第三十話 嘆きのヴィヴィアンヌ Ⅲ
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
「来るな来るな来るな来るな来るな暑苦しいいいいいいいいいいっ!!!!」
アーレンツを攻める帝国軍と、祖国を守るために戦うアーレンツ軍。激しい攻防戦が続く中、たった二人による、奇妙な戦いが展開されていた。
一方は、変身特撮ヒーロー風の正義の味方。もう一方は、箒に乗って空を飛ぶ自称魔法少女であった。戦闘は、必死に逃げ回る自称魔法少女を、変身特撮ヒーローが雄叫びを上げながら追いかけまわすという、非常に理解に苦しむ状態にあったのである。
「もう!しつこい男は嫌われるんだから!!」
「ならば、諦めて降参する事だ!!」
「嫌よ!!魔法少女ノエルは魔法少女だから負けるわけにはいかないの!」
「君と同じように、私もまた正義の味方仮面ライガー!正義が悪に屈するわけにはいかないのだ!!」
「何が仮面ライガーよ!!魔法で鎧付けただけじゃない!」
「この鎧は我が正義の証!!ただの鎧と勘違いして貰っては困る!!」
「どうでもいい!!ほんと暑苦しくて嫌になるわ!」
とにかくしつこく、とにかく暑苦しい、正義の味方仮面ライガーから逃げ回る、魔法少女ノエル。彼女はしつこく追撃してくる仮面ライガーを迎撃するため、自慢の風属性魔法を放つ構えに入る。
「切り刻んじゃうんだから!エアカッター!!」
空を飛ぶ彼女の周りに四つの魔法陣が現れ、一斉に刃物の形をした何かを放つ。放たれたのは、魔法の力によって殺傷能力を持った、非常に危険な風の刃であった。当たれば、人間の皮膚など簡単に裂いてしまう。
飛んできた風の刃を、仮面ライガーは脚を止めずに躱していく。風の刃を躱しつつ、迎撃のために空中で停止したノエルとの距離を詰め、高く跳躍した仮面ライガー。彼は右手を握りしめ、必殺の拳を放とうとする。
「いくぞ!ライガーパンチッ!!」
「ちょっ!?」
当たれば殴り飛ばされ、地面に激突するのは目に見えている。絶対に喰らうわけにはいかないと、ノエルは風魔法と箒を自在に操り、ギリギリのところでその拳を躱した。
仮面ライガーの拳は空を切るだけとなり、彼はそのまま地面に着地する。危うく倒されるところであった魔法少女ノエルは、体勢を立て直すために彼と距離を取った。
「てっ、帝国の猛者ってこんなんばっかなの・・・・・。奥の手使わなきゃ駄目そうね」
「言っておくが、私は帝国軍の所属ではない。何故なら私は正義の-------」
「もういい、もうわかったから。じゃあ、正義の味方仮面ライガーさんは帝国軍の猛者の中で何番目に強いの?」
「どちらかと言えば、私は一番弱い!!」
「格好つけて言わないでよ!!それってつまり最弱って事じゃない!」
ノエルは驚愕していた。あり得ない程の人間離れした体力を持つこの男が、帝国軍の猛者達の中では最弱であるというのだ。ここまで自分が苦戦させられているというのに、何の冗談かと疑いたくもなる。他の帝国軍の猛者達は、自分が苦戦中のこの男より遥かに強いというのであれば、この後もしも、そんな猛者達と遭遇してしまったら・・・・・・。
「って事は・・・・・・、最初から本気出さないと負けちゃうって事よね」
魔法少女ノエルには、風属性魔法以外に、もう一つ隠している力がある。それは彼女が、本気を出さなければならないと判断した時に限り使用する、奥の手と言っていい能力であるからだ。
「汝、契約に従い我が呼びかけに応えよ・・・・・・」
「!!」
箒で空中に浮いている彼女の真下に、新たな魔法陣がその姿を現す。地面に現れた大きな魔法陣が、怪しげな光を放ち、ノエルの声と共に現れたのだ。これも当然の事ながら魔法であるが、この魔法は彼女の風属性魔法とは違う。
「我が前に立ちはだかる者を喰らい尽くせ!漆黒の双頭、オルトロス!!」
彼女の声に応えるかのように、禍々しいオーラと共にそれは姿を現した。魔法陣から現れたのは、二つの首を持つ漆黒の犬である。毛並みは黒く、人よりも大きい、現れた双頭の大型犬。二つの首は牙を剥き出しにし、仮面ライガーを威嚇するかの如く高らかに吠えた。
「魔物!?風属性魔法だけでなく闇属性魔法も操るのか!?」
「ご名答!私の可愛いオルトロスちゃんで、君をその鎧と一緒にズタズタにしちゃうんだから♪♪」
ローミリア大陸内において、魔法を操る事ができる者は数少ない。その数少ない中に、特殊な魔法を操る者もいるが、その数はやはり少ない。だが、魔法を使える人間の中で最も少ないのは、複数の魔法を操る事ができる、極めて特異な存在である。
何万人、何十万人に一人と言われるほど、複数の魔法を操る存在は珍しい。そんな希少な存在の一人なのが、魔法少女ノエルなのである。彼女は移動と攻撃を風属性魔法で行ない、闇属性魔法を強敵相手の切り札としているのだ。
闇属性魔法とは、主に魔物の召喚を行なう魔法である。闇属性魔法によって召喚された魔物は、自分を呼び出した主の命令に従い、忠実な駒として主の敵と戦う。さらに、闇属性魔法で召喚される魔物は、注いだ魔力の量や能力者の力の大きさによって、その強さや大きさ、姿形までも変化するのである。
「本当はもっと時間かけて別の子を召喚したいところだけど、その隙に襲われたら困るし。まあ、君くらいならこの子で十分でしょ」
双頭オルトロスは、ノエルの闇魔法で呼び出される主力の魔物である。体長が五メートルはあり、性格は非常に凶暴で、素早い動きを得意としている。人間一人を倒すのであれば、十分過ぎる魔物であった。
「相手が魔物であるならば、正義の味方として戦わないわけにはいかない!来いっ!!」
仮面ライガーと双頭オルトロスの戦いが始まった。オルトロスは彼を噛み砕くべく駆けだして、己の牙を輝かせながら、物凄い勢いで距離を詰め、その巨体で仮面ライガーの体を弾き飛ばした。
強烈な突進を受けて宙を舞う仮面ライガー。地面に叩き付けられ、背中に強い衝撃を受け、痛みを堪えて立ち上がろうとするも、その行動を物理的に押さえにかかったのは、オルトロスの大きな前足であった。彼の体を前足で踏みつけ、身動きを封じ、オルトロスの片方の頭が口を大きく開き、その牙を突き立てようと襲い掛かる。
「ライガーパンチッ!!」
オルトロスの噛みつきを防ぐべく、仮面ライガーはその拳をもって、オルトロスの顔を殴って見せた。当たりどころが悪かったのか、オルトロスが強烈な痛みに怯んだ隙を付いて、彼は前足の拘束から脱出する。
「オルトロスちゃんをぶん殴るなんて大したものね!でも、これならどう!?」
戦いの本番はここからである。魔物を召喚した時、彼女は後衛となり、前衛を魔物に任せるのである。オルトロスを前衛として戦わせ、彼女は後方から支援攻撃を行なうのだ。攻撃方法は当然、彼女お得意の風属性魔法である。
「巻き起こしなさい!トルネード!!」
そうノエルが叫んだ瞬間、仮面ライガーの前に小さな竜巻が現れた。竜巻は初め、彼の足くらいの大きさしかなかったが、瞬く間に大きくなっていき、風の勢いも増していった。気が付けば目の前に大きな竜巻が出現し、仮面ライガーの体を飲み込んだ。猛烈な風によって宙を舞う彼の体が、竜巻の渦の中で円を描くように回り続ける。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?!?!?」
風によって巻き上げられた地面の砂と彼の体が、高く、さらに高く舞い上がっていく。十分な高さに舞い上がったと判断したノエルは、満足気な笑み浮かべ、魔法によって出現させた竜巻を一瞬で消した。
「出番よ、オルトロスちゃん!!」
「!?」
竜巻が消え、重力によって落下を始める仮面ライガー。落下の先に待っていたのは、大口を上げて彼の落下を待つ、双頭オルトロスであった。ノエルの命令を受けたオルトロスは、無防備な状態で落下してきた仮面ライガーに、二つの大口で噛み付いたのである。
その牙は、人の身体を簡単に噛み砕いてしまう程、硬く鋭いこの魔物の武器である。仮面ライガーを咥えたオルトロスの牙が、彼の体を噛み砕こうと突き立てられた。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
変身魔法によって鎧を身に纏う、我らが仮面ライガー。その鎧は頑丈であり、剣や矢などの切っ先を通さないほど硬い。距離や威力によっては銃弾ですら弾く程である。だがこの魔物の牙は、そんな彼の鎧に亀裂を入れて、確実に破壊していく。
体にかかる圧迫に苦しみ、大きな叫び声を上げる仮面ライガー。このままでは鎧を粉砕され、彼の体は噛み砕かれてしまうだろう。
「うおおおおおおおおおおおっ!!ライガーチョップッ!!」
それでも、仮面ライガーは最後まで決して諦めない。いや、最後の瞬間の時ですら諦める事はないだろう。
オルトロスの凶悪な牙から逃れるため、体を暴れさせて咥えに抵抗し、隙を見て片方の頭の鼻目掛けて、強烈なチョップを放った仮面ライガー。鼻を強く叩かれたせいで、オルトロスは激痛に悶え、咄嗟に咥えるのを止めてしまった。噛み殺される寸前のところで、どうにか解放されたのである。
しかし、彼の鎧は既にぼろぼろであった。牙が刺さっていた箇所は噛み砕かれ、鎧には無数の亀裂が奔っている。しかも、鎧の内側から出血もしているのだ。自由になりはしたが、受けたダメージは相当のものだったのである。
普通の人間であれば、もう倒れてしまっていてもおかしくはない。だがしかし、彼はまだ倒れない。呼吸は荒く、肩で息をしながらも、彼は眼前の脅威を恐れず、己の足を前に進めた。
「まだやるの?このままじゃ君、絶対死ぬよ?」
「私は・・・・・、正義の味方仮面ライガー・・・・・。私は、己の信じる正義のために戦う・・・・!」
オルトロスは人よりも大きく、恐ろしく凶暴な魔物である。人間一人では勝ち目はない。
勇敢なのか、それとも無謀なのか、この男はそんな化け物を前にしても、一歩も退く事はなかった。まるで死に急いでいるかのように、正義という言葉と共に戦っている。
ノエルはそんな彼に恐怖すら感じていた。何がそこまでこの男を駆り立てるのか、それが理解できなかったのである。
「アーレンツには・・・・・、私の助けを求めている人がいる」
「・・・・・その人は君にとっての何なの?」
「私の・・・・・・、いや、オレの仲間だ・・・・・!!」
ただ仲間のために。仲間のために自分の命を懸けてまで、危険な相手と戦っている。
正義の味方を自称しているからだろうか?正義を為すために、仲間を助けるという行為に燃えているとでも言うのだろうか?
「オレだけじゃない。助けを待ってるオレの仲間を、皆が助けたいと思ってる。だからオレは・・・・!」
「その人のためにも、皆のためにも、君は戦わなくちゃいけないんだね・・・・・」
「そうだ!!」
彼はもう、正義の味方を自称して我武者羅に戦う事はない。正義を為す自分に酔ったりもしない。
「君の正義は自分勝手なものじゃない。救いを求める誰かのために戦い続ける事が、君の目指す正義なんだね・・・・・・」
「・・・・・・それが正しい正義なのか、オレの目指す本当の正義なのか、オレにはまだわからない。でもオレは、助けを求める誰かの声を無視はできない!」
「最初は格好つけたいだけの痛い男の子かと思ってたけど、そうじゃないんだね。ちょっと見直しちゃった」
口にした言葉に嘘はなく、その瞳は真っ直ぐで、求めるものは権力や名声ではなく、助けを求める者達を救う力のみ。馬鹿正直で暑苦しく、あまり好きなタイプではないと思っていたノエルだが、今はそんな彼の事を見直している。
純粋に、ただ正義のために戦う彼の姿に心動かされ、彼女は自分の後ろにある国を見つめる。果たしてあの国は守るべき価値があるのか。こんなところで自分が彼と戦う事に意味はあるのか。そう思い、向き直った彼女は心を決めた。
「友達をちょっと手助けするだけのつもりだったけど、気が変わっちゃった」
「!」
「来なさい、仮面ライガー!自分の信じる正義を貫きたいなら、この私、魔法少女ノエルを倒してみなさいよ!!」
ノエルの心に応えるかのように、双頭オルトロスが咆哮する。二つの頭が主の敵に狙いを定め、今度こそ彼を喰い殺すべく駆け出した。
対して仮面ライガーもまた、今度こそオルトロスを倒すべく、負けじと雄叫びを上げる。
「さあ来い、双頭オルトロス!!」
オルトロスは全力の突進を行ない、再び仮面ライガーを弾き飛ばそうと、身体全体を使っての突進を行なった。全力時においては、石壁を軽く粉砕できるほどの突進である。常人であれば、当たった衝撃で確実に死んでしまう。それを彼は、真正面から受け止めたのである。
ノエルは信じられない光景を目にしてしまった。鎧を身に纏っただけの男が、たった一人で大型の魔物の突進を受け止め、駆けていたその四本の足すらも停止させてしまったのである。こんな事は、常人には不可能だ。
それを可能にしたのは、正義の味方仮面ライガーの人間離れした体力と筋力、そして彼の不屈の精神であった。
「覚悟しろッ!!ライガーパンチッ!!!」
突進を止められはしたが、オルトロスにはまだ凶悪な二つの頭がある。双頭の獣は彼に噛み付こうと、大口を開けて襲い掛かるが、既にオルトロスの動きを見切っている仮面ライガーは、相手の動きの先を行く。
襲い掛かった右の頭を躱し、左の頭が襲い掛かるのと同時に、仮面ライガーは必殺の拳を放つ。自分に近付いた左の頭を殴り飛ばし、オルトロスに確実なダメージを与えると、彼はその勢いに乗って連続した攻撃を行なった。無論、その攻撃は彼の二つの拳である。
「ライガーラッシュッ!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
まるで、腕が何本もあるかのように錯覚させる、目にも止まらぬ二つの拳の終わりなきラッシュ。オルトロスの反撃を許さない連続攻撃が、体格の差をものともせず、凶暴な魔物を圧倒していく。
二つの頭を拳で殴り続け、オルトロスが痛みに悲鳴を上げても尚、仮面ライガーの攻撃は止まらない。だが、人間一人に容易く圧倒されようと、相手は凶暴かつ大きな魔物である。痛みを堪え、右の前足の鋭い爪を出し、連続ラッシュを一瞬躱して反撃にでる。素早い動きで繰り出された、オルトロスの引っ掻き攻撃が、仮面ライガーの体に直撃した。
猫に引っ掻かれるのとはわけが違う。鋭く大きい足の爪が彼の鎧を切り裂いて、鎧の内側まで爪が刺さり、彼の肉を抉った。傷口から奔る熱さと激痛が彼を襲い、切り裂かれた鎧の内側から鮮血が流れ出る。反撃のチャンスをオルトロスが作り出したかに見えたが、この程度で仮面ライガーを止める事などできない。
「これでどうだああああああああああああああああっ!!!!」
切り裂かれようが血が出ようが関係ない。すぐさまラッシュは再開され、彼の終わりなき連続攻撃がオルトロスを再び圧倒する。容赦なく殴り続けられた二つの頭は、仮面ライガーの猛攻で大ダメージを受けた。オルトロスの頭は二つとも焦点を失い、半分気を失いながらも足は立っていたが、最早反撃する力を失ってしまったのである。
「よし!!止めだっ!!」
大ダメージを与えたお陰で、オルトロスは戦闘能力を失い、非常に無防備な状態に追い込まれていた。これを見逃すほど、正義の味方は甘くない。悪は徹底的に叩けと、そう教えられているのだ。
ラッシュを止め、その場から後方へ跳躍し、オルトロスから距離を取った仮面ライガーは、己の力を限界まで振り絞り、真っ直ぐ駆け出した。加速し、十分な助走を付けた彼は高く跳躍し、必殺の一撃を放つ。
「ライガーキック!!!!」
正義の特撮ヒーロー風の最強必殺技が、オルトロスに止めを刺した。
蹴り飛ばされた頭は、折れた牙と一緒に血を吐き、ふらふらと体を揺らしながら白目を剥いた。必殺技を決めた仮面ライガーが地面に着地した瞬間、とうとうオルトロスは力尽き、その場に倒れたのである。
そして、大気を震わす爆発音と共に、お約束の爆発が決まり、爆炎と爆風がオルトロスの体を木っ端微塵に消し去ってしまった。
「正義は・・・・・・・、勝つ!!」
必殺技を決めた瞬間、隠し持っていた特製の爆弾を地面に転がし、相手を倒したと同時に爆発させる。正義の味方仮面ライガーの十八番は、彼の高らかな勝利宣言と共に決まった。
「わっ、私のオルトロスちゃんが・・・・・・」
「はあ、はあ、はあ・・・・・。次は君だ、魔法少女ノエル・・・・・!!」
突然の爆発にも衝撃を受けたが、まさか本当に一人でオルトロスを倒してしまうとは思わず、目を見開いて驚くノエル。そんな彼女に、仮面ライガーは次の相手をノエルと定め、満身創痍の体に鞭を入れ、顔を上げて彼女へと視線を向ける。
「・・・・・・降参よ、降参。君の勝ちよ、仮面ライガー」
「!!」
「別に、オルトロスちゃんが倒されて終わりってわけじゃないけど、今回は君の正義に負けたわ。だからもう降参」
敗北を宣言した彼女の眼に、戦意は消えていた。戦意とは逆に、満足気な笑みがその顔に浮かんでいたのである。その笑みの意味は、清々しい敗北からくる満足感の表れであった。
長い戦いは終わった。彼女が負けを認めた事で、今この瞬間、仮面ライガーは魔法少女ノエルに勝利したのだ。これでもう、この地で彼を阻む存在はどこにもいない。
「どうしたのよ?私に勝てたんだからもっと喜んでもいいんじゃないの?」
「私が・・・・・オレが・・・かっ・・・・・た・・・・・・」
「えっ・・・・?ねぇ君、こんなところで倒れちゃダメだって!」
人間離れした体力と、とんでもない強靭さを持つ仮面ライガーも、流石に限界であった。勝利への安堵のせいか意識を失い、後ろに思いっきり体は地面に倒れた。倒れた瞬間、彼の魔法はその効力を失い、身に纏っていた鎧は全て砂と還り、仮面ライガーの正体である男の姿を晒した。
全身傷だらけとなり、オルトロスに噛まれた箇所は出血し、彼の拳は自身の血で真っ赤に染められている。拳を使えなくするほどの無茶をして、彼は勝利をもぎ取ったのだ。だが、このままここに倒れたままでは、せっかく勝利できたにもかかわらず、出血多量で死んでしまうだろう。
「仕方ないなあー・・・・・。今回だけ特別なんだからね」
そう言うと彼女は、自慢の風属性魔法を発動させ、風を起こして彼の体を宙に浮かせた。変身が解除された事で仮面ライガーではなくなった、帝国軍の戦士ライガ・イカルガは、宙に浮かされてもまったく起きる気配がない。一瞬、死んでいるのではないのかと疑ってしまう程、ライガはぐったりと気を失ってしまっていた。
「ここで寝たら死んじゃうから、帝国の陣地まで連れてってあげる。アーレンツは負けてるし、どうせなら帝国に寝返っちゃおうかな」
ノエルはアーレンツに味方しているが、彼女はあの国の出身ではない。ただ、あの国を守るために戦っている親友のために、力を貸したに過ぎない。だから、その親友と戦うような事さえなければ、どっちに付こうが彼女の勝手なのだ。
もし、ノエルが心から親友と思っている存在と、敵同士という形で戦場で遭遇してしまったなら。友の仲が決裂する事はないのだが、その時ノエルは必ず負ける。何故なら彼女の親友は、伝説の血を引くアーレンツ最強の剣士なのである・・・・・。
「ごめんねベルナ。疲れちゃったから、ちょっと休憩してくるね♪♪」
激戦が続くアーレンツ防衛線に視線を移し、最後に会った時の顔を思い浮かべながら、親友のいるであろう戦場へと声をかける。
特に、親友の身を心配はしていない。どうせ彼女の親友は、どれだけ相手が強かろうが捻じ伏せて見せる、薔薇の守護騎士なのだから・・・・・・。




