第五十一話 死線 Ⅵ
「ちっ、畜生がっ!! 何なんだこりゃあ!?」
偵察に出ていた二人の兵は、正面から向かってくる多数の敵に、銃弾をこれでもかと浴びせて応戦していた。彼らが偵察に向かったのは、アングハルトの家から離れた位置の、最も家が密集した地帯であった。ここには村長の家もあるため、状況確認のために赴いたのである。
「クソっ!クソっ!クソがっ!! 何発ぶち込んでも倒れやしねぇ!!」
周囲を呼び掛けても返事はなかった。状況を確認する内、近くの家から物音がして、二人はその家を調べるべく扉を開けた。
そこで彼らが見たものは、この世のものとは到底信じられぬ光景だった。母と子供と思われる人影が、父親と思しき人間を食い殺していたのである。
「どうなってんだよ畜生め!! 死人が襲ってくるなんて冗談じゃねぇぞ!!」
二人が戦っている相手は、村人の屍だった。命を失っているにも関わらず、皮膚の血色を失い、虚ろな目をして不気味な声を上げながら、生者に向かって歩いてくるのだ。
死体が歩く。この信じ難い恐るべき光景は、彼ら二人を恐怖で動揺させていた。化け物と化した村人に、彼らは装備している突撃銃を発砲したが、どれだけの弾丸を体に命中させても、死体は動き続けているのだ。
最初は死体だと思わなかったため、村人が何らかの方法で、狂人に変えられてしまったのではと考えた。二人は初め、村人の脚を撃って行動を封じようとした。ところが、痛みを感じている様子もなく、撃たれた脚を引き摺って向かってきた。両脚に銃撃を浴びせて転倒させても、痛みに悲鳴を上げる事もなく、腕を使って地面を這ってきたのである。
いつの間にか周囲を村人に囲まれていた二人は、止む無く胴体に狙いを定めた。弾丸で胸をぶち抜き、心臓を撃ち抜いても尚、平気な様子で向かってきたのだ。更には、先程まで家の中で食われていた父親の死体が、何事も無かったかのように立ち上がり、食われた腹から臓物を垂らして襲い掛かってきたのである。
そこでようやく二人は、村人が歩く死人、「アンデッド」に変えられてしまったのだと気付いた。
「だっ、だめだ! 体のどこにぶち込んでもくたばらねぇ!」
「アンデッドなんて魔人と同じ作り話だろうがよ! 俺達は幻覚でも見せられてんじゃねぇのか!?」
「これが幻覚だなんて信じられっかよ! ちいっ、弾が切れ、ぐあああああああああっ!!」
傍で戦っている仲間の絶叫に振り向くと、仲間はアンデッド化した子供に脚を噛み付かれていた。歯を剥き出しにして脚に噛み付き、軍服ごと肉を食い千切っていく。激痛に絶叫しながらも、脚に噛み付いたアンデッドを、これでもかと銃で殴り付けて引き剥がそうとするが、鼻を折られようが目玉を潰されようが、アンデッドはしっかり脚に抱き付いて離れない。
その襲われている隙を突かれ、背後から近付いてきた別のアンデッドにも襲われる。後ろから首に噛み付かれ、仲間は悲鳴を上げて吐血した。
「この死体野郎共!! そいつから離れやがれ!」
「来るな!! お前だけでも逃げるんだ!」
助けようとしたが、襲われた仲間は彼を庇うために突き飛ばす。仲間を逃がすため、激痛と出血で倒れそうになる体に鞭打って、弾切れとなった突撃銃を捨てて拳銃を抜き、自分に噛み付くアンデッドへと撃ちまくる。
拳銃の発砲音と、流れ出た血の匂いに引き寄せられたのか、アンデッドと化した村人が襲われた兵士に次々と群がり、遂には大勢で食らい付く。持っていた手榴弾で、アンデッドを道連れに自決しようとするも、群がるアンデッドに両腕を食い千切られ、最後の抵抗手段を奪われてしまった。
仲間だった兵は、助けられた彼の目の前で腹を食い破られ、腹の中の臓物を引き摺り出されていく。血と肉に飢えたアンデッドは、引き摺り出した臓物を我先にと食らい尽くしていった。
「うっ、うわああああああああああああああああああっ!!!」
地獄のような光景を見た彼は、目の前で肉の残骸に変えられていく仲間の姿に、言葉で表せない程の恐怖と怒りを覚えた。彼は慌てて突撃銃を構えると、群がるアンデッド達に向かって撃ちまくる。弾切れになっても直ぐに弾倉を交換し、喚き散らして銃撃を続けた。
するとそこへ、悲鳴を発砲音を聞きつけたアングハルト達が駆け付ける。向かって来る彼女達の存在に気付いた彼は、喉が潰れるのも構わず全力で叫んだ。
「隊長!! 逃げ――――」
勇敢な彼らは、最後まで仲間のために戦った。生き残った彼もまた、アングハルト達を逃がそうと危険を訴えようとしたが、アンデッドと化した村長に襲われてしまった。村長に腕を噛まれ、彼は絶叫して振り解こうとするも、群がってきた他のアンデッド達にも襲われ、逃げる間もなく食らい付かれた。
「こんな⋯⋯⋯、こんなことが⋯⋯⋯」
眼前で部下が大勢の死人に食い殺され、彼らの血で地面を真っ赤に染め上げていく。あまりにも惨い部下の死に様に、アングハルトは何もできず立ち尽くしてしまう。
信じられる話ではない。彼女の目の前で大切な仲間を喰らっているのは、故郷の村人達なのだ。今や怪物と変わった村人達は、誰も彼も彼女がよく知る人物ばかりである。昨日再会した村の村長ですら、化け物と変わって仲間の血肉を貪っている。
言葉にするのも悍ましい、本物の地獄のような光景が広がっている。そして遂には、今その命を奪われたばかりの仲間の死体が、目を見開いて痙攣を起こしたかと思えば、再び立ち上がった。一方は両腕を失い、食い破られた腹には内臓がほとんど残っていない。もう一方は全身血だらけで立ち上がるも、歩こうとした瞬間食われた両脚の肉と骨が千切れ、体勢を崩して倒れ伏す。
だがそんな状態でも尚、生ける屍に変えられてしまったかつての仲間は、動く事を止めなかった。村人の屍と共に、自らの飢えを満たそうとするべく、今度はアングハルト達に狙いを定めたのだ。
「許せ⋯⋯⋯!」
最初に発砲したのは、ホルスターからリボルバーを抜いたアングハルトだった。彼女はアンデッドに変わってしまった仲間達を狙い、彼らの額に一発ずつ弾丸を撃ち込んだ。
額を撃ち抜かれて風穴ができたアンデッドは、力を失って地面に倒れ伏し、そのまま二度と動く事はなかった。死して尚も化け物に変えられてしまった彼らを、彼女は自らの手で救うために撃ったのである。それが隊長としての彼女の責務であり、彼らを助けられなかったせめてもの償いだった。
「⋯⋯⋯昔話で聞かされた通りか。アンデッドは頭を潰せば倒せる」
ローミリア大陸に古くから伝わる魔人の伝説と同じく、アンデッドの存在もまた、昔話の一つとして語り継がれている。生ける屍アンデッドの弱点は、聖水や光魔法などと語られているが、物理的な手段としては頭部の破壊と言われている。
アンデッド化した部下達で弱点を確認し、アングハルトはホルスターにリボルバーを収めると、担いできた機関銃を構えた。機関銃、短機関銃、散弾銃、擲弾銃、拳銃に加え各種爆薬。完全重武装の彼女の瞳には、敵に対する激しい怒りの炎が燃え上がっている。
「全員聞け。アンデッド化した人間は手遅れだ。抗戦を許可する」
「隊長、奴らは俺達が相手します」
「気を遣う必要はない。その気持ちだけで、十分だ」
アングハルトと三人の部下達は、全員それぞれの銃火器を構えて戦闘態勢に入る。次の獲物を求めて迫り来るアンデッド達に向かい、躊躇わず引き金を引いた。
四人が一斉射撃を行ない、群れを成して襲い掛かろうとするアンデッドに、弾薬がある限り銃撃を加えっていった。照準はアンデッドの頭部に集中させ、確実に敵を無力化していく。しかし、圧倒的な火力を誇る銃火器を駆使しても、多勢に無勢なのは変わりない状況だった。
少なくとも、家屋の密集地帯であるここの村人のほとんどは、既にアンデッドに変えられてしまったとみて間違いなかった。向かってくるアンデッドの顔は、アングハルトがよく知る、ここ住んでいる顔馴染みばかりであったからだ。
短時間にこれだけの数がアンデッド化され、生者を狩り尽くさん勢いで数を増やしている。未だ敵の姿は捉えていないが、非常に危険な敵を相手にしている事だけは分かる。兵士も村人も関係なく、明らかに敵は無差別に殺戮を行なっているからだ。
「敵を近付けるな!! 奴らの仲間になりたくなければ狙いは外すなよ!」
「ちゃんと頭吹っ飛ばしてますって! 無駄撃ちしてんのは隊長の方でしょうが!」
「何でもかんでも乱射で片付けようとするの良くないと思います!」
「右に同じ!」
アングハルトの武勇と、勇敢なる彼女の戦友達が揃えば、どんな敵をも倒す事ができる。彼女達の戦う姿は、そう思えるだけの頼もしさに満ちていた。
群がるアンデッドを次々に蹴散らし、接近を許さない。発砲を続けながら周囲にも注意を向け、数で勝る敵に囲まれないよう気を配っている。動く死体に知能や意思があるようには思えないが、油断は禁物である。相手はアンデッドだけでなく、それを生み出した術者の存在も忘れてはならないからだ。
これだけ派手に銃を撃ち、アンデッドを確実に倒していけば、必ず敵は何らかの行動を起こすだろう。アングハルト達は眼前に並ぶ敵と戦いながら、より危険な敵に警戒を強めている。
村を取り囲む見えない壁と、人を襲うアンデッドの存在は、特集魔法の使い手の仕業だと予想できる。その使い手達が姿を現す時が、彼女達にとっては本当の戦いとなるのだ。
敵を警戒しつつ機関銃を振り回すアングハルトに、やはりというタイミングで敵は仕掛けてきた。アンデッドの群れの中を素早く駆け抜け、姿を現した真の敵が彼女の前に躍り出る。
「ひゃっほおおおおおおうっ!! いっただきいいいいいいいっ!!」
「!!」
アンデッドの群れの中から現れたのは、長いピンク色の髪をした若い女だった。その女が真っ直ぐアングハルトに向かって駆け、弾幕を躱して彼女に肉薄すると、目の前で跳躍し飛び蹴りを放つ。すんでのところ蹴りを躱すが、地面に着地した女の攻撃は終わらず、目まぐるしく拳と蹴りを放ってアングハルトを襲う。
「ひゃっほい!! おらいくよっ!!」
拳を繰り出すと見せかけ、アングハルトに防御の構えを取らせるが、それはフェイントだった。女は嬉々として鋭い前蹴りを放ち、無防備となったアングハルトの腹部に直撃させる。その蹴りは人間とは思えない程に強烈で、鍛え抜かれたアングハルトの肉体が、軽々と後方に蹴り飛ばされてしまった。
蹴り飛んだ彼女の体は地面に叩き付けられるが、咄嗟に受け身を取って衝撃を逃がす。だが腹部に受けた前蹴りの痛みは、女の足技とは思えぬ衝撃と苦痛を彼女に与えた。
「ぐっ⋯⋯⋯。馬にでも蹴られた気分だ⋯⋯⋯」
「アンタやるじゃないのさ。アタイの蹴り真面に喰らって喋れるなんて、大したもんさね」
苦痛に顔を歪めながらも、アングハルトは痛みを堪えて起き上がり、相手から目を離さず立ち上がった。女は獲物を見つけた狩人の目を向け、苦しむアングハルトの様子を見て機嫌を良くしている。
「お前は⋯⋯⋯、ジエーデル軍が放った暗殺部隊だな?」
「ご名答。分かってんなら狂犬の居場所、アタイにさっさと教えな」
「悪いが、出来ない相談だ」
「あん?」
「お前はここで、私が殺すからだ」
故郷に惨劇をもたらした者達。敵を招き寄せた責任と、村人達の無念は自分が晴らさなくてはならない。胸に抱く怒りを沸騰させた彼女は、戦場では滅多に見せない怒気と殺意を帯びて、現れたジエーデル軍の女に銃口を向ける。
「へえ~⋯⋯⋯、笑えないね。生意気言ってると楽には殺さないよ?」
「強がりはよせ。逃げるなら今の内だぞ」
「アタイにこんな嘗めた口利く奴は、随分と御無沙汰だね。死ねよ、クソ女!!」
怒りに燃える女が駆け出し、アングハルトは機関銃の引き金を引いた。右手に構えた機関銃の連射で、女を蜂の巣にしようとするも、女は上下左右素早い動きで撹乱し、放たれ続ける弾丸を躱していく。
相手がレイナやクリス、もっと言えばヴィヴィアンヌだと言うのであれば、この近距離で躱されるというのも理解できる。あの三人は、抜群の反射神経と動体視力を持ち、常人の域を超えた回避を行なうからだ。
接近戦での銃器の、しかもアングハルトの正確な射撃を、この女は体に掠りもさせず躱し続ける。弾幕を躱しながら一気に距離を詰め、女は再び得意の格闘戦に持ち込んだ。
「隊長!!」
「私に構うな! お前達は術者を討て!」
「余所見とは余裕じゃないのさ! これでも喰らいな!」
重く、そして速い拳と足技の連撃。アングハルトはそれらを躱し、構えた銃や左腕使って防御するも、次の瞬間懐に潜り込もうとしている女と、互いの目が合った。
「何か仕掛けるつもりだ」と、彼女の直感が叫ぶ。その直感は正しく、女はアングハルトの目に狙いを定め、口に含んでいた仕込み針を飛ばしたのだ。この距離ならば外さないと、自信満々で含み針を放った女だったが、ぎりぎりのところでアングハルトは左の掌で針を防ぎ、懐に飛び込んだ女へと強烈な膝蹴りをお見舞いする。
「小賢しいぞ!」
「ぐはっ!! こっ、この女!!」
鳩尾にきつい一撃を入れたはずだったが、女は余程頑丈なのか倒れはしなかった。アングハルトが持つ機関銃を掴み、彼女に頭突きを見舞って怯ませると、その隙に機関銃を無理矢理奪い取って、機関銃を棍棒代わりにして振り回した。
振られた機関銃はアングハルトを横から殴り付け、またも彼女の体を弾き飛ばした。アングハルトの体を家の壁に激突し、彼女は激痛に苦しむ声を上げ、一瞬視界が真っ白になった。如何にか倒れず女の方を向くと、女は奪った機関銃を見様見真似で構え、その引き金に指をかけていた。
撃たれると分かった時には、既に彼女の体は回避の行動を起こしていた。咄嗟に体は地面に伏せようとしながら、ホルスターに手をかけていた。アングハルトの動きと同時に、女は機関銃の引き金を思いっ切り絞る。
初めての機関銃の反動を制御できず、引き金を絞り続けるあまり連射が止まらない。銃口は最初から上を向いてしまい、アングハルトには一発も命中しなかった。彼女の体が直ぐに伏せたのは、こうなる事が予想できたからだ。
そうして銃撃を躱し、地面に倒れ伏しながらも、ホルスターから抜いたリボルバーをアングハルトが構える。撃たれると察した女は、慌てて弾丸を躱そうと動きつつ、機関銃の引き金から指を離し、機関銃を突き出して盾代わりにする。
アングハルトがリボルバーを発砲すると、最初の一発は女の腕を左腕を掠めた。あと少し動くのが遅ければ、女の心臓に弾丸が命中していた。続いて二発目、三発目と発砲するも、それは盾にされた機関銃に阻まれてしまう。
女は機関銃を捨て、銃撃から逃れるべく、近くの家の窓に飛び込んた。窓突き破った女を追って、アングハルトが四発目を放つも、やはり命中しなかった。弾切れとなったリボルバーの排莢と装填を行ない、今度は装備していた突撃銃を右手に携え、女が逃げた家の中に向かって銃撃を始める。
逃げ込まれた家は木製で、貫通性の高い突撃銃の弾丸が、木で守られた壁を抜いて風穴を開けていく。まだ家の中にいるであろう女を殺すために、壁越しに撃ちまくって抵抗する隙を与えない。弾倉が空になると、突撃銃を捨てて今度は擲弾銃を右手に構え、家の窓に銃口を向けて引き金を引く。
破られた窓に向かって榴弾を撃ち込み、間もなく家は爆発して吹っ飛んだ。爆風が広がり、家の破片が周囲に吹き飛び散乱する中、アングハルトは静かに擲弾銃の排莢と装填を行ない、新たに散弾銃を左手に持った。
やる時は徹底的に、持てる火力を集中して撃破する。重武装にして高火力なアングハルトが、戦場で基本とする戦い方だ。これだけやっても尚、彼女が戦闘態勢を解かないのは、まだ脅威を排除できていないからである。
「げほっ、げほっ⋯⋯⋯! アタイじゃなかったら死んでるよ」
「⋯⋯⋯」
銃を構えるアングハルトの予想通り、銃撃と爆発を受けても女は健在だった。破壊された家屋の残骸の中から、五体満足な姿で現れたのである。しかし、アングハルトが放った銃弾と榴弾によって、女の全身は傷だらけとなっていた。
手応えはあった。人間が即死するだけの弾は浴びせたはずである。だがこの女は、全身を負傷しながらも立ち上がり、両手両足は健在で、欠損している部位すら見当たらない。それどころか、身体に受けた銃創や、爆発による火傷や破片の傷すらも、信じられない事に、皮膚が傷を塞ぐべく再生を始めたのである。
それはミュセイラが使う回復魔法に似ていた。見る間に傷は新しい皮膚へと変わっていくだけでなく、体内に撃ち込まれた銃弾も、傷口から勝手に排出され、綺麗に塞がっていく。やがて、受けた全ての傷が塞がると、女は首や肩を回して骨を鳴らし、不敵な笑みをアングハルトに向けて浮かべて見せた。
「不死身のギャビット。みんなアタイをそう呼ぶさね」
「特殊魔法による回復能力か⋯⋯⋯」
「またまたご名答。アタイの特殊魔法は超回復と、それに身体能力の強化さね。後はこれが、アタイの取って置きさ!」
ギャビットと名乗った女が、突然大きく息を吸い込んで、腹に溜めれるだけの空気を取り込む。溜め込んだ空気と共に彼女が大声で叫ぶと、思わず耳を塞いでしまう程の、人間の声とは思えぬ鳴音が轟いた。
鼓膜が破れてしまいそうな甲高い音に、怯んだアングハルトが体勢を崩しかける。その隙を見逃さず、ギャビットが彼女に接近戦を仕掛ける。防御や回避が遅れた彼女に、容赦のないギャビットの猛攻が襲い掛かった。
「おらおらおらおらおらおらおらっ!!! イイ様じゃないのさ!!」
「がはっ!!」
ギャビットの拳はアングハルトの全身を殴り付け、彼女をサンドバックへと変えた。一方的に殴られ続けるアングハルトは、ギャビットの鋭く重い拳の連続攻撃を受け、血反吐を吐いて意識を失いかける。
苦しむ彼女の様子に気分を良くしたギャビットは、アングハルトの脚に蹴りを入れて体勢を崩させ、地面に片膝を付かせた。家ごと吹き飛ばそうとしたさっきのお返しとして、アングハルトの顔面に拳を撃ち込んだ。
殴られた衝撃で倒れるアングハルトに、ギャビットの猛攻は続く。アングハルトの部下が邪魔に入らぬように、彼女の両足を掴んだギャビットは、渾身の力で彼女の体を振り回すと、遠心力を利用して彼女を宙へと投げ飛ばした。
投げ飛ばされた先には、家屋を離れて村の畑が広がっている。受け身も取れず、宙を舞ったアングハルトは畑の地面に叩き付けられ、激しく咳き込んで血を吐き出した。ギャビットの攻撃が相当効いているのは間違いなく、体中を襲う激痛で直ぐには立ち上がれない。
「ぶはっ⋯⋯⋯! ごほっ、ごほっ⋯⋯⋯!」
「きゃははははっ!! そう、それよそれよ! さあアタイにさ、アンタの苦しむ顔をもっと見せておくれよ!」
無様に倒れるアングハルトに、高笑いするギャビットが近付いていく。その下品な笑声を止めさせたのは、倒れたままのアングハルトが放った、散弾銃の一撃だった。銃撃を受けたのはギャビッドの右の大腿で、激痛と出血が彼女を襲う。
あれだけの猛攻を受けても、アングハルトは銃を手放さなかった。地面に叩き付けられた際に、右手に持っていた擲弾銃を落としてしまったが、左手の散弾銃はしっかりと握り締めていた。苦痛を堪えながらも銃を構え、如何にか狙いを付けて引き金を引いたのだ。
放たれたの散弾ではなく、大口径の一発弾である。その破壊力は確かで、胸に直撃させれば一撃で人間を絶命させる事も可能だ。これを受けてもギャビッドが倒れないのは、彼女が言っていた身体能力強化の力のお陰なのだろう。
但しギャビットは、如何に能力で身体が強くなっていても、痛みを感じれば、出血もするようだった。さっきまでの上機嫌な表情は消え去り、今は苦痛と怒りに顔を歪め、目を真っ赤にして彼女は怒りを露わにする。
「くっそがあっ!! 調子に乗りやがって! ぶち殺してやる!」
「こっちの台詞だ!!」
雄叫びを上げて自らを奮い立たせたアングハルトが、痛みを堪えて立ち上がり、愛用している散弾銃のレバーアクション機構を活かし、スピンコックで排莢と装填を行なう。
殴られた衝撃で視界が定まらず、地面に強く打ち付けたせいで右肩が外れ、さっきまで意識も飛びかけていたが、ふら付きながらも彼女は散弾銃を構え、怒り狂うギャビットに二射目を放った。弾はギャビットの左肩に命中し、彼女の左腕は力を失って垂れ下がる。
続け様にスピンコックして薬室に次弾を送り込み、三発目を撃った。頭を狙ったつもりだったが、今のアングハルトの状態では正確に狙えず、今度の弾はギャビットの腹部に命中する。銃に装填されている弾は残り二発しかないが、相手に休む暇を与えず、アングハルトは四発目で彼女の額を撃ち抜くのだった。
力を失ったギャビットの体が、後ろ向きに倒れて動かなくなる。尚もアングハルトは近付いて、仕留めたかどうか確認しようとする。相手の特殊魔法の回復力が、どれ程の力を持つかまだ分かっていないからだ。故に彼女は散弾銃に残る最後の一発と、もう片方の手に握る擲弾銃を握り締めたまま、慎重に接近していった。
仰向けに倒れて白目を剥いているギャビット。息をしている様子はなく、指一本動いていなかった。頭を撃ち抜かれたのだから、到底生きているとは思えない。念のためもう一発撃ち込んでおこうと考え、散弾銃の銃口を倒れている彼女に向けた。
銃口が彼女の顔を捉えたその時、白目を剥いていたギャビットの両眼がぐるりと回って、アングハルトが向けた銃口をその瞳に映す。銃身を右手で瞬時に掴んだギャビットは、銃口を逸らさせつつ引っ張り、アングハルトの上体を崩させながら、彼女の腹部に右足で蹴りを入れる。
防御する間もなく諸に蹴りを受け、苦痛に呻くアングハルトだったが、ギャビットの反撃はまだ終わらない。今度はまたも右足を繰り出し、アングハルトの足を払って地面に倒れさせた。
「不死身なんだよ、アタイはね!!」
「ぐっ⋯⋯⋯! こいつまだ⋯⋯⋯!」
復活したギャビットは、回復能力で傷を癒しながら、倒れたアングハルトに間髪入れず寝技を仕掛ける。アングハルトの背後にまわって絞め技を仕掛け、両脚を交差させて体を拘束し、簡単には逃げられないようにしてから、両腕で彼女の首を思いっ切り絞め上げる。
「きゃはっ!! 気持ちよくさせてやるから、小便漏らして逝っちまいな!」
「ぐっ、ううっ⋯⋯⋯! かはっ⋯⋯⋯!」
身体能力が魔法によって強化されているだけあり、首を絞め上げる腕力も相当なものである。このままでは呼吸ができず、ギャビットに絞め殺されてしまう。銃を撃てない体勢であるため、アングハルトは左手に握っていた散弾銃を手放すと、ギャビットの腕に手をかけて引き剝がそうと試みる。
だが、肩が外れて右腕が使えない今の彼女では、片手だけでこの腕を剥がすのは難しかった。それならばと、装備しているサバイバルナイフを抜こうかとも考えたが、息ができぬ中で、別の手段を思い付いて実行に移す。
彼女が手をかけた装備は、ナイフではなく手榴弾だった。手に取った手榴弾の安全ピンを口元まで持っていき、ピンを噛んで抜き取ると、時期に爆発する手榴弾をギャビットの顔の傍に転がした。
「ぶっ飛べ⋯⋯⋯!」
「!!」
ヴァスティナ帝国製兵器の情報は、ギャビットもある程度は説明を受けている。話に聞いた爆弾だと察した彼女は、慌てて絞め技を解いてアングハルトから離れた。
爆発から逃れるため地面に飛び込んで伏せた瞬間、ギャビットの背後で手榴弾が爆発する。爆発の破片や吹き飛んだ土が、地面に伏せた彼女の背中に降り注ぐ。危うく爆発に巻き込まれるところだったと、安堵して立ち上がったギャビットは、体に付いた土を払いながら、自爆を仕掛けたアングハルトがどうなったかを確認しようとする。
既にギャビットは、さっき受けた散弾銃による傷口は塞がり、何事もなかったように綺麗な肌に戻っている。大穴が空いていた額ですら、元通りの姿に再生していた。自身は五体満足無事であるが、アングハルトにギャビットのような能力はない。流石に死んだかと思いながら、周囲を見回して彼女は敵の死体を探した。
「こっちだ」
「!?」
刹那、傍で強烈な殺気を感じたギャビットが、殺気を感じた方向へと反射的に防御の構えを取ろうとする。防御は間に合わず、爆発を生き延びて彼女に接近していたアングハルトから、至近距離で散弾銃に込められた最後の一発を撃ち込まれた。
頭で駄目なら、今度は心臓だった。左胸を至近距離で撃ち抜かれ、大量に吐血するギャビット。それだけでは終わらず、弾切れとなった散弾銃を棍棒代わりにして、ギャビットの顔へと思いっ切り叩き付けた。
意識が一瞬飛びかけ、ギャビットが血を吐きながらよろめく。その隙にアングハルトは、自身の外れた右肩を左手で掴み、痛みを堪えて元の位置にはめ直す。あまりの痛みに呼吸が荒くなるが、泣き叫んだりはしなかった。自分の体の痛みより先に、敵に対する怒りが勝るからだ。
「お前がどこまで不死身か、試してやる!!」
心臓を撃ち抜かれたにも関わらず、左胸から鮮血を流すギャビットが息絶える様子はない。ならば、相手が死ぬまで攻撃を叩き付けるまでだ。
弾切れとなった銃を捨て、己の拳を構えたアングハルトは、ギャビットにやられたのと同じように、拳と蹴りによる連続攻撃を仕掛けた。無抵抗状態のギャビットに、怒りに燃えるアングハルトの拳が炸裂する。顔も胸も腹も、殴り付け、蹴り上げ、情け容赦なく彼女をぼこぼこにしていく。
殴られる度に、ギャビットが苦痛に呻き、口から血を噴き出すが、アングハルトは手を止めはしなかった。相手が倒れそうになっても、腕を掴んで無理矢理立たせ、今度こそ死ぬまで殴り続ける。遂には得意の格闘術まで繰り出して見せる。
亡き母に教わり、自分が更なる高みへと完成させた格闘術。相手の右腕を掴んで伸ばし、肘打ちを繰り出して腕を圧し折ると、柔道の一本背負いの体勢に入って、相手の足を払い投げ飛ばす。地面に叩き付けられたギャビットが苦痛に呻くが、彼女はお返しとばかりに大きく息を吸い込んだ。
三つ目の魔法を再び使うつもりだった。ギャビットが息を溜めて発動しようとした瞬間、それを妨げたのは、アングハルトが振り下ろした鉄拳である。拳は息を溜めたギャビットの腹を抉り、彼女は口から血混じりの下呂をぶちまけ、上手く呼吸ができず激しく咳き込んだ。
如何に不死身の超回復であっても、ちゃんと痛覚はあり、呼吸を封じられれば苦しさに悶える。傷は再生されても、ダメージは与えられるのだ。これならば倒しようはあると、アングハルトは一気に畳み掛けようとする。ただギャビットはこれで終わりはせず、苦痛を堪えて両脚を持ち上げ、アングハルトの頭を挟み込むと、渾身の力で彼女を投げ飛ばした。
「調子に乗るんじゃないよおおおおおおおおおおっ!!!」
「くっ!」
投げられたアングハルトは地面に叩き付けられるも、相手に回復の時間を与えないために立ち上がり、同じく立ち上がるギャビットへと一気に距離を詰める。接近するアングハルトに対して、ギャビットは左手で懐からナイフを抜き、向かってくる彼女に突き刺そうと刃を伸ばす。
しかし、ナイフの扱い方に関しては、アングハルトの方が上手であった。彼女もまた自慢のサバイバルナイフを抜くと、ギャビットのナイフを易々と躱して、ナイフを握る彼女の左手に狙いを定める。真下から勢い付けてナイフを振るい、アングハルトはギャビットの左手を切断した。
「ぎゃああああっ!! 此畜生がああああああああっ!!!」
「これで終わりだあああああああああああっ!!!」
左手を失った痛みに絶叫し、傷口からの出血が止まらないギャビットに、止めを刺そうとするナイフの切っ先が迫る。だが次の瞬間、彼女の体にいくつもの腕が掴み掛り、アングハルトの身動きを封じた。
現れた腕の正体は、彼女を喰らおうと現れたアンデッドだった。ギャビットとの戦いに集中するあまり、いつの間にか近付かれている事に気付かなかったのだ。
派手に暴れていたせいか、それとも血の匂いに寄ってきたのかは分からない。何処かに潜んでいたのか、三体のアンデッドがアングハルトに襲い掛かり、一斉に彼女に噛み付こうと歯を剥いた。
「邪魔だあああああああああっ!!」
アンデッドに噛み付かれまいと力の限り暴れ、掴んできた腕を振り払った彼女は、一体目の首をナイフで斬り落とし、二体目は足払いして地面に倒れさせ、その頭を踏み潰す。三体目は両手で頭を掴まえ、無理矢理首をまわして骨を折って見せる。
一瞬で三体のアンデッドを片付けたアングハルトだが、最後に一体、背後から近付く気配を感じ、ナイフ片手に振り返った。
「はっ⋯⋯⋯!」
村人がアンデッドに変えられたのだ。彼女だって、襲われていればアンデッドになって現れもするだろう。振り返ったアングハルトの瞳に映ったのは、無惨にもアンデッドに変えられてしまった、実の母のように優しかった女性だった。
「そんな⋯⋯⋯、ビーンおばさんまで⋯⋯⋯」
優しい微笑みを浮かべてくれたビーンの面影は、どこにも残っていない。今はただ、生者の血肉を喰らう事のみを考えた、動く死骸の化け物である。
頭ではそれを理解していても、もう死んでいると分かっていても、彼女は躊躇ってしまった。その躊躇いが命取りとなって、アンデッド化したビーンに掴み掛られる。抵抗しようとした時には振り解く事ができず、アングハルトの左肩にビーンが喰らい付いた。
「あああああああああああっ!!」
噛まれた左肩から出血し、激しく血肉を貪られる。血を流す左肩から激痛が奔り、アングハルトが絶叫するが、苦しむ彼女の叫びは、喰われた左肩の痛みによるものではない。
両親を失った自分にとって、家族のような存在であった女性の死。そして死後も弄ばれる、死者の残酷な姿。深い悲しみに心を引き裂かれた、彼女の心の痛みが、声と変わって悲痛な叫びを上げさせたのだ。
「ごめん⋯⋯⋯、ビーンおばさん⋯⋯⋯! ごめんね⋯⋯⋯!」
彼女の瞳から悲しみの涙が溢れ、熱い雫が頬を伝って流れ落ちる。躊躇いを捨てたアングハルトは、ビーンの頭にナイフを突き刺し、彼女を苦しみから解放した。
弱点の頭に刃を突き立てられ、ビーンは力を失い崩れ落ちる。倒れ伏し、二度と動く事はなくなったビーンを見下ろし、彼女の悲しみは、抑え切れない怒りと憎しみに変わった。
「ギャビットおおおおおおおおおっ!!!」
怒り狂ったアングハルトは、ギャビットを今度こそ殺すため振り向いた。その瞬間、振り返ったアングハルトにギャビットが体当たりを仕掛ける。
体当たりを喰らって一瞬アングハルトがよろめくが、倒される事なく踏ん張った。その首を圧し折ってやろうと彼女が掴み掛ろうとするが、アングハルトの体に密着したギャビットは、切り札と呼べる仕掛けを使おうとする。
「終わるのはアンタさね!!」
ギャビットは回復途中の折れた右腕を何とか動かし、自身の背中から出ている細い紐を掴むと、腕の痛みに耐えて紐を引っ張った。次の瞬間、銃撃に似た乾いた発砲音が鳴り響き、両者の動きが止まる。
ギャビットの頭を掴もうとしたアングハルトは、自分の腹部に熱さを感じ、両手で腹を押さえた。流れ出る鮮血が、軍服を真っ赤に染め上げていく。逆流した血が口から吐き出され、よろめいた彼女はふらつく足で後ろに下がっていった。
一体何が起こったのか、気付くのは容易だった。同じように動けないでいるギャビットもまた、自分と同様に穴が空いた腹部から出血していたからだ。
彼女が仕込んでいたのは、鉛でできた丸球を撃ち出す発射機である。三発の鉛球を一斉射する装置を、予め体内に仕込んでいたのだ。射程距離が短い武器で、近距離でも当てるのは難しい最後の武器であるため、体当たりと見せかけ距離を詰め、至近距離で体内から発射させたのである。
超回復の能力を持つ、不死身のギャビットだからこそできる芸当だった。予想もできない攻撃を受けたアングハルトは、傷口から出血が止まらず、徐々に意識が遠退いて背中から倒れてしまう。
「ざまあみろ!! これでアタイのか⋯⋯⋯、げぼっ、げぼっ、うおええええっ!!」
幾ら傷が治ると言っても、体内で火薬を爆発させて鉛球を撃ち出して、無事な筈がない。流石のギャビットもこれには堪え、盛大に吐血して苦しそうに呻き続けた。
それでも、彼女の回復能力は発動し続けている。折られた筈の右腕は治り始め、穴が開いた腹部も少しずつだが再生が始まっている。苦痛に耐えながらもギャビットは、斬り落とされた自身の左手を探して拾い上げ、斬られた傷口に左手をくっ付けた。
「くっ、くそが⋯⋯⋯! 手間とらせんじゃないよ!」
回復能力のお陰で、左手の皮膚や筋組織、骨の再生も行なわれる。このまま動かさず付けたままでいれば、ギャビットの左手は完治して、また元のように動くようになる。
「躊躇ったのが運の尽きさ。最初にアンデッドに変えたのがアンタの顔見知りとは、アタイは運がいいさね」
「おっ⋯⋯⋯おまえだけは⋯⋯⋯、ぜったいに⋯⋯⋯」
「勘違いしないで貰いたいね。アタイの能力は回復と身体強化魔法、それに音の魔法さ。アンデッド化の結界を張る奴は、今頃アンタの部下と遊んでるだろうさね」
不死身のギャビット。彼女は特殊魔法を三つも操る、ジエーデル軍最強の特殊魔法兵と呼ばれている。少なくとも戦闘に関して言えば、彼女を倒せるのは伝説の戦士、老兵フェイロンとユーシュエンくらいだ。何故ならその二人が、ギャビットに戦い方を教えた師匠であるからだ。
「アンタはここで殺さないよ。結界内で死んだらアンデッドになっちまうからね。アタイにここまで恥かかせといて、死んで楽になれると思わないことさ」
ギャビットを鍛えた師匠達を除き、彼女がこれ程までに重傷を負い、奥の手まで使って戦う羽目になったのは、これが初めてだった。傲慢な彼女はそれが許せず、怒りで自らの役目すら忘れている。
本来の彼女の仕事は、アンデッドと共に村を襲い、迎撃に現れるであろう護衛戦力を撃破する事だ。好きに暴れていいとは言われているが、それは与えられた役割の中での話である。アングハルトと彼女の部下を速やかに片付ける必要があるが、燃え上がる怒りでそれどころではないギャビットは、傷付き倒れるアングハルトの姿しか見えていない。
「こんな仕事でぼこぼこにされたなんて師匠共にバレたら、今度こそ殺されちまうよ。それもこれも全部アンタが悪いんだから、たっぷり責任取って貰おうかねぇ」
目を血走らせ、舌なめずりしながら左手が元に戻るのを、今か今かと待ち侘びている。怒り狂うギャビットの姿を、薄れゆく視界の中にアングハルトは映しているが、全身に力が入らず起き上がる事すらできない。
「リクトビア⋯⋯⋯。あなただけでも⋯⋯⋯、逃げて⋯⋯⋯」
脳裏に蘇ったのは、愛する男の寝顔を見た最後の瞬間。
守れないと悟り、己の無力さに打ちひしがれて、アングハルトの意識は闇の中に落ちていくのだった。




