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第三十七話 グラーフ同盟軍 Ⅵ

 三方向から攻撃を受けている王国軍。ボーゼアス義勇軍第六軍は、総力を結集して攻撃を行なっている。第六軍の苛烈な攻撃によって、戦況は王国軍側の劣勢に傾いていた。

 この戦況を変えたのは、前線に投入された勇者達の力であった。左右から迫っていた第六軍に対し、櫂斗達四人の勇者が力を振るった事で、王国軍は反撃に転じる事が出来たのである。

 だが、現在王国軍が受けている被害は、当初の想定を遥かに超えていた。三方向から攻撃を受け、王国軍兵士は多くの戦傷者を出し続けている。兵力数的にも練度的にも王国軍が上であるため、このまま戦闘を続ければ、最終的には王国軍が勝利できるだろう。しかしこの被害は、今後の作戦計画に大きな支障をきたすのを意味していた。


「正面の部隊はどうなっている!?」

「現在、大剣の勇者様が前線に急行しております!救出にはあと少し時間を要します!」

「勇者ルークを援護するため、兵を三百ほど向かわせるんだ!勇者である彼を死なせてはならない!」

「はっ!!」


 王国軍の中心で、戦況を好転させるべく、アリオンは必死に指揮を続けていた。彼は今、正面で被害を拡大させる味方の救出と、左右からの敵の迎撃に集中し、兵士達へ向けて、次々と命令を飛ばしている。

 アリオンの心は、二つの思いでいっぱいだ。敵に対して必ず勝利する事と、味方の戦死者をこれ以上出さない事である。今彼の頭の中には、かつて自分が敗北した、あのジエーデルとの戦闘が蘇っていた。あの時の過ちを二度と起こすまいと、彼は必死なのである。


「王子、視野が狭いのは感心致しませんな」

「⋯⋯⋯!」

「今し方、報告が入りました。後方から敵部隊が接近中です。その数、およそ五百」


 ようやく戦況を好転させられると思っていた、まさにこの瞬間。アリオンの耳に入ったのは、ギルバートからの最悪の知らせであった。

 三方向から攻撃されている王国軍。この状況下に、後方からも敵が現れたというのだ。これで王国軍は、四方を囲まれた事になる。三方向の敵に気を取られている間に、王国軍は逃げ場を失ったのだ。

 

「恐らく、昨晩夜襲を仕掛けてきた敵部隊でしょう。本隊と合流せず、我が軍後方に潜んでいたようですな」

「敵は五千だけのはずだ!情報と違うぞ!」

「情報が全て正しいとは限りません。あの五百の部隊は、このために秘匿していたのでしょう」


 情報では、第六軍の総兵力は約五千人であった。王国軍後方に現れた部隊は、アリオンからすれば想定外の戦力なのである。

 王国軍を完全に包囲し、四方から全力攻撃を仕掛けるのが、第六軍の最終的な作戦だった。現れた五百の部隊は、元正規兵で構成された増援部隊である。王国軍と戦うため、第六軍に密かに合流していたこの部隊こそが、夜営陣地に夜襲を仕掛けた。その後はギルバートが発言した通り、王国軍と距離を取って潜伏し、作戦開始を待っていたのである。


「敵は、我が軍が恐ろしくないのか⋯⋯⋯?兵力差は歴然だというのに、本気で我が軍に勝利するつもりなのか⋯⋯⋯⋯」

「王子、敵にとっての勝利とは、どんな形かを想像した事はありませんか?」

「なに⋯⋯⋯?」

「敵は我々を全滅させる事が目的ではありません。自軍を犠牲に、我が軍に大打撃を与える事こそが、敵の真の狙いなのです」


 今頃敵の作戦に気が付けても、敵の真意をアリオンは理解していなかった。

 ギルバートには敵の作戦だけでなく、その目的すらも見えている。ボーゼアス義勇軍が得意とする、驚異的な士気による狂気の全力突撃を行ない、王国軍に打撃を与えるだけでなく、戦意を失うまで恐怖させる。第六軍の作戦が成功すれば、王国軍は大きな損害を出すだけでなく、戦意を大幅に失い、戦闘能力を失ってしまう。それが第六軍の真の狙いなのだ。


「我が軍を壊滅に追いやるため、敵は死力を尽くしております。言わずとも分かると思いますが、全員死ぬつもりなのです」

「まさか敵は、第六軍全てを犠牲にして、我が軍を退けるつもりだというのか⋯⋯⋯⋯⋯」

「ホーリスローネ王国はグラーフ同盟軍の要です。我らを退けさえすれば、同盟軍との決戦に勝利できる。そう考えているからこそ、五千の兵と引き換えに我らを潰そうとしている」


 同盟軍の盟主とも言える存在は、ギルバートが語った通り王国軍である。同盟軍の支柱である王国軍が敗走すれば、同盟軍は大きな戦力を失うばかりでなく、同盟の御旗を失うのだ。御旗を失ってしまえば、同盟軍を纏める存在はいなくなる。やがて同盟軍は瓦解し、各地で各個撃破されるだろう。

 その未来を回避するためには、この状況を打開し、これ以上犠牲を出すことなく、自軍の戦意を維持したまま、第六軍を撃退するしかない。だがアリオンには、この状況を好転させる手立ては、もう残ってはいなかった。

 このまま戦闘を続ければ、いずれは王国軍が辛くも勝利できるだろう。しかしその勝利は、ボーゼアス義勇軍全体の勝利であり、グラーフ同盟軍の敗北を意味する。アリオンは今、敗北の許されぬ戦いで、全軍を勝利に導く指揮を求められていた。


「どうすればいいんだ、このままでは⋯⋯⋯⋯⋯!」

「指揮者は下を向くものではありません。それだけで兵が不安を覚えます」

「ギルバート、僕はどうすればいいんだ⋯⋯⋯⋯⋯!」

「御心配なく。既に手は打ってあります」


 追い詰められ、手立てのないアリオンと違い、ギルバート恐ろしいほど冷静であり、様子も非常に落ち着いてる。そんな彼のもとに、一人の伝令が駆け寄った。


「チェンバレン将軍。援軍が到着いたしました」


 伝令からの報告に我が耳を疑ったのは、またしてもアリオンだけだった。

 そしてギルバートは、自分にとって予定通りの報告を聞いて、全軍に号令を下す。


「援軍が到着した今こそが好機。全軍、反撃の時間です」










 王国軍後方に現れた、ボーゼアス義勇軍五百の奇襲部隊。現れた敵の部隊は、滅亡した国などの兵士達で構成されてる。つまり敵は民兵ではなく、正規の訓練を受けた元兵士達であった。先ほどまで王国軍が相手にしていた敵とは、全体的な兵の練度や質が違う。

 後方に位置する王国軍部隊は、突然出現した敵に混乱しながらも、迎撃行動に出ようと動き始めていたが、苦戦は必至であった。相手が五百人程度であっても、決して油断できる相手でも状況でもない。混乱状態の王国軍部隊に、良くない緊張や不安が広がっていく。

 現れた敵奇襲部隊は、大いに士気を盛り上げ、大軍など恐れず向かってきた。陣形や命令も不十分ながら、急いで迎撃に出た後方の王国軍部隊。両者が激突するかに見えたその時、彼らはやって来た。


「蹴散らせえええええええええええっ!!」


 号令と共に王国軍の前に現れたのは、全速力で戦場を駆ける騎兵隊だった。百を超える馬と、それに跨る兵士達。彼らは王国軍ではない。彼らが掲げる国の旗は、ホーリスローネ王国のものでなく、全く別の国の旗だったのである。

 現れた騎兵隊は、王国軍の味方であった。彼らは王国軍を守るため、側面から敵奇襲部隊に攻撃を仕掛けたのである。不意を突かれた奇襲部隊は、騎兵隊の突破力に全く歯が立たず、瞬く間に蹴散らされていく。目の前で敵が簡単に蹴散らされるのを、王国軍兵士達は訳も分からず見ているだけだった。


「敵は崩れたぞ!全軍、雄々しく追撃せよ!!」


 装飾の施された軍服を身に纏う、明らかに位の高い男が号令する。男の声に応えた騎兵隊は、態勢を立て直そうと後退を始めた敵兵に対して、苛烈な攻撃を始めた。馬に跨り、剣や槍を振るう騎兵達が、逃げ惑う敵兵達に襲い掛かり、次々とその命を奪っていく。地面は敵の流した血に染まっていき、多くの死体が転がった。それでも尚、騎兵隊の攻撃は終わらない。全ての敵を討ち果たすか、自分達の指揮官の号令がない限り、攻撃を止めるつもりはないのだ。

 さらに、騎兵隊が現れた方向から、騎兵に続いて駆ける歩兵部隊も現れた。この地で彼らは、敵奇襲部隊を完膚なきまでに叩き潰すつもりなのだ。


「やあやあ、ホーリスローネ王国の兵士諸君!待たせて済まなかった!」


 呆気に取られている王国軍兵士達の前に、号令を行なっていた指揮官と思われる男が、馬に跨ってやって来た。歳は五十くらいの、口髭を左右へ跳ね上げた、紳士を思わせる男であった。


「私は、ハートライト王国軍将軍ジェラルド・オルドリッジ。友好国たるホーリスローネ王国の大義ある戦に加わるべく、精鋭三千を率いてただいま参上!!」


 ハートライト王国。それは、ホーリスローネ王国と古くから友好を結んでいる、歴史ある王国の名である。紛れもなく彼らは、王国軍を助けに現れた友軍であった。


「我が友ギルバート・チェンバレンの期待に必ずや応えて見せよう!勇敢なる王国の戦士諸君、共に戦場を駆けようではないか!」

 

 戦意を失った王国軍の前に現れたのは、自分達の勝利の道を照らす希望の光だった。

 やがて王国軍の兵達は、挨拶を終え、最前線へと戻るジェラルドに続き、勝利のために駆け出した。










 王国軍後方で戦局が変わった同じ頃、左の前線では今も尚、激しい戦闘が継続していた。

 勇者櫂斗と悠紀の活躍で、反撃を開始した王国軍だったが、全滅を覚悟で死ぬまで戦う敵兵に、大きな被害を受け続けていたのである。

 戦闘が続けば、いずれ王国軍部隊が敵を全滅させるが、それによって受ける被害は相当なものになる。既に多数の戦傷者を出しているため、これ以上の損害は抑えたい状況であった。

 

 櫂斗と悠紀は、この状況を打開するために、再び秘宝の力を振るおうとしていた。しかし、まだ力の扱いに慣れておらず、体力を大きく消耗した二人は、直ぐに力を使えない状態である。二人が何も出来ない間に、敵が味方に相討ちを仕掛け、両軍の兵の命が失われていく。


「くそっ!これじゃあ味方がやられる⋯⋯⋯⋯!」

 

 戦う王国軍部隊の後方で、秘宝の武器を手にしながら、魔力の充填を行なっている櫂斗と悠紀。二人共、命を落としていく味方の様を、ただ指を咥えて見ている事しかできない。

 先ほどの恐怖が少し落ち着き、悔しさを覚えて歯噛みする櫂斗。そんな彼と、悠紀もまた同じ思いであった。

 そして、二人の眼前に広がる戦場に、確かな変化が起きた。なんと二人の目の前で、味方の一部が突破されたのだ。傷付き血を流しながらも、死を覚悟して王国軍部隊を突破した敵兵達が、櫂斗と悠紀に襲い掛かろうとする。


「そんな⋯⋯⋯⋯⋯!?」

「にっ、逃げるぞ悠紀!」


 逃げようとする二人だったが、突然の出来事に思考が止まって足が竦み、判断も行動も遅れてしまった。気が付けば敵の兵士達が、血走った眼で二人を捉え、得物を掲げて襲い掛かろうとしている直前だった。

 「やられる!」と、そう二人が思った刹那。二人の前に、希望の光が現れた。


「はあっ!!」


 掛け声と共に現れた、美しい真っ白な白馬と、それに跨る一人の少年。白馬は二人の頭上を飛び越えて、二人の目の前に着地した。

 現れた少年の右手には、一本のランスが握られている。それは、櫂斗の聖剣にも、悠紀の聖槍にも引けを取らない、美しく輝く銀色のランスだった。


「術式解放!銀龍竜巻槍派!!」


 技の名を叫ぶ少年の声に応え、銀色のランスの切っ先が風を纏う。風はランスの切っ先で、風の渦を生み出していた。少年がランスの突きを放つと、風は竜巻に姿を変え、敵兵目掛けて放たれていった。荒ぶる龍の如し竜巻が、全てを呑み込み、吹き飛ばす。自分達に向けて放たれた竜巻に、敵兵は成す術なく体を舞い上がらせ、瞬く間に風に呑み込まれ、吹き飛ばされていった。

 放たれた竜巻が止み、櫂斗と悠紀が見たものは、風によって吹き飛ばされた敵の兵士が、地面に打ち付けられ、倒されている光景であった。突然現れたこの少年は、たった一撃で、味方を突破した敵兵達を全て倒して見せたのだ。


「危ないところでした。御二人とも、お怪我はありませんか?」


 助けた二人の無事を確かめようと、少年は白馬を翻し、二人の前に顔を向けた。先ほどの一撃にも驚愕した二人だったが、現れた少年の姿を見て、またしても驚いてしまう。

 少年の見た目は、櫂斗と悠紀よりも幼かった。歳は十三か十四くらいで、自分の体よりも大きな銀のランスを片手で扱っている。この戦場にいる誰よりも、現れた少年は若い男の子だった。そんな少年に今まさに助けられた事が、二人は信じられなかったのだ。


「あっ⋯⋯⋯⋯、すみません。驚かせてしまいましたよね」


 驚きの連続で、少年の心配する言葉に答えられない二人。今の二人の様子は、自分が突然現れて驚かせてしまった事が原因だと、そう思った少年は頭を下げて謝罪する。


「僕の名はアニッシュ・ヘリオース。チャルコ国の騎士として、皆さんの救援に参りました」


 櫂斗と悠紀の前に現れたのは、一人の少年騎士だった。

 しかしその少年は、戦士の風格を身に纏う、二人よりもずっと大人びた少年だった。

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