が運用できない反乱軍にとって、貴重な近代兵器となっている。帝国製の砲に比べ射程は長くないため、最前線に展開して、歩兵部隊を盾にする形での運用だが、威力は十分だった。

 榴弾による砲撃で、トロスクスの街を守る防御壁が砲火に晒される。強固な防御壁は、近代兵器の破壊力の前に爆破され、壁は瓦礫と化して破壊されていく。

 当然、そんな状況を第零戦闘団が放っておくはずがなく、これには彼らも迫撃砲によって報復攻撃を始めた。両軍の砲撃戦が始まって少し経ち、最初に仕掛けたのは第零戦闘団の機動戦力であった。

 反乱軍の砲撃を止めるべく、正門を飛び出した車輌部隊。機関銃を取り付けた車輌に、銃火器武装した鉄血部隊の男達が乗り込み、砲兵隊へと突撃を敢行する。


「いっちょ前に砲弾撃ち込んできやがって! 野郎共、皆殺しにしてやれ!!」

「ひゃっはー!! 待ってました!」


 車輌部隊の指揮を執るヘルベルトが命令し、部隊の全員が一斉に射撃を開始する。機関銃や突撃銃を連射して、砲兵隊の壁になろうとする歩兵部隊を蹴散らしていった。

 走行する車輌の上という、非常に不安定な場所ながら、鉄血部隊の射撃は正確である。一見、好き勝手に銃を撃ちまくってるようだが、反乱軍の歩兵は次々と彼らの餌食となり、損害を拡大させていった。銃弾が歩兵の身を貫き、倒れている負傷兵を車輌が轢き殺して、鉄血部隊は砲兵隊目指し突撃を続ける。


「連中の砲ごと踏み潰してやる! 前進しろ!!」

「ひゃははははっ!!! みんな仲良く皆殺しだ!!」

「すげぇ!! 一万も敵がいると殺したい放題だぜ!」

「部隊長!! このまま突っ込んでミュセイラのケツ引っ叩いてやりましょうや!」

「馬鹿!! ミュセイラがそんな甘いわけねぇだろ! 阿保言ってねぇで警戒してろ!」


 相変わらず、絶望的な状況ほど戦いを愉しむ鉄血部隊だが、今回は相手が相手である。外から砲撃をすれば、水を流し込まれた蟻の巣穴のように、中の者達が飛び出してくるのは計算の内であるはずだ。

 まして相手は、防御よりも攻撃を得意とする者達である。大軍相手だろうが正面から向かってくる、恐れすら愉しむ戦争中毒者達が、砲撃を受けて飛び出して来ないはずがない。それが分かっているはずのミュセイラが、何の対策も無しに砲撃を行なうなどあり得ないのだ。


「部隊長!! 砲兵隊はすぐそこだぜ!」

「全速力で突っ込め! 連中は俺達の獲物だ!」


 展開した歩兵の防衛線を容易く突破し、敵軍の中を自慢の突破力で突き進む。歩兵を蹴散らした先に見えたのは、目的の敵砲撃部隊であった。

 有効射程内に敵を捉え、鉄血部隊が攻撃目標へ向けて射撃を開始した。砲兵を銃弾で蜂の巣にし、配置された砲に向け、安全ピンを抜いた手榴弾が放り投げられた。

 炸裂した手榴弾が、反乱軍が並べた砲を次々と破壊していく。爆発は周囲の砲兵も巻き込み、被害はますます広がっていった。鉄血部隊の活躍により、砲撃陣地の半数が壊滅したところで、恐れていた敵軍の対策が、その姿を現した。

 

「ぶっ、部隊長!! ありゃあ俺らの――――」


 車輌に乗った兵の一人が、敵軍後方より姿を現したそれの接近に気付く。次の瞬間、ヘルベルトに向けて叫んだ兵の乗る車輌が、突然の爆発と共に宙を舞って引っくり返った。

 爆発の瞬間、彼らにとっては耳慣れた砲声が確かに聞こえた。確認するより早く、最悪の可能性が脳裏を過り、それしかないと断定できた。砲声が轟いた方向へ視線を向けると、そこには想像した通りの光景が広がっていた。


「あの馬鹿⋯⋯⋯。シャランドラがぶち切れても知らねぇぞ」


 敵軍後方から迫り来る、履帯で移動する鋼鉄の獅子。それはヴァスティナ帝国国防軍を最強たらしめる、陸の王者の姿であった。

 反乱軍は鉄血部隊を前にして、帝国国防陸軍が運用する戦車部隊を、この前線に投入したのである。


「冗談じゃねぇぞおい! あれって俺達の戦車だろ!?」

「どういうこったよ部隊長! 連中は俺達の武器を使えねぇはずだぜ!」

「どうもこうもあるか。誰の仕業なのか知らねぇが、連中が使ってんのは初期の旧式だ」


 鉄血部隊の全員が驚愕する中、ヘルベルトは冷静に敵戦車を分析しつつ、破壊された車輌のもとに仲間を向かわせる。爆発の衝撃で車輌から投げ出された兵士達は、掠り傷を負った程度で全員無事であった。

 奇跡と呼ぶべきか、それともしぶとい連中とでも呼ぶべきか、兎も角投げ出された兵士達を仲間の車輛が救助し、ヘルベルトは後退の合図を送った。

 車輌部隊は直ちに反転し、トロスクスの街へと全速力で引き返していく。後退する彼らを、ゆっくりと前進を続ける戦車部隊が、戦車砲による砲撃を持って追撃した。


「ジグザグに運転しろ! あれを喰らったら俺達全員ばらばらだ!」


 ヘルベルトが命令した通り、敵の照準から逃げるべく、車輌は回避運動を行ないながら街を目指す。お陰で直撃弾は免れ、敵戦車との距離を離す事に成功した。

 後退の最中、ヘルベルトは現れた敵戦車の性能を脳裏に蘇らせていた。シャランドラに説明を受けた通りならば、反乱軍が使用している戦車は、先行量産された初期型の戦車である。

 帝国国防軍が使用する戦車は、様々な試験運用を経て量産されたものである。その評価試験のため設計されたのが、初期型と呼ばれている試作戦車であった。

 この戦車には、まだ試作段階の頃の魔法動力機関や、試作戦車砲などが搭載されており、これの開発で得られた情報をもとに、完成型が量産されたのである。そのためこの戦車はどの部隊にも配備されず、実戦にはほとんど使われていない。

 帝国内で埃を被っていたこの戦車は、今はオーデル王国の防衛力強化のため、彼の国に運ばれた筈だった。それがこうして鉄血部隊の前に姿を現したという事は、エミリオかミュセイラが手配して、反乱軍に運用させたのだろう。

 

「街へ戻ったら対戦車戦の用意をしろ! ちくしょう、面白くなってきやがったぜ!」


 敵に戦車がある以上、必要となるのはあの装甲に損傷を与えられる、対戦車兵器だけだ。ヘルベルトに命令されるまでもなく、鉄血部隊員全員が、無反動砲や爆薬で、あの戦車を鉄屑に変えようという考えである。

 幸いにも初期型戦車の戦車砲は、威力も有効射程も正式量産型に劣り、それを補助する機関銃の類は搭載されていない。巡航速度も遅く、装甲厚も機関銃に耐え得る程度だ。対戦車兵器無しでは脅威だが、決して勝てない相手ではない。

 敵戦車は全部で九両。態勢を立て直した反乱軍の歩兵部隊は、投入された戦車を盾として扱い、鈍間な戦車の速度に合わせて前進する。その間、ヘルベルト達は何とか無事に街へと帰還を果たす。街からの抵抗は一切なくなり、反乱軍は順調に進軍を続けるのだった。










「姉御!! 連中が戦車まで使ってきやがった!」

「そうらしいね。あんな骨董品に尻尾巻いて逃げ帰って来るなんて、いつもの無駄な元気はどうしたんだい?」

「あんた俺達に死ねってのか!? 銃であれをぶっ壊せるなら苦労しねぇんだよ!」

「なんのために爆発物を持たせたと思っている? 肉薄攻撃ができるじゃないか」 

「だからそれやったら死ぬつってんだよ!! あんた頭どうかしてんじゃねぇのか!?」

「冗談に決まっているだろう? 人をリックのような戦闘狂と一緒にされては困るね」

「姉御が言うと冗談に聞こえないんだよ!! 車輌に爆薬括り付けて突っ込めとか平気で言うだろ!?」

「ふふっ⋯⋯⋯、よく私の考えが分かったね」

「やっぱりかよ!!」

「けれど、それは最終手段だ。計画より少し早いが、試作品には同じく試作品をぶつけよう」

「了解だ! あれを出せば敵の戦車も恐くねぇぜ」

「ふふふっ⋯⋯⋯。では、再度反撃に出るとしようか」










 対戦車戦。ヴァスティナ帝国にとってそれは、敵軍が戦車を運用するようになった時のみ、初めて発生する戦闘である。

 まさかその戦闘を、戦車に対抗する側となって経験する事になろうとは、夢にも思っていなかった。現在のローミリア大陸に於いて、戦車を保有するのはヴァスティナ帝国のみである。故に帝国国防軍は、本格的な対戦車装備を配備しておらず、もし敵が戦車を投入した際の対抗手段は、無反動砲や爆撃による攻撃か、自軍の戦車で応戦するかの二択となる。

 砲撃は迫撃砲のみ。航空支援による爆撃も、対抗可能な機甲部隊もない。有効な兵器は無反動砲くらいのものという、絶望的な状況下にある第零戦闘団には、こんな時のための切り札が存在していた。


 トロスクスの街に侵入を果たすべく、街の正門を目指して進む反乱軍前衛部隊。鉄血部隊の帰還後、再び閉じられた門を、戦車砲にて防御壁ごと粉砕すべく、戦車部隊を街へと接近する。

 反乱軍の兵士達が、戦車の圧倒的な火力と防御力に歓喜し、士気を大きく向上させている中、第零戦闘団の兵士達は、戦車という兵器を敵にまわす事の恐怖を、嫌でもその身で知る事になった。

 だが脅威だとしても、このまま何もせずに放っておけば、街への敵の侵攻を許す事になる。阻止するためには敵戦車部隊に対抗するより他ないが、無反動砲を担いで接近するのは危険だ。反乱軍は、敵が成す術もなく動けないでいると考え、反撃を恐れる事なく歩を進めていた。


 しかしその考えは、大きな間違いであった。街の門が再度開かれると同時に、雷が落ちたような砲声が轟いて、次の瞬間には一両の戦車に砲弾が直撃し、貫通した砲弾が弾薬庫に引火して大爆発。正面装甲をぶち抜かれた戦車の砲塔が、爆発と共に空高く舞い上がったのである。

 爆発炎上した一両の戦車の中から、炎に巻かれて火だるまとなった生き残りが、悲鳴と共に慌てて飛び出し、苦しみのた打ち回った挙句焼死した。その光景を見てしまった兵士達は、何もできずに立ち尽くし、死の恐怖が全身を駆け巡ってしまう。

 銃火器程度ではびくともしないはずの戦車が、一番分厚い正面装甲を見事に貫通させられていた。あんなに頼もしい戦車が、たった一撃によって撃破されたのだ。反乱軍兵士達の驚愕と恐怖は、言葉ではとても言い表せない程のものである。

 反乱軍は初め、これが敵の魔法攻撃か何かだと錯覚した。何故なら敵には、帝国国防軍自慢の機甲戦力は、移動用の車輌を除き存在しないはずだからだ。だが現実には、その機甲戦力が反乱軍の戦車を撃破し、街の正門からその姿を現したのである。


「がっははははははっ!! 木っ端微塵にしてやったぜ!」

 

 正門より姿を見せたのは、紛れもなく一両の戦車だった。砲塔上部から身を晒し、敵戦車の撃破に大笑いする戦車長指示のもと、彼らの戦車は駆動音を轟かせて前進する。

 反乱軍を驚かせたの、その戦車の大きさだった。初期型戦車に比べ巨大なそれは、全体的に初期型より二回り以上も大きく、履帯や主砲の大きさは倍以上である。突如現れたこの大型戦車の砲が、先程の一両を一撃で粉砕したのである。


「シャランドラ嬢ちゃんめ、とんでもねぇ戦車作りやがったな! こいつが重戦車ってやつの威力かよ!」


 重戦車と呼ばれたこの戦車は、巨大なその身を分厚い装甲で覆いつつ、装甲には角度を付けている。これは攻撃を受けた際の威力軽減を狙った、傾斜装甲と言われる設計だ。戦車砲に関しては、帝国国防軍製戦車の装甲を、まるで紙でも撃ち抜くかのように貫ける、最強の砲を搭載している。 

 恐怖に駆られた反乱軍は、現れた化け物戦車目掛け、一斉に砲撃を始める。砲撃陣地で生き残った砲兵隊も攻撃に参加するが、装甲のどの箇所に当たろうが、砲弾が至近で炸裂しようが、重戦車はびくともしなかった。

 これこそ、シャランドラがエステラン国に置き忘れてきた試作兵器。彼女が導き出した、来るべき対戦車戦への回答である。現在の帝国国防軍が運用する中戦車相当の戦車ではなく、より大きく、より高火力で、より重装甲な戦車を対戦車戦闘の切り札とする。

 それによって生み出されたのが、この新型試作重戦車である。初期型が搭載する砲も、ジエーデル製の砲も、この重戦車の装甲の前には豆鉄砲と変わらない。直撃した砲弾は傾斜させた分厚い装甲に弾かれ、装甲を凹ませる事すら出来なかった。

 

 反乱軍戦車部隊は、まだ戦車の操縦に不慣れながらも、初めての対戦車戦闘を経験する事になった。残り八両となった戦車部隊は速度を上げ、重戦車への肉薄攻撃を敢行する。

 相手は初期型よりも鈍重な重戦車であるため、機動力を活かして接近し、近距離から比較的装甲の薄い箇所を攻撃する以外、撃破できる術はない。街から出てきた重戦車一両に対し、八両の戦車は散開しつつ接近した。

 重戦車の前面装甲は恐ろしく固いが、戦車の装甲が薄い部分と言えば、基本は側面か背面である。特に背面の装甲は側面よりも薄いため、そこが弱点と言っても過言ではない。戦車部隊は運用の関係上、戦車の弱点についても把握しているため、距離を縮めながら重戦車の背後にまわり込もうとした。


「ちょこまか動いても無駄だ! 撃てぇ!!」


 その場に停車した重戦車は、散開した戦車部隊の一両に狙いを定め、戦車長の号令と共に再び砲声を轟かせる。放たれた徹甲弾は、回避運動を行なっていた敵戦車の側面に直撃し、装甲を貫通して大きな風穴を開ける。

 爆発炎上こそしなかったものの、攻撃を受けた車輌は二度と動き出す事はなく、乗員の脱出もなかった。これで残り七両となり、重戦車の砲塔は駆動して、また新たな獲物に狙いを定めようとしている。

 初期型の戦車に比べ、この新型重戦車には最新の照準器が搭載されており、停車した状態での射撃ならば、正確な発砲が可能となっている。もとより機動性を犠牲にした設計であるため、照準器と主砲の命中精度に関しては、どんな下手くそでも当たるようにシャランドラが調整した。

 対して初期型戦車は、当時未完成だった主砲や照準器を搭載しており、走行しながら発砲を続けているせいもあって、目標への命中率は高くない。鉄血部隊の車輌が砲撃から生き残れたのは、命中率の低さのお陰でもあったのである。

 それ故に反乱軍戦車部隊は、接近戦以外に勝利する道はなく、第零戦闘団が運用するたった一両の重戦車は、街を背中に敵を待ち構えるだけでいい。数と機動性で圧倒的に劣る重戦車側の方が、現状は圧倒的有利な状況にあった。

 

「どんどん撃ち込め! 連中が後ろにまわる前に片を付けろ!」


 敵の砲撃が苛烈になり、戦車長の男も車内へ退避する。行進間射撃ながら絶え間なく砲撃を続ける戦車部隊に、重戦車の主砲が咆哮する。ローミリア大陸初の戦車戦は、激しい砲撃戦となって展開されていく。

 重戦車の放つ砲弾は、流れ弾となって反乱軍の歩兵を吹き飛ばす。次弾は、一両の敵戦車の至近に命中した。直撃ではないものの、地面に大穴を空ける程の威力によって発生する衝撃は凄まじく、至近弾を受けた戦車の履帯が外れてしまう。

 片方の履帯が外れて動けなくなった戦車を、無慈悲な砲塔がゆっくりと狙いを定め、轟音と共に発砲する。兵士が逃げようとした時にはもう遅く、砲弾は直撃して装甲を貫通し、戦車は内部から火災を起こして沈黙した。

 これで残り六両となるも、反乱軍戦車部隊は怯む事なく突撃を続ける。ここで後退したとしても、重戦車の主砲は、初期型と比べるまでもない有効射程距離を誇るからだ。

 高い命中精度で長射程ともなれば、逃げようと距離を取る間に、全滅させられる事すらあり得る。何より、例えここで戦車部隊が全滅したとしても、あの重戦車を叩かなければ、歩兵部隊は危機に陥ってしまう。


 全滅覚悟で突撃する戦車部隊と、孤軍奮闘する重戦車。両者一歩も退かない砲撃戦の中で、また一両の戦車が、重戦車の砲の前に爆発炎上する。

 残り五両となった戦車部隊の砲撃は、距離が詰められた事で、重戦車への命中弾が多くなる。味方の戦車が履帯をやられた事を思い出し、戦車部隊の砲撃は重戦車の履帯に集中した。装甲を貫通できないならば、せめて動きだけでも封じようという作戦だ。

 対して重戦車側は、敵との距離が詰められた事で、一層目標を狙いやすくなっていた。履帯を破壊される前に全滅させるべく、残弾を気にせず砲撃を継続する。そしてまた一発の砲弾が、敵戦車の装甲を貫いた。

 高い貫通性を誇る徹甲弾が、命中すると同時に装甲を貫通して、戦車砲塔の後方に抜ける。徹甲弾が抜けた先には、もう一両の戦車が移動中にあった。貫通した砲弾はもう一両の戦車にも命中し、砲塔部の装甲に命中して風穴を開ける。

 まだ不慣れな操縦であるために、回避運動を取っていた戦車同士が重なっていたのだ。その瞬間を重戦車の砲主は見逃さず、一発で二両とも仕留めるために発砲したのである。砲主の狙い通り、高い威力と貫通性を武器にした主砲は、期待通りまとめて二両を撃破して見せた。

 

 反乱軍戦車部隊は、この一撃によって残存車輌が三両となる。いよいよ追い詰められた戦車部隊は、重戦車に恐怖しながらも、退いたらと死ぬと覚悟を決めて、最後まで接近戦を仕掛けようと試みる。

 残り三両も重戦車の餌食になるかと思われたが、先程の一撃を最後に、重戦車の主砲は沈黙してしまった。弾切れか、それとも乗員に何かあったのか、後方で重戦車の活躍に歓喜していたヘルベルトが、慌てて無線で乗員に呼びかける。


「おいどうした、まだ敵戦車が残ってるんだぞ!? さっさと撃ち返せ!」

『あー⋯⋯⋯、部隊長? 駄目だこれ、ぶっ壊れちまった』

「なっ、なにいいいいいいいいいっ!?!?」

『エステランからここまで運んでくるのに随分無理させたから、発動機が不調で変な音出してやがる。砲塔まわりのあれやこれやもイカレちまった。主砲の反動に対して耐久力が足りてねぇ』

「シャランドラの奴、欠陥戦車作りやがってからに! そいつが動かねぇと俺達が爆薬持って突っ込まされるんだぞ!!」

『姐さんにそうやって命令されんの部隊長だけですって。修理のため後退しまーす』

「くおらああああああああっ!! 勝手に下がるんじゃねえええええええっ!!」


 ヘルベルトの怒号は悲しくも無視され、重戦車は街の正門へと後退を開始した。応答に出た戦車長の言う通り、重戦車は異音を鳴らしながら走行し、発動機の故障を露わにしていた。

 重戦車が街の中に退いたのを見て、前線の反乱軍は混乱していた。彼らには敵側の戦車が故障したのが分からず、これは敵の罠なのではないかという、深読みし過ぎた疑心が生まれていたのである。

 判断に迷った前線の反乱軍は、歩兵と戦車を含め、街への進軍を一旦中止した。破壊された戦車の負傷兵や、砲撃に巻き込まれて傷付いた兵の救出し、隊列の立て直しを優先したのである。反撃するならば絶好の機会であったが、まさか敵の戦車が突然故障しただけとは、誰も思わないだろう。


 開幕と同時に発生したローミリア大陸初の戦車戦は、敵戦車六両を瞬く間に撃破した、新型試作重戦車の勝利に終わった。

 しかし、戦いはまだ始まったばかりである。反乱軍が態勢を整え、再び進軍を開始した瞬間、今度は熾烈な市街戦が展開されるのだと、両軍の誰もが覚悟していた。

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