第五十一話 死線 Ⅱ
一方その頃、ジエーデル国の戦略的重要拠点ブラド公国では、ヴァスティナ帝国国防軍第二軍との、総力を懸けた激しい戦闘が続いていた。
早朝から砲兵隊の一斉射を合図に始まった、帝国国防軍第二戦闘団によるブラド公国攻略戦。展開するジエーデル軍の防衛線に向け、装甲車輌と共に攻撃を開始した第二戦闘団は、この地を死守せんと戦う防衛線力に激しい抵抗を受けながらも、確実に進攻を続けた。
戦局は、帝国国防軍側の優勢である。ジエーデル軍側が如何に抵抗しようとも、剣や槍を主兵装とする歩兵では、装甲戦力と銃火器類の前に成す術はない。おまけに防御の仕様が無い砲爆撃に晒されては、防衛線が完全に突破されるのも、最早時間の問題であった。
それでもジエーデル軍は、死守命令に従って防衛を続けた。出し惜しみはせず、既に前線には切り札の特殊魔法兵部隊や新型砲を投入し、圧倒的と言える鉄の軍勢を苦戦させている。
敵が切り札を用意している事は、帝国国防軍にとって想定内の話である。早々に敵が切り札を使うと言うならば、こちらもそうするまでと言わんばかりに、前線には帝国側の最強戦力が投入された。
ジエーデル軍特殊魔法兵部隊、通称カラミティルナ隊。対カラミティルナ隊戦力として迎え撃つは、炎槍と雷剣の二つ名を持つ二人と、無慈悲な堕天使と呼ばれ恐れられる狙撃手である。
カラミティルナ隊が投入された前線は二つ。敵の数が多い方には炎槍と雷剣の二人が向かい、もう一方には狙撃手が急行した。前線にこの三人が投入されて事により、帝国国防軍の士気は向上し、兵士達は勝利を確信して前進するのだった。
ただ一つ、前線へと向かった炎槍と雷剣は知らなかった。
敵軍の切り札は、新型砲や特殊魔法の使い手だけではなかった事を⋯⋯⋯。
「くっ⋯⋯⋯、これ程の使い手がいたとは⋯⋯⋯!」
「ちっ! おい槍女、へばってんじゃねぇぞ!」
ブラド公国防衛陣地内。砲爆撃によって吹き飛ばされ、第二戦闘団の兵士が突撃を敢行した陣地内に、二人の姿はあった。
「炎槍」の二つ名を持つ、烈火騎士団隊長レイナ・ミカヅキ。もう一人は「雷剣」の二つ名を持つ、光龍騎士団隊長クリスティアーノ・レッドフォード。自らの隊を率いて交戦を開始した二人は、ある二人の敵を前に予想外の苦戦を強いられていた。
「情報には無かった敵だ⋯⋯⋯。手強いぞ、破廉恥剣士」
「言われなくてもわかってんだよ! 先に斬った特殊魔法連中なんぞより、何倍もやりやがる⋯⋯⋯!」
片膝を地面について息を切らすレイナと、額の汗を服の袖で拭うクリスの視線の先には、事前の情報になかった敵が二人立つ。その二人は何と、老婆と老人である。両者共にジエーデル軍士官の軍服を纏い、若き槍士と剣士を視線に捉え、機嫌を良くして笑っていた。
「ほー、若いのにやりおるわい。呼ばれた甲斐があったのう、婆さんや」
「あたしも歳を取りましたね。ほんに、若いのが羨ましくなる」
どちらも背は低く白髪で、顔は皺でくしゃくしゃな二人の老体は、明らかに相当な歳を取った姿をしている。見た印象だけでも八十以上だろうか、凡そ戦いになど出れるはずもない老体が、杖も持たずに帝国最強の槍と剣と対峙している。
しかもこの二人、武器や防具の類は一切持っていない。余裕の表情を見せる老婆と老人は、たった今斬りかかったレイナとクリスを、素手だけで圧倒して見せたのだ。
「ドレビン坊主が生きておったら、敵に自由をさせんかったろうに。この戦、儂らの負けは見えとるわい」
「ドレ坊も先に逝ってしまって、あたしらはまた置いてけぼりじゃ。若いのから先に死んでいくんは、ほんに虚しいですね⋯⋯⋯」
あのジエーデル軍の名将ドレビンを、坊主と呼んでその死を悼んでいる。それだけでレイナもクリスも、この二人が相当な古参兵である事に確信した。問題なのは、このどう考えても現役を退いているであろう老体が、あのカラミティルナ隊よりも圧倒的に強い事だ。
「さて⋯⋯⋯、口汚い坊主よ。覚悟は良いか?」
「そんなもんはとっくにできてんだよ、この糞ジジイ!」
「赤髪のお嬢ちゃん。あたしらを退屈させないでおくれよ」
「御老体、お覚悟⋯⋯⋯!」
レイナとクリスは、対ジエーデル戦が始まって以来、初めての全力を発揮しようとしている。そうしなければ負けると、本能が二人に訴え続けるからだ。
一体何があったのかと言えば、カラミティルナ隊撃破のために前線に急行したレイナとクリス達は、遭遇したジエーデル兵達を斬り捨て、カラミティルナ隊も次々と討ち取っていった。
数々の激戦を戦い抜き、多くの強者との戦いを経験し、今は帝国最強ヴィヴィアンヌに鍛えられ続けているこの二人前に、カラミティルナ隊の特殊魔法兵など敵ではなかったのだ。特殊魔法を発動する瞬間を与えられず、或いは発動できても難なく打ち破られ、前線のカラミティルナ隊は全滅させられた。
目標を撃破した事で勢い付き、このまま一気に攻め立てようとした二人の前に現れたのが、この老体である。老婆と老人は現れるや否や、攻撃を続けていた第二戦闘団の部隊を次々と襲い、兵達を素手で殺しまわった。
それを目撃したレイナとクリスが、危険な敵と即座に判断して斬りかかったのだが、逆に反撃されて苦戦を強いられ、今の状況になったのである。
「来い」
「行くぜ!!」
「来なさい」
「はあっ!!」
得物たる十文字槍と剣を構え、レイナとクリスは同時に地を蹴って駆け出した。周りでは自らの隊の者達や第二戦闘団の兵が、激しく抵抗を続けるジエーデル兵と接近戦に突入している。誰もこの四人の邪魔はせず、両軍の兵は眼前の敵と戦いを繰り広げ、互いの強者達の勝利を願っていた。
クリスは剣を片手に、必殺の突きの構えで老人に迫る。レイナもまた槍の切っ先を老婆に向け、一気に敵との距離を詰めた。二人共、相手が老体だと思って侮らず、一撃必殺で眼前の敵を仕留めるべく得物を振るう。
対する二人の老体は、共に両の拳を構えて迎え撃つ。体術のみで戦おうとする二人に、一瞬で距離を詰めた二人の技が放たれた。
「光龍、純剣っ!!」
「烈火式神槍術、烈槍っ!!」
レイナとクリスが放つ、槍と剣による神速の突きの一撃。これを初見で躱せる者は、敵は疎か味方でさえもそうはいない。両者共に、この技で多くの敵を屠ってきた事で磨き抜かれた、まさに一撃必殺と呼ぶに相応しい技である。
回避も防御も間に合わない、相手に逃げる事を許さぬ神速の技。並みの人間であれば、気が付いた瞬間には急所を貫かれ、成す術もなく命を落としているところだ。
だがこの老婆と老人は、慌てる事も怯える事もなく、二人の攻撃を読んで身体を逸らせ、最小限の動きで躱して見せた。驚愕したレイナとクリスのもとに、今度は老体がお返しとばかりに、目にも止まらぬ速さで正拳突きを放つ。
「ぐっ!?」
「がはっ!?」
腹部に命中した拳の衝撃は、身体を貫かれるような激痛となって二人を襲う。レイナもクリスも苦痛に呻き声を上げ、正拳突きによって殴り飛ばされる。
軽々と殴り飛ばされた二人の身体が、地面に向かって激突する寸前。レイナもクリスも、地面に倒れると同時に受け身を取って衝撃を逃がし、すぐさま起き上がって再び得物を構え直す。
「くそが⋯⋯⋯! ジジイのくせになんて力だ!」
「ごほっ、ごほっ⋯⋯⋯! まるで⋯⋯⋯、ヴィヴィアンヌに殴られた気分だ」
老体二人の攻撃の威力を、ヴィヴィアンヌに例えたレイナの言葉に、クリスも同感だった。まだ戦い始めたばかりだが、二人が計った敵の実力は、格闘戦だけで言えばヴィヴィアンヌに匹敵する。
それが意味するものは、今や帝国最強の存在たる彼女と同じ戦闘力であるとするならば、レイナとクリスの勝算はなくなってしまう。何故なら二人は、実戦はおろか模擬戦ですらも、まだヴィヴィアンヌに一度も勝利できた事がないからだ。
「思ったより頑丈じゃの、婆さんや」
「そうですね。気絶させるつもりで打ち込んだのに、もう立てるなんて⋯⋯⋯」
相手の実力に緊張感を高める二人と対照的に、老人と老婆は感心したように驚いて、やはり楽し気に笑っている。自分達の拳で簡単に倒れなかった相手に、年甲斐もなく興奮を覚えているのだ。
「話には聞いておったが、これが帝国の実力というわけじゃな」
「確か、女子の方はミカヅキと言いましたかね。坊やの方は⋯⋯⋯、何でしたかね?」
「う~む、何じゃったかな⋯⋯⋯。おお、そうじゃ! 確かクリクリパスタ・ペペロンチーノじゃったわい」
「クリスティアーノ・レッドフォードだっ!! 人を料理みたいに呼ぶんじゃねぇよ!!」
「ぶっ⋯⋯⋯! くっ、くふふふふふっ⋯⋯⋯!」
「だああああっ!! 笑うんじゃねぇよ槍女!!」
完全にツボに入ったレイナが、我慢できずに腹を抱えて笑い出してしまう。顔を真っ赤にして怒鳴るクリスだったが、怒る彼の顔を見たレイナは、間違えられた名を思い出してまた笑った。
「ふふふふっ⋯⋯⋯! だっ、だめだ⋯⋯⋯お腹痛い⋯⋯⋯」
「こっ、この野郎!! もう絶対二度とお前の頼みは聞いてやらねぇからな!」
「お主ら仲が良いのう。儂と婆さんの若い頃を思い出すわい」
「これのどこが仲が良いってんだ!!」
「坊やは若い頃のお爺さんそっくりですね。好いた女子の前だと、お爺さんもよくああなって⋯⋯⋯」
「俺がいつこいつを好きだって言った!? 誰がこんなめんどくせぇ女好きになるかよ!!」
こっちの調子を乱すのが狙いなのか、それとも単に若い二人の反応を楽しんでいるだけなのか、老体二人は戦場のど真ん中で昔を懐かしんでいた。
しかし、こんな会話をしているにも関わらず、老人も老婆は一分の隙もない。間合いに入ろうと近付いたら最後、さっきのように拳を食らうのは目に見えている。レイナもクリスも、それが分かっているから迂闊に手が出せず、動けないまま隙を窺い続けるしかなかった。
(ふざけたジジババ共だが、力は本物だぜ。ありゃあ拳法の一種だな)
(破廉恥剣士は既に気付いているか。さて、どう仕掛けるべきか⋯⋯⋯)
命知らずで飛び込めば、また返り討ちに遭うだけだ。二人の考えは同じで、どう隙を生み出して攻撃するかである。自慢の速さも簡単に躱されては、隙を突く以外に勝機はない。
レイナもクリスも、考えは同じである以上、嫌々ながらも協力して戦うと決めた。レイナは隣のクリスへと視線を送ると、彼女の狙いを理解したクリスが舌打ちする。それが了承の合図だった。
「行け、破廉恥剣士! 焼き尽くせ、焔っ!!」
レイナがいつもの炎属性魔法を発動し、敵に向かって炎を放つ。それを合図にクリスが駆け出して、一瞬の内に敵の懐に飛び込んでいく。レイナが放った炎を、老人も老婆は左右に飛んで易々と躱す。彼女の攻撃は敵の分断に成功し、炎を回避した老人に向かって、クリスの剣が迫る。
老人の間合いにクリスが入り込む。老人は慌てる事なく拳を構え、彼の動きを見切って拳を放った。だがその拳は、攻撃を読んでいたクリスに躱されて空を切る。一瞬で老人の背後へとまわって剣を振るった。
「貰ったぜ!」
「むうっ⋯⋯⋯!」
背後に回ったクリスが、神速の剣技で老人の急所を刺し貫こうとする。クリスの邪魔が入らないよう、助けに入るかもしれない老婆の方には、槍を手にレイナが仕掛けた。放たれたクリスの剣が、今度こそ老人を討ち取るかに思われた。
しかし老人は、振り返りもせずにその剣を見切っていた。まるで後ろにも眼が付いているかのように、剣が突き刺さる直前、瞬時に地面に伏せたのだ。クリスの剣が空を切った瞬間、剣と共に差し伸ばしていた彼の右腕を、下から繰り出された老人の蹴りが捉える。
右腕を蹴り上げられたクリスは、自身の懐を守る術を一時的に失い、完全に無防備となってしまった。その隙を見逃さず、恐ろしく速い老人の回し蹴りが炸裂する。防御が間に合わず、蹴りはクリスの腹部に直撃した。
「破廉恥剣士!?」
「余所見はいかんよ、お嬢ちゃん」
あのクリスが蹴り飛ばされた瞬間を目撃するレイナだったが、その驚愕が彼女に一瞬の隙を生み出してしまう。老婆に隙を突かれ、懐に飛び込んで槍を振るおうとしたはずが、老婆の姿を見失ってしまう。気が付いた時には、老婆は彼女の横にまわっていた。
レイナが咄嗟に防御を取ろうとするが、彼女の動きよりも一瞬速く、連続で放たれた老婆の拳が彼女を襲う。一発一発が重い一撃で、鉄の棒に殴られたような衝撃と痛みを覚える。レイナの全身を老婆の拳が襲い、最後の一発が彼女の頬を殴り飛ばす。
レイナとクリスの身体が、またしても軽々と宙を舞うと共に、地面に叩き付けられる。今度は受け身を取れる余裕はなく、そのまま地面に激突して倒れると、二人共直ぐには立ち上がれなかった。
「危なかったわい⋯⋯⋯。魔法まで扱えるとは優秀じゃのう」
「烈火式の槍術、光龍の剣技なだけはありますよ。また見られるなんて、長生きはするもんでねぇ」
互いに目配せした老人と老婆が、地面に倒れる二人に向かって同時に駆け出した。倒れたまま動かないレイナとクリスに、止めを刺すべく仕掛けた老体の技が迫る。
老人はクリスへ、老婆はレイナへと急接近し、気を失っているだろう二人へ追撃する。それを阻んだのは、地面に強く打ち付けられても尚、気絶していなかったクリスの声だった。
「奔れ⋯⋯、雷光っ⋯⋯⋯!」
クリスを出発点にして、出現した二つの雷が老人と老婆に向かって襲い掛かる。だが雷が直撃する寸前で、二人の老体はそれすらも左右に飛んで回避した。
クリスが操る雷属性魔法も躱して見せ、再び老婆がレイナに襲い掛かろうと視線を向ける。しかし、視線を向けた先に彼女の姿はなく、老婆が気配に気付き頭上を見上げた。顔を向けたその先には、十文字槍の切っ先を老婆目掛けて落下する、烈火の槍士の姿だった。
「烈火式神槍術、天槍」
「⋯⋯⋯!」
老婆を串刺しにせんがため、天高く飛び上がって落下するレイナと槍が、老婆の命を捉えた。喰らわば死ぬと、老婆の頭が理解するよりも早く、老婆の体が先に回避へと動いた。
老婆の体が後ろに下がった瞬間、レイナと十文字槍が目と鼻の先の距離ですれ違う。槍は敵を討てず地面に突き刺さったが、レイナは攻撃を躱した老婆へと追撃する。攻撃が躱されるのは計算の内で、彼女の狙いはこの距離を得る事だったのだ。
「紅蓮式特槍術、手槍」
互いの手が届く距離。十文字槍を手放したレイナが、自らの右手を槍代わりにして、神速の突きを放つ。これならば回避は出来まいと、彼女にとっては邪道たる技を持って、老婆の急所を刺し貫こうとする。
どう考えても避けられない距離と、そして速さ。レイナの技が確実に老婆を捉えたはずだったが、老婆は彼女の手槍を見切り、なんと白刃取りで止めて見せた。
レイナ必殺の一撃がまたしても通用せず、再び老婆の反撃が始まろうとする。手槍を間一髪で止めた老婆が仕掛ける寸前、老婆の目の前でレイナが突然伏せる。彼女の背後より現れたのは、左手に剣を持って神速の突きを放つクリスの姿だった。
これは避けられないと、老婆の直感が訴える。さっきのように白刃取りも間に合わない。老婆に技が決まると確信したクリスだが、老婆の体がもの凄い勢いで後ろに引っ張られ、彼の剣は届かなかった。剣が貫くより速く、後ろから老婆の服を掴んだ老人が、老婆の身体を引いて剣を遠ざけたのだ。
攻撃を躱した老婆と老人は、一旦二人から距離を取るべく後ろに下がった。但し、戦闘は老体二人が優勢であり、レイナとクリスよりも余裕がある事に変わりはない。
「ふぅ⋯⋯⋯、助かりましたよお爺さん」
「油断するでない。あと少しで迎えが来るところじゃった」
「それよりお爺さん。あのお嬢ちゃん、烈火式の他に面白い技も使いますよ」
たった今殺されるところだったはずなのに、この老婆は何がそんなに嬉しいのか、怯えるどころか老いた瞳を輝かせて喜んでいる。
対照的にレイナとクリスは、自分達の連携による技で掠り傷一つ与えられず、ヴィヴィアンヌとの戦い以来の危機感を募らせていた。
「ジエーデルの連中にも、まだこんな強い奴がいたとはな。出てきた甲斐があったってもんだぜ」
「相手はカラミティルナの雑兵とは違うようだ。それより破廉恥剣士、右腕は大丈夫なのか?」
「さっきの蹴りでやられちまった。折れちゃいねぇようだが、思うように動かせねぇ」
レイナが心配しているクリスの右腕は、老人の一撃を受けて負傷している。彼の利き手は右手だが、使えなくなった右手の代わりに、今は左手に剣を持ち替えている。
負傷の具合を心配されたクリスも、同じようにレイナの身を案じていた。彼女も老婆との戦闘で激しく打ち込まれたが、クリスよりは目立った負傷はない。
互いの状態を理解し、二人はそれぞれの得物を構える。それは老体二人に向けた、レイナとクリスが戦いを続ける意志の表れだ。老人も老婆もその意志に喜び、笑みを浮かべて拳を構えて二人に応えた。
「楽しくなってきたのう、ユーシュエンや」
「乾いていた血が騒ぎますねぇ、フェイロン」
互いに名を呼び合った老体二人が、眼前の敵を威圧するかの如く、空気を変える程の覇気をまとった。瞬間、レイナとクリスは、相手が自分達に向かって本気になった事を悟った。
若き槍士と剣士はまだ知らない。
自分達が立ち向かおうとしている相手、フェイロンとユーシュエンという名の老体。軍を引退しても尚、伝説の戦士と呼ばれている存在で、今のジエーデル軍を築き上げた英雄である事を⋯⋯⋯。




