第四十二話 プレイン・バーン作戦 前編 Ⅰ
第四十二話 プレイン・バーン作戦 前編
「⋯⋯⋯はいはーい!!みんなこんばんわー!」
「無線機の前に集まっとるみんなお待ちかね!!全員集合やで!」
「今日も張り切っていっくよー!シャランドラちゃんと♪」
「イヴっちの!」
「「ヴァスティナ放送局!!」」
「この放送はヴァスティナ帝国国防軍と」
「アーレンツ通信技術開発部の提供でお送りしとるで」
「それじゃあ早速、本日のゲストをご紹介♪」
「今夜のゲストはなんとあの軍神!うちとイヴっちがずっと交渉し続けて、やっと出演に漕ぎ着けたんや」
「紹介するねー!今夜のゲストは烈火騎士団隊長、レイナ・ミカヅキちゃんでーす!!」
「ほらレイナっち、挨拶するんやで」
「⋯⋯⋯⋯⋯こっ、こんばんは」
「恥ずかしがちゃって可愛い♪」
「なんやレイナっち、ここまできて緊張しとるん?」
「⋯⋯⋯⋯⋯やっぱり出なければよかった」
「後悔早くない!?」
「しゃあないやんレイナっち。元々はレイナっちがこの前怪我したのが原因なんやから」
「勇者たち助けて怪我したのに責任感じて、どんな罰でも受けるなんてリック君に言っちゃうからだよ」
「⋯⋯⋯⋯⋯恥ずかしくて死にたい」
「もうちょい頑張ってやレイナっち。でないとゲストで出た意味なくなってまうわ」
「そうそう。ところでレイナちゃん、怪我の方はもういいの?」
「大した怪我ではない。閣下には大事をとって休むように厳命されているがな⋯⋯⋯⋯」
「あれから今日で三日目やったか?レイナっちが戦えん時に敵が来なくてよかったわ」
「ほんとだよね。助けた日から今日まで、敵さんたち何もして来なかったもんね」
「だが、そろそろ敵も動き出すはずだ。その時は我が槍に懸けて、ボーゼアス教を討つ」
「流石レイナちゃん、カッコいい♪」
「しかも可愛いときたもんや。こりゃあまたファンクラブ会員が増えてまうわ」
「揶揄うな」
「まあでも実際さあ、同盟軍全体に広まってるよね。レイナちゃんの話」
「!?」
「そうなんよ。軍神なんて呼ばれてっから目立つのは当然なんやけど、実際強いやん?そんで美少女やし、おまけにこの前は勇者を助けてもうたから、同盟に参加しとる兵隊はみんなレイナっちに興味津々らしいで」
「!?!?」
「昨日なんかレイナちゃん宛てに大量の手紙届いてたよね。特に王国軍から」
「そうそう。勇者助けたことへの感謝とか、槍の指南して欲しいとか、ファンクラブ会員になりたいとか、レイナっちへの愛を書いた手紙もあったわ」
「手紙だと!?そんな話は聞いてないぞ!」
「だって言ってないもん。放送で暴露した方が面白いし」
「レイナっちを羞恥で悶絶させる方が放送的に人気出るやろ?ちなみに、届いた手紙はうちらが大切に保管しとるで」
「後で保管場所を教えろ。残らず灰にする」
「そう言うと思ったから黙ってたんだよ♪」
「ほんま、イヴっちって悪魔やわー」
「じゃあそろそろ、いつものやつ始めよっか」
「せやな。みんなお待ちかね、お便り相談の時間やで」
「⋯⋯⋯⋯よいしょっと。ふう~、いっぱいあるね」
「今晩もこの手紙の山から、みんなのお悩み相談やってくで。レイナっちも相談に答えてやってな」
「⋯⋯⋯⋯あまり自信はないぞ」
「では!記念すべき今日の一枚は⋯⋯⋯⋯⋯、これだ!」
「さーて、毎度同じくイヴっちがてきとーに選んだ手紙なんやけど、今回はどんなお悩み書かれてるんやろ」
「まず最初のお便りはペンネーム、アンちゃんさんからのお悩み相談。今度、私は愛する男性とデートの約束をしました。その男性とデート自体は初めてではないのですが、こういった経験が浅いせいか、デートの計画を練る時はいつも非常に悩んでしまいます。次のデートはこういった事がないよう、計画を立てるのに役立つ助言を頂きたいと考え、思い切ってお便りを送りました。御二人とも、どうか宜しくお願い致します」
「⋯⋯⋯⋯イヴっち、これセリ―――――――」
「シャランドラちゃん!それ以上言っちゃダメ!」
「お悩みはデートの相談か⋯⋯⋯⋯。このアンちゃんさんという女性は、とても真面目な性格らしい」
「れっ、レイナっち?惚けて見せとるんやなくて本気で言っとるん?」
「?」
「さっ、さっすがレイナちゃん、純情というか鈍感というか⋯⋯⋯⋯⋯」
「とっ、ともかくや!お便り送ってくれたアンちゃんの悩みに答えていこうや」
「そっ、そうだね!こういう乙女の悩みは僕に任せて」
「いや、待て。お前は男だろう?」
「なに言うてんのやレイナっち。イヴっちは見た目は美少女、心は乙女な女の子なんやで⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯、あれ?」
「偶に忘れそうになるんだが、イヴは男だぞ」
「そっ、そうやった⋯⋯⋯⋯⋯。今ほんまに忘れとったわ」
「気にしない気にしない!それよりこのお悩みなんだけど、シャランドラちゃん的にはどう思う?」
「う~ん⋯⋯⋯⋯、別に悩むことなんてないんちゃう?」
「どういう意味だ?」
「計画なんて練らんでも、アンちゃんと一緒なら相手の方もそれだけで満足なはずや。行き先とかどう過ごすかなんて、その時の気分でええんちゃう?」
「わおっ!シャランドラちゃん真理ついてきたね」
「そういうものなのか?私にはよく分からない⋯⋯⋯⋯」
「あー、レイナっちってデート経験少なそうやもんな」
「じゃあじゃあ、試しに今度僕とデートしてみる?」
「断る」
「うち的には、アンちゃんなら作戦とかいらんと思うんやけど、イヴっち的にはどうや?」
「僕も必要ないと思うなー。もう正面から全力突撃でいいと思う」
「ありゃ?イヴっちはもっと計画的に攻めると思ったんやけど」
「アンちゃんの場合必要なのは、計画じゃなくて格好なんだよね」
「格好?服のことか?」
「服だけじゃなくて、お化粧とか髪型とかもね。相手を悩殺するデート姿こそアンちゃんに足りないものってわけ」
「なるほど、そういうことなんか。確かにアンちゃんって、私服とか化粧道具とか全然持ってへんかったわ」
「でしょでしょ!アンちゃんがばっちりお化粧決めて清楚系美人服で攻めたら、僕だったら一発で落ちるね」
「私は⋯⋯⋯、計画を立てた方がいいと思う」
「意外やなレイナっち。レイナっちは考えるな感じろの人間やろ?」
「そうだよね。作戦なんかどうでもいいから玉砕覚悟で突っ込め、とか言うと思ってた」
「私をライガと一緒にするな。帝国一の馬鹿と一緒など心外だ」
「レイナっち、さらっと酷いこと言うたな⋯⋯⋯⋯」
「別にいいんじゃない?だって馬鹿なのは事実なんだし」
「イヴっちも酷ない!?⋯⋯⋯⋯まっ、馬鹿やから別にええか」
「でっ、レイナちゃんはなんでそう思ったの?」
「デートというのはつまり⋯⋯⋯⋯、男女が過ごす特別な時間なのだろ?もしそれで失敗するようなことがあったら、二人の関係が危うくなるかもしれない」
「あの二人に限ってそんなことはないと思うんやけど、普通ならそうかもしれへん」
「デートで失敗して別れちゃう人とか多いって聞くしね、案外レイナちゃんの言う通りかも」
「だからこそ、こんな大切なことには万全を期すべきだ。計画に悩むアンちゃんさんの気持ちはよく分かる。それに⋯⋯⋯⋯」
「それに、なんや?」
「⋯⋯⋯計画しておかないと、失敗するんじゃないかと不安になる」
「出た、レイナちゃんの後ろ向き思考」
「レイナっちらしいわ。そんでデート中もずっとびくびくするんやろ?」
「悪いか⋯⋯⋯⋯。それよりお前達、お便りをくれたアンちゃんさんのことに詳し過ぎないか?」
「さっ、さーて!レイナっちからの意見も出たわけやし、イヴっちそろそろまとめてや!」
「まっ、任せて!デートでお悩みのアンちゃんさん、大切なのは心だよ心!愛する想いさえあればなんとかなる、以上!!」
「なにもまとめられていないぞ⋯⋯⋯⋯⋯」
『⋯⋯⋯というわけで、次のお便りは――――――』
ランプの明かりによって照らされた天幕内。室内に設置されたテーブルの上には、鉄製の箱のようなものが置かれており、箱にはスピーカーのような装置が取り付けられている。その装置は紛れもなく一種の拡声器であり、拡声器からは三人の少女による会話が発せられていた。
この天幕内には、ベッドの上で横になって毛布を被り、拡声器から聞こえる声に耳を傾けている男が一人いる。その男の傍には、椅子に腰かけた黒い軍服姿の少女が一人。少女は心配する視線を男に向けていたが、男の方は拡声器から聞こえる話を楽しそうに聴いていた。
「けっこう人気らしいな、この放送」
「無線機から流れる放送を聞きに、我が軍の兵だけでなく各国の兵までが集まっているようです」
「そいつはいい。帝国の技術力がどれだけ進んでるのか、聞きに来た連中に広めて貰おう」
ベッドの上で放送を聞いている男の名は、リクトビア・フローレンス。親しい者はリックと呼ぶ。帝国の狂犬の異名を持つ、ヴァスティナ帝国国防軍の最高司令官だ。
彼の傍にいるのは、帝国国防軍親衛隊隊長ヴィヴィアンヌ・アイゼンリーゼである。軍帽を被り、右眼を眼帯で隠す彼女は、ベッドで横になる彼の身を案じてここにいる。
帝国国防軍の勇者救出作戦から三日が過ぎた。
あれからボーゼアス義勇軍が動き出す事はなく、散発的な戦闘も発生しないまま、グラーフ同盟軍と睨み合いが続いていた。
両軍とも、三日前の戦闘で損耗した戦力の再編成を進めており、次の戦いに備え続ける日々を、ここクレイセル大平原で過ごしている。リック率いるヴァスティナ帝国国防軍もまた、敵戦力との決戦に備えた準備を着実に進めていた。
兵の多くは戦いに備えて体力を温存している。だがリックは立場上、多くの軍務を行なう必要があり、この三日間多忙な毎日を過ごしていた。その疲れが出たせいで体調を崩し、今日の昼間に突然熱を出して倒れてしまったのである。
倒れてしまったリックを、彼専用の天幕まで連れてきて、このベッドで寝かせて介抱したのヴィヴィアンヌだった。彼女の介抱を受けたリックは、それからずっとベッドで休んでいたのである。
「⋯⋯⋯⋯明日は各国軍の代表者同士が集まる軍議の日ですが、やはりここはメンフィスに任せ、閣下はお休みください」
「ちょっと熱が出て倒れちゃっただけだから平気だって。寝れば明日には治ってるよ」
「それで無理をなさってまた倒れられたら―――――」
「大丈夫。エミリオもついてるし、軍議の時間俺は座ってるだけでいい。楽な仕事さ」
ヴィヴィアンヌの言う通り、明日はグラーフ同盟軍に参加している各国軍の代表者が集まり、ボーゼアス義勇軍との決戦に向けた作戦会議を行なう予定である。この作戦会議には、当然の事ながらリックも参加しなくてはならない。
彼に無理をさせまいと、ヴィヴィアンヌは軍議への参加を止めるよう勧めるが、リックはそれを拒む。自分が出る必要がある、重要な会議と考えているからでもあるが、彼女を安心させたいという想いもあるのだ。
今日リックが倒れてしまったのは、日々の疲れだけが原因ではない。ヴィヴィアンヌが彼と初めて出会った頃と今では、彼の身体にどうにもできない問題があるのだ。
リックは以前、当時敵だったヴィヴィアンヌに捕まったのをきっかけにして、彼女の国の諜報機関に拷問を受けた。その時リックは、拷問官の男達に暴行され、用意された自白剤等の薬物を投与されたのである。その後彼は無事救助されたが、薬物でぼろぼろとなった身体でヴィヴィアンヌと戦うために、肉体強化のドーピングを過剰投与した。
普通なら死んでいたはずだが、リックは奇跡的に一命を取り留めた。しかし、命が助かった後も、薬によって蝕まれた身体は彼を苦しめ続けている。彼が突然倒れてしまったのも、一番の原因はそれだった。
自分のせいでリックがこうなってしまったと、今もヴィヴィアンヌは責任を感じ続けている。リックが大丈夫だと言って振舞うのは、責任を感じている彼女の気持ちを察しての事だ。自分は大丈夫だと、彼女を安心させてやりたいのである。
「もし⋯⋯⋯⋯、軍議中に体調が優れないようであれば⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯わかった。その時は必ずお前に知らせる」
説得を諦めたヴィヴィアンヌに、彼女を安心させようと微笑するリック。そんな彼の微笑に安心など覚えず、彼女は溜め息交じりの顔で放送に耳を傾けた。
『⋯⋯⋯⋯⋯ところで、レイナちゃんって食べ物で好き嫌いとかあるの?』
『唐突だな』
『うちも気になるな。レイナっちってなんでも食べる印象やもん』
『好きなものは沢山あるが、嫌いなものは特にない』
『レイナちゃんって虫とかも平気で食べるもんねー⋯⋯⋯』
『イヴっちは知らんやろうけど、レイナっちは暴竜の肉すら喰おうとしたくらいなんやで』
『あれは残念だった⋯⋯⋯⋯。次に仕留めた時は必ず食して見せる』
『仕留める前提なんだ、暴竜を⋯⋯⋯』
『普通、竜を食べるために倒そうとか考えんやろ』
放送を聞いていたヴィヴィアンヌは、鋭い眼光と威圧感を放つ普段の表情を崩し、口元に少し笑みを浮かべていた。
ヴィヴィアンヌは軍務に就いている時、常に厳しい軍人という印象を周囲に与える。だがリックやレイナなど、彼女が心を許せる相手の前では、こうして笑みを見せる事がある。微笑む彼女はこの瞬間、普段は見せない己の美しさを露わにするのだ。
「同志は面白いことを言う⋯⋯⋯⋯。閣下、同志は本当に暴竜を仕留めたのですか?」
「俺とクリスも一緒でな。レイナとクリスに出会って間もない頃、三人がかりでなんとか」
「知りませんでした。そのような無茶、二度とないように」
「わっ、わかってるって、もうしないから⋯⋯⋯⋯⋯」
昔のような無茶をリックにはさせない。彼を護衛する親衛隊隊長のヴィヴィアンヌは、時に過保護なまでにこれを徹底している。
ヴィヴィアンヌに釘を刺されてしまい、リックは彼女から顔を逸らしながらも答えた。顔を逸らすのは、不満の顔を彼女に見せないためだ。
すると、ヴィヴィアンヌは椅子から立ち上がり、横になっているリックに向かって顔を近付けた。何事かとリックが顔を向き直すと、次の瞬間、突然彼女は自分の唇を彼の唇に重ねたのである。
「!?」
触れた唇から伝わる柔らかな感触。冷酷で氷のような軍人だが、本当の姿は黒髪がよく似合う美少女。その美少女が彼と重ねた、柔らかで優しい接吻。永遠に重ねていたいとさえ思えるその感触に、彼は抗う事が出来ず、胸の鼓動を早めながらその身を委ねた。
五つ数えるほどの時が流れ、彼女はそっと唇を離した。唇を離した彼女は、彼に向かって顔を近付けたまま、静かに口を開く。
「嘘が下手ですね」
ヴィヴィアンヌの瞳は、真っ直ぐリックの瞳を見つめていた。
軍服に身を包み、軍帽を被り、右眼を眼帯で覆っても、彼女の美しさは隠し切れない。目の前で妖艶な笑みを見せて自分を見つめる彼女に、リックは目を離せず息を呑んだ。
「貴方の心は読み易い。私の注意を聞くつもりがないのはお見通しです」
心を読んだ彼女の言葉が、記憶にある大切な女性との思い出と重なり、リックは懐かしさを感じていた。
驚くと思っていたヴィヴィアンヌは、予想していた反応と違ったために首を傾げる。
「メシア⋯⋯⋯⋯」
ヴィヴィアンヌを見つめながら、リックは無意識にそう呟いた。ヴィヴィアンヌの口にした言葉が、記憶の中に生きる彼女の姿と重なったのだ。
心を読み易いと、最愛の女性によく注意されていた。彼女がこの世を去ってからは、誰にも言われる事のなかった言葉。自分の弱点を知るヴィヴィアンヌの姿が、最愛の彼女と重なって離れない。
「⋯⋯⋯⋯言ったでしょう。私が、メシアの代わりになると」
そういう事かと悟ったヴィヴィアンヌが、彼にとって最愛だった女性の名を口にする。
ヴィヴィアンヌではなく、記憶と重なったメシアの影を求め、リックはゆっくりと右手を伸ばしていく。そして彼の右手は、ヴィヴィアンヌの頬に触れようとして動きを止めた。
「⋯⋯⋯⋯彼女の代わりはいらない」
伸ばした右手を下ろし、リックは目を伏せた。
代わりはいらないと、そう告げられたヴィヴィアンヌは、妖艶な笑みを崩さず再び口を開く。
「我慢はお辛いでしょう?私なら、失われてしまった彼女の代わりになれます」
言葉にした通り、メシアの代わりになれと言われれば、喜んでそうなる。ヴィヴィアンヌはリックに、自分の全てを捧げているのだ。だからこそ、平気で自分を代用品扱いする事が出来る。
拒む彼の反応を、ヴィヴィアンヌは我慢と呼んだ。するとリックは、彼女の言葉でむっとした表情を浮かべ、目の前にあるヴィヴィアンヌの額を中指で弾いた。
「っ!?」
「阿保。誰が我慢してるって?」
突然のデコピンに怯み、思わず頭を上げたヴィヴィアンヌが、弾かれた自分の額に手を当てた。まさかこんな事をされるとは思わず、目を丸くした彼女の瞳がリックを見る。
「メシアはメシア。お前はお前だろうが」
「⋯⋯⋯!」
「お前にそういうのは求めてない。ついでに言うと、お前じゃメシアの代わりになんて絶対なれない」
「⋯⋯⋯⋯何故ですか?」
「だってお前、メシアは銀髪褐色肌の長身巨乳美人だぞ?どう足掻いても無理だろ」
それを聞いたヴィヴィアンヌが、堪え切れずにふっと吹き出して、声を殺さず笑い出した。
今度はリックが目を丸くする番だった。何故なら彼は、ヴィヴィアンヌが人の目を気にせず笑い声を上げる姿を、今まで見た事がなかったからだ。
「ふふふっ⋯⋯⋯。私の誘惑をあしらうは、額を弾くは、おまけにそんな説明を恥ずかしげもなくするとは⋯⋯⋯⋯」
「いいだろ別に。だって事実なんだから」
「貴方が愛したメシアについて、少し興味が湧いてきました。詳しく聞いてみたいですが、そろそろお休みになって頂きます」
毛布に手をかけて綺麗にかけ直し、リックを寝かせようとするヴィヴィアンヌ。傍を離れようとする彼女は、未だ放送を続けている無線機を切ろうとした。
『レイナちゃんて、普段は白なんだっけ?』
『なんの話だ?』
『赤やないって聞いたで。黒とか持ってへんの?』
『だから、なんの話だと聞いている』
『なにって、レイナちゃんの下着の色』
『!!』
『今日は何色なん?うち的には、赤でえっちなの着たレイナっちの姿見てみたいんやけど』
『だっ、誰が教えるものか!!』
『えー、いいじゃん教えてよー♪』
『教えてくれたら今度エステランの高級料理店たらふく奢ってもええけど、どないする?』
『高級料理、だと⋯⋯⋯!?』
今この瞬間無線機の前にいる、特に男達は、誘惑に揺れるレイナの決断を固唾を呑んで待っていた。
当然リックもその一人だったが、ヴィヴィアンヌの無慈悲な手が無線機の電源に迫る。
「待った!!今切られたら下着の色が――――――」
「いけません」
果たして、レイナの今日の下着は何色か。
欲望のままに動く彼の願いは届かず、肝心なところが聞けぬまま、放送は切られてしまったのである。




