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第四十話 破壊の神 Ⅳ

「勇者の秘宝は?」

「はい。あの二人から取り上げ、別の場所で厳重に保管しております」


 真夜と華夜が捕らわれた天幕を後にしたオズワルド。天幕の外で彼を待っていた、ボーゼアス義勇軍参謀のハンスと二人、勇者の秘宝について話しながら、護衛を連れて陣地内を歩いていた。

 彼らの周りでは、ボーゼアス義勇軍に参加している兵士達が、松明や焚火が放つ灯りに集まって、今日の戦闘の事を話しながら座って食事をしたり、温かい紅茶や珈琲を飲んで休息を取っている。それらを眺めながら歩くオズワルドの姿に気付いた者が、時折慌てて立ち上がって直立しようとするが、彼は「私に構わず休息を続けたまえ」と言って止めさせた。


「勇者を捕らえられたのは幸運だ。お陰で我が軍の士気は上がり、伝説の秘宝を手に入れた」

「ですが、あの秘宝は勇者にしか使用できない様子。一体どんな仕組みなのか疑問です」

「それは勇者が口を割れば分かる事だろう。あの兵士達にはどちらも殺さず、姉の方を徹底的に辱めろと命令したからな」


 オズワルドの命令は冷酷で、そして的確だった。

 真夜と華夜。二人の姉妹を観察したオズワルドは、真夜よりも華夜から情報を引き出せると考えた。その理由は、華夜の弱点と恐怖心を利用できると直感したからだ。

 一見、情報を引き出すならば、華夜を人質にして真夜を脅す方が簡単に思える。だが真夜は、自分達の置かれた状況と自分達の価値をよく理解している。そして彼女は、自分達が使っている秘宝の力の脅威も、その身で理解していた。

 賢い彼女ならば、一度情報を吐いてしまったら最後、勇者としての自分達の価値は失われ、どんな末路を迎えるか予想ができる。それに、秘宝の力の使い方を教えてしまえば、強力な力を敵に利用される事になり、櫂斗や悠紀、更にはアニッシュにも危険が及ぶ。敵が求める情報を一度口にしてしまえば、自分達に未来がないと分かっているのだ。

 華夜を人質に多少脅した程度では、真夜が情報を吐く事はない。吐かせる事ができたとしても、長い時間を必要とする可能性があった。そこでオズワルドは、真夜ではなく華夜に狙いを定めたのである。


 華夜はこの状況の全てに怯え、真夜以外の全ての人間にも怯え続けている。何もかもに恐怖する彼女ならば、少し脅すだけで全て話してしまいそうだが、全てに怯える以上に、彼女は全てに絶望していた。

 自分達に待ち受ける結末。この戦争の行くへ。多くの人間の死。全てが彼女にはどうでもいい事なのである。この世界には、自分と真夜だけが存在していれば、その他には何もいらないとさえ考えている。そして彼女は、そんな自分自身を嫌い、姉の寄生虫として生きる己の人生にすら絶望している。

 脅されるのは恐い。痛いのも苦しいのも恐い。だが、その状況から助かりたいと思う気持ちが、彼女には決定的に欠けている。彼女は恐怖を嫌うが、恐怖から逃れようとする勇気を持たないのだ。例え拷問されたとしても、恐らく彼女は泣き叫ぶばかりで、肝心の情報を口にする事はないだろう。

 

「何故、片方だけを襲わせたのです?それも拷問ではなく陵辱とは」

「私の直感なのだが、あの姉妹は特殊な関係なのだろう。どちらが欠けても生きられない、二人で一つの存在という事だ」

「ああ、なるほど。通りで姉の方は妹に必死なわけか」

「お互いが自分ではなく血の繋がった姉妹を大切に思っている。姉の方を兵に犯させれば、あの無口も少しは口を開くと思ったのだよ」 

 

 痛みが駄目なら、心を壊すまで。それがオズワルドの考えだった。

 ある程度予想ができる拷問の苦痛より、目の前で大切な存在が犯される事の方が、華夜に想像を絶する衝撃と恐怖を与える事ができる。初めて経験する、想像した事もない恐怖から逃れようとして、思わず口を開くかもしれない。


「軽蔑するかね?」

「いえ。本来、汚れ仕事は我らの役目。軽蔑などできるはずがありません」

「気にする事はない。グラーフ教を滅ぼすと誓った日から、己の手を汚す事を厭いはしないと決めている」


 オズワルドの心に野心はない。ただ彼は、ローミリア大陸真の支配者グラーフ教を、この世から滅亡させる事だけを望んでいる。

 そのためならば、例え自分の手を汚す事になろうと、どんな非情な手段を取る事になろうと、どれだけの犠牲を払う事になっても、必ずやり遂げて見せると誓っている。払う犠牲には、自分の命まで懸けているのだ。


「グラーフ教が⋯⋯⋯⋯。いや、あの女神が存在している限り、この世界に平和が訪れる事はない。女神を倒さぬ限り、人々は永遠に争い続けるだろう」

「一体何者なのでしょう?伝説では永劫を生きる女神だとか」

「だとすれば女神は不老不死。にわかには信じ難い話だがね」


 グラーフ教を滅亡させるには、グラーフ教の支配者たる女神を倒さなくてはならない。それが、新興宗教ボーゼアス教を率いる、教祖オズワルドの真の目的である。

 彼の真の目的を知る者は、ボーゼアス教勢力の中でも極僅かであり、ハンスはその数少ない者の一人だ。国の平和を望んで、ジエーデル国総統バルザックの政策を批判していた、元ジエーデル軍兵士のハンスは、国に命を狙われた人間だった。命辛々国から逃げ出し、逃亡先でオズワルドに出会い、現在に至る。

 ハンスはバルザックの独裁体制を批判していた一方で、偶然にも独裁者バルザックの秘密と、この世界を裏で支配する女神の存在を知ってしまった。ローミリア大陸に平和をもたらすためには、バルザックとグラーフ教の女神を倒さなくてはならない。オズワルドと同じ考えだったハンスは、彼の同志となり、大陸の平和のために共に戦うと決めたのである。


「不老不死だろうと関係ありません。例え殺せずとも、女神さえ捕らえてしまえばグラーフ教は滅亡します」

「その通りだ。ところで、あの独裁者の正体は裏付けできそうかね?」

「アーレンツが滅亡し、保管庫が灰になってしまった今となっては、決定的な情報を得る事は出来ませんでした」

「やはりそうか⋯⋯⋯。あの男の事だ。保管庫以外で自分に繋がる存在は、既に始末し終えているだろう」

「ご期待に沿えず申し訳ありません。総統バルザックさえ引き摺り下ろせれば、ジエーデル軍は簡単に瓦解するというのに⋯⋯⋯⋯」

「君はよくやってくれている。もとより証拠を掴むのは困難だったのだから、君が悔やむ事はない」


 ハンスが秘密裏に調査していた、総統バルザックの秘密を裏付ける証拠の回収。それさえ掴めば、ボーゼアス義勇軍の対ジエーデル戦は、戦わずして勝利を得る事さえ可能だったかもしれない。現在、大陸中の国家を敵にしている彼らにとって、それだけの価値ある証拠は、喉から手が出るほど得たいものであった。

 しかし残念ながら、証拠を得る事は叶わなかった。ハンスは己の力不足を恥じているが、オズワルドは彼の働きを称賛する。


「バルザックの弱点を得られなかったのは残念だが、今後の作戦に変更はない。我々にはまだ切り札がある」

「はい。後方からの輸送が遅れてはおりますが、総力戦までには必ず間に合わせます」

「あれさえ起動できれば、ボーゼアス義勇軍は無敵の軍隊と化すだろう。切り札の準備を最優先に進めたまえ」

「了解致しました」


 圧倒的な兵力を有するボーゼアス義勇軍には、オズワルドが用意した切り札が存在する。それは、戦局を左右する決戦兵器であり、ホーリスローネ、ゼロリアス、ジエーデル、そしてヴァスティナの軍隊に対しての、最大最強の戦力である。

 クレイセル大平原を決戦の地としたのは、この兵器を使用するのに最適な地形だったからだ。これさえあれば、グラーフ同盟軍がどれだけの戦力を搔き集めようと、何も恐れる事はない。この戦争で確実な勝利を得るため、オズワルドは切り札の準備を急がせる。それだけの価値が、その兵器にはあると信じているのだ。

 教祖オズワルド・ベレスフォードにとって、この戦争はローミリア大陸に真の平和を取り戻す聖戦。

 これが平和のための戦いだと、己が手を真っ赤な血で染めていきながら、彼はそう信じ続けている。










 この世界でたった二人の、血の繋がった姉妹。唯一無二の妹にだけ優しく、変わらぬ深い愛情を注ぐ彼女の姉は、今彼女の目の前で男達に強姦されようとしていた。

 華夜はその目で見ているだけだった。拘束されていた縄を解かれ、両手両足を男達に捕まれ、身動きできずに怒り叫ぶ真夜の姿。華夜はその様を、何もできずにただ見ている。


「いい加減諦めろ。お前は俺達の玩具になる運命だ」

「うるさい!!殺す⋯⋯⋯、殺してやる⋯⋯⋯⋯!」

「おおー、恐い恐い。妹ちゃんの方はあんなに大人しいのにな」

「華夜!!早くここから逃げて⋯⋯⋯⋯!」


 体を暴れさせて必死に抵抗しながら、大切な妹の身を優先し、華夜に逃げろと叫び続ける真夜。だが華夜は、目の前で行なわれている光景に衝撃を受け、あまりの恐怖に身が竦み、体が全く動かない。逃げられない彼女はそのままに、真夜への強姦は続けられる。


「へへっ、こいつは中々お目にかかれない上玉だな」

「俺としちゃ、あっちの妹の方が好みだがな。ああいう女は壊し甲斐があるんだ」

「どっちも下衆だなおい。こちとら溜まってんだから、女とやれるならどっちでもいいぜ」

「ならさっさと服脱がせよ。こっちは押さえつけるので両手塞がってんだ」


 男達は己の欲望に従い、暴れる真夜の身体に手を伸ばす。欲望の赴くまま伸びる、いくつもの男達の魔の手。瞬間、得体の知れない恐怖を感じた真夜の心は、怒りを忘れ、恐怖と絶望に支配されていく。


「やめろ⋯⋯⋯⋯!私に触るなああああああああっ!!」


 それは真夜が初めて上げた悲鳴だった。今この瞬間、彼女は完全に男達を恐れ、堪え切れずに悲鳴を上げたのである。

 悲鳴を上げたところで、誰も助けには現れない。彼女の悲鳴は、女に飢えた男達の興奮を誘うだけ。そう誰もが思った瞬間、信じられない事が起きた。

 悲鳴を上げた真夜のもとに現れた、小さな光る物体。放たれた弾丸のような速さで、外から天幕内に飛び込み、眩い赤い光を放って彼女の左手に収まる。男達は光の眩しさに視界を奪われ、思わず真夜の拘束を解いてしまう。

 光が収まった瞬間には、物体は彼女の左手の中で形を変え、勇者の武器たる聖弓へと変貌していた。天幕内に飛び込んできた光る物体の正体は、真夜が所持する勇者の秘宝だったのだ。


「近寄らないで!!来ないでええええええええっ!!」

「おい嘘だろ!?秘宝が飛び込んできやがった!」


 まるで、使い手である真夜の窮地に駆け付けたかのようであった。赤く輝く真夜の秘宝は、聖弓に姿を変えて彼女の左手に収まっている。恐怖に駆られている真夜は、男達を払い除けようと、握る弓を乱暴に振り回し、悲鳴を上げ続けていた。

 別の場所で厳重に保管されていたはずの秘宝は、保管場所を飛び出して突然現れた。突然の信じられない事態に男達は驚愕し、真夜と彼女が握る聖弓を警戒する。

 今ならば聖弓の力を使って、この場から逃げ出す事ができるかもしれない。しかし今の彼女は、男達に抱いてしまった恐怖に心を支配され、普段の冷静さを完全に欠いていた。助けに現れた聖弓の力を振るおうとはせず、ただ弓を棍棒のように振り回すばかりである。


「ふんっ!!」

「うっ⋯⋯⋯!?かはっ!!」


 暴れる彼女を止めたのは、容赦なく振り下ろされた男の拳だった。拳が真夜の腹部に振り下ろされ、一瞬呼吸が出来なくなった彼女が、激しく咳き込みながら殴られた腹を手で押さえる。


「ごほっごほっ!!うっ、おえっ⋯⋯⋯⋯⋯!」

「ったく、びびらせやがって。まさか秘宝が勝手に飛んでくるとはな」

「ああ、びっくりだ。後で教祖様に報告しねえと」


 あまりの苦痛に弓を手放し、腹を抱えて苦しそうに呻く真夜。冷酷な男達は、容赦なく再び彼女を押さえ付け、男の一人が彼女の両足を掴み、無理やり股を開かせる。

 辛抱堪らず、真夜の腕を押さえた別の男が、彼女の顔に覆い被さるように自分の顔を近付けて、唾液塗れの舌を出し、彼女の首や頬をいやらしく嘗め回す。力尽くで男達に犯されそうになる恐怖感と、無理やり自分の身体を嘗め回される不快感が、一度に真夜を襲う。恐怖と不快感に顔を歪め、男の行為から逃れようとするが、拘束された彼女に逃げる術はない。

 嫌がる真夜に益々興奮した男は、今度は彼女の唇に無理やり自分の唇を押し付けた。男は真夜の唇を奪い、彼女の口内に自分の舌を捻じ込もうとする。舌を絡ませまいと、もがきながら口を固く閉じ続ける真夜だったが、男に鼻をつままれてしまい呼吸ができず、息が続かなくなってしまい口を開けてしまった。

 待ってましたと言わんばかりに、次の瞬間には男の舌が彼女の舌を捕まえる。口の中に捻じ込まれた男の舌が、彼女の口内で生き物のように動き回る。互いの舌が絡み合う中、あまりの気持ち悪さに嘔吐しそうになり、男の舌から逃れようと彼女は歯を立てた。


「⋯⋯⋯っ!このアマっ!!」

「ぐっ⋯⋯⋯!」


 舌を噛まれて傷をつくり、口から少し血を流した男が、怒りを露にして真夜の頬を力任せにぶった。赤く腫れ上がる彼女の頬。痛々しいその顔を見ても、男達の行為は全く止まらない。


「顔は止めろよ、顔は。萎えちまうだろうが」

「仕方ねえだろ!こいつ俺の舌を噛みやがった」

「調子に乗るからそうなるんだよ。そういうのは大人しくさせてからの楽しみだろ」


 男達は彼女の服に手をかけると、上も下も関係なく乱暴に服を引き裂き始めた。着ている服を破かれ、男達の目の前で彼女の下着が露わになる。彼女にとって最後の砦とも言うべき下着に、欲望に満ちた男達の魔手が迫った。

 

「きゃあああああああああああああっ!!!」

「やっと女らしい悲鳴を上げたか!無茶苦茶暴れやがって、大人しくしやがれ!」


 普段の彼女からは想像もできない、甲高い乙女の悲鳴。恐怖に耐えきれず悲鳴を上げ、手足をばたつかせて暴れるが、男達の腕力を振りほどく事は出来ない。

 暴れる彼女を大人しくさせようと、男の一人がまた彼女の頬を殴る。恐怖と痛みに遂に涙まで流した彼女の悲鳴が、外まで聞こえるほど天幕の中で響き続けた。

 

「誰か!!誰か助けて!!いやあああああああああああああああああっ!!!」


 その穢れなき体を男達の前に晒され、今まさに慰み者にされようとしている真夜。

 泣き叫ぶ彼女の姿を前にして、言葉を発しようとする華夜の口が静かに開いた。

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