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第三十一話 幕を引く銃声 Ⅰ

第三十一話 幕を引く銃声







 ローミリア大陸中央で繰り広げられている、国家の存亡を懸けた戦争。

 南ローミリアの盟主ヴァスティナ帝国と、同盟を結んでいるエステラン国の混成軍は、中立国アーレンツへと侵攻を開始した。戦闘開始から、ヴァスティナ帝国軍は戦局を優勢に進め、アーレンツ国防軍を圧倒していった。さらに、帝国軍の新兵器である自走砲が猛威を振るい、アーレンツの軍事施設を破壊した事によって、アーレンツの防衛能力は大きく低下したのである。

 既に防衛線は崩壊を始めており、アーレンツの国家保安情報局の戦力や、国防軍の精鋭部隊などが善戦しているものの、戦局を好転させる事は出来なかった。ここに至り、情報局と国防軍の将校は、アーレンツの敗北を悟った。それでも、将校の多くは、祖国への忠誠や国民を護るため、迫り来る帝国軍の侵攻に対して戦闘を継続させている。

 だがここに一人、祖国の敗北が確定した事によって、他国への亡命を計画している者がいた。


(どいつもこいつも役に立たん・・・・・。やはり、ゼロリアスかホーリスローネに渡るしかないな)

 

 現在、アーレンツ国内中心部には、臨時最高司令部が設置されており、全軍への指示はここを起点に伝達されている。砲撃によって破壊された建物の瓦礫をできる限り撤去し、陣地構築用のテントなどを設営して、国防軍と情報局の指揮官達が集まり、指揮命令系統を維持していた。

 そして、臨時最高司令部を設営させ、臨時の最高司令官として全軍指揮している人物の名は、ルドルフ・グリュンタール。国家保安情報局の大佐であり、現在はアーレンツの全戦力の指揮権を握っている。

 この男の頭の中では今、国防のための新しい作戦ではなく、自分が生き残るための計画が練られていた。勝利のために多くの手を打ったが、彼は敗北の未来も最初から計算していた。アーレンツの滅亡が確定した場合は、護るべき祖国を捨て、大国へ亡命する気だったのである。

 

(今から亡命するためには時間を稼ぐ必要がある。全戦力に徹底抗戦の命令を出し、防衛線を死守させるとしよう)


 国全体を防護壁で守る、鉄壁の要塞であるこの国には、情報局員の極一部の者しか知らない、幾つもの隠し通路がある。その隠し通路を取れば、誰にも気付かれる事なく国を出る事が可能だ。勿論彼は、隠し通路の一つを通って脱出するつもりだった。 

 しかし、脱出する前にやるべき事が残されている。それは、大国への亡命に必要な手土産であった。


(保管庫に行って情報を回収する必要があるな。最低限、ジエーデルの鴉についての情報さえあれば、ゼロリアスは間違いなく喰い付く)


 中立国であり、他国に様々な情報を売る情報国家でもあるアーレンツ。この国のとある場所に、諜報機関たる国家保安情報局が厳重に管理している、情報局の保管庫と呼ばれる施設がある。

 そこには、大陸中から集められた情報が保管されており、これを手に入れる事ができれば、大陸中のどんな国家とも有利な交渉が可能なのである。この国を捨てる前に、保管庫の情報さえ持ち出す事ができれば、亡命先で大きな権力を手に入れる事もできる。故に、保管庫の情報は、国内から脱出する前に必ず確保しなくてはならない。

 

(部下共だけには任せられんな。俺も行って必要な情報を回収し、その足で脱出するか)


 臨時最高司令部の多数のテントの一つが、最高司令官の指揮所となっている。ルドルフはそのテントの中で、机の上に広げられたアーレンツの地図を眺め、自分の脱出計画を実行に移そうとしていた。

 この脱出計画を成功させるには、とにかく時間を稼がなくてはならない。保管庫から情報を持ち出し、国外へ脱出するまでに、帝国軍にアーレンツを制圧されてしまえば、脱出は困難になる。今ならば、国防軍と情報局の戦力を利用し、安全に国外へ出る事が可能なのだ。

 ルドルフに付き従う部下達は、彼の考えを既に察しており、このテントの中で命令を待っている。彼らもまた、こんなところで死にたくはないのだ。

 帝国軍が侵攻を開始し、アーレンツを劣勢に追い込んだ事で、国内に潜んでいた反国家分子が行動を開始してしまった。祖国を裏で支配している情報局を打倒し、現在の支配者達から祖国を解放しようと企てていた勢力が、帝国軍の侵攻を受けて立ち上がったのだ。この動きによって、現在アーレンツ国内は暴動が発生しており、反国家分子は反乱軍となって、帝国軍を手助けするべく戦闘を開始した。

 反乱軍の動きに呼応し、国防軍の中で機会を窺っていた反情報局勢力なども、ルドルフの指揮下を離れ、帝国軍ではなくアーレンツの戦力と交戦状態に入った。国内は内戦状態となっており、この鎮圧にも戦力を割く必要もあったため、帝国軍に全戦力を向ける事ができなったのである。

 脅威はそれだけではない。帝国軍との挟撃をかけるべく、独裁国家ジエーデルの戦力も国内へ侵攻を開始していた。外側にも内側にも敵がいるこの状況下では、勝敗は決したも同然である。

 このまま帝国軍が勝利し、反乱軍と手を結べば、情報局の多くの局員は処刑されるだろう。彼らこそ祖国の害悪であり、国民を支配していた秘密警察であったからだ。特にルドルフは、反逆罪と称して多くの国民を手にかけている、情報局で最も恐れられた巨悪である。確実に処刑は免れない。彼に付き従っていた部下達も、彼と同じ運命を辿る事になるだろう・・・・・。


「お前達、生き残りたければ俺に従え。北の大地で良い思いをさせてやる」


 ルドルフの言葉を聞き、彼の部下達は全員不敵な笑みを浮かべて見せた。彼らから反論はなく、従うという意思を笑みで示したのである。部下達の反応に満足したルドルフもまた、邪悪に歪んだ笑みを浮かべて見せた。

 ルドルフも自身も彼の部下達も、アーレンツの国民にとっては敵であり、このままいけば処刑される運命にある。ルドルフの提案に異を唱える者などいるはずもない。


「そろそろ動くとするか。全軍に徹底抗戦の命令を出せ」

「はっ!」

「それから馬車を用意しろ。すぐに保管庫へ向かう」


 行動を開始したルドルフは部下を率い、指揮所のテントから外に出た。戦闘開始からかなりの時間が経ち、時刻は昼を過ぎ、日は落ち始めようとしている。現在の時刻と戦況を計算した彼の頭の中では、防衛線の完全崩壊は日が沈むまでと出た。つまり、日の沈むまでが、ルドルフらに残されたタイムリミットなのである。

 あまり時間は残されていない。迅速さが求められるため、急ぎ行動を開始しようとした彼らに、それは突然襲い掛かった。


「!?」


 突然、臨時司令部内の至る所で、閃光と共に爆発が起こった。設置されたテントの武器庫、食糧庫や火薬庫に至るまで、謎の爆発で吹き飛ばされる。特に、火薬庫で発生した爆発は、中にあった爆弾に誘爆して、大爆発と共に周りに火災を発生させた。

 突然の爆発により、大混乱に陥る臨時最高司令部。甚大な被害に混乱しながらも、兵士や局員がこの異常事態の対応に当たり、事態の確認と収拾に動く。爆発に巻き込まれた者は数多く、多数の死傷者を出してしまった。無事だった者達が負傷者の救助に対応するが、そのせいで前線への指揮は一時中断されてしまう。

 

「くそっ!!帝国の奴らの攻撃か!」


 事故などではない。これは間違いなく帝国軍の攻撃である。それをすぐに理解できたのは、ルドルフだけだった。しかもこれは、遠距離からの自走砲による攻撃ではなく、いつの間にか仕掛けられていた爆薬によるものであった。

 

「砲撃じゃない!この陣地に鼠が入り込んでいるぞ!!」


 ルドルフが叫んだ通り、これは爆発物を使用した破壊工作である。ならば近くに、陣地内に爆薬を仕掛けた工作員がいるはずなのだ。

 臨時最高司令部が潰されれば、アーレンツの全戦力は再び指揮命令系統を失い、一瞬で混乱状態に陥ってしまうだろう。この破壊工作は、明らかにそれを狙っていた。指揮系統を喪失して前線が混乱すれば、ルドルフ達の脱出は失敗する恐れがある。保管庫へ向かう前に、どうにかこの混乱を収めなければならない。

 そのためには、爆発によっては発生した被害に対応する必要がある。特に、誘爆によって大きな爆発を起こし、火災が発生してしまった場所は、早急に消火活動に動く必要があった。保管庫へと急ぎたいルドルフだったが、彼は怒りを理性でどうにか抑え、陣地内の兵士達に命令を下そうとする。


「やっと見つけた・・・・・・」


 命令を出そうと口を開いたルドルフの前に、彼女は現れた。情報局員が着る軍服を身に纏い、頭には軍帽を被っている。両手には二本のナイフが握られており、彼女の体からは、隠しようもない殺気が迸っていた。

 自分の目の前に現れたこの女こそが、陣地を爆破した犯人であると、ルドルフは直感で理解する。そして、彼女の目的が自分の命であるという事も・・・・・。

 局員の軍服を着ているが、彼女は敵だと直感したルドルフの部下達は、それぞれの得物を抜き、彼女に襲い掛かる。ルドルフの周りには十二人の部下がいた。その内の七人がルドルフを護衛し、残りの五人が彼女に向って駆け出した。

 五人の男達の手には剣が握られている。対する彼女は、ナイフを握っているとは言っても、たったの一人。勝ち目があるようには思えない。それなのに彼女は、逃げる事も恐怖する事もなく、ただ不敵な笑みを浮かべて見せた。


「遅すぎる・・・・」


 五人の動きは速かった。並みの兵士では対応しようとした瞬間に、自分の首を斬り落とされている。普段からルドルフの傍に控えているのは、諜報活動も戦闘も得意とする、彼の忠実なる精鋭だ。女一人殺すなど、彼らにとっては容易い事である。

 だがそれは、相手が並みの兵士程の実力であればの話だ。ルドルフ達の目の前に現れたこの女性には、彼らの動きが止まって見えている。

 三方から同時に襲いかかった五人。彼らの剣が彼女を斬り裂くと、そう思った瞬間、剣を握る五人の腕が宙を舞っていた。それは一瞬の出来事だった。彼女は目にも止まらぬ鮮やかなナイフ捌きで、五人の腕を斬り落としたのである。斬り落とされて宙を舞う五本の腕。出血と激痛に悲鳴を上げる部下達。突如現れたこの女性は、情報局の精鋭を一瞬で無力化できる実力を持った、最悪の相手であった。

 

「弱い。局員の練度、少し落ちたのかしら・・・・・」


 彼女にとっては、ルドルフの部下など雑兵と変わらない。

 痛みに絶叫する五人に向けて、彼女は服の袖から新たなナイフを出し、一瞬の動きで、五人の額目掛けてナイフを放った。放たれたナイフは五本。一人の額に一本の割合で、ナイフは全て命中した。額にナイフの刃が突き刺さり、止めを刺されて絶命する五人の部下。彼らはもう二度と動き出す事はない。

 

「次は貴方よ、ルドルフ・グリュンタール」

「その声・・・・・!貴様まさか!?」


 彼女の声も、その戦い方も、ルドルフはよく知っている。かつて彼女は、最も優秀な彼の部下だった。しかし彼女はある任務中、部隊の者達も含めて死んだはずだった。死んだはずの人間がナイフを手に、再び彼の前に現れたのである。


「氷の人狼・・・・!!生きていたのか!?」

「その呼び名、懐かしいですね。貴方のその下衆な顔も懐かしい・・・・」


 どこからともなく、懐から新しいナイフを取り出し、彼女は瞬時にルドルフ達との距離を詰める。彼女の狙いは、この場の最高司令官であるルドルフの命だった。

 彼女の狙いが自分だと直感し、襲い掛かるナイフの刃を防ぐため、ルドルフは傍に居た部下の剣を奪い、彼女のナイフをぎりぎり防ぐ。


「何のつもりだ!?ミカエラ・エヴォンス!!」

「・・・・・一つ間違っています」


 国家保安情報局に所属していた、天才と呼ばれた情報局員がいる。伝説となったその局員の名は、ミカエラ・エヴォンス。「氷の人狼」という異名を持った、情報局一の諜報員である。

 その彼女が今、ルドルフの目の前に存在する。近接戦闘にならば、この場にいる全員を秒殺する事さえ、彼女には容易い。


「ぐっ!!」

「氷の人狼ミカエラ・エヴォンスは死んだ」

「!!」

「今の私は、ヴァスティナ帝国メイド部隊、フラワー部隊のリンドウ。私の目的は、アーレンツの全戦力を率いる最高指揮官の排除です」


 彼女の手からルドルフを守るため、剣を握った残りの部下達が、一斉に彼女へと斬りかかる。だが彼女は、すでにその動きを読んでいた。彼らが斬撃を振るうよりも早く後方へ跳躍し、ルドルフと距離を取りながら刃を躱す。

 部下達は剣を構えたまま、ルドルフの前に出て彼を守る盾となる。一人相手に七人の構図であったが、守られている本人は安心などできなかった。

 リンドウと彼女は名乗った。だが相手は、全身に武器を隠し持ち、近接戦闘で無類の強さを誇った、伝説の諜報員ミカエラ本人であった。彼女の実力をよく知っている人間にとっては、この状況下で絶対に遭遇したくない最悪の脅威である。

 

「これで全て繋がったぞ!リクトビアを逃がしたのも、帝国軍の正確な砲撃の理由も、さっきの爆発も、全部貴様の仕業だな!!」

「相変わらず勘は良いようですね。と言っても、今更気が付いても手遅れですが」


 優秀な諜報員であった彼女が帝国にいるという事は、他国に対し徹底して秘密を貫いていたアーレンツ国内が、全て露見していた事を意味する。自分達の最大の敗北要因が彼女の存在であったと知り、憤怒に表情が歪むルドルフ。自分達は、最初から勝利などあり得なかったのだと、ようやく彼は知ったのだ。

 この場に彼女が現れた理由は、アーレンツの全戦力に命令を下す、最高司令官の抹殺である。そのために彼女は、砲撃の混乱に乗じて女性局員の軍服を奪い、それを身に纏ってこの場所に潜入した。適当な箇所に爆薬を仕掛けたのも彼女である。彼女はたった一人で、この臨時最高司令部を壊滅させるつもりなのだ。


「そんな事より・・・・・、参謀長を拷問したのは貴方で間違いありませんね?」

「・・・・・そうだと言えば、どうするつもりだ」


 瞬間、彼女の身に纏っていた空気が変わった。先ほどまでは圧倒的な殺気を放っているだけであったが、ルドルフの言葉で自分の予想が的中したと知り、今度は強烈な怒りを放つ。ルドルフ同様に、彼女もまた憤怒に顔を歪め、殺意を込めた眼で彼を睨み付ける。

 

「許さない・・・・・!貴様だけは、私がこの手で殺す!!」

「くそっ!こんなところで終われるものか!!」


 ミカエラ・・・・・・いや、リンドウを討つべく、ルドルフの部下達が彼女に立ち向かっていく。リンドウの襲撃に気付いた周りの兵士達も、彼らに続いて四方八方から襲い掛かった。

 周りを囲まれ、複数の敵に同時に襲い掛かられるリンドウだったが、彼女は少しも慌てない。何故なら彼女は、最初からこの場にいる全員を殺すつもりだったからだ。


「リック様を傷付けた者達は、全員殺す・・・・・!」


 リンドウに近接戦闘を挑んだのが運の尽きだ。立ち向かっていった者達は、彼女が仕込んでいた暗器の数々で、瞬く間に死体に変えられていく。ある者はナイフで首を斬られ、ある者は小型の鎌で腹を斬り裂かれ、またある者は毒針を差されて殺された。

 一体その軍服のどこにそれだけの暗器を隠しているのか。そう疑問を抱かずにはいられない程、彼女の暗器はいくらでも現れる。全身に武器を仕込み、狙いを定めた相手を情け容赦なく殺し、冷たい表情を浮かべるが故に、彼女は「氷の人狼」と恐れられたのだ。アーレンツの兵士が束になってかかろうと、敵う相手ではない。


「ちっ!役立たず共がっ!!」


 自分の部下達や兵士達では、彼女を止める事は出来ない。彼らが時間を稼いでいる内に、逃亡を図ろうと動くルドルフ。それを見たリンドウは、眼前の敵兵をナイフで蹴散らし、恐るべき足の速さで彼に追いつく。


「逃がさないっ!」

「ぐうっ!!ぐああああああああああああああああっ!!!」


 追いつかれたため、彼は応戦しようと振り返り、右手に握っていた剣を振ろうとした。だが次の瞬間には、彼の腕は自分の体から離れ、剣を握ったまま宙を舞っていたのである。リンドウの情け容赦ないナイフ捌きが、ルドルフの右腕を斬り落としたのだ。

 激痛と出血に絶叫するルドルフだったが、まだ彼の眼は恐怖に死んではいなかった。彼はわざと腕を犠牲にし、自分の命を守ったのである。


「ぐっ!鈍ったなミカエラ!!」

「!?」


 残された彼の片腕には、丸いボール状の何かが握られていた。ルドルフがそれを地面に叩き付けた瞬間、ボール状の物体から白い煙が放出され、彼とリンドウの姿を飲み込んでしまう。

 これは情報局が製作した自衛装備であり、発煙球と呼ばれている。これは帝国軍でも作られた、発煙手榴弾の一種であった。周囲に煙を放出する事で、逃走の補助などに使用できる装備だ。

 現役時代の彼女であったならば、相手の狙いにすぐに気が付き、発煙球を使われる事への警戒ができただろう。ルドルフはそんな彼女の、勘の衰えに懸けたのだ。しかし、煙で彼女の視界を奪っても、相手の気配を察知する能力が高い彼女であれば、眼を瞑っていても彼を見つけ出し、その息の根を止める事が出きる。衰えたと言っても、それは諜報員としての勘くらいのものであり、根本的な能力の高さは何も変わっていないのだ。

 故に、ルドルフは一つ置き土産を残していった。彼は煙に紛れて逃走を図りつつ、地面にアーレンツ製の爆弾を転がしていったのである。地面に転がされた爆弾を見つけ、リンドウは瞬時にその場から距離を取る。彼女が煙の中から姿を現し、煙との距離が離れた瞬間、導火線の火が火薬に達し、煙を吹き飛ばすほどの爆発が起こった。

 もし爆発に巻き込まれていれば、体を吹き飛ばされていただろう。反応が早かったお陰で、彼女は無傷ではあったものの、爆炎が晴れた先にルドルフの姿はない。発煙球と爆弾を使い、彼はリンドウからの逃走に成功したのである。

 

「あの下衆がああああああああああああっ!!!」


 激昂したリンドウが、自分を取り囲む兵士達に襲い掛かり、目に付く自分の敵を血祭りにあげていく。八つ当たりに近い彼女の殺戮は、彼女を討ち取ろうとしていた者達に、恐怖と絶望を覚えさせた。言葉にはしなかったが、この場の全員を皆殺しにすると、彼女の発する怒気が彼らに告げている。彼らは皆、自分達はこれから確実に殺されるのだと、そう悟ったのだった。

 

「見つけ出して必ず仕留める!!絶対に殺してやる!」


 一刻も早く、この戦争を終わらせなければならない。そうしなければ、傷付いた体を引きずり、一人の少女との戦いに向かっていった彼を、本当に救い出す事ができない。

 彼の強い願いに負け、彼女は彼を送り出してしまった。たった一人で、最強の敵に戦いを挑んだ彼を救う方法は、一つだけ。最高司令官であるルドルフを討ち、この戦争を一秒でも早く終わらせる事だ。そのために、彼女は単機でここへやって来た。

 ルドルフを討つ最大のチャンスを逃し、自分では抑えられない怒りの炎にその身を焼かれながら、彼女は次々と暗器を出して敵を殺す。逃してしまった以上、早々にこの臨時司令部を壊滅させ、ルドルフを追いかけるつもりなのである。焦る彼女の気持ちが、容赦なき殺戮の手を一層速めていった。


「ルドルフ・グリュンタール!!貴様だけは、決して許さない!!」


 目に付く人間を殺しまわり、飛び散らせた鮮血で地面を赤く染めていった。

 怒りに震えた人狼が、暴豹を仕留め、アーレンツを滅ぼすために、封印していた己の牙を剥く。

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