第三話 集う力 Ⅷ
それから、一週間以上の時が流れた。
シャランドラを筆頭に、隠れ里の人々が、帝国に移住するのは順調に進み、全ての銃器類や設計図、彼女の発明品に至るまでが、迅速に輸送された。女王ユリーシアは里の人々に全面協力し、何の問題もなく事は進んだのである。
巨大な暴食竜の死骸については、シャランドラが研究材料にしたいと言い、ゴリオンや帝国軍兵士の力を借り、何とか解体して、必要な部位を持ち帰った。
ちなみに、解体するまでに日にちが経ち、肉が腐り始めていたため、レイナが楽しみにしていた、竜の焼き肉は食べられずに終わる。言葉にできない程の、残念な表情を見せたレイナを、リックとリリカが苦労して慰める、なんてこともあった。
「皆揃ったな」
今、集まった仲間たちの前に立ち、これから言葉を伝えようとしているのは、彼らの主である、参謀長リックである。
集まっているのは、リックの両腕である槍士レイナと剣士クリス。発明家シャランドラに鉄壁剛腕のゴリオン。リックの頭脳である軍師エミリオ。精鋭戦闘集団のヘルベルトたち鉄血部隊。
そして、自称であり事実の美女リリカ。
ここにいるのは、彼が手に入れた力である。このローミリア大陸で、最後まで戦い抜くための、彼の力であるのだ。
「聞いてると思うが、色々なことがようやく一段落した。これからシャランドラを中心に、軍の新兵器開発が始まる。喜べお前たち、もうすぐ新しい玩具が手に入るぞ」
新しい玩具。それはシャランドラや里の人々、帝国の技術者が取り掛かり始めた、新型銃器のことである。
里で使われていたものよりも、軍用に特化し、性能を向上させて、生産性も上げるのだ。
その強力な銃火器を、ここにいる者たちや、帝国軍全体に行き渡らせることが、リックの軍備増強計画である。
「エミリオ、帝国の軍備以外の状況報告をしてくれ」
「わかったよリック。私が調べた限りでは、今のところ大きな問題はない。ただ、将来的には女王を嫌う、周辺貴族たちが君の障害となる」
「そうか・・・・・・。なら、近いうちに始末しないとな」
リックとエミリオは、互いに良い信頼関係を築いていた。
今後の帝国の未来を、丸一日かけて話し合い、今では親友の様な間柄である。
軍師エミリオの考えや意見は、リックにとって重要で信頼できるものだ。彼はまさに、リックの頭脳である。
「ふふっ、リックは気が早いね」
「私もそう思います。利用価値がある内は使わないと」
「リリカとエミリオは反対か。よし、わかった」
「聞いたかいお二人さん?俺たちが軍師殿のことを反対した時には、聞く耳持たずのくせに、リリカ姉さんと軍師殿の意見はあっさり聞いてる」
「まったくだぜ」
「仕方ありません」
エミリオを自分の部下にした時のことを思い出し、苦笑するリック。言い訳は出来そうにない。
「まあ、それは措いといてだ。シャランドラ、ゴリオン用の装備開発はどうなってる?」
「無理やり話題変えたで・・・・・・。えーと、ゴリオンの装備完成にはまだ時間かかるで。どんなもんかは、完成してからのお楽しみや」
「ありがとうなんだな」
巨体ゴリオンは、その巨大さ故に、丁度良い武器や防具がない。このままでは丸腰の状態になってしまうため、発明家シャランドラに頼んで、彼専用装備の開発をさせているのだ。
予定では、巨大で凶悪な武器が出来上がるはずである。
「リック、準備は整ったか?」
リックたちの前に、銀髪褐色肌の騎士団長メシアが現れた。
この場に彼女が現れたのには、理由がある。完全武装の彼女と、彼女の愛馬である大型馬。完全武装といっても、メシアは軽めの防具に剣と盾を装備した、戦いへと赴く、いつもの格好である。
そう、これから戦いが始まろうとしているのだ。
そして、彼女は同じく指揮官であるリックを、ここまで呼びに来た。
「こっちは大丈夫です。騎士団と軍はどうですか?」
「問題ない。いつでも出られる」
その言葉を聞き、自分の信頼する部下たちを見まわすリック。
皆が準備万端やる気十分。無論、リック自身もだ。
「ははっ、なら行きますか。出撃するぞお前たち!狩りに行く時間だ!」
三日前のことだ。
ヴァスティナ帝国を離れたところには、小さな村がいくつも存在している。そのいくつもの村が、突然襲撃を受けたのだ。
襲撃者は野盗の集団である。ただし、野盗の集団と言っても、少数ではない。
近隣の野盗が集まり、そこにオーデル王国の敗残兵の一部が加わった、野盗集団。数は何百人にも上り、それが何部隊かに別れて、一斉に村々を襲ったのだ。
村をあらかた襲った後、野盗たちは小さな街を攻め滅ぼした。街の名はラムサス。
ラムサスの街は、小さいが平和な街であり、帝国とは違う別の国が管理している。警察組織程度の戦力が配備されてはいたが、野盗たちの軍団を防げるほどの戦力は、当然存在しなかった。街は瞬く間に蹂躙され、野蛮な野盗たちの支配下に置かれてしまったのである。
村や街の住民のうち、逆らう者は殺され、金品や女性はほとんど奪われてしまった。街に留まり、残虐の限りを尽くす野盗たち。だが、これを止められるものはいなかった。
ラムサスの街を管理する国には、この多過ぎる野盗集団を討伐できる戦力はない。よって、街は今も野盗に支配され、誰の助けも来ないまま、生き残った街の住人たちは、恐怖に怯えていた。
「ぐっ・・・・・・」
傷が痛む。薄暗いこの地下倉庫に入れられ、何日経った?
奴らは突然やって来た。見たこともない規模の野盗集団は、私たちの守るラムサスの街を、瞬く間に蹂躙し、共に戦った私の仲間たちは、全員殺された。
街の人々。逆らった者は即座に殺され、女性は暴行され犯された。老人も殺され、子供は人質に取られてしまい、生き残った街の者たちが、野盗に逆らうことはできない。
野盗の中には、親の目の前で子供を殺す下衆な奴もいた。状況は最悪で、この世の地獄だ。
(私も・・・・・死ぬのか・・・・・・)
街を守るために剣を取って戦ったが、数に押され、しかも人質を取られたために、私は野盗に捕えられてしまった。仲間たちは殺されたが、私は命を奪われることはなかった。
理由は簡単だ。私が女であったからだ。
捕まった私は、この地下倉庫に連れて来られ、十人以上の男たちに犯されて、処女を散らされた。
乱暴にされ、暴行され、悲鳴を上げても、誰の助けも来ない。何時間も犯されて、私は気を失ってしまった。
少しの時間が経った後、水をかけられ、無理やり覚醒させられ、気が付くと抵抗できないよう、縄で腕を縛られていた。
奴らは私を侵すだけでは飽き足らず、私に様々な拷問を行なった。いや、何も吐かせることはないから、拷問とは呼べない。鞭を撃たれ、水責めをされ、奴らは酒を飲みながら、苦しむ私を見て楽しんでいた。
数多くの拷問をされ、何回死にたいと考えたことだろう。
(もうすぐ・・・・・私も・・・・)
肉体も精神も限界だ。早くこの苦しみから解放されたい。もう限界だ。
私の目の前には奴らがいる。奴らは私を見て、次はどんな拷問をするか相談しているのだ。だが、そろそろ奴らも私に飽きてきている。殺されるのは時間の問題だ。
拷問の傷が体中で痛む。まるで、体が燃えるようだ。
「へへっ、次の拷問が決まったぜ」
「くそ・・・・・・」
「またいい悲鳴を聞かせてもらうぜ。もっとも、今度の拷問は死んじまうだろうがよぉ。なにか言いてぇことはあるか?」
「・・・・・くたばれ」
そうだ。こんな奴らに殺されてなるものか。
私はまだ死にたくない。こんな奴らにだけは、死んでも殺されたくない。
「その威勢がいつまでもつかな。こりゃあ楽しめそうだぜ」
「くっ・・・・・・」
最早叫ぶ力も残っていない。もうすぐ私は死ぬのだ。
いっそ死ぬなら、こいつらだけでも道連れにしたい。だが、足掻く力は残っていない。
諦めるしかない。それが私の・・・・・・。
「なっ、なんだ!?」
この地下倉庫に、外の騒がしさが聞こえてきた。外からは悲鳴と絶叫が聞こえ、目の前の野盗たちが、何事かと慌て始めた。 私にも、何が起こっているのかわからない。
「なにやってんだ、蛆虫共」
男が現れた。地下倉庫には、小窓から差し込む光しか、明かりはない。暗くて顔がよくわからない。
「てめぇ、なに--------」
「ばぁーん」
現れた男は、手に持った鉄製の何かを使った。指で何かを引いた瞬間、聞いたこともない音ともに、野盗の頭が木端微塵に吹き飛んだ。何が起こったというのか?
「まだ蛆虫がいるな。駆除してやるから前に出ろ」
「なっ!?こいつまほ-------」
「魔法じゃないんだよ」
たぶん武器だ。謎の武器から何かが放たれて、聞いたことのない音と同時に、野盗たちの命を奪っていく。
一人、また一人と野盗は殺され、瞬く間に地下倉庫にいた者は、全員死んだ。私を残して・・・・・・。
「流石シャランドラの作ったリボルバーだ。人間の頭がいい感じに吹っ飛ぶ」
「・・・・・だ・・・誰だ?」
「もう大丈夫だ。今縄を解く」
男は、私を縛っていた縄を、短剣で斬った。着ていた上着を私に着せ、動けない私を抱きかかえる。
私を抱きかかえながら、男は地下倉庫を後にして、地上を目指す。
地上に出ると、街は戦場と化していた。見たことのない軍隊が、街を蹂躙した野盗たちを、逆に蹂躙している。野盗たちを、凶悪な笑い顔を浮かべている兵士たちが殺しまわり、戦場は野盗たちの悲鳴で、地獄に変わっていた。信じられない。
この街に、ようやく助けが現れたというのか?
「レイナ、クリス」
「歯ごたえがないぜ。俺に向かってきたのはもう片付いちまった」
「こちらも同じです」
槍を持つ少女と、剣を持つ青年。二人の後ろには、数えきれない野盗の死体。
「エミリオ、状況は?」
「問題ないよ。鉄血部隊を中心に、野盗を街の外に追いやっている。このままいけば、外に待機している騎士団が、予定通り残党狩りをしてくれる」
「わかった。ところで、ゴリオンはどこにいる?」
「彼ならあそこさ」
長髪で、眼鏡をかけた男が指差す先には、見たこともない大きさの、巨大な人影が立っていた。
巨大さに臆すことなく向かって行った野盗を、片手で易々と掴み上げ、勢いよく投げ飛ばす。投げ飛ばされた野盗は、民家に叩きつけられ、血を吐いて絶命した。
「あいつも問題なしか」
「野盗たちからすれば、彼は巨大な魔物みたいなものさ。丸腰でも心配ない」
「確かに」
抱きかかえていた私を地に立たせ、自分の体へと抱き寄せて、私を支えるこの男。
男に従うこの者たち。一体何者だ?
「リリカ、シャランドラ。近くにいるか?」
「どうしたんやその人。めっさ怪我しとるで」
「酷い怪我だね。拷問されたのかい?」
「たぶんそうだ。彼女を頼む」
そう言って男は私を、現れた二人に託す。一人は眼鏡をかけた少女で、もう一人は長い金色の髪をした、美しい女性。戦場に似つかわしくない二人だ。
「任せてくれや!うちが開発した、この超強力速攻--------」
「却下」
「なんでや!?うちの発明品が信じられんのかいな!」
「普通で頼む。普通の手当てでいいから」
不服そうな表情の眼鏡少女。一体何を私に使う気だったというのか。
よくわからないが、恐ろしい。
「さてと、レイナとクリスは俺に付いてこい。仕上げにかかるぞ」
「はい」
「了解だぜ」
私を助け、戦場へと向かって行こうとする男の背中。呼び止めずにはいられない。
最後の力を振り絞って、声を出す。
「あなたは・・・・・何者・・・・・」
吐き出した小さな声。戦場の音にかき消されそうなその声は、男の耳へと届いたようだ。
男は振り向き、私と目が合う。日の光に照らされ、地下でわからなかった男の顔が、今ははっきりと見える。
「俺はヴァスティナ帝国軍参謀長のリックだ。俺たちは、ラムサスの街の救援に来た」
野盗たちは何百もの規模があった。しかし帝国軍は、この野盗集団を、僅か一日で壊滅させる。
帝国のため、他国との友好な関係を築くことに加え、近隣の治安維持活動のための戦い。全てはリックの計算通りに、上手くいった。
これも全て、自分のもとに集った力によるものである。
(いいぞ、面白くなってきた)
彼の頭には、今後の戦略が描かれている。
リックと、彼に付き従う仲間たち。彼らの戦いは、始まりを迎えた。




