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第三十話 嘆きのヴィヴィアンヌ Ⅱ

 時間が経つにつれ、激しさを増すヴァスティナ帝国とアーレンツの戦争は、依然帝国軍が優勢のままである。苛烈な攻撃によって、防衛線にいくつもの綻びを生んでしまったアーレンツ軍は、少数の帝国軍部隊の突破を許し、一部の部隊は国内への侵入を果たした。

 ようやく、アーレンツ国内への侵入は果たした。侵入できたのは僅かな部隊だけだが、このまま防衛線を崩壊させていけば、もっと多くの部隊が侵攻できるようになるだろう。そして、侵入を果たした部隊の中には、帝国参謀長の左腕である男が率いる、勇敢で負け知らずな剣士達の姿があった。


「おらよっ!」

「きゃっ!?」

「ああっ!!」


 剣の扱いに長けた者達で編成された、帝国軍屈指の剣士部隊。彼らはレッドフォード隊と呼ばれている。この部隊の隊長こそ、帝国参謀長の左腕であり、帝国軍最強の剣士、クリスティアーノ・レッドフォードである。

 隊長である彼は今、たった一人で戦っていた。部下を連れずにたった一人で、アーレンツ国防軍の精鋭と戦っている。一人で戦っている事にも驚きだが、さらに驚くべきは、彼が戦っている精鋭の兵士達というのが、全員女性なのだ。


「ちっ、女だけの剣術部隊か。遣り難いぜ・・・・・」


 レッドフォード隊の隊長であるクリスは、防衛線の隙を付いて部下と共に突撃し、防護壁の門を突破して国内へと侵入をして見せた。因みに鉄壁防護壁の門は、予め用意されていた無反動砲部隊に要請し、完全に破壊したのである。

 レッドフォード隊は国内へ侵入後、防衛線の増援に向かっていたアーレンツ軍と接触し、戦闘状態に突入した。この時、はやる気持ちを抑えきれなかったクリスは、部下達の制止を聞かずに駆け抜けてしまい、気が付けば孤立してしまったのである。街に侵入し、孤立してしまった彼が遭遇したのが、女性だけで構成された剣士部隊であったのだ。

 当然、相手が女性であろうと、目の前に立ち塞がる敵であるならば、彼は躊躇わず戦う。その女性剣士部隊も、クリスを討ち取るべく勇敢に立ち向かった。

 現れた女性剣士達は、意外にも練度が高く、戦意も旺盛であった。その力は、クリスの部下達にも匹敵する。しかし、クリスの部下達ほどの実力なのであれば、隊長である彼が負けるはずがない。先ほどからクリスは、立ち向かってくる女性剣士達を相手にし、難なく一撃で倒していった。


「つっ、強い・・・・・!」

「あれが噂に聞く神速の剣士・・・・・。私達が手も足も出ないなんて・・・・・!」

「おまけに噂通りの美形って・・・・・・、反則過ぎよ」

「国防軍じゃ、あんな強くてイケメンな男なんていないわ。どうしよう、惚れちゃいそう・・・・・」


 倒された者や、クリスの剣技を見ていた者から、思い思いの感想を口にする。それに対してクリスは、深い溜息を吐くばかりであった。


「ったく・・・・、焦って突っ込み過ぎたせいでこれかよ。これじゃあ槍女に馬鹿にされちまうぜ」

 

 自分の突出を反省しつつ、彼は眼前の敵に向けて剣を構える。クリスは彼女達よりも強いが、それでも彼女達の実力は確かなものである。一撃で相手を倒して見せているものの、油断はしていない。

 

「何をやっている!誇り高き我ら神聖薔薇騎士団が、たった一人相手に苦戦してどうする!?」


 クリスの実力の前に、女性剣士達は苦戦を余儀なくされていた。そんな彼女達を叱責したのは、一人の銀髪の女性であった。

 

「落ち着きなさいコーデリア。あの男、部下達では手に余る」

「ですが、中佐!」

「貴女でも同じ事よ。責める事は出来ないわ」

「!?」


 プライドの高そうな銀髪の女性の隣には、もう一人女性がいた。その女性は、青紫色の軍服を身に纏う、長い金髪の女性であった。腰にはレイピアであろう細剣を差し、その後ろには忠実なる彼女の部下達が控えている。勿論、その部下達も女だ。

 

「私があんな男に後れを取ると、中佐はそう仰っているのですか!?」

「噂に聞く帝国の剣士の実力は本物よ。技も磨かれているし、才能もある」


 中佐と呼ばれた女性が才能という言葉を口にした瞬間、コーデリアと呼ばれた銀髪の女性の表情が、一瞬で怒りに歪んだ。


「才能なんて認めない・・・・!あの男は私が討って見せます!」

「まっ、待ちなさいコーデリア!」


 中佐の制止を聞かず、銀髪の女性は駆け出し、クリスの前で立ち止まった。才能という言葉は、彼女の前では禁句だったのである。中佐と呼ばれているこの女性は、彼女の上官でありながら、その事を忘れてしまっていたのだ。


「何だよおい、俺とやる気か?」

「無論だ!私は、神聖薔薇騎士団副隊長コーデリア・アッシュホード少尉。国と民を守るため、貴様は私が討つ!」


 神聖薔薇騎士団。それは、アーレンツ国防軍の精鋭部隊、第十三特別作戦中隊の名称である。

 コーデリアと名乗った彼女はこの隊の副隊長であり、隊の中では二番目に強い実力者なのである。真面目で努力家であり、勉学の成績も優秀なのだが、彼女は才能という言葉を嫌っており、特に相手が天賦の才能を持つ者だとわかると、冷静さを失ってしまう。

 

「他の奴らより骨がありそうだな。いいぜ、相手してやるよ」

「神聖薔薇騎士団の真の実力を見せてやる!いくぞっ!!」


 装飾の施された白を基調とした軍服を身に纏う、銀髪の女剣士コーデリアは、腰に差していたレイピアを抜き放ち、駆け出した。クリスとの距離を一気に詰めた彼女は、右手に持つレイピアを構え、必殺の一撃を放つ。

 細い切っ先から放たれた、とても鋭く速い突きの一撃。この突きを躱せる者は、国防軍の中でもそうはいない。この隊の中でなら、中佐と呼ばれた彼女の上官でしか、この攻撃は躱せないのである。

 

「ふんっ、やるじゃねぇか」

「!!」


 確かに彼女の突きは、鋭く速い磨き上げられた剣技である。だが、神速の如き速さの突きではない。

 心臓目掛けて放たれたコーデリアの一撃を、クリスは体を横に向けて容易く躱して見せた。彼の眼なら、この程度の速さを見切るのは造作もない。

 必殺の一撃を難なく躱され、驚愕したコーデリアだったが、彼女が驚いていたのはほんの一瞬であった。

直ぐに気持ちを切り替え、クリスから離れずレイピアを振るい、連続して斬撃を放つ。華麗に、鋭く、そして速い彼女の剣技が彼を襲うが、レイピアが彼の体を傷付ける事はなかった。何故なら、クリスはコーデリアの剣技を、全て躱すか剣でいなし、彼女の剣を寄せ付けなかったのである。


「そらよ!」

「っ!!」


 今度はクリスの番となる。斬撃を躱し切ったクリスの剣が、コーデリア目掛けて縦一閃に振られようとしていた。このままでは真っ二つに叩き切られるとわかり、彼女が体を後ろに下げたその瞬間、目にも止まらない彼の斬撃が放たれた。もし躱す判断がほんの少しでも遅ければ、その一閃は彼女を確実に仕留めていただろう。

 縦に振られた一撃を躱した事で、まるで彼女を追いかけるように、クリスの剣が襲い掛かる。彼の剣の切っ先が、コーデリアの顔を捉えた。その瞬間、切っ先は恐るべき速さで彼女との間合いを一気に詰め、彼女の顔の直前まで近付く。

 これは、クリスが放った必殺の一撃。彼の神速の突きが、彼女の頭を串刺しにするべく放たれたのだ。これを躱せなければ、確実に彼女の命はない。そして彼女は、クリスの必殺の一撃に反応できなかったのである。

 気が付いた時には、切っ先はコーデリアの目の前にあった。やられると、そう感じた彼女だったが、諦めはしなかった。訓練で培われた感覚を発揮し、顔を逸らして、すんでのところで躱す事ができたのである。


「いい反応だな」

「貴様のような奴に、私は負けない!!」


 相手が自分より格上であると、既にコーデリアは理解している。だからと言って、負けを認めるわけにはいかないのだ。全身全霊を持って、改めて彼女はクリスに挑む。磨かれた彼女の剣技が空気を切り裂き、彼の体に一撃入れようと、連続の突きが放たれた。

 鋭く速い、正確な連続突き。磨かれたレイピアの切っ先が輝きを放ち、クリスの体に突き刺さるべく襲い掛かる。放たれた彼女の切っ先は、必殺の五連撃。クリスはそれを全て剣でいなして見せるが、最後の一撃を弾いた瞬間、彼の剣は大きく弾かれた。

 この瞬間を彼女は見逃さなかった。自身の剣を大きく弾かれた事で、クリスの懐に大きな隙ができたのである。


「はあっ!!」


 今度こそ相手を倒すため、再び彼女は、必殺の一撃である高速の突きを放った。その切っ先は彼を確実に仕留めるべく、最初と同じく心臓を狙っていた。


「そいつはもう見切ってんだよ!」


 大きな隙を見せたクリスではあったが、これは彼の仕掛けた罠であった。わざと隙を見せ、彼女の必殺の一撃を誘い、カウンターを仕掛けようとしていたのだ。コーデリアはその罠に嵌ってしまったのである。

 最初の突きの攻撃を、彼は既に見切っている。どれほどの速さと正確さを誇り、確実に仕留めるべく、必ず急所を狙う事もお見通しであった。どこを目掛けて切っ先が向かってくるのか分かっていれば、彼女のレイピアに反応するなど、クリスには容易である。

 胸を貫くと思われたレイピアの切っ先は、一瞬でコーデリアの前に姿を現した剣によって弾かれた。恐ろしく速く、信じられないほど重い一撃が、彼女の右手からレイピアを弾き飛ばす。宙を舞ったレイピアはコーデリアを飛び越え、彼女の背後の地面に突き刺さった。

 剣を失った彼女は大きな隙を作り、次の瞬間には、クリスの繰り出す足技が、彼女の腹部を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされ、背中から地面に叩き付けられた彼女は、腹部と背中の痛みに呻く。しかし彼女は戦意を失っておらず、痛みを堪えながら直ぐに立ち上がろうとする。だが、起き上がろうとした彼女の目の前には、光り輝く剣の切っ先が突き付けられていた。


「終わりだぜ」

「なっ!?」


 完全なる敗北。神聖薔薇騎士団の副隊長である彼女でさえ、手も足も出なかった。コーデリアは敗北した事実を認めたくはなく、悔しさを顔に表し、目の前の切っ先から視線を外して俯く。


「・・・くっ・・・・・・殺せっ!」

「ああん?無駄に死に急ぐんじゃねぇよ」

「中佐の制止も聞かず貴様に挑み、一撃も入れられず破れた。もうこれ以上、生き恥を晒す事などできない・・・・・・!」

「槍女並みに融通気かねぇ馬鹿女だな。命拾いできたのをもっと喜びやがれ」


 そう言いながら、クリスは己の剣を彼女から離す。切っ先が自分から離れた事で、驚いて顔を上げたコーデリアが見たものは、彼女の眼を真っ直ぐ見つめるクリスの姿であった。


「最初の突きもあの五連撃もまだ甘い。速さが足りないんだよ」

「・・・・・・」

「だけどまあ、キレは悪くはなかったぜ」

「・・・・・!」


 クリスを仕留めるべく放たれた技の数々は、彼女にとって努力の結晶である。

 幼少の頃、剣の才能が無いと馬鹿にされ、自分の才能の無さを恨んだ。その日から彼女は、いつの日か皆を見返してやろうと剣術に打ち込んできた。日々の鍛錬を怠らず、血反吐を吐く程の努力をして、神聖薔薇騎士団の副隊長に任命されるまでになったのである。

 

「あれだけの技をものにするって事は、今まで相当技を磨いてきたんだろ。色々足りてねぇところはあるが、あんだけ形になってりゃ上出来だ」

「でも私の剣は、貴様に通用しなかった・・・・・」

「当たり前だろ、俺を誰だと思ってやがる。俺はな、ローミリア大陸最強の剣士になる男だぜ?お前くらい倒せなくてどうすんだよ」


 コーデリアを破った神速の剣技は、彼の命の結晶である。

 血の滲むような鍛錬と努力を続け、数え切れないほどの相手と剣で打ち合い、戦場で多くの猛者と戦う事で得てきた、命懸けで手に入れた経験なのである。その経験が積まれていく事で、彼の剣は磨かれ続け、鋭く速く正確な神速の一撃を放つまでに至ったのだ。

 

「負けて悔しけりゃまた相手してやるよ。その時はもっと速い一撃をものにして、ついでに俺の剣をちゃんと見切れるようにしとくんだな」

「簡単に言うな・・・・・・」

「あの時、俺の一閃を避けれたろ。その辺の兵士以上に良い反応はできてる。才能あるぜ、お前」

「・・・・・!!」


 そう言い残して、クリスは彼女の目の前から離れていき、自分の視線を青紫色の軍服を着た金髪の女性へと向ける。彼の言葉に衝撃を受けたコーデリアは、振り向いてクリスの背中を黙って見つめていた。

 そんな二人の戦いと遣り取りを沈黙して眺めていた、彼女が動く。


「貴官のお陰で、私の部下が良い勉強をさせて貰った。感謝する」

「はんっ!敵に感謝されても嬉しくねぇよ」


 自分達の隊長が動き、コーデリアも他の女性剣士達も、彼女とクリスから少し離れ、二人の対峙を見守る。自分達がいれば邪魔になるし、何よりも、この二人の対決を見たいという思いが、彼女達をそうさせたのだ。


「お前は相当できるみたいだな」

「部下を率いる以上、誰よりも強くなくてはならない。貴官も私と同じ立場だろう?」

「じゃあお前は、アーレンツで一番強いってのか?」

「それは、貴官の判断に委ねよう」


 先に動いたのは彼女であった。電光石火の如き素早さで、クリスとの距離を一気に詰めた彼女は、懐に入り込んだ瞬間、腰に差していた細剣を右手で抜き放つ。あまりの速さに、速さに自信のあるクリスでさえ、反応が遅れてしまった。

 抜き放たれた細剣は、コーデリアと同じようなレイピアであった。彼女はそのレイピアを操り、彼の左胸を刺し貫くべく、目にも止まらぬ速さの突きを放つ。反応するのが遅れてしまったクリスは、回避は間に合わないと本能的に悟り、自分の右手の剣を操り、剣の刃でその一撃を防いだ。


「ちっ!隊長って言うだけあるじゃねぇか!!」

 

 油断しているつもりなどなかった、何故なら彼女は、彼の前に現れた瞬間から、他の女性剣士達にはない強者の覇気を放っていたのである。それでも、あのクリスが反応できなかったのは、彼女の剣の速さが想像以上であったからだ。

 反撃に出るべく、レイピアの切っ先を弾いたクリスの剣が、切っ先を輝かせて彼女に襲い掛かる。クリス自慢の神速の突きが、彼女の体を切り刻むべく、連続して放たれた。五連撃を放って見せた彼の剣は、先程のコーデリアの技以上の速さを見せる。

 だが、神速の五連撃は全て彼女に躱されてしまった。しかも、慌てる事なく容易く避けて見せたのだ。クリスの剣を躱した彼女は、後方へと数回跳躍し、一旦クリスとの距離を取った。そして彼女は、距離を取ったままレイピアの切っ先を彼に向け、剣術とは別の技を放つ構えに入る。


「聖なる水よ、我が命に応えよ!」

「くそっ!こいつ魔法も使うのかよ!?」


 電光石火の剣術の次は魔法攻撃であった。構えた切っ先の前に魔法陣が現れ、陣からクリス目掛けて、大きく太い水流が放たれた。ただの水と嘗めて受けたら最後、水圧で体は押し潰されてしまう。

 

「おら!奔れ、雷光っ!!」


 彼女が放ったのは、強力な水属性魔法の攻撃である。クリスは直撃を受けないよう躱しつつ、相手が魔法攻撃を出した隙を付いて、自身の雷属性魔法の攻撃を放った。向けた切っ先から放たれた、生き物のように動く一本の雷。雷は彼女を感電死させるべく襲い掛かるも、彼の魔法を読んでいたかのように、彼女はそれを横に跳躍して躱して見せた。


「やるじゃねぇか・・・・・・」

「その言葉、そのままお返ししよう」


 ここまでの戦いで、まだ一分と経過していないにも関わらず、両者激しい戦いが繰り広げられた。観客と化している騎士団の女性剣士達は、全員言葉を失っている。彼女達は全員、「自分達とは次元が違う」と、そう思っていた。それ故に、皆大きなショックを受けているのだ。


「名乗るのが遅れたが、私の名はベルナデット・リリー中佐。神聖薔薇騎士団の隊長だ」

「リリー・・・だと?まさかお前・・・・・・」

「大陸最強の剣士を目指しているのであれば、この姓の意味も承知というわけか」

「・・・・・・伝説の六剣。お前、その内の一つの末裔だな」


 アーレンツ国防軍で最も戦闘能力の高い部隊を率い、今年で二十五歳を迎える、国防軍最強の兵士。それが、ベルナデット・リリーである。

 国防軍の中でも最年少の中佐であり、今年十七歳となるコーデリアや、若き女性剣士達を率いて、国防軍の象徴として活躍する彼女の事を、人は「薔薇の守護騎士」と呼んでいる。

 何人も寄せ付けない圧倒的な剣術に加え、部隊の統率能力も高く、非の打ちどころのないベルナデットだが、若くして彼女が今の地位を手に入れたのは、類まれなる実力のせいだけではなかった。彼女は、この大陸の伝説にある一族の末裔なのである。


「剣と魔法の世界ローミリア大陸。この世界がそう呼ばれるようになったのは、伝説の六剣が世界を救ったからだ」

「この大陸が大量の魔物の脅威に晒されてたっていう、千年も前の話だろ」

「その通りだ。千年前、大陸を支配していた魔物達から人々を救おうと立ち上がった、六人の剣士。伝説の六剣士達は、己の剣と六つの魔法を駆使して戦い続け、長き戦いの末に勝利を収めた」


 ベルナデットが語る、伝説の六剣の伝説。ローミリア大陸内でも絵本などで語り継がれる、御伽話のような伝説である。

 ローミリア大陸が剣と魔法の世界と呼ばれる由縁は、この伝説にある。それはこの世界が、剣と魔法によって救われたからだ。六つの剣と六つの属性魔法が、人類滅亡の危機を救ったからこそ、伝説の六剣士達に敬意を払い、この世界を「剣と魔法の世界」と呼ぶのである。

 しかしこの伝説には、絵本でもあまり語られていない事柄があった。それは、伝説の六剣士の名前である。


「私は伝説の六剣の一人、水の剣士アルフレッド・リリーの血を引いている。この意味、貴官ならばわかるはずだ」


 剣と魔法の世界を創り上げた、伝説の六剣。それぞれ六つの属性魔法を操る伝説の存在は、大陸最強の剣士と呼ばれていた。つまり・・・・・。


「帝国の猛者よ。大陸最強の剣士になりたくば、私を倒して見せろ」


 今、クリスの目の前に立っている存在は、大陸最強の剣士と呼ばれた者達の末裔である。大陸最強を目指す以上、絶対に避けては通れぬ相手となる。

 どの道戦いは避けられない。大切な存在を救い出すためにも、ここを何としても突破しなくてはならないのだ。よってクリスに、戦わないという選択肢はない。だが相手は、自分よりも格上かもしれない相手である。それでも、大切な存在と己の誇りのために、負けるわけにはいかないのだ。


「面白れぇぜ・・・・・・、やってやろうじゃねぇか!」


 伝説の六剣士の末裔、ベルナデット・リリー。

 これが、帝国軍最強の剣士クリスティアーノ・レッドフォードによる、大陸最強への最初の挑戦となった。

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