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第三十三話 勇者召喚 前編 Ⅴ

 それから二日後。櫂斗達にとって、運命とも言える日がやってきた。

 勇者の試練。時刻が昼になった頃、櫂斗達四人は案内役の文官に呼ばれ、アリオンと共にホーリスローネ城を後にした。案内された彼らが辿り着いたのは、巨大な闘技場のような場所である。彼らはここで、勇者になるための試練、「勇気の儀式」を受けるのだ。


「皆さん、覚悟はいいですね?」


 闘技場の通路の中で、アリオンは彼らの意志を最終確認する。彼の眼に映っているのは、緊張した様子の四人の姿であった。


「きっ、緊張してきた・・・・・」

「ここで戦わされるとは聞いてたけど、一体どんなのが出てくるんだろ・・・・・」

「華夜は私が守る。絶対に私の傍を離れないで」

「うん、お姉ちゃん・・・・・」


 ここで彼らは、試練のために用意されている魔物と戦い、勝利しなくてはならない。言うなればこれは、勇者の称号を得るための実戦試験であり、用意された魔物を倒せなければ、勇者の資格はないと判断されてしまう。

 櫂斗達にとって、これから始まる勇気の儀式は、この世界で初めて経験する実戦となる。どんな魔物と戦わされるのか、それはまだ知らされていないが、彼らならば必ず勝利できると、アリオンは信じていた。


「皆さんなら必ず勝てます。秘宝は皆さんに応えました。だから大丈夫です!」

「まあな。こんな玉があんな風になるなんて、あの時は予想もしてなかったけどな・・・・・」


 城の庭園で彼らは、秘宝の力を解き放つ事に成功している。その秘宝は今、四人の首にかけられたペンダントに取り付けられていた。櫂斗は金色、悠紀は青色、真夜は赤色、そして華夜は黒色を、それぞれペンダントという形で身に着けている。

 今はただの宝石のような玉だが、彼らが力を解放すれば、この玉は彼らの「武器」と変わる。彼らは無事に秘宝の力を解放した。しかし、ある問題が解決しないまま、この日を迎えてしまったのである。

 櫂斗達は秘宝を武器と変える事はできた。だが、秘められているであろうその力を、全く解放できなかったのである。彼らが緊張している最大の原因はこれであった。

 何をしても、秘められているはずの力は解放できず、櫂斗達はこの日を迎えてしまった。アリオンは「敵を前にすれば、きっと秘宝も応えるはずです!」と言って、それほど大きな問題だと思ってはいない。秘宝が武器へと変わった瞬間を見てしまったが為に、奇跡を信じてしまっているためだ。

 

「さあ行きましょう!王国中の民が、皆さんが勇者になる瞬間を心待ちにしております!!」

 

 不安と緊張を覚える中、アリオンに導かれ、四人は通路の扉を開いて外に出た。

 櫂斗達が外に出た瞬間、大気が震えんばかりの歓声が上がり、四人は驚いて歩みを止めてしまった。彼らが眼にしたのは、下が地面の広い空間と、その空間を取り囲むようにして造られた、巨大な観客席であった。その観客席には、数え切れないほど大勢の人間が集まり、四人に向けて歓声を上げている。この光景を見ると、アリオンが言っていたように、王国中の人間が心待ちにしていたと信じざる負えない。


「すげぇ・・・・・・」

「これ、全部人なの・・・・・?信じられない・・・・」


 場に圧倒されるばかりであった櫂斗達。この巨大な闘技場に足を踏み入れてしまった彼らは、敵と戦う前に、王国の人々に気圧されてしまっていた。


「有馬君、早水さん。あれを見て」


 ある人物の存在に気が付いた真夜が、二人の名前を呼んで観客席を指差した。その先には、如何にも王族観戦用に造られたであろう席があり、見たところ三つの席が用意されていた。席の真ん中には、初日に櫂斗達が顔を合わせた、ホーリスローネ王国国王オーウェンの姿がある。残りの席にも人の姿は見えるが、それは四人の知らない人物であった。

 

「あそこにいるのは父上と、グラーフ教の大司教様、それと勇者連合の団長様です」

「お偉方が勢揃いって感じか・・・・・」

「僕は皆さんと一緒には戦えませんので、あそこで父上と共に戦いを見守ります。では皆さん、ご武運を!」


 そう言って、闘技場の通路へと戻っていくアリオン。残された四人は、圧倒的な数の観客に気圧されてしまいながら、勇気の儀式の始まりを黙って待っていった。

 まもなくして、王族観戦用の玉座に腰かけていたオーウェンが、ゆっくりと立ち上がって見せる。それに応えるようにして、観客達は口を閉じ始め、あれほど大気を震わせていた歓声は、一分も立たない内に静まり返ってしまった。

 オーウェンは傍にいた文官から、手で握れるほどの大きさの棒を受け取った。それは音声を発する道具であり、棒に埋め込まれた小さな魔法石の力で、自分の声を何倍にも大きくする道具である。簡単に言えば、異世界版ハンドマイクだ。


「皆、此度の勇者の試練によく集まってくれた」


 マイクによって増幅されたオーウェンの声が、闘技場全体に響き渡る。マイク越しからも伝わる、国の支配者たる国王としての威厳に、場の空気が一変した。静寂を迎えた闘技場で、全ての観客がオーウェンに注目する。


「この四人こそ、異世界より秘宝によって導かれた、選ばれし者達である。彼らこそ、秘宝に秘められし力を解放できる、唯一の存在なのだ。彼らこそ、伝説の勇者達に他ならない」


 オーウェンはこの儀式の立会人であり、勇気の儀式の結末を見届ける義務がある。ローミリア大陸を守護する新たな勇者が誕生するのか、それとも彼らは勇者足り得なかったのか?秘宝に導かれし彼らの運命を決める時がやってきた。


「伝説の勇者達ならば、この試練を必ずや乗り越えられるだろう!ここに私は、選ばれた戦士の勇気を試す試練、勇気の儀式の開始を宣言する!!」

 

 国王オーウェンの宣言と共に、会場全体から大歓声が沸き上がった。会場全体の大気が震え、歓声は闘技場の外まで響き渡る。

 これから始まるのだ。異世界より舞い降りた、四人の少年少女達による、希望と未来を掴むための運命の戦いが・・・・・。


「選ばれし者達と戦うに相応しい試練を解き放て!門を開けよ!!」


 闘技場には、櫂斗達が入ってきた扉の他にもう一つ、巨大な扉があった。明らかにそれは、人間が出入りするための扉ではない。象やキリンが簡単に通れてしまう程の、巨大な鋼鉄の扉。その扉が、オーウェンの言葉と共に開かれる。


「「「「!!」」」」


 開かれた門。そこから姿を現す、巨大な影。四人が見たものは、驚愕せずにはいられない巨大な存在であった。


「グッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


 それは、会場全体の大歓声を一瞬で掻き消すほどの、巨大な生物の咆哮であった。咆哮と共に巨大な扉から姿を現したのは、爬虫類のような頭と体をした巨大な生き物。全身が炎のような色をしているその生き物は、二本の足で立ち、背中には二つの大きな翼を生やし、鰐のような口に大きな牙が並んでいる。

 その姿を見て、櫂斗は現れたそれが何であるかを、すぐに理解した。彼らの前に「試練」として姿を現したのは、ファンタジー世界ものの小説やアニメなら、必ずと言っていいほど登場する巨大生物。この世界では、最強の魔物と恐れられる、その生物の名は・・・・・・。


「ドラゴン・・・・・!」


 四人の前に姿を現した、ローミリア大陸最強種の魔物。その名は、火龍。

 全長二十メートルはあるだろう巨大な龍は、四人の姿を見つけるなり、またも咆哮を上げて見せる。大陸最強の魔物は、大気を震わす咆哮を上げて、試練に挑む戦士達を激しく威嚇したのだった。






「・・・・・それで、勇気の儀式を受けた彼らはどうなったの?」

「それは・・・・・、続きはまた後にしましょう」

「待って。こんないいところで話を中断するの?続きを聞かせて」

「続きは政務を終わらせてからに致しましょう。そろそろ休憩も終わりにしなくては、本日分の政務が片付きません」


 エステラン城の王族専用執務室にて、コレットが語る勇者の噂に耳を傾けていたソフィーは、話を途中で中断してしまった彼女に、続きを聞かせるよう頼む。しかしコレットの言う通り、そろそろ休憩を終わらせて政務に戻らなければ、今日分の書類の山が片付かない。コレットは心を鬼にして、不満の表情を見せるソフィーから、珈琲が入っていたカップを回収する。

 カップの中の珈琲は綺麗に飲み干されていた。「よくこんな黒く苦い液体を飲み干せるものだ・・・・」と、そんな感想を心の中で抱きながらカップを片付け、代わりに書類の束を集め、それを無慈悲な顔でソフィーの机に置いた。


「貴女って、私にだけは厳しいのね」

「これも全て、ソフィー様のためです」

「はあ・・・・・。わかった・・・・・、言う通りにするから」


 不満気な表情であったが、不承不承ながら彼女は了承した。休憩の空気を変え、書類を手に取り政務を再開し始めたソフィーを見て、コレットもまた彼女のために仕事を手伝い始めた。

 時には、忠誠を誓う自らの主のために、心を鬼にする事を厭わない。そんな彼女にも、人間らしい甘さはある。


「話の続きは夕食の時にでもいかがでしょう」

「続きが気になるから是非聞きたいわ。でもそうね・・・・・、夕食の時じゃなくて、寝る前がいい」

「御就寝の時ですか・・・・・?」

「何もかも片付けて、憂いのない気持ちで続きを聞きたいの。どう?偶には一緒に寝る?」

「私のような者が、ソフィー様の御傍で眠るなど・・・・・・」

「一緒に女学校に通っていた学生同士じゃない。私じゃ不満なのかしら?」

「いえ、決してそのような・・・・・」


 相手は、コレットが忠誠を誓うこの国の支配者である。不満だなどと言えるはずがない。それがわかっているからこそ、冗談半分でソフィーは彼女に尋ね、困惑する様を楽しんでいるのだ。

 そんな主の考えをよく理解しているコレットは、今日は彼女の思い通りになるまいと、咳払い一つして気持ちを切り替える。彼女がそう望むなら、こちらは慌てず、彼女の望み通りにしてあげようと・・・・・。

 それにコレットからすれば、この世界で唯一の親友であり、唯一の同志であるソフィーと、話を弾ませながら共に夜を過ごすのは、極上の時間である。形的には遠慮するが、そもそも断るという選択肢はない。

 

「・・・・・今夜は寝かせませんよ?」

「!?」

「あら?一体何を想像されましたか?お顔が赤いですよ」


 まさかの不意打ちに、頬を赤く染めたソフィー。恥ずかしがった彼女を見て、普段は滅多に笑う事のないコレットの口元に、少しだけ笑み浮かんだ。


「貴女って、偶に意地悪よね・・・・・」

「いつものお返しです。噂の続きを話した後は、御一緒に眠るだけに致しますので、どうぞ御安心下さい」

「変わったわね・・・・。まだいじめられっ子だった頃の方が、もう少し可愛げがあったかしら」

「ソフィー様がそう思うのなら、少しは私も変われたのでしょう。もちろん、悪い方にですが」


 互いの冗談に、ソフィーもコレットも小さく笑い合う。そして二人は、気持ちを切り替えて再び政務へと戻っていき、黙々と仕事に取り掛かっていった。

 時々、二人だけの今夜の時間が楽しみで、互いに頬を緩ませてしまいそうになりながら・・・・・。

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