第三十六話 衝撃、ウエディング大作戦 Ⅸ
日は沈み、月と星が輝き、夜も更けた頃。
街の明かりが消えていく中、ヴァスティナ城のある一室では、まだ小さな明かりが灯されていた。その一室とは、帝国参謀長の寝室である。
ランプの明かりだけが灯る、帝国参謀長リックの寝室。部屋の主である彼は今、ガラス製の水瓶の蓋を開け、グラスに水を注いでいる。左手で粉末が置かれた紙を掴み、水を注いだグラスを右手で持つ。彼が何をしようとしているのかは、言うまでもないだろう。これから彼は、薬の時間なのだ。
ノイチゴが調合した粉末の薬を口へ運び、グラスの水を煽って流し込む。薬は非常に苦いのだが、我慢してそれを呑み込んだ。これを毎日、寝る前に服用しているのである。飲んでおかなければ、寝てる間に高熱や吐き気に襲われる事があるからだ。
「参謀長、入っても宜しいでしょうか⋯⋯⋯?」
「ヴィヴィアンヌか⋯⋯⋯?入っていいぞ」
寝室の扉をノックし、入室の許可を取ろうとしているのは、ヴィヴィアンヌの声であった。リックが入室を許可すると、彼の予想通りヴィヴィアンヌが扉を開き、部屋の中に足を踏み入れる。
「失礼します。夜分遅くに申し訳ありません」
「こんな時間に一体どうした?」
夜も更けた頃、突然やって来た訪問者。
リックの持っている物を見て、彼が薬を飲んでいた事を悟った彼女は、一瞬何かを言いかけ、少し俯いた。しかしすぐに顔を上げ、彼の瞳を真っ直ぐ見つめ、口を開く。
「参謀長に⋯⋯⋯⋯、確かめたいことがあります」
「⋯⋯⋯⋯」
ヴィヴィアンヌは寝室の中を移動し、リックの傍までやって来た。すると彼女は、いつものように薬を飲んでいた彼の体を労り、寝室のベットの上に腰を下ろさせる。ベッドの上に座る彼の目の前に立って、彼女は話し始めた。
「今日の結婚式は無事終了し、作戦は成功致しました。これでゴリオンは、ユン・シャオと正式に夫婦となり、その事実は帝国中に知れ渡った事でしょう」
「お前には本当に感謝している。俺の無茶を聞いてくれて、ありがとう」
「いえ、私は閣下の命令を遂行したに過ぎません。感謝されるべきは、私の命令に従った作戦参加者達です」
「でも、これはきっとお前にしかできなかったと思う。ヴィヴィアンヌに任せて、心から良かったって思ってるよ」
目の前に立つヴィヴィアンヌを見上げ、リックは嬉しそうに笑って見せる。しかし彼女は、主である彼に褒められたにもかかわらず、嬉しそうな顔を一切見せる事はなかった。笑う事をもなく、寧ろ憂いの顔を見せ、さらに言葉を続ける。
「私にまで、笑って見せる必要はありません」
「⋯⋯⋯!」
「閣下が隠している本当の目的は、既に理解しております」
結婚式を盛大に祝ったのは、大切な仲間であるゴリオンを祝福するため。ヴィヴィアンヌに式の準備を任せたのは、彼女が皆に認められるきっかけを作るためだった。
では、結婚式を今日挙げるために、準備を強行した理由は何なのか?ゴリオンとユンの願いを聞き届けたのには、二人を祝福するため以外の理由が存在したのである。
「大陸中央で発生した、新興宗教ボーゼアス教の大反乱。これに対し各国は、グラーフ教の要請のもと軍を派遣する準備を進めています」
「⋯⋯⋯⋯」
「討伐軍を派遣する各国は、いずれもグラーフ教を信仰している国々です。本来ならば、グラーフ教を信仰していない我が国には関係のない話ですが、閣下にとってはそうではありません」
これから起こる大陸中央の戦いは、グラーフ教とボーゼアス教の戦いとなる。その戦いにヴァスティナ帝国は、関わる必要性は全くない。何故ならこの国は、グラーフ教を信奉していないからだ。グラーフ教を守るためにという理由で軍を派遣する必要性は、この国には存在しないのである
しかしリックは、大陸のこの状況下を利用したいと考えていた。そのためには、軍を大陸中央の戦場に送る必要がある。
「帝国の大陸侵攻計画は、エステランとアーレンツの国力を得たことによって、次の段階へと駒を進めます。ジエーデル国を攻略するためには、大陸中央で確固たる地盤を築かなくてはなりません」
「⋯⋯⋯アーレンツを手に入れたと言っても、大陸中央の勢力図はジエーデルが優勢だ。俺達は、ジエーデルに対抗できるだけの力を用意する必要がある」
「そのためには、大陸中央へ軍を進出させ、勢力図を塗り替えていく必要があります。閣下がそのつもりである事は、最初からわかっていました」
ヴァスティナ帝国は南ローミリアの小さな小国であった。それが今では、エステラン国とアーレンツを降した事によって、国力は増大し、大陸中央進出の拠点まで手に入れていた。
帝国の次なる目標は、宿敵である独裁国家ジエーデル国への侵攻である。利害の一致によって、密約を交わしたり、一時的に手を組む事もあったが、ジエーデルへの敵対心が消える事はない。彼の国が帝国をどう思っていようと、帝国はジエーデルを滅ぼすために、今日まで戦ってきたのである。
侵略戦争を繰り返し、国力を増大させてきたジエーデル国は、今や強大な独裁国家となった。帝国が勝利するためには、あと少し準備が必要なのである。大陸中央へ進出する事によって、帝国の勢力図を拡大させていき、ジエーデル国侵攻への足掛かりを用意すれば、いよいよ宿敵との戦争が始まるのだ。
だが問題は、どのような大義名分を用意し、大陸中央へ軍を進出させるかであった。
「閣下が軍師達と進めている、帝国軍国防軍化構想。アーレンツとジエーデルを参考にし、軍の強化を進めておりますが、国防軍化すれば帝国軍は、ジエーデルへの侵攻以外での軍事行動を許されなくなります」
ヴァスティナ帝国は様々な国家と戦争が勃発し、国を守るため戦い続け、勝利し続ける事で今の国力を得た。それらの戦争には、国防という大義名分が存在した。エステランとアーレンツの場合では、国防以外にも特別な理由が存在したため、兵士も国民も納得して戦争に臨んだのである。
しかし、度重なる戦争によって兵も民も、肉体ではなく心が疲労していた。
戦争に勝利しても、すぐにまた次の戦争がやってくる。そのような状況がずっと続いていた。終わる事ない戦争の連鎖に、精神的疲労が溜まるのも無理はない。このままでは、戦争に疲れた兵や民から反戦の声が上がり始めるのも、時間の問題と言えた。
宿敵であるジエーデル国との戦争であれば、帝国の悲願であるため問題はなく、皆が納得して最後の戦争だと思い望む事だろう。国防軍化しても、ジエーデルへの侵攻が帝国の悲願である以上、国内で非難の声が上がる事はない。
しかし、侵攻のための準備と言っても、中央への進出が納得されるかと問われれば、難しいところである。皆、一刻も早い戦争の終わりを求めているし、何より進出のための理由が弱いのである。そこでリックは、進出理由の強化を図ったのである。
「中央への進出のために、閣下はボーゼアス教討伐への参加を計画している。その計画に必要なのが、ゴリオンとユン・シャオです」
「⋯⋯⋯」
「閣下は前女王と深く関わっていました。初めから、孤児院の存在もユン・シャオについても、閣下は御存知だったのですね」
「そうだ⋯⋯⋯⋯」
「閣下はプレシア孤児院がグラーフ教を信仰しているのも、初めから知っていた。その考えに行き着けば、今回の事に全ての説明が付きます」
ゴリオンから結婚の相談をされた時、リックは彼が誰と結婚するのかを聞いていた。結婚相手がユン・シャオであると知らされた時、既に彼は、彼女と孤児院の存在を知っていたのである。
ヴィヴィアンヌが予想した通り、リックは前女王ユリーシアから、ユンと孤児院の存在を聞かされていた。彼女亡き今、プレシア孤児院を援助しているのは、孤児院の存在を知っているリックなのだ。ユリーシアの意志を継ぎ、静かに孤児院を守り続けていたのである。
ユンと直接顔を合わせた事はなかったが、彼女がどんな人物であるか、リックはよく知っていた。ゴリオンが彼女と結婚すると口にした時、彼女と結ばれるのならば安心だと、心の底から安堵していたのである。二人はきっと幸せになれると、そう信じられた。
だが、祝福の心に反して彼の頭は、大陸中央進出の計画を生み出していたのである。
「この国の英雄の一人であるゴリオンが、グラーフ教を信仰するユン・シャオと結婚する。そうなれば、帝国はグラーフ教と無関係ではなくなります」
「⋯⋯⋯この国でグラーフ教を信仰し、教えを説いているのは彼女だけだ。彼女の存在だけが、グラーフ教と繋がるための唯一の鍵になる」
「英雄と結ばれた信徒を守るための、異教徒討伐への参戦。これこそが閣下の狙いですね」
リックは口を閉ざしたが、ヴィヴィアンヌの言葉は事実だった。
ゴリオンとシャオが結ばれれば、彼女の言う通りこの国は、グラーフ教と無関係ではなくなる。国の英雄と結婚した以上、花嫁がグラーフ教の信徒である事実には、無視できない影響力が発生する。それを上手く利用してしまえば、英雄ゴリオンの花嫁を守る名目で、兵と民を納得させ、軍を派遣する事が可能になるのだ。
英雄の花嫁を守るための戦い。そんな理由で、人々を納得させるだけの力を、ゴリオンは無意識に築いていたのである。
国民には愛され、戦場では多くの兵士達を救い続けた事で、絶対の信頼を得た。そんな彼のためならばと、特に兵士達は士気を大いに盛り上げ、異教徒との戦いに臨む事だろう。
さらに、国内にグラーフ教の信徒がいる以上、グラーフ教の信徒を虐殺しているボーゼアス教が、南ローミリアへ侵攻を開始する可能性もある。ボーゼアス教の脅威を伝え、異教徒討伐の重要性を説けば、討伐のための大義名分は、より強固なものとなるだろう。グラーフ教を信奉する、南ローミリアの同盟国を支援するという名目も付け加えれば、十分な大義名分が完成する。
二人の結婚を今日執り行ったのも、本当は二人の願いを聞き届けたからではなく、この計画を実現させるためである。異教徒討伐に一刻も早く動けるよう、二人を一日でも早く結婚させてしまいたかったのだ。
「俺の狙いを悟って、もうエミリオが動いてるらしい。ヴィヴィアンヌといい、エミリオといい、俺の部下は勘が鋭いから困るな⋯⋯⋯⋯」
「今日あの二人を結婚させたのは正解でした。今からでは各国に出遅れるでしょうが、討伐軍への参加はまだ間に合います」
「少なくとも勝ち戦に乗じて参戦した、なんていう台詞は言われなくて済む。これで俺達は大陸全土の武力統一に、また一歩進めたわけだ⋯⋯⋯⋯」
嬉しそうでも、喜んでもいない。少し俯き、無表情でリックは彼女に答える。今彼がどんな気持ちを抱いているか、それを察してヴィヴィアンヌが言葉をかける。
「閣下は正しい判断を下されました。その判断に苦悩する必要はありません」
「正しい判断か⋯⋯⋯」
「もしも私が閣下の立場であったなら、迷わず同じ判断を下しました」
「わかってる。これは俺の問題なんだ⋯⋯⋯」
皆の前で必死に隠していた感情が、彼女の前でゆっくりと露になっていく。感情を隠していた無表情は、彼自身が抱いている悲しみと憎悪に歪んでいった。
彼女が断言した通り、リックは正しい判断を行なった。その判断の結果もたらされる成果は、大陸全土の武力統一を目指す彼にとって、大きな前進となるだろう。例えそれが、純粋な二人の心を裏切るような行為であろうとも⋯⋯⋯⋯。
「俺は、ゴリオンの優しさに付け込んだ」
「⋯⋯⋯」
「あいつは幸せになるべきだ。ようやくその幸せを手に入れたのに、俺はそれを穢した⋯⋯⋯⋯!」
溢れ出していく感情。目の前に立つヴィヴィアンヌに向けて、我慢の限界を超えたリックの心が、隠していた感情を解き放つ。
「これしか、方法がなかったんだ⋯⋯⋯⋯!あの二人を利用する以外、俺には手段がなかった!」
「はい、閣下⋯⋯⋯」
「利用なんて⋯⋯⋯本当はしたくなかった。それでも⋯⋯⋯、決断が必要だった。必ず後悔するってわかってたけど、俺にはこうする事しかできなかったんだ⋯⋯⋯⋯!」
ヴィヴィアンヌが解き放った、苦しむリックの想い。
自分と共に戦い、家族同然のような存在である、かけがえのない大切な仲間達。誰一人として欠けて欲しくない、守りたいと誓った仲間達を、彼は自分の計画のために利用した。
そんな事はしたくなかった。必ず後悔するのもわかっていた。この国の未来のために、絶対に必要な事だったとわかっていても、罪の意識に囚われ続けている。彼にとって、大切な仲間を裏切る行為は、その身を引き裂かれるほどの苦痛なのだ。
「こんな自分の無能さと弱さを、いつも殺したくなる⋯⋯⋯。俺が屑だから⋯⋯⋯、ゴリオンは気を遣って、俺を心配してあんなことを⋯⋯⋯⋯!」
「あの男も、最初から気付いていましたか⋯⋯⋯」
「隠してたって、どうせいつかは気付かれた。だから覚悟もしてたさ。でも、あいつが初めから気付いてたって知った時、俺は堪えられなかった⋯⋯⋯⋯!」
今回の事を仲間達が知ったとしても、誰も彼を責めたりはしないだろう。帝国と女王を守るために軍を率いる、重い責務を背負う彼は、正しい判断をしたのだと考える。重責を背負う立場の彼を責められる者など、誰もいないのである。
それに、彼が苦渋の決断でこれを選んだと、皆にはすぐにわかってしまう。本当は選びたくなどなく、彼自身が一番苦しむ判断だと、理解しているからこそ責めはしない。
「幻滅したろ⋯⋯⋯。俺はこんなにも情けなくて、弱くて、下衆で、どうしようもない男だ⋯⋯⋯」
「幻滅などしません」
「嘘だ⋯⋯⋯!」
「嘘ではありません。貴方が情けない男であるのは、初めから知っているのですから」
「!!」
驚いて顔を上げたリックの体を、ヴィヴィアンヌの両手が押し倒す。自分のベッドに押し倒された彼の上に、四つん這いとなった彼女の体が現れた。リックの顔の目の前には、互いの息遣いが聞こえる距離に、彼を押し倒したヴィヴィアンヌの顔があった。
「貴方を救うのは、この私だ」
「⋯⋯⋯!!」
次の瞬間、押し倒されたリックの唇を、ヴィヴィアンヌの唇が塞ぐ。
唇を重ねた二人。突然の事にリックの思考は止まり、両眼を見開いて驚愕している。対してヴィヴィアンヌは、優しくリックの唇を奪ったまま、身動きしようとした彼を押えつけようとしていた。口付けを続けながら彼の両手を掴まえた後、掴んだ両手を彼の頭の上へと持っていき、逃げられないよう拘束してしまう。
「んっ⋯⋯⋯⋯⋯ふう⋯⋯⋯⋯」
「ヴィヴィアンヌ⋯⋯⋯⋯⋯、なんで⋯⋯⋯⋯⋯」
「貴方の苦しみも悲しみも、全て忘れさせる」
一度口付けを終えたヴィヴィアンヌは、動けないリックの唇に、またも自分の唇を重ねた。
先ほどのような優しさはない。今度は激しく、そして濃厚だった。口付けを行ないながら、強引に彼の口を開かせ、互いの舌を絡めさせていく。
リックが抵抗できないよう、口付けを続けながら、彼女は左手で彼の両手を掴んで拘束する。そして右手で、器用に彼の服を脱がし始めた。
「ぷっは⋯⋯⋯!まっ⋯⋯て⋯⋯、ヴィヴィ――――――――」
自分が何をされようとしているのか。彼女が何をしようとしているのか。それを察したリックが、慌てて彼女を止めようと口を離すも、有無を言わせず彼女はまた、自分の唇で彼の口を塞いだ。
左手に両手を拘束され、右手で服を脱がされ、互いの舌が絡み合う。抵抗は許されず、リックはその身をヴィヴィアンヌに支配されている。二十を数えるくらいの時間が流れ、やっと口付けを解いた彼女の目の前には、頬を朱に染め、息を切らすリックの姿があった。
「はあ⋯⋯⋯はあ⋯⋯⋯はあ⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「可愛いですよ、閣下」
「⋯⋯⋯!!」
途中まで服を脱がされ、口付けで感じさせられた今の彼の姿は、魅惑の色気を放っている。それを可愛いと称した彼女は、両手の拘束を解き、彼の体に跨って、自分の服を脱ぎ始めた。軍服を脱ぎ捨て、中に着ていたシャツのボタンを外し、そのシャツも脱いでベッドから放り投げる。
上半身を下着姿にして、力が抜けて体を動かせないリックに、再びヴィヴィアンヌが迫る。彼の体に自分の胸を押し当て、右手を下へと伸ばしていきながら、首筋を愛撫していく。
「んっ⋯⋯⋯っく⋯⋯⋯⋯!」
「辛いことも苦しいことも、この快楽で忘れさせる」
「だっ⋯⋯⋯だめだ⋯⋯、それじゃあお前を―――――――」
「私の体は貴方のものです。苦しさに堪えられないなら、私を肉欲を満たす道具にしてしまえばいい」
愛撫に声を殺して悶え、興奮は冷静な思考を奪い去っていく。触れているヴィヴィアンヌの体温が、罪悪感に苦しむリックの心に温もりを与え、快楽の底へと誘っていく。
だが彼は、快楽に溺れていきそうになりながらも、全てを彼女に委ねる事はなかった。快楽に悶え、気持ち良さに喘ぎ、頬をさらに朱に染め上げ、感じて息を切らしながらも、彼女の支配から抜け出そうとしていた。
快楽に身を任せようとしない、そんなリックの心を悟ったヴィヴィアンヌが、彼の耳元で、快楽へと堕とすために必要な言葉を囁く。
「私が、メシアの代わりになります」
「!!」
その抵抗は、彼が失ってしまった、最愛の女性を裏切らないためだった。彼女との愛を裏切らないために、ヴィヴィアンヌを拒もうとしていた。
ヴィヴィアンヌはそれを承知の上で、彼にとって最愛の女性の名を口にし、自分を彼女の代わりにしろと言った。心の支えであったメシアだけが、彼を救う唯一の手段だと知っていたのである。
「メシアに求めたことを、私に求めればいいんです」
「ヴィヴィアンヌ⋯⋯⋯⋯」
「閣下、私を抱いて下さい」
心の奥底に隠していた、悲しさと寂しさ。解き放たれたその感情を癒す、温もりと快楽には逆らえず、リックは両腕をヴィヴィアンヌの体にまわし、求める様に彼女を抱きしめた。その反応に満足し、抱擁を受けながら、彼女はもう一度、彼と唇を重ねる。すると今度は、彼の方から互いの舌を絡め始めた。
「んっ⋯⋯⋯⋯⋯ふう⋯⋯⋯⋯。中々御上手ですね」
「⋯⋯⋯⋯⋯お前ほどじゃない」
「ふふっ⋯⋯⋯、その調子で私を求めて下さい。なにもかも忘れてしまうくらい、激しく抱いて⋯⋯⋯⋯⋯」
妖艶な笑みを浮かべたヴィヴィアンヌを、強く抱きしめ、唇を奪い、貪るように求め始めたリック。
この日、二人は一晩中、寝室から姿を現わす事はなかった⋯⋯⋯⋯。
結婚式から三日後、ヴァスティナ帝国内で、帝国参謀長リクトビア・フローレンスによる大演説が行なわれた。
演説の内容は主に二つ。
一つは、ヴァスティナ帝国軍を、正式に国防軍とする発表。
もう一つは、異教徒討伐のため、軍を大陸中央へ派遣するという、新興宗教ボーゼアス教への宣戦布告であった。




