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第四十三話 プレイン・バーン作戦 中編 Ⅲ

 一方その頃、前線正面を担当しているヴァスティナ帝国国防軍は、波の様に押し寄せる敵の大軍を、火力を集中して蹴散らしていた。

 唸りを上げる重機関銃。火を噴く主砲。弾幕を張り続ける自動小銃と短機関銃の発砲音。各前線の中でもここだけは、他とは違う次元の戦闘が繰り広げられていた。

 鋼鉄戦闘団に代わって攻撃を開始したのは、帝国国防軍の主力たる第一戦闘団である。相変わらず重武装姿のアングハルト指揮のもと、第一戦闘団の戦車や装甲車などの機械化部隊が攻撃を始めると、敵は重火器の前に成す術なく倒されていった。


 戦車部隊の主砲や、歩兵部隊の迫撃砲による砲撃が、密集しているボーゼアス義勇軍の兵を吹き飛ばしていく。砲撃を掻い潜って突き進む兵は、鉛玉による弾幕の餌食となった。火器攻撃はボーゼアス義勇軍の前衛に大損害を与え、被害を更に拡大させていく。

 停車している戦車の上に乗り、向かって来る敵兵目掛け、片手で構えた軽機関銃の銃撃を浴びせているアングハルト。自身が率いる全軍に指示を与えながら、自らも最前線で戦っているのだ。


「乱戦に持ち込ませるな!弾幕を張り続けろ!!」


 本来片手で扱えるものではない軽機関銃を豪快に撃ちまくり、発砲音に負けない声量で、アングハルトは味方に指示を叫び続ける。彼女の命令に応えた兵士達は、陣形を乱さず銃撃を続け、これ以上敵を寄せ付けないよう努めた。

 帝国国防軍が保有する兵器の火力は、圧倒的の一言に尽きる。砲撃は敵の兵をまとめて吹き飛ばし、機関銃や小銃の銃撃は相手の防具を容易く貫通し、指先で引き金を引くだけで人間を殺していった。前線で戦う第一戦闘団は、砲撃と弾丸による分厚い弾幕を形成する事で、数を武器に戦う敵の接近を許さない。


 アングハルトの言う通り、敵の接近を許して乱戦になってしまえば、同士討ちの危険が高まって、銃火器による圧倒的な攻撃力は半減してしまう。

 乱戦になった場合を想定し、銃器を使用しての乱戦対策の訓練は当然行なっているが、帝国国防軍の一般兵士に銃火器が行き渡るようになったのは、つい最近の事だった。扱いに慣れたアングハルトとは違い、未だ多くの兵が銃火器の運用に慣れておらず、更なる訓練や実戦経験を必要としている。そんな彼らが、敵味方入り乱れる乱戦に突入してしまうのは、普段以上に危険な戦闘になる事を意味する。

 その状況を避ける為にも、アングハルトは訓練で教え込んだ射撃陣形を全軍に徹底させ、弾幕を維持する事で前線を支えていた。


(食糧補給を断たれているせいで、敵も必死か。死ぬ気で喰らい付いてくる)


 雄叫びを上げて激しく戦い、その姿を見せる事で味方を奮い立たせるアングハルトだが、死ぬ気で突撃する敵軍の姿を見渡して、前線の維持が困難であると悟る。

 帝国国防軍の兵器は、決して無敵ではない。特に、強力な火力を発揮する射撃武器は、弾数に限りがある。射撃を続ければ弾丸は底を尽くし、銃器自体も、銃身が過熱するなどして故障を起こす。弓で放つ矢が矢切れになる様に、耐久性の限界を迎えて剣や槍が壊れてしまう様に、銃も所詮は限界がある武器なのだ。

 第一戦闘団の弾薬備蓄が無くなれば、部隊は補給のために後退せざる負えなくなる。勿論それは想定の範囲内だが、アングハルトが恐れているのはそこだけではない。

 

 ボーゼアス義勇軍の兵は、仲間の屍を踏み越えて前進する。前を走る兵が死んでは、後ろの兵が死体を越えて前進し、それを繰り返す事で前線を押し上げていくのだ。今も、銃火器による弾幕に晒されているにも関わらず、死んでは次が前に出るのを繰り返し、ある者は姿勢を限界まで伏せて射撃を躱し、ある者は味方の死体を盾にするなどして、確実に接近し続けている。

 第一戦闘団の弾薬が尽きるよりも早く、このままでは敵軍との接近戦に突入してしまう。最前線に立つ兵士としての直感から、それを悟ったアングハルトは、直ちに命令を飛ばして、第一戦闘団の中でも銃火器の扱いに慣れた者達を前に集める。


「傾注!今度は私達が突撃を仕掛ける番だ。押し上げられた分を押し返す」


 全軍に命令を飛ばし、部隊の中でも銃火器の扱いに長け、実戦経験が豊富な兵を最前線に集めたアングハルトが攻撃目標を伝え、立っていた戦車の上から飛び降りる。

 一度前線を押し返す。現状ではこれが前線維持の最善策と考え、アングハルトは兵を率いて突撃を仕掛けようとする。彼女の命令に応え、機動力の高い銃座付きの車輌が集められ、突撃を支援するための無反動砲まで用意された。


「敵は食い放題だ。好きに暴れて構わない」


 女性と思えないほど男勝りで、重量十キロ以上の軽機関銃を、女性とは思えない腕力で軽々操る彼女の姿は、余りにもかっこよく逞しかった。全身武装して凛と戦場に立つ彼女の姿は、帝国国防軍を代表する戦う女性兵士。頼もしさしか感じさせない彼女の背中は、ヴァスティナ帝国に勝利を約束しているようだった。


「アングハルト隊長、いつも以上に気合入ってないか?」

「そりゃあお前、これが終わったら将軍閣下とデートの予定だからだろ」

「ああ、この前の放送の時のやつか。通りでやる気が違うわけだ」

「この人ほんと、戦いと愛に生きる女って感じだよな」

「そういや聞いたか?閣下がまたやらかしたらしくて、なんとあのゼロリアスのお姫様を飯に誘ったらしくてよ。それを聞いた隊長がブチ切れて、乗ってきた自慢の単車をぶん殴って壊し――――――」


 背中越しに消えてきた部下達の会話を、アングハルトは大きく咳払いして無理やり止めた。本当は振り返って怒りたかったが、羞恥で顔を真っ赤にしてしまった、今の自分の顔を見られたくなく、それができなかったのである。

 

「わっ、私に続けえええええええええええええええええええっ!!!」


 半ばやけくそ気味に号令を下し、アングハルトは眼前の敵軍目掛けて駆け出した。そんな彼女に続く第一戦闘団の精鋭達は、たったの数百人。万で押し寄せる敵の波を、彼女達はたった数百で押し返そうとしていた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


 敵兵に十分近付いて、軽機関銃の引き金を引き、雄叫びを上げながら腰撃ちで発砲を開始したアングハルト。彼女の射撃に応え、後に続いた者達も続々と射撃を開始し、アングハルト共に前進を続ける。

 アングハルト達は時に立ち止まり、時に駆け出し、時にはゆっくりと歩きながら、射撃を途切れさせず前へと進む。自分達に襲い掛かる無数の敵を蹴散らして、自分達の進むべき道を切り開いていく。共に突撃した車輌の銃座と無反動砲も彼女達の前進を助け、密集した敵を撃破していった。


「進み続けろ!敵の注意を私達に集めるんだ!」


 軽機関銃の掃射で敵兵を薙ぎ払うアングハルトだが、弾幕を掻い潜った者達が彼女に斬りかかろうと距離を詰める。銃の懐にさえ入ってしまえば、女などに負けるはずがない。そう考えての勇気ある行動だったが、彼女相手に接近戦は寧ろ自殺行為である。

 アングハルトは装備しているナイフシースから、左手で素早くサバイバルナイフを抜いた。彼女が抜いたナイフは、接近戦が得意な彼女のために専用で作られた、大型の刃を持つ非常に頑丈なナイフである。彼女が操るその切れ味は、人間の首を骨まで簡単に斬り落とせる程だ。

 当然ながら、そんな事など一切知らない敵兵達は、貰ったと言わんばかりに得物の刃を振るう。捉える事など容易い素人の斬撃が彼女に届くはずもなく、あっさり躱された後は、彼女のナイフの刃が反撃を行なった。

 瞬時に左手を振るい、襲い掛かって来た者達の喉元を斬り裂き、急所を深く刺し貫き、腕を斬り落として胸を斬り裂くなどして、一瞬で全滅させて見せる。彼女は全くの無傷であり、そんな彼女の足下には犬死にしてしまった者達の屍が横たわった。

 殺された者達は悲鳴を上げる暇もなく、ほとんど一撃で一瞬の内に絶命した。仲間達が全く歯が立たなかった光景を目の当たりにしても尚、アングハルトに立ち向かっていく者達はいたが、結果は同じであった。


「おらおらおら!!お前らがアングハルト隊長に敵うわきゃねぇだろが!」

「死にたくなけりゃあ引っ込みやがれ!これが帝国最強の女兵士の実力だ!」

「伊達に軍の最高司令官にラブレター出してないぜ!見た目の割に純情なんだぞ!」

「見たかお前ら!!これが恋する女の生き様ってやつだぜ!」

「だあああああああああああっ!!!これ以上私を辱めるなああああああああああああああっ!!!」


 戦いながら顔を真っ赤にして絶叫したアングハルトが、ナイフをシースに収め、装備している破片手榴弾を乱暴に掴み取った。またもやけくそ気味に歯で安全ピンを引き抜き、敵目掛けて手榴弾をまさかの全力投球。アングハルト渾身の一球は密集した敵のど真ん中に飛んでいき、絶妙なタイミングで爆発する。

 

 最前線で兵を率いて戦うアングハルト。先陣を切って戦う彼女と、その背中に付き従う兵達の活躍のお陰で、突破口が切り開かれた。アングハルトと勇敢な兵士達は、苛烈な銃撃で敵を寄せ付けず、自らが切り開いた道を突き進む。

 大軍目掛けて突撃を敢行し、歩兵と車輌部隊のみで敵を蹴散らしながら突き進み、敵軍の中心を目指すように前進を続ける。彼女達の戦闘能力は非常に高く、銃火器の力があると言っても、ボーゼアス義勇軍の民兵など相手にもならない。


 しかし、この突撃にも限界はある。敵前衛を突破し、どこまでも突き進もうとする彼女達は、当然周囲を敵に囲まれていった。少数で敵に大きな損害を与える事に成功したが、その代わり彼女達は確実に逃げ場を失っていったのである。

 敵軍の真っ只中で囲まれた彼女達は、それでも尚派手に戦い続け、一切止まろうとはしなかった。大暴れする彼女達に敵の注意が集まらないはずはなく、ボーゼアス義勇軍前衛の兵達は、最優先攻撃目標をアングハルト達に切り替える。

 少数で暴れ続ける彼女達に、反撃とばかりに全方向から敵が襲い掛かった。幾ら銃火器の力があると言っても、全方向から夥しい数の敵に押し寄せられたら、彼女達だけでは一溜まりもない。

 圧倒的な力を振るった彼女達が、一転して窮地に立たされる。ただし、それは一瞬の出来事だった。


「隊長!!お待たせしました!」

「来たか!」


 アングハルトはこの瞬間を待っていた。自分達に敵の注意が集中し、敵前衛の突撃が止まった瞬間、第一戦闘団の機甲部隊が突撃を敢行する、この瞬間のために戦っていたのである。

 まさか突撃されるとは思わず、不意を突かれたボーゼアス義勇軍の前衛は瞬く間に蹴散らされた。戦車砲が、無反動砲が、迫撃砲が、兵ごと大平原の大地を吹き飛ばし、重機関銃や小銃から放たれた弾丸が、これでもかと言わんばかりに浴びせられる。

 敵に囲まれていたアングハルト達の救援には、銃火器武装の歩兵部隊と、数両の戦車が砲と機関銃を撃ちまくりながら現れた。一瞬で包囲を破壊し、鋼鉄の獅子達に踏み潰され、蹴散らされる敵の兵士達は、驚愕と恐怖のあまり逃げ出してしまう。


「御無事で何よりです。隊長になんかあったら、俺達が閣下に殺されちまうんで」

「⋯⋯⋯どいつもこいつも、お前達は閣下をネタに私を弄りたい様だな」

「いいじゃないですか隊長。そんだけ兵から愛されてるって事ですよ」


 最前線の激戦地真っ只中であっても冗談が言えるのは、それだけ第一戦闘団に心の余裕がある証拠だった。全員が適度な緊張感を持ちつつ、敵がとんでもない数の大軍であっても、慌てず恐れていない証拠でもある。

 故に、彼女達は強い。例え苦しい戦局であっても、訓練通りに動き、作戦と命令通りに行動し、自分達の持つ力を存分に振るう事が出来る。そういう軍隊はどのような状況下であっても、持っている能力を最大限発揮する。

 

「そんで、これからどうします隊長。第一戦闘団だけで一気に教祖を仕留めちまいますか?」

「それができれば苦労しないが、我が軍だけ突出すれば三国の陣形を乱してしまう。敵を一定まで押し返すだけでいい」


 あくまでも彼女達の目的は、攻撃は最大の防御という兵法を活かし、敵が押し上げたラインを押し戻す事である。それさえ成功すれば、もとの位置まで後退すればいい。

 彼女達だけが突出してしまうと、挟撃作戦のための時間稼ぎと囮の役目を担う、三国が敷いた陣形が乱れてしまう。三国は敵に作戦を悟られないよう、全力で戦う事はせず、かといって手は抜かず、丁度いい塩梅で敵の注意を引いておかなければならない。総攻撃を続ければいずれ必ず突破できると、相手にそう思わせながら上手く戦う必要があるのだ。


「いいか、無駄弾は撃つな。第二戦闘団と交代するまでは弾薬を節約しておけ。それから戦車を――――――」


 味方に命令を与えている途中、アングハルトは突然、自分に向けられた殺気と気配を察知し、瞬時に気配がした方へと機関銃の銃口を向ける。

 しかし、彼女が銃口を向けた先には、誰もいなかった。あったのは、地面に横たわる敵の屍のみである。


「隊長、どうかしましたか?」

「⋯⋯⋯⋯」


 確かに彼女は殺気と気配を感じた。それに反応して気配がした方を向くと、誰もいない。気のせいかとも思ったが、味方のものではない怪しい殺気と殺気は、まだ彼女に向けられている。

 

「気を付けろ!何かがいる!」


 目に見えないが、ここには絶対何かが潜んでいる。戦場で鍛えた兵士の直感が、アングハルトに警告を発し続けていた。

 彼女の傍にいる味方の目にも、近くに敵の姿は映し出されてはいない。それでもアングハルトの直感を信じ、傍にいた全員が周囲を警戒する。


「ぐわあっ!!」

「!?」


 全員が周囲を警戒し、敵の接近に備えていた。それにも関わらず、機関銃を担いでいた味方の一人が突然呻き声をあげ、地面に倒れてしまった。倒れた味方は、血が溢れ出す腹部を手で必死に押さえていた。負傷した味方の様子を見ると、明らかにそれは、刃物で腹を刺された傷口だった。

 敵はいなかった。やられた兵に近付いた不審な者もいない。それなのに、突然味方の一人が刃物で腹部を貫かれたのである。何が何だか分からないまま、負傷して倒れた兵に急いで仲間の男が駆け寄った。


「しっかりしろ!!腹をちゃんと押さえとけ!」

「ごほっごほっ⋯⋯⋯!!何かが⋯⋯⋯、俺を掴んで刺し――――――」

「喋るんじゃねぇ!今手当てを――――――」


 瞬間、駆け寄ったその兵士は、目の前で苦しむ仲間以外の気配を感じ、気配のした方へと急いで顔を向ける。顔を向けた先にはやはり何もいなかったが、違和感はあった。目に映る風景が微妙に歪んでいたのである。

 それはまるで、空間が歪んでいるかのような光景だった。空間の歪みは人の形をしていて、次の瞬間、頭と思われる部分に二つの光が出現する。

 彼は見た。突如出現した二つの光は、何者かの眼だった。こいつがそうだと直感した彼は、急いで自分の小銃を構えて引き金に指をかける。


「いたぞぉ、いたぞおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


 彼が構えたのは、弾倉を交換したばかりの突撃銃。雄叫びを上げた彼は引き金を引き絞り、フルオートで撃ちまくった。

 どんな方法を使っているのかは分からないが、相手は風景に姿を溶け込ませている。分かり易く言えば、透明になっているのだ。唯一つ確かなのは、これが敵で間違いないという事だけだ。その証拠にこの存在は、本当の姿を見せないまま逃げ出したのである。

 どうやらこの存在は、激しい動きをすると風景に溶け込めなくなるらしく、歪んだ透明のまま全力で逃げ続ける。逃げる先には、ボーゼアス義勇軍の兵士達の姿があった。そんな事などお構いなしに、逃げるその透明な背中目掛け、彼は銃を乱射する。

 雄叫びと発砲に気付き、敵を見つけた彼のもとにアングハルト達が急いで駆け付けた。彼女達は敵の姿を見つけられなかったが、それでも小銃を乱射する彼が銃口を向けた方向へ、それぞれの銃火器による一斉掃射を始めた。


「!?」


 弾倉の弾が無くなるまで撃ちまくり、弾切れとなった瞬間小銃を投げ捨てた彼は、負傷した仲間が落とした重機関銃を見つけると、急いで手に取って構え、重さや反動の事などすっかり忘れて引き金を引く。

 腰だめの射撃で、今度は重機関銃を乱射し始めた彼に続こうと、アングハルトは弾切れとなった自分の軽機関銃を捨て、装備していた突撃銃に持ち替えて乱射を始める。他の者達も二人に続き、ある者は短機関銃を二丁構えて乱射し、ある者は無反動砲を次々撃ち込んだ。


「出て来い糞ったれえええええええええっ!!!化け物めええええええ、チキショオオオオオッ!!!」


 彼女達は撃ちまくった。とにかく撃ちまくった。弾切れなど一切気にせず、見えない敵に向かって滅茶苦茶に撃ちまくったのである。爆音としか思えない激しい発砲音と、地面に落ちる空薬莢が奏で続ける金属音だけが、この戦場の音を支配する。空気は硝煙の臭いに包まれ、辺りの屍から漂う血の臭いすら掻き消してしまっていた。

 そうやって彼女達は、銃口を向けた先に鉛玉をやけくそにばら撒いた。最初に発砲を開始した男が持つ、ありったけの弾が込められていた重機関銃が弾切れとなった瞬間、ようやく全員の発砲の手が止まった。

 

 発砲を止めた全員が目にしたのは、死屍累々の光景だった。巻き添えを食らった敵の屍が地面を埋め尽くし、立っている者は一人もいない。まるで、大規模な森林伐採でも行なったかのような、圧倒的火力が生み出した光景が広がっていたのである。

 アングハルトは数名の兵に合図を送り、銃撃を行なった方向へ確認に向かわせた。仕留めたかどうか確認に向かわせた彼女は、弾切れとなった重機関銃の引き金から、やっと指を放した男に向けて口を開く。


「おい、何を見た」

「見ました、見たんです⋯⋯!」

「⋯⋯⋯何を見たんだ」

「分かりません、何かで身体を隠してた⋯⋯⋯⋯。でも見たんだ⋯⋯⋯!目だけが光っていた⋯⋯⋯⋯」

「何だって?」

「目です隊長、光魔法の様な。そいつに発砲して、確かな手応えを感じた。小銃弾三十発と機関銃弾を、一弾倉分。それでも生きていられる動物はいないはずだ、ましてあの距離で⋯⋯⋯!」


 あれを見たのはこの男だけだ。アングハルトに何を見たのか問われ、どう説明するべきか分からないあの不気味な影を、男は自分が目にしたままを言葉にする。

 男の言う通り、あれだけの一斉射撃を受けて立っていられる生き物など、この世に存在するはずがない。弾丸を掻い潜って逃げ去るのも不可能だ。


「隊長!それらしい死体が見つかりません」

「こっちもだ!転がってるのはみんな巻き添え喰らった連中です」


 それでも、死体は見つけられなかった。アングハルトの指示で確認に向かった者達は、戦闘していたボーゼアス義勇軍民兵以外の怪しい死体を見つけられず、戦慄を覚える。

 そんな中、唯一人あれを見た男は闘志を燃やしていた。目元に涙を浮かべ、仲間の仇を取ろうと誓い、重機関銃を握り締めて空を見上げる。


「見ろよ相棒、あの時と同じ太陽だ。小隊全員散り散りになって、敵の真っ只中に残ったのは俺達だけ。でも生き延びた、不死身のコンビ。生還した俺達は掠り傷一つ負ってなかった。今に見てやがれ、奴の死体にお前の名を刻んでやるぜ⋯⋯⋯⋯」

「ばっ、馬鹿⋯⋯⋯!!ごほっごほっ⋯⋯⋯⋯、勝手に殺すんじゃねぇよ⋯⋯⋯⋯!」


 敵討ちの決意は気が早かった。何故ならば、最初に襲われた彼の相棒は、腹を刺されながらもまだ生きていたからだ。

 

「ああ、糞ったれ!!いきなり刺しやがってあの野郎、ぶっ殺してやる!」

「まだくたばってねぇのか!?泣いちまっただろ恥ずかしい!」

「腹ぶっ刺されたくらいで死んでたまるか!こんなもんはな、酒ぶっかけときゃ治る!」


 襲われた男はまだ腹から血を流しながらも、取り敢えず元気だった。一安心した彼らは、負傷した男の手当てを始め、運び出すための担架を準備する。

 一方、死体の確認作業をしていた兵はあるものを発見し、何とも言えない顔をして口を開いた。


「あー、隊長。野郎を刺した奴が見つかりました」

「本当か!?」

「倒れてる奴らに紛れて、身体がばらばらになってるのがいます。運悪く、鉛玉で吹き飛んだ野郎のナニを見つけちまいました⋯⋯⋯」

「なっ!?」

「吹っ飛んだ手に血の付いたナイフ持ってるんで、たぶんこいつですよ」


 仕留め損なったと思われていた相手は、弾丸で蜂の巣どころか、ばらばらに解体されていたらしい。

 流石にあれだけの掃射を行なえば、透明になろうが何だろうが関係ない。人間であるならば確実に死ぬという事だ。アングハルト達は改めて、自分達が使っている銃器の力を思い知るに至った。

 

「⋯⋯⋯⋯やられた者はいたが、これで安心だな」

「ちょ、隊長まで俺を死んだ奴扱いですか!?」

「恐らく相手は、閣下の話にあった敵の特殊部隊だろう。姿を隠す特殊魔法の使い手と言ったところか」

「そんな事より隊長。派手にぶっ放しましたけど、さっき弾薬は節約しろって――――――」

「ごほんっ⋯⋯⋯!さあ、私達の仕事は終わりだ。後退するぞ」


 冷静に相手の分析を行ない、部下からの指摘を咳払いして誤魔化しつつ、アングハルトは自分が捨てた軽機関銃を拾い上げ、逃げる様にこの場を離れていく。そんな彼女の背中を見る一同の、「自分が一番撃ちまくってたのに⋯⋯⋯」と言いたげな視線。

 何はともあれ、彼女達のド派手で過激な戦闘は一先ず終了したのである。


 それと、アングハルト達がありったけの鉛玉で射殺したのは、彼女の分析通りボーゼアス義勇軍特殊部隊の一人である。身体を周囲の風景と同化させ、短時間ながら透明化できる特殊魔法の使い手であった。緒戦で二人の勇者が攫われたのも、この男の仕業だったのである。

 長時間透明になる事は不可能であり、この男自身の精神も安定していなかったため、能力を活かしての諜報や暗殺活動は出来なかった。透明化して相手の本陣に潜入し、敵の総大将を討ち取るなどという真似も、当然無理だった。

 こう言った理由から、この男は普段から最前線に投入され、敵前線指揮官などを暗殺する役目を担っていたのだが、今回は相手が悪かった。帝国国防軍が誇る女性兵士アングハルトに遭遇したのが、彼の運の尽きだったと言えるだろう。

 ちなみに名前はゴートと言い、片言でしか喋れない顔も姿も不気味な男だったのだが、一斉射撃でミンチにされてしまったため、名前は疎か、顔も姿も彼女達が知る事はなかった。

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