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第三十九話 戦場の支配者たち Ⅵ

「総攻撃だ!!火力を前面に集中し敵主力を撃破せよ!」

「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」」」」


 最前線で指揮を行ないながら戦う、ヴァスティナ帝国国防軍第一戦闘団隊長アングハルトは、全軍に総攻撃を指示した。

 既にグラーフ同盟軍は、正面前線に戦力を集中しており、一気に勝負を決めるつもりでいる。更には、第一戦闘団の本隊も続々と到着し、総攻撃の戦力は全て揃った。帝国国防軍の支援砲撃によって、敵軍は大混乱に陥ってもいる。仕掛けるならば、今を於いて他になかった。

 

「グラーフ同盟軍の英雄達よ!!総攻撃を開始せよ!!」

「任せろおっさん!!オレも一緒に行くぜ!!」

「頼もしい限りだ戦友!!イカルガよ、共に勝利を掴むのだ!!」

「よっしゃあああああああああああああっ!!!行くぜええええええええええええええっ!!!!」


 相変わらず馬鹿に五月蠅い二人も、兵の先頭に立って総攻撃に参加する。アングハルト率いる第一戦闘団と、ライガと共に戦場を駆けるジェラルド、そして彼が率いる同盟軍は、勝利に向けて突撃する。

 最前線の味方が敵との数の差に怯まず、苦しい勝負を戦い抜いたからこそ、総攻撃を行なえるチャンスを掴んだ。この最後の攻撃を戦い抜けば、もう少しで勝利を得る事が出来る。数任せに突撃していたボーゼアス義勇軍は、反撃を開始したグラーフ同盟軍に、前線を完全に押し返されている。突撃の限界を迎えた彼らには、同盟軍を押し戻すだけの力は、もう残っていなかった。

 どうにか士気を維持し、必死に抵抗を続けるボーゼアス義勇軍。ほんの一瞬、必死の抵抗で一時的に突撃を停止させても、彼らの抵抗は第一戦闘団の戦闘車輌部隊によって、尽く撃破されてしまう。このような状況で頼みの綱となるはずの、彼らの所有する魔法兵部隊は、第一戦闘団の迫撃砲や帝国国防軍本隊の砲撃により、壊滅的損害を受けている。今のボーゼアス義勇軍には、この劣勢を覆せるだけの手段は、何一つ残っていなかった。


「攻撃の手を緩めるな!戦車部隊も前進させろ!」


 第一戦闘団の指揮を執るアングハルトは、弾切れとなった自身の機関銃を地面に捨て、装備していた突撃銃を手に取って、向かってくる敵兵に対し連射射撃で応戦する。

 彼女はこの場の第一戦闘団と同盟軍の戦力で、敵主力の撃滅を計っていた。彼女達が戦っている敵戦力は、まだ集結途上の戦力であり、本隊はまた別にいる。だがここで、現状の敵主力を完全に叩いておかなければ、いずれ到着する本隊と合流され、最終的な敵戦力が増大してしまうのだ。

 この戦いは、後に行なわれるだろう両軍の決戦の前に、互いの戦力をどこまで減らせるかを競う、非常に重要な戦闘である。この戦いの勝者こそが、後の決戦の流れを掴む事が出来るのだ。その事を理解しているアングハルトは、後の決戦に向けて全力で戦っている。アングハルトも、彼女に従う兵士達も、来るべき未来で勝利を掴むため、普段以上に熱くなって戦っていた。


「隊長!!アングハルト隊長!!司令部から無線連絡です!」

「!」


 雄叫びを上げて射撃していた彼女のもとに、大急ぎで一人のが駆け込んでくる。その兵は言わば通信兵であり、背中には大型の荷物を背負っている。

 通信兵が背負う荷物は無線機であり、長方形の箱の形をしていて、外側は金属などで作られている。更には一本のアンテナが突き刺さっていて、それが上空を向いて伸びていた。駆け寄ってきた兵の無線機から、アングハルトはハンドマイクを掴み、口元までマイク持って行って話し出す。


「第一戦闘団より司令部、こちらは指揮官のアングハルトだ!連絡内容を報告せよ、送れ!」

『司令部より第一戦闘団へ、直ちに攻撃を中止せよ。繰り返す、直ちに攻撃を中止せよ。送れ』

「!?」


 ヴァスティナ帝国国防軍で採用された、この携帯式無線機は、情報国家アーレンツで使用されていた、魔法石を使った通信機をもとに、二国の技術を融合して開発された物である。無線機の中には魔法石が搭載されており、他者と通信が可能となるこの魔法石の力を使って、同じように無線設備を持つ後方の本隊の通信主と、今こうして通信を行なっているのだ。


「攻撃中止だと!?勝利は目前だというのに、一体どういう事だ!?」

『命令の真意はこちらでは分かりません。前線の各部隊は直ちに攻撃を中止し、本隊まで後退せよと――――――――』

「何を馬鹿な!四万もの敵を逃せと言うのか!?」

『隊長、お気持ちは分かりますが、今は命令に従い後退を―――――――――』

「後退糞くらえだ!!誰がそんなふざけた命令を出している!?」


 戦場の喧騒に負けぬ怒鳴り声で、通信相手に命令の主を問い質すアングハルト。これには傍にいる通信兵も、偶然近くにいたライガやジェラルド、更には彼女が率いる兵達も、驚愕と恐怖心を隠せない。

 普段とは違うアングハルトの乱暴な形相に、彼女をよく知る者達は驚きを隠せない。勝利を目前としているこの状況下での後退命令に、今まで誰にも見せた事もないほど、彼女は激怒していたのである。どちらかと言えば熱い性格だが、普段の彼女は冷静である。今日の彼女は普段の冷静さを失い、戦闘でいつも以上に熱くなっていた。そのせいで、勝てる戦いを捨てるような後退の命令に、一人激怒してしまっている。


 確かに彼女の言う通り、勝利は目前なのである。この命令は彼女でなくとも、現場指揮官ならば誰でも怒りを示すだろう。

 後退に納得がいかない彼女が、激怒したまま通信主の返答を待っていると、何やら無線の奥でやり取りが聞こえてきた。通信主と誰かが話している声が聞こえたが、会話の内容までは聞き取れない。その約六秒後、先程の通信主に代わって、別の人間の声がマイクから発せられた。


『ごめん、アングハルト。そのふざけた命令出したの俺なんだ』

「かっ、閣下!!?」


 マイクから発せられた声に、アングハルトは我が耳を大いに疑った。声の主は彼女の司令官である、リクトビア・フローレンスであったからだ。

 驚愕のあまり声が高くなり、持っていたハンドマイクを落としそうになる。先ほどまでの怒りの顔が一転し、今度は恐怖のあまり、顔が真っ青になってしまっている。今彼女は死ぬほど心の中で、さっきまでの発言を全て消し去ってしまいたいと願っていた。


『そっちの方からだと分からないと思うんだけど、敵後方陣地にお客さんが着いたらしい』

「⋯⋯⋯⋯⋯!!」

『ボーゼアス教の教祖、オズワルド・ベレスフォードのお出ましだ。噂の教祖様が大軍を率いてこっちに仕掛けようとしている。目的は恐らく、今俺達が壊滅させようとしている敵主力の救出だろう』


 マイクを通して聞こえたリックの説明で、アングハルトは攻撃中止の理由を悟る。目の前の敵を殲滅しようとすれば、到着した敵本隊が攻撃を行なってくる。現状の戦力では苦戦は必至であり、勝算は低い。同盟軍の状態も、目の前の敵と戦うだけで精一杯であり、これ以上の戦闘継続は不可能だ。

 敵本隊と戦うにしても、同盟軍は一度休息と補給に加え、戦力の再編成が必要不可欠である。ここで目の前の敵軍撃破に拘り、総攻撃を継続してしまっては、同盟軍の壊滅は免れない。それを避ける為、リックは攻撃中止の命令を下したのである。


『王子様にも同盟軍の攻撃中止を要請中だ。そこにハートライト王国の将軍様がいるなら、アングハルトの口から攻撃を止めるよう伝えてくれ』

「⋯⋯⋯⋯攻撃中止の理由は分かりました。ですが閣下、我が第一戦闘団の損害は微々たるものであり、兵の士気は旺盛です。弾薬も爆薬も十分あり、戦車部隊も先発隊と合流しました。砲撃支援さえ頂ければ、敵本隊ごと我が戦闘団の火力で――――――――」

『到着した敵本隊は十万の大軍だ』

「!!」


 当初、グラーフ同盟軍が先制攻撃を仕掛けた敵の数は、約四万の大軍であった。そこへ更に、約二万の奇襲部隊が現れた。この時点で同盟軍は、約六万の敵を相手にしていたのである。

 ボーゼアス義勇軍の総兵力は、約十万と予想されていた。そのためこの地には、敵戦力の六割が集結していると思われていた。しかし、到着した敵本隊の兵力は十万の大軍だという。つまり敵は、同盟軍の予想より六万も多い数を揃え、この戦場に集結した事になる。

 現状のグラーフ同盟軍の総兵力は、遅れて現れた三国の兵力を足しても、約六万である。総力を結集したボーゼアス義勇軍とは、数で十万もの差が生まれているのだ。幾ら第一戦闘団が、機械化された強力な戦力だと言っても、十万もの数を覆せる程の力はない。消耗している今の同盟軍では、勝ち目のない相手と言えるだろう。


『敵の数は俺達の想定を超えてた。大陸の至る所から兵を搔き集めて来たみたいだな、噂の教祖様は』

「敵本隊がそれほどの大軍であるならば止むを得ません。しかし、あれだけの兵を本隊と合流させるわけには⋯⋯⋯⋯⋯」

『気持ちは分かる。俺だって可能ならどうにかしたいが、エミリオ自慢のあれはまだ準備中だ。勝てない戦いで俺に付いて来てくれる兵士達を、こんなところで死なせたくない。アングハルトとライガにも、無茶な事はして欲しくないんだよ』

「閣下のお気持ちはお察し致します。でも私は⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

『攻撃止めて無事に帰って来てくれたら今度デートする』

「了解しました。直ちに部隊を後退させます」


 そこからの彼女は速かった。

 マイクを通信兵に返し、第一戦闘団の各部隊に向け、すぐさま攻撃中止の命令と、後方への後退を指示した。リックと彼女の無線の遣り取りを知らない兵達は、攻撃中止の命令にやはり疑問を抱き、大いに反論しようとしていたが、有無を言わさぬ彼女の形相にびびり、何も反論できずに黙って従った。

 兵員輸送車に兵達が乗り込み、各車輌は方向転換して後方に戻っていく。第一戦闘団の後退は、戦車部隊が砲撃で支援している。戦車部隊の砲撃のお陰もあり、帝国国防軍は背後を攻撃される事なく、順調に後退を行なっていた。

 アングハルトの近くで、先程の無線の会話を聞いていたジェラルドも、自分達の危機を知って攻撃の中止を決意した。彼もまたすぐさま命令を飛ばし、前線の同盟軍の後退を始めさせる。

 

「アングハルト殿、話は聞こえていた!同盟軍の方は私に任せて貰おう!」

「感謝します将軍」


 アングハルトとジェラルドは、それぞれが率いる部隊に後退の命令を下し、敵味方双方の死体が地面を埋め尽くす、激戦が繰り広げらた最前線を離れていく。

 仲間の亡骸を回収する暇はない。今は敵本隊からの攻撃を避ける為に、急いでこの戦場を離れる必要があるのだ。

 ちなみにライガは、「オレはまだ戦える!!」と叫んで後退の命令を聞かなかったため、アングハルトが殴り倒して強制的に連れて行った。  


「⋯⋯⋯⋯⋯ところでアングハルト殿、一ついいかな?」

「なんでしょう将軍?」

「戦場しか知らぬ女戦士かと思っていたが、意外と乙女なのだな」

「⋯⋯⋯⋯⋯!!」


 後にジェラルドの口から、「ヴァスティナ帝国の女指揮官は、最高司令官からのデートの誘いでどんな命令も聞いてしまう乙女である」とハートライト王国軍を中心に語られる事になる。

 更にその後、「恋する乙女指揮官」などと皆に噂される事になるのだが、この時のアングハルトはまだ何も知らない。










「ふう⋯⋯⋯⋯。アングハルト、大分熱くなってたな」


 帝国国防軍本隊は、グラーフ同盟軍後方陣地に自軍の陣地を構築中であり、ここには各前線に命令を連絡する通信基地が置かれている。通信基地となっている天幕内には、先程最前線のアングハルトと話していた通信主と機器、そしてリックの姿があった。

 

「ありがとうリック。やはり、彼女の相手は君が適任だね」

「そんな事ないだろ。今日のあいつはいつもより熱血なだけだ」


 天幕の中には、先程の遣り取りを見ていたエミリオの姿もある。リックとエミリオはここで作戦指揮を執り、各部隊に命令を送っていたのだ。

 二人の目の前には、天幕内に置かれた長机の上に設置された、大型の通信装置がある。その通信装置を数人の兵が操って、前線に攻撃中止と後退地点の指示を行なっている。通信装置には、魔力を秘めた魔法石が内蔵されており、この力を使う事で、通信機同士の会話を可能にしているのだ。

 この通信機器を正式採用した事で、帝国国防軍の情報戦と部隊運用能力は、飛躍的に向上した。今や帝国国防軍は、どの国家の軍隊よりも近代化された、全く新しい軍隊として生まれ変わったのである。


「緒戦で戦った敵はあっさり片付けれたけど、今度は敵主力との決戦だからな。レイナ達もそうだけど、アングハルトが熱くなり過ぎるのも仕方ないか」 


 リックは、アングハルトが通信主の伝えた命令に、怒気を込めて反論していた様子を思い出す。あの時彼は、普段ならば命令に忠実な彼女が、あそこまで激怒した事に驚いて、後で彼女に殴られるのを覚悟して、恐る恐る通信を代わったのである。


 以前のアングハルトは、小さな部隊の隊長だった。それが気が付けば、これまでの功績と実力を認められ、アーレンツ攻防戦では大きな部隊の指揮を任され、今では第一戦闘団の指揮官である。

 ヴァスティナ帝国国防軍第一戦闘団は、完全に機械化された最新鋭で最精鋭の戦闘団であり、帝国国防軍の主力なのである。つまり今の彼女は、帝国国防軍最強の戦闘団の指揮官であり、戦局を左右する程の力を有しているのだ。

 同時にそれは、彼女が今まで以上の責任を背負っている事でもある。今の彼女は、帝国国防軍の代表的存在とも言える立場で在り、軍の顔でもある。失敗や敗北は許されないし、自国の勝利を約束しなければならない。彼女が背負う責務の重さは、リックやエミリオと同じなのだ。

 それに彼女は立場上、多くの兵士の命を預かっている。彼らを生き残らせ、無事に帰還させる事もまた、指揮官である彼女の責務である。攻撃中止の命令で彼女が反論したのは、これが一番大きな理由だ。ここで四万の敵を見逃し、敵本隊の数が増大すれば、敵軍との戦いは益々熾烈となるだろう。そうなれば、犠牲となる兵の数は確実に増える。待ち受ける決戦で多くの兵を死なせないために、彼女は必死に命令に反論したのだ。

 

「アングハルトやみんなに、大変な役を任せちゃったな⋯⋯⋯⋯」

「心配ないさ。君に頼られて、寧ろみんな嬉しいんだから」

「そうかな?だってアングハルト、あんなに怒ってたし⋯⋯⋯⋯⋯」

「彼女が怒っていたのは兵士の事を想ってだけじゃない。君にいいところを見せたかったのも理由の一つさ」

「いいところ見せるために無茶な活躍はして欲しくない。戦果よりも、俺はみんなが無事に帰って来てくれる方が嬉しい」

「優しいね、リック」

「⋯⋯⋯⋯こんなこと言ってたら将軍失格だな。エミリオ、そろそろ行くぞ」


 リックはエミリオにそう言うと、彼と二人で天幕から外に出た。

 二人が外に出ると、天幕の入り口の前には、リックの頼もしい仲間達が立っていた。彼らは皆、リックが指揮を終えて天幕内から出てくるのを、ここで待っていたのである。


「リック君、お待たせ♪」

「遅くなってもうたな。壊れた戦車は全部完璧に直してきたで」

「もう合流したのか。流石、帝国一の発明家は仕事が早いな」

「でもよ隊長、こいつのお守りのせいで俺ら暴れられなかったんですぜ」

「遅れてごめんなんだな」


 彼を待っていたのは、ヴァスティナ帝国一の発明家と、彼女の護衛を任されていた仲間達だった。

 発明家と呼ばれた少女の名は、シャランドラ。独特な話し方と眼鏡が特徴的で、誰とでも仲良くなるノリのいい少女だが、彼女こそが帝国国防軍製兵器の生みの親である。

 その若さで彼女は、突撃銃や機関銃などを完成させ、魔法動力機関と言う特殊な装置を開発し、それを動力源として動く軍用車両を開発した。言わば彼女こそ、ヴァスティナ帝国の軍事力の心臓部であり、帝国の軍隊を一気に進化させた張本人なのである。

 ヴァスティナ帝国国防軍技術開発本部主任。それが発明家シャランドラの、現在の肩書きとなっている。


 技術開発本部主任となっても、相変わらず彼女はリック達と行動を共にしている。現地で自分の開発した兵器達が、しっかりと性能を発揮しているか、自分の目で確かめないと気が済まないのだ。ついでに、現地で故障した兵器をその場で修理するのも、シャランドラ自身と、彼女が連れてきた技術班の仕事である。

 彼女達には常に仕事がやって来る。第一、第二戦闘団と同様に討伐軍に従軍していた、第三戦闘団の戦車や装甲車両の調子が悪くなり、彼女達はその修理を行なった。修理が終わるまで、第三戦闘団の半分が動けなくなったため、動けない部隊を残し、本隊は先に戦場を目指したのである。

 そこでリックは、修理を行なう彼女達が襲われないよう、護衛部隊を用意して守らせた。その護衛部隊に任命されたのが、残りの三人と、三人がそれぞれ率いる部隊である。


「ねぇリック君。僕達の出番はまだなの?」

「焦るなって、ちゃんと考えてあるから」


 桃色の髪を少し短く整え、星形の髪飾りを付けた、どう見ても少女にしか見えない少年がリックに迫る。手には狙撃用のライフルを抱え、小悪魔の笑みを浮かべる彼の名は、イヴ・ベルトーチカ。狙った獲物は百発百中で仕留める、帝国一の狙撃手である。

 主に狙撃を得意とするイヴは、帝国国防軍特殊狙撃部隊の指揮官となり、精鋭の狙撃兵を率いて従軍している。言うなれば今の彼は、特別な任務を実行する特殊部隊の隊長なのだ。


「なあ隊長、俺達も出番はまだなんですかい?態々こんなところまで散歩しに来て、一回も戦えないって言うのはなしですぜ」

「わかってるって、お前らの事も考えてあるから。とりあえずヘルベルトとゴリオンは戦闘準備をして待機な。後退する味方が敵の追撃を受けたら、すぐに迎撃に向かって貰うから」

「わかったんだな、リック」


 リックがそう指示した二人の男。一人は屈強な身体つきの髭を生やした男で、もう一人は縦も横も大きな肉体を持つ、非常に力強そうな男であった。


 リックを隊長と呼ぶ男の名はヘルベルト。

 これまで数々の戦場を渡り歩いてきた元傭兵で、戦場でしか生きる事の出来ない戦闘狂でもある。この男が率いてる部隊こそ、実戦経験豊富な元傭兵で構成された、帝国国防軍独立特殊作戦部隊、通称「鉄血部隊」と呼ばれている、リック直轄の特殊部隊だ。


 そしてもう一人の人物は、帝国一の巨体を持つ、帝国が誇る鉄壁の盾である。

 彼の名はゴリオン。帝国国防軍随一の怪力を誇り、精鋭殿部隊「鋼鉄戦闘団」の隊長である。一度彼が隊を率いて戦場に赴けば、敵にまず勝ち目はない。どんな状況下でも味方を助けるために殿を務め、一人たりとも通さない鉄壁の盾となる。そんな彼は「鉄壁の巨人」と呼ばれており、自国では皆にその名で称えられ、敵からはその名で大いに恐れられている。


 シャランドラ一人のために、リックは三人の精鋭を護衛に付けた。戦場に彼らを投入できない問題よりも、シャランドラの身の安全の方が重要であると、彼にはよく分かっていたからだ。

 何故ならシャランドラは、誰にも真似できない発明能力を持つ、とんでもない動力機関を生み出した天才である。彼女無くして、今後の帝国国防軍の更なる近代化は、まずあり得ないのだ。軍の未来のために、リックも帝国の皆も、彼女だけは絶対に守らなくてはならないのである。


「じゃあ四人共、俺はエミリオと一緒に同盟軍の王子様に挨拶してくるから、後はミュセイラの指示を聞いて行動してくれ」

「という訳なんだ。攻撃中止の命令を出しているから、くれぐれも勝手に戦闘を始めないように」

「なんやリック、素人王子のとこ行くんか?」

「二人だけじゃ心配だよ。僕も付いてこうか?」

「護衛を連れてくから心配するな。直ぐに戻る」


 無事にシャランドラ達が合流できた事で、リックは内心安堵していた。実を言えば、彼女達が何事もなく合流できるか、とても心配していたのである。

 四人の無事を確認したリックは、護衛の兵士を呼び、エミリオと共にこの場を後にした。

 帝国国防軍内で、「戦争のやり方を知らない素人」と言われ、クリス命名で「素人王子」とあだ名を付けられてしまった、ホーリスローネ王国第一王子アリオン・オブ・グリフィス。噂の王子が果たしてどんなものか、挨拶と言う名の偵察に二人は向かったのである。

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