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第三十七話 グラーフ同盟軍 Ⅰ

第三十七話 グラーフ同盟軍








 今、ローミリア大陸では、二つの宗教勢力が対立している。対立している宗教の名は、グラーフ教とボーゼアス教という。

 グラーフ教とは、ローミリア大陸に古くから存在し、唯一の宗教として信仰されている、ローミリアを代表する宗教である。対してボーゼアス教は、大陸中央で生まれた新興宗教であり、打倒グラーフ教を掲げている。

 突如として出現したボーゼアス教は、独裁国家ジエーデル国とグラーフ教に宣戦布告し、圧倒的な兵力を武器にして、各地で次々とジエーデル軍を撃破していった。

 これに対しグラーフ教会は、各国に異教徒討伐を要請し、ジエーデル国を含む三大国と、グラーフ教を信奉する国家群が、軍を大陸中央へ派遣した。ボーゼアス教討伐軍は、「グラーフ同盟軍」と名付けられ、ローミリア大陸中央部へと集結しつつある。

 グラーフ同盟軍の中心となる国家は、大陸北方の大国ホーリスローネ王国である。王国を出発した二万の討伐軍は、大陸中央へ向けて順調に進軍を行なっていた。

 

「馬より速く走る鉄の馬!?空を飛ぶ鉄の鳥!?櫂斗かいと、お前とんでもない世界から召喚されたんだな!!」

「いやいや、馬とか鳥じゃなくて鉄でできた乗り物な。他にも、電車とか船とか色んな乗り物があって、俺の元いた世界じゃ遠くへの移動はずっと楽なんだ」

「こっちの世界で乗り物って言ったら馬や馬車だ。俺は馬は好きだけど、いつかお前の世界の乗り物に乗ってみたいぜ」

「オーケー!その時はいくらでも乗せてやるよ!」

「ありがとよ!ところで、おーけーってなんだ?」


 ホーリスローネ王国軍二万の討伐軍の中には、五人の若き勇者が加わっている。五人はそれぞれ馬に跨り、討伐軍を率いる形で移動している。

 自らも勇者であり、実戦経験がほとんどない、若き四人の勇者を引っ張っている若者がいる。彼の名はルーク。大剣の勇者と呼ばれている、勇者連合所属の勇者の一人だ。

 大剣の勇者ルークもまた、グラーフ同盟軍の一員として、ボーゼアス教討伐のために従軍している。しかし彼には、もう一つ役目があった。それは、異世界からやって来た選ばれし勇者達が、自分達の役目を果たせるよう支える役目である。

 進軍中ルークは、選ばれし勇者の一人である少年と、気が付けば話が盛り上がり、意気投合していた。少年の名は有馬櫂斗ありまかいと。異世界より勇者として召喚された、元は極普通の学生である。

 二人の出会いの形は、まさに最悪の状態から始まった。悪気なく思った事を直ぐに口にしてしまうルークのせいで、挑発を受けたと思った櫂斗が剣を抜き、二人は戦ったのである。結果はルークの圧勝で終わり、二人の衝撃的な出会いは幕を閉じた。

 そのせいで、討伐軍出発の頃から、二人の仲はあまり良くなかった。ルークに手も足も出なかった櫂斗が、彼を敵視していたためだ。しかし、進軍を続けていく中でルークが、櫂斗が暮らしていた異世界の事を話題に出し、得意気に彼が語り出したお陰で、二人の会話は弾んでいった。いつしか二人は、衝撃の出会いの事など忘れ、仲の良い友人同士のような間柄になっていたのである。


「男ってほんと単純⋯⋯⋯」

「ああいう単純なところが、有馬君の良いところなのかもしれないね」


 選ばれし勇者はあと三人。その三人もまた、異世界から召喚された、元は学生の少女達である。

 櫂斗の幼馴染である少女、早水悠紀はやみゆきは、気が付けば仲良くなっている二人の姿を見て、ただ呆れていた。

 男は単純だと評した彼女の言葉に、また一人の少女が反応する。彼女の名は九条真夜くじょうまや。櫂斗や悠紀と同じく、元はただの学生であり、学校では二人の先輩であった少女だ。

 二人が彼らを眺めていると、真夜の隣で馬に乗るもう一人の少女が、慣れない馬乗りで体勢を崩し、危うく落馬しかけてしまった。 


「うう⋯⋯⋯⋯、あう⋯⋯!」

「華夜⋯⋯!大丈夫、落ち着いて」

「うっ、うん⋯⋯⋯、大丈夫だよお姉ちゃん」


 落馬しそうになったが、どうにか踏んばって見せ、馬から落とされずに済んだ、この少女もまた勇者の一人であり、元の世界では普通の学生だった。

 少女の名は九条華夜くじょうかやと言い、真夜の二つ下の妹である。真夜は妹の華夜に対してとても過保護で、今も落馬しかけた彼女に驚き、慌てて声をかけたのである。


「華夜ちゃん、大丈夫?」

「はい⋯⋯⋯、何とか⋯⋯⋯⋯」

「馬なんてこっちの世界で初めて乗ったもの。バランス崩しちゃうのも無理ないわ」

「そうよ華夜。落ち着いて、焦らずゆっくり慣れていけばいいから」


 選ばれし勇者として召喚された、櫂斗達四人の学生。この異世界、剣と魔法の世界ローミリア大陸で、彼らが送っている毎日では、初めての事ばかり起こる。

 不思議な力を持つ秘宝の力の解放。巨大な火龍との激闘。大陸を守る勇者への任命。実戦に備えての武器を使った訓練。異教徒討伐への参戦。そして今は、与えられた馬への騎乗。その全てが初めての経験であり、どれも驚くべき事ばかりである。

 だがそれでも、今日まで何とかやって来た。この世界で生きていくために、理不尽に突き付けられる現実が相手でも、心を強く持って堪えてきた。ただ櫂斗に関しては、自分の置かれた異世界転移という状況を、悠紀達も呆れてしまうほど楽しんでいる。

 そんな櫂斗ですらも、この先に待ち受けるだろう、理不尽で残酷な現実には、恐怖して逃げ出そうとするだろう。彼らは今、異教徒の討伐軍に従軍している。彼らは、戦争をするために戦場へと向かっているのだ。

 戦場で相対する敵は、同じ人間だ。火龍と戦った時とは違う。今度は、人間同士で殺し合わなければならない。それを彼がちゃんと理解できているとは、不安を覚える悠紀には思えなかった。

 

 異教徒ボーゼアス教討伐軍の象徴たる、選ばれし勇者達を連れたホーリスローネ王国軍は、大陸中央へと順調に進軍を続ける。

 初めての戦争に緊張し、恐怖と不安を覚える悠紀達。彼女達の緊張は、待ち受ける戦場が近付くにつれて、日に日に大きくなっていった⋯⋯⋯。










 ボーゼアス義勇軍。それこそが、グラーフ同盟軍が戦わなくてはならない、ボーゼアス教の戦力である。

 彼らの戦力は、兵力約六万人。しかし、この数字は過去のものであり、現在も彼らの兵力は増加し続けている。最終的には十万以上の兵力になる事が予想され、大陸中央の一大勢力となる危険性を持っている。

 これに対してグラーフ同盟軍は、ホーリスローネ王国軍を主軸にした討伐軍で対抗する。各国から同盟軍へ参加する軍隊が、大陸中央へ続々と集結を始めており、集まった戦力でボーゼアス義勇軍に挑む計画となっている。

 グラーフ同盟軍の戦力は、大きく分けると三つ。ホーリスローネ王国軍二万、ゼロリアス帝国軍五千、ジエーデル軍一万。合計して約三万五千の兵力に加え、大中小の各国の軍隊が合流する事で、戦力は五万を超える予定だ。

 相手は十万を超えると予想されているため、同盟軍が五万の兵力を集めたとしても、兵力差は二倍である。ボーゼアス義勇軍の兵士が、正規の訓練を受けていない民兵で構成されていると言っても、二倍の兵力差は単純に脅威となってしまう。

 勝算を得るには、敵戦力の最大の武器である、圧倒的な兵力数を何とかする必要がある。ボーゼアス義勇軍の人海戦術を攻略しない限り、同盟軍が勝利する事は難しくなってしまう。そこで王国軍は、各国の軍隊と連携しての、敵戦力を各個撃破する作戦に出た。


 現在ボーゼアス義勇軍は、怒涛の勢いであった進軍を一時中断し、戦力を分散して、大陸中央での支配地域拡大を進めていた。敵の狙いは、ボーゼアス教の支配地域を拡大し、占領した土地でボーゼアス教を布教する事で、自軍の戦力を増大させる事だと予想された。

 同盟軍に勝利するため、ボーゼアス義勇軍は各地で戦力を調達し、正規軍で構成された同盟軍に、やはり数で対抗する。そう予測した王国軍の作戦は、敵戦力が再び集結する前に、大陸中央へ集結途中の各国軍で、分散した敵戦力の各個撃破を行なうというものであった。

 集結途中の各国軍が目的地を変更し、各地に分散しているボーゼアス義勇軍を攻撃する。戦力を分散した敵軍は、その一つ一つの軍団は兵数が多くない。各国軍が分散した敵軍団の撃破に成功すれば、敵戦力の大幅な低下が期待できる。互いの軍隊が集結し、総力戦を行なう頃には、敵戦力は同盟軍と変わらない数となるだろう。

 

 既に作戦は進行中であり、王国軍を始めとした各国軍は、集結を一旦中止し、各地に分散したボーゼアス義勇軍の各個撃破に向かっている。作戦を計画したのは、王国軍を率いる若き王子、アリオン・オブ・グリフィズである。

 ボーゼアス義勇軍の動きを察知した彼は、この作戦を立案し、直ちに伝令を各国軍のもとへと走らせた。その後彼は、自軍の進路を変更し、自分達の最も近くにいる敵軍団へと、進軍を開始したのである。撃破する目標と定めた敵軍団まで、あと一日の距離まで近付いている。王国軍の二万が戦いを挑むのは、ボーゼアス義勇軍五千の軍団。戦力差は約四倍である。

 ホーリスローネ王国第一皇子アリオンに率いられ、王国軍は進軍を続けていく。彼らの戦いは、もう間もなく始まりを告げるのだ。

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