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第五十五話 挑む者、目覚める者 Ⅱ

 リクトビア・フローレンスを巡る攻防戦は、両者一歩も引かずの熾烈な戦いを繰り広げている。

 エステラン城の離宮に群がる傭兵集団。リクトビア護衛のための兵士は、激しい戦闘の渦中で次々と命を落とし、たった今最後の兵も敵の矢に射抜かれてしまった。

 しかし、銃火器武装した護衛の兵が全滅しても尚、戦い続ける槍と剣が存在している。帝国が誇る最強の炎槍と雷剣は、未だ傷一つ負う事なく健在だった。


「破廉恥剣士! 最後の一人がやられた!」

「クソがっ!! このままじゃ突破されるぞ!」


 生き残ったのはたったの二人。だがこの二人が生き残っているのは、単に運が良かったからでなく、傭兵達が束になってかかっても、容易く返り討ちにしてしまうからだ。

 炎槍ことレイナ・ミカヅキと、雷剣クリスティアーノ・レッドフォード。残ったこの二人が、離宮内で隠れているリクトビアを守る、最後の砦であった。


「まだ信じられない話だが、もし本当にエミリオが裏切ったというならば⋯⋯⋯」

「あの馬鹿絶対許さねぇ!! ぶん殴ってあいつの眼鏡叩き割ってやる!」   

「待て、それは私にやらせろ! それから我が槍の錆に変えてくれる!」

「いいや、俺が先だ!! ぶっ飛ばしてから俺の剣で三枚におろしてやる!」


 レイナとクリスの怒りは、完全に爆発していた。裏切り者へと怒りの炎を燃やし、抑えられない怒りを群がる敵に叩き付ける。背中合わせで戦う二人が、神速の動きで敵との間合いを一気に詰め、ほぼ同時に放たれた一閃が、傭兵達の命を一瞬で奪い去る。

 傭兵達は二人を包囲しているが、損害は増すばかりであった。強力な魔法兵ですら、この二人の前では赤子同然に蹴散らされる。魔法を放とうとした瞬間には、一瞬で間合いに飛び込まれ、急所を一突きで貫かれてしまうのだ。

 とは言え、流石のレイナとクリスも、包囲してくる傭兵達に手一杯で、離宮の防衛にまで手が回らない。二人の実力が噂以上だと理解した傭兵達は、レイナとクリスを包囲する事で動きを封じ、その隙に離宮への侵入を図った。

 二人の注意が離宮より逸れた隙に、数人の傭兵が離宮の正面扉に接近し、気付かれぬ間に扉に手を掛ける。侵入成功と、扉に手を掛けた傭兵が思ったその瞬間、扉の内側から連続の発砲音が鳴り響き、弾丸が扉を蜂の巣にしながら傭兵達を撃ち貫いた。

 扉の前に立っていた傭兵は、全員撃ち殺されて地面に倒れ伏す。もう護衛はいないと、油断していたのが運の尽きだった。内側から扉を蹴破って現れたのは、紅いドレスに身に纏う、金色の髪をなびかせた美しい女。


「リリカ様!?」

「リリカ姉さん!?」


 レイナとクリスが同時にその名を叫び、現れたリリカは妖艶な笑みを浮かべ、短機関銃の弾倉を交換しながら、傭兵達の前に立ちはだかった。

 突如、銃器を持って現れた、ドレス姿の美女の登場は、レイナやクリスだけでなく、戦闘中だった傭兵達すらも驚愕させた。颯爽と姿を現したリリカは、護衛の兵が全滅し、レイナとクリスが包囲された状況を瞬時に確認すると、大きく息を吸って声を張り上げる。


「我が帝国の双璧よ!! お前達の力はそんなものか!?」

「「!!」」

「その程度で帝国最強の槍士と剣士を気取るつもりか!? 笑止!! お前達が誰を守るためここにいるのか、それを忘れたか!?」


 リリカの放つ激励が、刺激を受けたレイナとクリスの全身に奔って、闘志の炎を極限まで燃え上がらせる。瞬間、集中力が一気に最高潮まで達した二人は、リリカの登場に気を取られ、反応が遅れた傭兵達を、刹那のもとに討ち取った。

 自分達を取り囲んでいた傭兵達は、瞬きする暇もなく二人の得物の餌食となり、気が付いた時には既にその命を奪われていた。たった数秒の内に、リリカが生み出した隙を突いて、二人は包囲を破って脱出する。敵の包囲から解放された二人は、立ちはだかる敵を瞬殺していきながら、リリカのもとに馳せ参じた。


「申し訳ありません。倒れた兵達のためにも、敵は全て、我が槍で屠って御覧にいれましょう」

「悪いな姉さん。手間取ったせいで、あんたの手を煩わせちまったぜ」

「ふふっ、それでこそリックの両腕だ。私のことは気にせず、残りの雑魚を皆殺しにしてやりなさい」

「「仰せのままに、宰相閣下」」


 自分達が背にする離宮には、絶対に、何としてでも守り抜かねばならない男がいる。この誓いは忠誠だけでなく、自分達に彼を託してくれた、大切な仲間達の想いも背負った誓いなのだ。

 リリカの激励は、二人にそれを思い出させた。故にレイナもクリスも集中力を極限まで高め、リリカの命に従い、得物の切っ先を眼前の敵に向ける。

 戦闘の最中隙を生み、この場の脱出を図る。自分達が敵を引き付ける間に、最悪リリカ達だけでもこの場から逃がす。そんな面倒な事は、もう考えなくていい。リリカが命じる様に、敵を全て屠りさえすれば、安全にこの場を去る事ができるのだから⋯⋯⋯。

 

 戦死した護衛の兵の奮闘や、レイナとクリスの活躍によって、傭兵達は生存数より戦死者数の方が多くなっている。最初は軽く百を超える数がいたが、傭兵の数は半数を切った。

 リリカによって闘志が覚醒した今の二人を、この程度の数で止められるわけがない。態勢を立て直す傭兵達を前に、レイナとクリスが得物の切っ先を輝かせ、雄叫びと共に突撃する。


「舞え、焔っ!!」

「雷光一閃っ!!」


 レイナの操る炎が敵を焼き、クリスが放つ雷が敵を感電死させる。魔法攻撃に仲間がやられ、怯んだ傭兵達の懐に飛び込んだ二人が、自慢の得物の刃を目にも留まらぬ速さで振るった。二人の刃は一撃のもとに敵を討ち、相手に反撃の隙を与えず、傭兵達を次々と蹴散らしていく。

 また一段と強く、そして速くなった二人に、戦い慣れた傭兵達は一切の抵抗ができない。仲間がやられた瞬間、別の傭兵がレイナやクリスに襲い掛かるも、彼らは得物の刃を振り下ろす前に、二人を見失う。消えたと、驚愕した瞬間には時既に遅く、彼らの急所は刺し貫かれた後だった。

 リリカの激励によって、極限まで研ぎ澄まされた集中力を発揮する、今のレイナとクリスは誰にも止められない。今のこの二人を倒せる者など、帝国最強のヴィヴィアンヌくらいだろう。先の戦争を経て、また一段と強くなった二人の前では、この程度の敵など恐れるに足らない。


 レイナもクリスも、離宮の防衛の事は考えず、リリカの命令通り敵を殲滅する事を優先し、防戦から一気に攻勢へと転じた。二人が守りより攻めるのが得意な事は、リリカもよく知っている。二人を縛り付ける護衛という名の鎖を外し、自由に暴れさせて敵の一掃を図り、この場を切り抜けるつもりなのだ。

 但し、そうなれば離宮を守る者はいなくなり、簡単に侵入を許してしまう事になる。傭兵達の何人かは、今が好機と考え、再び離宮への接近を試みるが、彼らを阻みに短機関銃を発砲したのはリリカである。

 引き金を引き続け、腰だめの連射で弾丸を敵に叩き付ける。リリカが張った弾幕で、回避が遅れた二人の傭兵が射殺された。だが、弾幕を躱した生き残りの三人が、まずは邪魔をするリリカを片付けるべく、彼女へと得物の切っ先を向けて接近する。

 三人の屈強な男達が向かって来ようと、リリカは全く動じない。短機関銃が弾切れとなったのを確認すると、彼女は躊躇いなく銃を敵に向かって投げ付けた。先頭の傭兵が、投げ付けられた銃を冷静に剣で弾き飛ばすと、彼らの眼前でリリカはドレスのスカートを翻し、太腿に装着しているホルスターから拳銃を引き抜いた。

 構えられた銃は、リリカ愛用の自動拳銃である。引き金を引いた瞬間、反動と共に放たれた弾丸は、彼女の狙い通り真っ直ぐに、敵の額を撃ち抜いた。

 仲間の死に目もくれず、残る二人はリリカの間合いに飛び込もうとする。一人がナイフ片手に斬りかかるが、彼女は突き出された相手の腕を取って、足を引っかけて体勢を崩させた。駆けてきた相手の勢いも利用し、見事な柔術で相手の足が地面を離れ、宙を浮いて一回転する。

 背中から地面に叩き付けられた傭兵は、次の瞬間にはリリカの銃口を瞳に映していた。無慈悲な彼女は躊躇わず引き金を引き、二発使って確実に相手を仕留める。最後の一人は仲間の死を利用する事で、リリカの間合いに飛び込むと、自慢の大剣を頭から振り下ろす。

 勢いがついた、速くて重い必殺の一撃。これを並みの剣や盾で防ごうとすれば、武器ごと叩き斬られてしまうだろう。防ぐ手立てがないリリカは、紙一重でこの斬撃を躱し、大剣を振り下ろした相手の右膝を銃で撃ち抜いた。

 膝を撃ち抜かれた傭兵は、体勢を崩してその場に倒れそうになるのを、大剣を地面に突き刺して杖代わりにし、如何にか耐えて見せた。倒れたら最後、さっき撃たれた仲間のようになるのは、もう分かっているからだ。

 流石、実戦慣れした傭兵だけあると、戦いながらリリカは関心を覚えている。咄嗟に大剣を利用し、倒れないために苦痛を堪えて耐えるなど、簡単にできる事ではない。しかし彼女の責め苦は、まだこんなものでは終わらない。 

 リリカは相手の顎目掛け、自らの美脚を凶器と変え、強烈なサマーソルトキックを放って蹴り上げる。大の男の身体が、蹴りの衝撃に耐えられず後ろによろめく。撃たれた膝の苦痛と、顎に受けた衝撃によって、相手はふらつき今にも倒れそうである。

 それだけでは終わらず、今度は旋風脚を放って相手の顔を蹴り飛ばした。自慢の美脚による二度の足技を受け、気絶してしまった最後の一人も地面に倒れ伏す。勿論、倒れたその男の頭にも銃撃を加え、確実に死亡させる。


「ふふふっ⋯⋯⋯、私を退屈させないでくれ」


 レイナとクリスは、敢えてリリカを守るような事はしなかった。何故なら二人は、リリカがただの宰相ではなく、その気になれば戦える女だと知っているからだ。彼女曰く護身術だそうだが、銃器があるとはいえ、手練れの傭兵相手にあれ程切れのある足技を放てるなど、最早護身術の域を超えている。

 相変わらずどんな時でも謎多き美女だが、今はそれが頼もしい。烈火と雷光の如くレイナとクリスは、一秒でも早い敵の殲滅に全力を注いでいる。後ろはリリカが守っていてくれるからこそ、二人は攻め続けられるのだ。


「さあ、この場に集いし強者共よ! 己が目的を叶えたくば、命を捨てて挑むがいい!」


 自らと、炎槍と雷剣と、そして精強なる傭兵達に向け、戦場の支配者と化したリリカの檄が飛ぶ。

 眼前の敵に彼女の銃口が向き、再び銃声が轟いた瞬間、戦いはより一層の激しさを増していくのだった。

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