表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
409/511

第五十六話 薔薇は美しく Ⅸ

 行動をミュセイラに読まれ、リック達は今まさに敵に包囲されている。周囲を敵兵に取り囲まれ、脱出できる隙が無い彼らには、包囲を力尽くで突破する以外に道はない。

 リックとリリカを守るように、レイナとクリスは得物を構えて前に出る。リックとリリカもそれぞれ拳銃を抜き、ノエルもいつでも魔法を放つ構えだった。五人が戦闘態勢に入る中、包囲する敵部隊は主に弓や弩を構え、飛び道具にての一斉攻撃を図っていた。

 包囲する敵の中には魔法兵の姿もある。強力な戦力たる魔法兵の照準は、五人の中で最も腕が立つレイナとクリスに向けられていた。それによって敵の狙いを読んだリックは、参謀として優秀なミュセイラの能力が、今は心底恨めしかった。

 

「指揮者がミュセイラなだけあって、俺達への対策は完璧ってことか」


 主戦力のレイナとクリスは、魔法が使えるとは言っても、戦闘の基本は接近戦である。飛び道具はリックとリリカが持つ拳銃くらいで、遠距離戦に対応できる状態ではない。

 敵はそれを計算に入れ、彼らを包囲して飛び道具を並べ、接近戦に持ち込ませずに対処する構えである。窮地に立たされたリック達の選択肢は二つ。降伏するか、戦って死ぬかだ。

 

「俺の銃や二人の魔法の射程を考えて距離を取りやがって⋯⋯⋯。誰か良い作戦ないか?」

「強行突破します!」

「連中が撃つ前に俺が全員叩き斬る!」

「お前達はどうしてそう突撃馬鹿なんだ!! もうちょっと頭捻れよ!」

「ふふふっ⋯⋯⋯、万事休すだね」

「うええっ!? まさか諦めるんですか!? 私まだ死にたくないですよ!!」


 ノエルを巻き込む形になってしまったが、こうなると一蓮托生である。降伏を選ばず抵抗を続けると言うならば、全員で力を合わせて戦わなければ、生還は難しい。

 この状況を打開できる手段を持つのは、ノエルが操る風と闇の属性魔法である。だが敵は、ノエルが魔法を発動しようとした瞬間、一斉に矢と魔法を放ってそれを阻止するだろう。

 彼女が操る魔法の中で、特に闇属性の魔法は大きな隙を生む。せめて、ここで誰かが敵の注意を逸らしてくれれば、逆転の一手を打つ事ができる。ノエルがその役を誰かに任せようとした時、彼女にとっては耳慣れぬ騒音と共に、砂煙を上げながら迫り来る騎兵隊が姿を現した。

 

「おらおらおらっ!! 死にてぇ奴らは前に出ろ!!」


 地面を疾走する鉄の荷車。馬を必要とせずに動くそれは、車体に銃火器で武装した人間達を乗せ、包囲するドライア兵の列に突っ込んだ。減速などせずに敵を跳ね飛ばし、或いは轢き殺して包囲網に穴を開け、鉄の騎兵隊はリック達の前に躍り出る。

 機関銃を取り付けて武装した、屋根なしの移動車輌の座席から立ち上がる、屈強な体格をした髭面の男が、探し続けていた者達を見付け、彼らへと叫ぶ。


「ようやく見つけたぜ、隊長!」

「ヘルベルトか! 来るのが遅いんだこの呆け!」

「んなっ!? 助けに来たってのにそりゃあんまりじゃ⋯⋯⋯」


 四台の車輛を率い、リック達の窮地を救ったのは、ヘルベルトと鉄血部隊だった。予想外の救援に驚愕するリック達だったが、一番驚いているのは、助けに現れたヘルベルト本人であった。

 来るのが遅いと、いつもの調子でリックに叱られたヘルベルトが、誰よりも驚愕して目を丸くしている。まさかと思ったヘルベルトが、レイナやクリス、それにリリカを見回す。三人とも、ヘルベルトに笑って見せながら頷いた。

 リックの記憶が戻っていた。それを悟ったヘルベルトは、驚愕と嬉しさに凶悪な笑みを浮かべ、大きな笑い声を上げる。最高に気分を良くしたヘルベルトは、混乱から立ち直ろうとする敵に向かい、得物である突撃銃の銃口を向けた。


「こいつはいいぜ!! おい野郎共、隊長の復活祭だ! 派手にドンパチぶっ放せ!」


 ドライア兵が攻撃する直前で、ヘルベルトの命令を聞いた鉄血部隊の男達が、銃火器で一斉に発砲を開始する。突撃銃や短機関銃が火を噴き、機関銃が敵を将棋倒しの如く撃ち倒していく。

 ばら撒かれた無数の弾丸が肉を貫き、放り投げられた手榴弾が炸裂し、巻き込まれた敵の手足を吹き飛ばす。瞬く間に戦場を蹂躙し、敵の反撃を許さず弾幕を張り続ける鉄血部隊。彼らを前に、前時代的な弓と弩、そして魔法兵は太刀打ちできない。

 

「隊長!! 今の内だ!」


 鉄血部隊が敵を抑えている間、ヘルベルトに従い、リック達は急いで車に乗り込んだ。ただ一人を除いて⋯⋯⋯。


「狂犬さん。ここでお別れです」

「ノエルさん!?」


 車に乗り込む事を拒んだノエルは、風属性魔法を操り敵を吹き飛ばしながら、闇属性魔法を発動し、地面に魔法陣を張っていた。鉄血部隊と同じく、彼女もまたドライア兵と戦闘を始め、敵の注意を自分に引き付けようとしていた。


「さっき情報を買ってくれた時、まだお釣りを渡せてませんでした。お釣り代わりに、ここは私が引き受けます」

「これは俺達の問題だ! もうこれ以上ノエルさんを巻き込めない!」

「魔法少女も正義の味方なんですよ? 困ってる人たちを助けるのも、魔法少女ノエルのお仕事なんです♪」


 彼女の身を案じるリックに向かい、余裕の笑みでウインクを返すノエル。自ら殿を買って出たノエルに、レイナ達も逃げろとその目で訴える。それでも彼女はこの場に留まり、闇魔法の魔法陣より、頭が二つある犬型の大きな魔物を召喚して見せた。

 

「私とオルトロスちゃんで敵は粉砕します。狂犬さん、正義の味方君に会ったらよろしくって伝えといてくださいね」

「⋯⋯⋯わかりました。出せ、ヘルベルト!」


 銃火器で敵を大混乱に陥れ、包囲が瓦解した隙を突き、リック達を乗せた四台の車輛が一斉に走り出した。包囲の穴へと向かって、全速力で戦場を走り去ろうとする車輌を、ノエルは召喚した魔物と共に見送った。

 離れていく彼女に向かい、突然車の上で立ち上がったリックが、最後にずっと思っていた事を伝えるために、大きく口を開いて叫ぶ。 


「ノエルさんって魔法少女名乗れる歳じゃないですよねえええええええええっ!?」

「それ今言うんですかああああああああっ!?!? 見た目は大人でも心は少女なんですうううううううっ!!!」


 最後の最後で強烈な爆弾発言を残し、リックは鉄血部隊と共に戦場を走り去った。

 戦場に一人残ったノエルは、一番気にしている事をリックに指摘されてしまい、怒りで顔を真っ赤にする。そんな彼女は残った敵を相手に、盛大な八つ当たりをするのだった。










 こうして、アーレンツで発生した事変「神聖な薔薇には棘がある」は幕を閉じた。

 リクトビア・フローレンスとその仲間達は、神聖薔薇騎士団と魔法少女ノエルの助けによって、無事にアーレンツを脱出した。ミュセイラ・ヴァルトハイムは兵を退き、再び逃亡したリクトビアらの行方を捜索するのだった。

 そしてこの事変は後に、伝説の六剣の末裔が一人、剣士ベルナデット・リリーの圧倒的なまでの強さを、薔薇の守護騎士の二つ名と共に、大陸全土へ伝え広める事になる。

 ベルナデットだけでなく、副隊長として彼女と共に戦ったコーデリア・アッシュホードの名も、大陸中に知れ渡る。その光のような速さを誇る剣技になぞらえ、彼女は「閃光のコーデリア」と呼ばれ、ベルナデットに次ぐアーレンツの剣士として語られるようになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ