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第三十六話 衝撃、ウエディング大作戦 Ⅳ

「⋯⋯⋯以上が、現在我々の置かれている状況だ」


 陽が沈み始め、時刻は夕方となった。明日の結婚式が刻一刻と迫る中、彼女達はこの部屋に集まった。

 ヴァスティナ城の帝国軍会議室は今、対ゴリオン結婚式臨時作戦司令部となっている。そこに集まっているのは、式の作戦指揮全権を任されたヴィヴィアンヌと、帝国軍幹部の面々であった。

  

「おい眼帯女。なんでお前が仕切ってんだよ?」

「話を聞いていなかったのか破廉恥剣士。彼女が参謀長に指揮を任された以上、仕切るのは当然のことだ」

「まあ、クリスの野郎の気持ちもわからんでもねぇ。この前まで敵だった女だしな」

「ほんとそれ。こんな奴に従うのなんて僕反対」

「まあまあ、ゴリオンのために抑えてや⋯⋯⋯」

「シャランドラ殿の言う通りです。ゴリオン隊長のためにも、ここは堪えて下さい」

「やれやれ⋯⋯⋯。イヴは相変わらずの様だね」

「しょうがないですわ。参謀長が彼女を受け入れても、まだ受け入れられない人はたくさんいますもの」

「そういうもんなのか?オレはもう受け入れたぜ!」


 集まった幹部達は、レイナとクリス、シャランドラとイヴとアングハルトに加え、残りの面子も揃っている。

 帝国参謀長の頭脳にして、長髪と眼鏡が特徴的な軍師エミリオ・メンフィス。同じく長い髪の軍師にして、お嬢様言葉で頑固な性格の女性ミュセイラ・ヴァルトハイム。帝国軍の精鋭、鉄血部隊の部隊長ヘルベルト。帝国軍のとんでも特攻隊長、正義の戦士ライガ・イカルガ。

 幹部達は全員、この部屋に緊急で呼び出された。呼び出したのは勿論ヴィヴィアンヌである。結婚式準備のために、彼ら全員を協力させようとしているのだ。


「みんな、オラのせいでごめんなんだな⋯⋯⋯」

「謝罪は必要ない。式の準備は閣下の御命令だ」


 そしてこの場にはもう一人、結婚式の主役であるゴリオンの姿もある。彼もまた、作戦会議参加のために呼び出されたのだ。


「それでアイゼンリーゼさん。わたくし達に状況説明したのはいいですけれど、具体的な作戦はお有りですの?」

「当然だ。作戦があるからこそ、ここに貴様達を呼んだ」

「参謀長の無茶振りはいつもの事ですけど、まさか貴方が指揮を執るなんて予想もしてませんでしたわ。ほんと、あの人の考えることはわかりませんの」

「黙れヴァルトハイム。閣下を愚弄するつもりか?」

「ちょっ!?恐いから殺気を向けないで下さいまし!」


 馬鹿真面目という言葉が似合ってしまう、かなりの堅物であるヴィヴィアンヌは、リックへの悪口の類を決して許さない。ミュセイラを睨み付けた彼女は、完全に殺気を放ってしまっていた。

 ヴィヴィアンヌの殺気にビビり、エミリオの後ろにミュセイラが隠れる。場が静かになった事で、彼女の作戦説明が始まった。


「外は夕方だが、式の開始は明日の正午となる。残された時間は少ないが、各自がそれぞれの役割に戦力を集中すれば、間に合わせるのは決して不可能ではない」


 部屋には作戦会議用の大きめな机が用意されており、机の上には城の見取り図が広げられていた。ヴィヴィアンヌは説明を開始しながら、右手の人差し指で、見取り図の一点を指差した。


「婚姻の儀を執り行う場は、城内の謁見の間を使用する。儀式の進行役はメンフィス、貴様に任せる」

「私がかい?進行役などやったこともないのだが⋯⋯⋯」

「他にできる者はいない。グラーフ教の婚姻の儀通りの進行をやって貰うぞ」

「⋯⋯⋯仕方がない。今晩までには、グラーフ教の婚姻の仕方を覚えよう」


 次に彼女は、見取り図に描かれている食堂を指差す。ここには大きな調理場があり、城内にいる文官や兵士達の食事は、全てここで調理されている。


「ベルトーチカ、貴様は料理が得意だそうだな。食堂の者達と共に、式に出す料理を用意しろ」

「はあ?僕に命令する気?」

「式には大量の料理が必要になる。だが調理ができる戦力は不足している」

「お前の命令なんて聞きたくない」

「閣下は作戦の指揮権を私に与えた。つまりこれは、閣下の御命令でもある」

「⋯⋯⋯だから従えっての?」


 ヴィヴィアンヌを睨み付けたイヴは、今に彼女を殺しにかかりそうだった。場に流れる一触即発の緊張感に、皆が固唾を呑んで二人を見守る。


「⋯⋯⋯頼む」

「⋯⋯⋯ふん。ゴリオン君のためだから、今回だけは特別だよ」


 信じられない事が起こった。あのヴィヴィアンヌが、イヴに頼んだのである。そしてイヴは、意外にもあっさりと、ヴィヴィアンヌの頼みを聞いてしまった。

 彼女はリックの命令を遂行するために。彼はリックとゴリオンの願いのために。二人はそれぞれの気持ちを今は忘れ、不承不承ながら協力する道を選んだのだ。


「眼鏡。お前はベルトーチカの手伝いと、当日の芸の司会進行をやって貰う」

「誰が眼鏡じゃ呆け!まさかその呼び方気に入ったんやないやろな!?」

「普段の戦勝パーティー進行役がお前なのは知っている。当日までに芸を用意しておけ」

「無視かい!!」


 結婚式には出し物を用意しなくてはならない。それが花嫁の願いの一つなのである。これに適任者なのはシャランドラだと知って、彼女は芸の支度を任せたのである。


「ヴァルトハイム。貴様には、今回の式に必要な物資調達の指揮を任せる」

「物資の調達ですの?」

「何がどれだけ必要か全て計算し、人を使って集めさせろ。時間はない、急いでやれ」

「そっ、そんな無茶――――――――」

「貴様に拒否権はない。命令を聞かないのであれば、貴様の幼児退行癖を帝国中に言い触らす」

「ちょっ!?貴女なんでそれ知ってますの!?」


 彼女の言う通り、ミュセイラに拒否権はない。命令を実行させるために、彼女の弱点は既に調査済みなのである。


「レッドフォード、ヘルベルト。貴様達は指揮下の戦力を使って、ヴァルトハイムの指示通り行動しろ」

「おい眼帯女!まさかお前、俺達に買い出しさせるつもりか!?」

「口の悪い馬鹿の割に察しが良いな。必要な物資は沢山ある。力仕事は貴様達の仕事だ」

「この野郎!喧嘩売りやがったな!?」

「落ち着け馬鹿。奴の言葉にいちいち反応すんなよ」

「だから馬鹿って言うんじゃねぇ!ぶっ飛ばすぞロリコン野郎!」

「誰がロリコンだ糞ったれ!!」


 式は明日。それは突然決まったため、当然ながら式に必要な物資は足りていない。そもそも、何が必要になるのかもわからない状況だ。

 そこで、ミュセイラとクリス達の出番である。必要な物資のリストアップや計算が得意な彼女が、速攻で全部洗い出し、足りない物をクリス達が街に買いに行く。クリス指揮下の兵士達も、ヘルベルトの指揮下の兵士達も、鍛えられているお陰で力仕事は得意である。各自の能力を正確に見抜く、ヴィヴィアンヌの役割分担は的確であった。


「イカルガ。貴様も物資調達係だ」

「わかったぜ!!うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!燃えてきたぜええええええええええっ!!」

「大至急必要となる物資の調達は貴様の仕事だ。全速力で調達してこい」

「おう、任せとけ!!」


 そして彼女は、ライガの扱い方も完璧であった。考える事が非常に苦手な彼には、体力を使う仕事の方が向いている。その無駄に続く体力を利用し、物資を全力ダッシュで買いに行かせるつもりなのだ。


「同志ミカヅキ。貴官にはアングハルト共に、城内での準備を進めて貰いたい」

「わかった。部隊の者達にも協力させる」

「私も部下達に協力させます。今は人手が大いに越したことはありません」

「同志ミカヅキ、アングハルト。感謝する」


 最後に役目を言い渡されたレイナとアングハルトは、文句一つ言わず彼女に従った。彼女達はヴィヴィアンヌがどんな命令を言おうと、それに黙って従うつもりだったのである。


「おい槍女!!同志ってなんだこの野郎!」

「そうだよレイナちゃん!いつの間にこいつと仲良くなってんの!?」

 

 そうなるとやはり、クリスとイヴが敵意剥き出しで反応してしまう。

 反応するのも当然であった。明らかにヴィヴィアンヌは、他の者達とレイナとでは態度が違うのだ。しかも、同志などと呼ばれている。二人が、いやこの場の全員が驚くのも無理はない。


「それでヴィヴィアンヌ、具体的には何をすればいい?」

「指示は後で伝えるつもりだ。城内の指揮は私が執り、貴官達に適宜指示を与える」

「「無視か!!」」


 クリスとイヴを無視したヴィヴィアンヌは、これで作戦の第一段階のための、各自の役割を伝え終わった。しかし、まだゴリオンだけは、何の役割も与えられていない。すると彼女はゴリオンに視線を向け、指示を与えるべく口を開いた。

  

「ゴリオン。貴様は、早く食事を済ませ風呂に入り歯を磨いて温かくして寝ろ」

「!?」


 彼は明日の主役であり、彼がいなければ式は挙げられない。主役が体調不良で式を迎えてしまっては、せっかくの式が台無しになってしまう。ゴリオンの怪力は式の準備に大いに役立つが、ヴィヴィアンヌは彼をこの作戦に参加させるつもりはない。


「オラ、みんなに迷惑かけてるだよ。だから手伝うんだな」

「駄目だ。貴様の任務は、明日の式の備えて体調を万全にしておくことだ。よって貴様を作戦に参加させるわけにはいかない、以上だ」


 有無を言わせないヴィヴィアンヌの圧が、一発でゴリオンを黙らせた。やり方や言い方が直球過ぎるが、命令は的確である。これが彼女のやり方なのだ。


「私はドレスとケーキの手配をしてくる。各自すぐに作戦行動を開始せよ、解散」

「って、おい!ちょっと待って、どこ行く気だ!?」


 作戦会議を終了させ、部屋を後にしようとするヴィヴィアンヌ。そんな彼女の背中に向けて、クリスの怒鳴り声が届くも、彼女は全く動じる事はなく、部屋の扉を開けて出ていった。

 

「ちっ⋯⋯⋯、あいつなに考えてやがる!」

「ドレスとケーキの手配って言うてたけど、どうするつもりなんやろ?」


 戸惑う者もいたが、行動開始を宣言した彼女が部屋を後にして、最初に動いたのはレイナであった。彼女の後ろにはアングハルトが続き、この二人も部屋を後にしようとする。


「槍女!恋文女!お前らどこに行くつもりだ!?」

「決まっている。部下達に事情を話し、協力を頼みに行く」

「同じく」


 二人はヴィヴィアンヌに全面的に協力する姿勢である。その態度にクリスが噛みつくが、二人の意志は揺るがない。


「みんな⋯⋯⋯、彼女を信じて欲しい」

「⋯⋯⋯!」

「彼女のことは私が責任を持つ。だから、彼女に力を貸してくれ」

「ミカヅキ隊長⋯⋯⋯」


 そう言い残し、レイナは部屋を出ていった。彼女の背中にアングハルトも続き、二人が完全にいなくなった後、部屋には沈黙が流れる。

 すると今度は、なんとイヴが部屋を後にしようと動いた。相変わらずヴィヴィアンヌ対しては、敵意剥き出しであるのだが、命令は実行するつもりなのである。


「女装男子!お前もかよ!?」

「別に、あいつに従うわけじゃないから。ゴリオン君のために頑張りたいだけ」

「あっ、待ってやイヴっち!うちを置いて行かんといて!」


 イヴが部屋を出ていき、シャランドラが後に続く。二人が出て言った後、クリスは大きな舌打ちをして、苛立ちを隠さず頭をかいていた。


「ああ、畜生!イライラするぜ!」

「一体なにがそこまで腹が立つんですの?いい加減にしてくださいまし」

「うるせぇ!あの女見てるとよ、槍女に似ててムカつくんだよ!」

「えっ?レイナさんと彼女、見た目似てないと思いますわよ?」

「そこじゃねぇ!!誰が見た目が似てるって言った!?」


 説明が面倒になったのか、彼はそれ以上は何も言わず、自分の部下達を動かすため、苛立ちながら部屋を出ていった。

 それを眺めていたヘルベルトが、やれやれといった表情を浮かべ、溜息を吐く。彼には、クリスの苛立ちの理由が、大体察しがついているのである。


「レイナとあの女も不器用だが、あいつも不器用だから困るぜ」

「あの人が怒っている理由がわかるんですの?」

「まあな。あいつ、レイナと喧嘩ばっかりするくせに、意外と気にかけてるんだぜ」

「そうなんですの?いつもあんなに仲悪いのに⋯⋯⋯」

「不器用が二人に増えて苛々してんのさ。構うだけ疲れるからほっとけ」


 それから少し経って、残りの者達も行動を開始し、ヴィヴィアンヌの命令に従い、それぞれの仕事に取り掛かった。そしてゴリオンは、彼女の命令通り、罪悪感を覚えながらも大人しく、式に備える行動を開始したのだった。

 全員が役割通りに動き始めた中、ヴィヴィアンヌはある戦力に協力を求めるため、城内を早歩きで移動していた。彼女の作戦が成功するかどうかは、今から行なうこの交渉にかかっている。もし交渉に失敗すれば、結婚式は間に合わない。

 指揮官としての重責を背負い、彼女は行く。帝国女王を守護する、最恐の戦力の元へ⋯⋯⋯。










「⋯⋯⋯状況説明は以上だ。貴官らも、式の準備に協力して貰う」


 結婚式の花嫁衣装である、純白のウエディングドレスの手配と、ウエディングケーキの手配のために、彼女がやって来たのは、帝国メイド部隊作戦会議室であった。

 帝国メイド部隊とは、帝国女王最後の砦である、凶悪な戦闘能力を持つ護衛部隊の事である。この会議室に集まっているのは、手配のためにやって来たヴィヴィアンヌと、帝国メイド部隊を代表する面々だ。

 

「状況は把握しました。命令されなくとも、ゴリオン様の結婚式であるならばメイド部隊一同、喜んで協力致しましょう」


 ヴィヴィアンヌに呼ばれ、この会議室に集まったのは、部隊を率いるメイド長と、二人のメイドであった。

 メイド長の名はウルスラ。帝国メイド部隊フラワー部隊の最強の女性で、部隊の最高指揮官である。彼女と共に説明を聞いていたのは、フラワー部隊のリンドウとラフレシア。三人共、メイド部隊を代表する者達であり、交渉相手に相応しい人物であった。

 

「リンドウ、ラフレシア。これより我が部隊は式の準備に取り掛かります。皆にそう伝えなさい」

「了解しました、メイド長」

「えっ!?いやいや、メイド長もリンも即決過ぎでしょ!この女の命令そんな簡単に聞いちゃっていいの!?」


 何の迷いもなく、ヴィヴィアンヌの命令を承諾した二人に対し、反対したのはラフレシアであった。ゴリオンを祝福したい気持ちはあれど、彼女の命令であるから反対するのだ。


「なによラフレシア。ゴリオン様の結婚式を挙げたくないの?」

「そういうわけじゃないけど⋯⋯⋯。私はただ、リンが大丈夫なのかと思って⋯⋯⋯」


 ヴィヴィアンヌとリンドウは、複雑な関係にある。同じ国の出身で、前は敵同士で、今は祖国を裏切り、この国で生きている。そしてヴィヴィアンヌは、リンドウにとって大切な存在を傷付けた、憎むべき敵であった。

 しかし今、リンドウは彼女に対し、殺意も敵意も向けていない。まるで何事もなかったかのように、普通に接している。彼女に対する憎しみなど、最初から存在しなかったかのようだ。

 それを心配してるのがラフレシアである。リンドウを愛称で呼ぶくらい、彼女を大切に思うラフレシアからすれば、ヴィヴィアンヌの存在は、彼女の心を搔き乱す憎き存在である。自分の憎しみを必死に押し殺し、無理をしているのではないかと、そう考えリンドウの事を心配しているのだ。


「私なら大丈夫よ。憎むべきは彼女じゃなく、あの糞みたいな国だってわかってるから」

「リン⋯⋯⋯」

「そんな顔しないでよ。あんたがそんなだと調子狂うわ」


 リンドウもまた、ヴィヴィアンヌを理解している者の一人である。

 かつて、彼女はヴィヴィアンヌと同じ組織に所属し、諜報や暗殺などの任務を行ない続けてきた。同じ国で生まれ、同じような生き方をしてきたからこそ、ヴィヴィアンヌの痛みと悲しみがよくわかってしまう。

 失った人の心を取り戻し、新しい生き方を見つけた彼女を、もうこれ以上苦しめさせたくはない。そう思えるからこそ、リンドウは皆と同じように彼女に接するのだ。


「それでヴィヴィアンヌ様。私達の仕事はなんですか?」

「メイド部隊にはまず、城内の清掃及び飾り付けをやって貰う。他にもやって貰いたい事は沢山あるが、特に重要な任務が二つある」

「重要な任務とは?」

「当日の花嫁衣装と式用の菓子の用意だ。これはメイド長と、アマリリスというメイドにやって貰う」


 当然のように、メイド部隊の人間の能力も、既に把握しているヴィヴィアンヌは、式に必要な最重要品を彼女達に任せるつもりだった。ウルスラにはドレスを、もう一人にはケーキを用意させたいのだ。


「私が⋯⋯⋯、花嫁衣装を⋯⋯⋯?」

「貴官の趣味が寝間着収集なのは知っている。好みの寝間着を自分で作る事もあるそうだな?」

「あっ、貴女まで⋯⋯⋯なぜそれを⋯⋯⋯!?」

「そこの腐った女が他のメイド達にぺらぺら喋っているのを聞いた」

「⋯⋯⋯ラフレシア、遺書を書く時間くらいはあげましょう」

「ひっ、ひいいいいいいいいいいっ!!命だけはお助けを!!」


 帝国メイド部隊最強にして、メイド達にとって鬼軍曹的な存在である彼女の、意外な趣味。それは、可愛いパジャマの収集である。最近では、自分が可愛いと思えるパジャマを、自らの手で作ってしまうのが、彼女の新たな趣味でもあった。

 パジャマとドレスでは勝手が違うかもしれないが、それでもヴィヴィアンヌは、ウルスラならば間に合わせられると確信していた。彼女はウルスラの、完璧主義な性格に賭けたのである。


「花嫁の寸法は調査済みだ。貴官ならば明日までに間に合わせられるだろう」

「パジャマならともかく、ドレスなんて⋯⋯⋯」

「そう言うだろうと思い、貴官のために助っ人を呼んである」


 そう彼女が口にした瞬間、偶然なのか、それとも外で待機していたのか、会議室の扉が勢いよく開かれ、一人の女性が姿を現わす。突然現れたのは、長い金色の髪と紅いドレスが特徴的な、豊満な胸を持つ色白い肌の美女だった。


「私が手を貸そうじゃないか、メイド長」

「リリカ様⋯⋯⋯!?」


 妖艶な笑みを浮かべて現れた、絶世の美女。

 彼女の名はリリカ。ヴァスティナ帝国の宰相にして、帝国最凶の人物として恐れられている、とんでもない女性である。


「ふふっ、リックのために頑張っているこの子からの願いだ。二人で最高のドレスを用意しようじゃないか」

「⋯⋯⋯その本音は?」

「こんな面白そうな話、私も参加したいに決まっているだろう?」

「リリカ様が協力するというのであれば、初めから私に拒否権はありませんね⋯⋯⋯」


 リリカ参戦を受けて、ウルスラは抵抗を諦めた。ここで何をやっても、全て無駄な抵抗で終わるとわかっているからだ。ウルスラはリリカと共に、ウエディングドレスの準備を進めると決めた。

 後は、式に必要なウエディングケーキの準備である。その役目は、この場にいない人物、メイド部隊のアマリリスが指名された。


「次に菓子の用意だが、メイド部隊のアマリリスは菓子作りが得意だと聞く。女王の茶会に出す菓子は、全てその女の手作りらしいな」

「それを知っているなら、アマリリスを呼んで直接頼んだ方がいいのでは?」

「アマリリスは極度の人見知りだとも聞いている。私が言うより、貴官らの口からの方が言う事を聞きやすいはずだ」

「なるほど、わかってらっしゃる⋯⋯⋯」


 ヴィヴィアンヌの目的は、アマリリスにケーキを作らせるため、リンドウとラフレシアを利用する事であった。極度の人見知りである彼女を動かすには、付き合いが長いこの二人を利用した方が確実なのである。

 

「ふふふっ、流石は情報局の番犬と呼ばれただけある。帝国の人間全員のことは、既に把握済みの様だね」

「私の部下は優秀だ。この程度の情報を集めるなど造作もない」

「ああ、そう言えば。君の優秀な部下達、リックのお陰で解放されたんだったね」

「あの戦いで、私の部下は帝国軍の捕虜になった。部下達は閣下に解放され、以前と同じく私の指揮下で行動している」

「あれは良い拾い物をした。君の部隊のお陰で、我が帝国の諜報能力は以前と比べ物にならないからね」


 帝国軍の情報収集能力を何倍にも向上させる、ヴィヴィアンヌ・アイゼンリーゼ旗下の精鋭部隊。全員が諜報戦のプロ集団で、高い戦闘能力も有している。

 その精鋭部隊は今、彼女の命令を受け、全力で結婚式の準備に動いていた。例え、自分が指揮する精鋭の諜報部隊であろうと、任務に必要であれば躊躇なく投入する。ヴィヴィアンヌの徹底振りは、簡単に真似できるものではないだろう。


「話は以上だ。帝国女王最後の砦たる、貴官らの力を当てにしている」


 用が済めば次に移るため、直ぐに行動を開始する。メイド部隊への協力を承諾させ、ウルスラ達に背を向け、ヴィヴィアンヌは会議室を後にした。全ての行動に無駄がなく、即座に処理してしまうのもまた、彼女の簡単に真似できないところである。


「さあ、メイド長。私と一緒にドレス作りに励もうじゃないか」

「わかりました」

「ラフレシア、私達も早速準備に取り掛かるわよ」

「はいはい⋯⋯⋯。そんじゃまずは、アマリリスを取っ捕まえてケーキを作らせなきゃね」


 リックから指揮を言い渡された、あのヴィヴィアンヌの命令であるものの、彼女達もまた、ゴリオンを祝福したい気持ちは同じである。命令した人物がどうであれ、適当にやるつもりなどない。

 一名、この状況を楽しんでいる者がいるが、明日の結婚式のため、皆がやる気の炎を燃え上がらせた。絶対に間に合わせ、最高の結婚式を挙げて見せると、そう決めたのだ。


 そしてこの瞬間、ゴリオンの結婚式準備のために、帝国軍各部隊、鉄血部隊、帝国メイド部隊、ヴィヴィアンヌの諜報部隊が行動を開始した事になる。城中の戦力をほぼ全て投入する、ヴィヴィアンヌの大規模な作戦が、本格的に始まった。しかしこの作戦、明日結婚式を挙げるためとはいえ、大規模な作戦過ぎたのである。

 後に、帝国に暮らす人々はこの時の様子を見て、こう語った。

 「大勢の兵士が大慌てで走りまわってたから、結婚式じゃなくて戦争の準備でもしてるのかと思った」と⋯⋯⋯。

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