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第二十九話 アーレンツ攻防戦 Ⅵ

「糞っ!なんてざまだ!!」


 未だ砲撃の脅威に晒され続けているアーレンツ国内。国家保安情報局の研究施設もまた、他の施設同様に砲撃の被害を受け、施設は半壊させられていた。

 火災の対応や、怪我人の手当てなどの対応によって、半壊した研究施設内は非常に慌しい。各所への対応のために局員が走りまわる研究施設の通路を、苛立ちながら早歩きで進んでいく男がいた。男は自分の部下を引き連れ、壊れた施設内や死傷者には目もくれず、情報局員への指揮を行なうべく、施設の外に出ようとしていた。

 男の名は、ルドルフ・グリュンタール。彼はこの施設の地下で、人造魔人の起動に立ち会っていたのだが、帝国軍の砲撃が始まった事で、アーレンツの劣勢を悟ったのである。慌てたルドルフは部下に命令し、事態の確認を行なわせた。砲撃による被害状況や戦況を知った彼は、怒りに震えながらも状況を整理し、帝国軍への反撃を考えたのである。

 そのためにルドルフは、指揮命令系統の再編成を行なうべく、一刻も早くこの施設の外へ出ようとしていた。あまりにも想定外すぎる状況の深刻さに、ルドルフがどうしようもないほどの怒りを覚えるのも無理はない。当初の防衛計画は破綻し、指揮系統を失った今のアーレンツの状況は、この戦争の敗北へと直結していたからだ。


「まさか奴らがこんな真似をしてくるとはな。お陰でこっちの計画が全部無駄になった!」

「ですが大佐、人造魔人の半数は砲撃によって失いましたが、残りはまもなく起動できます。人造魔人を防衛線に展開し、反撃に転じれば------」

「馬鹿がっ!半数の人造魔人程度で戦況がひっくり返せるなら誰も苦労はしない!」

 

 部下の一人が意見を口にするが、ルドルフはそう怒鳴ってその部下を殴り飛ばした。

 苛立ってはいるものの、ルドルフは驚くべき程冷静であった。現状を正確に分析し、アーレンツがどこまで不利な状況にあるのかを予想して、今後の行動を決めるべく思考し続けている。


「流れは今、奴らにある。戦局を好転させるには戦力を集中する以外手段はない」

「では、残りの人造魔人と全兵力を防衛線に投入致しましょう」

「各所に散っている兵力を召集するには、指揮系統の再編成が不可欠だ。いいか、大至急臨時司令部を設置しろ。全軍の指揮は俺が執る」

「はっ!」


 当初の防衛戦略は破綻し、指揮命令系統を失った今、ルドルフはアーレンツの全戦力を自分の指揮下に置き、帝国軍に対しての反撃を計画しようとしていた。そのためにはまず、速やかに臨時の司令部を設置し、国防軍と情報局の指揮権を得る必要がある。彼が急いでこの施設の外に出たがっているのは、それが理由だった。

 緒戦から不利な戦況に立たされ、ここからの反撃が非常に困難である今の状況では、誰も全軍の指揮を執りたいとは思わないだろう。だがルドルフは、逆にこの状況を自分にとってのチャンスだと考えていた。

 情報局と国防軍の上級将校のほとんどが戦死した今、ルドルフは立場的にも階級的にも、臨時最高司令官になれる資格を有していると言っても過言ではない。このタイミングでアーレンツ内の全戦力の指揮権を得て、帝国との戦いに勝利を収める事ができたなら、彼は救国の英雄となるだろう。

 彼にとってこの状況は、ピンチでありチャンスなのである。危機的状況に陥った祖国を救えるのは、指揮権力持つ極限られた者だけだ。今のルドルフは、その限られた者の中の一人なのである。

 この状況下で祖国を救い、救国の英雄と讃えられたなら、彼は絶対的な地位と権力を手に入れる事ができる。祖国を裏で支配する、国家保安情報局の情報局長の地位も夢ではない。そうなれば、ルドルフはこの国の支配者に君臨できるだろう。

 ルドルフが抱いた野心。この野心を実現させるためには、速やかに国防軍と情報局の指揮権を得て、帝国軍撃破に動く必要がある。他の誰かに指揮権を握られてしまう前に、自分こそが臨時の最高司令官だと宣言しなくてはならない。


(状況はこちらが劣勢ではあるが、相手は所詮一万の軍勢だ。兵力を結集して押し返せば済む話だ)


 確かに現在の状況を考えれば、アーレンツ側が圧倒的不利な状況にある。だがそれは、緒戦からの予想外の攻撃による混乱と、帝国軍の練度の高さが原因と言えた。それが原因となり、戦局の流れを持っていかれただけなのだ。

 この流れを維持されてしまえば最悪の結果を生んでしまうが、崩すのはそう難しい事ではない。兵力を防衛線に結集し、肉の壁を造り上げて帝国軍の侵攻を阻み、相手の足を止める。侵攻の足を止めてしまえば、帝国軍の勢いと流れを崩す事ができ、反撃に移る事が可能となるからだ。

 如何に相手の戦意が高く、練度が高い兵士達であろうと、所詮戦いは数で決まる。数の多い方が勝利を約束されているのだ。戦いの基本を見失わず、ルドルフは冷静に反撃の計画を練り上げていた。思考を続ける彼の頭は、勝利のための作戦を導き出し、この戦いは勝てると訴えている。

 

(どれだけ犠牲を払おうが関係ない。失った兵力は人造魔人を量産すれば解決する)

 

 後先の事は、今は考えなくていい。どれだけ無茶な作戦でも、どれだけ犠牲を強いる作戦でも、冷酷な彼はすぐに実行へと移す。何故ならば、この戦いによって失われた戦力の補充は、人造魔人を量産して配備すれば済む話であるからだ。

 彼にとっては、国防軍の兵士も情報局の局員も、自分の野心のための道具でしかない。道具が壊れれば、新しい道具を用意するだけの話なのである。

 全軍の指揮権をこの男が握ってしまえば、彼は祖国への忠誠心を全軍に問い、死ぬまで戦い続けさせるだろう。逃げる者や歯向かう者はその場で処刑すると、そう脅迫してだ。ルドルフが指揮権を握るという事は、全兵士達の命をその手に握るという事なのである。


(兵士共は肉壁に使い、情報局の精鋭と人造魔人で勝負を決めてやる。それでこの戦争も終わりだ)


 野望に燃えるルドルフの切り札は、人造魔人と情報局の精鋭部隊である。情報局の精鋭部隊の内、任務で国外へと出ている部隊や、緒戦の砲撃に巻き込まれ、壊滅してしまった部隊があるものの、強力な戦力は国内に残っている。こうしている今も、精鋭部隊は防衛線に展開し、帝国軍の侵攻を食い止めているはずなのだ。そこに人造魔人部隊を増援として派遣すれば、流れは一気にアーレンツ側に傾くと、そうルドルフは確信している。


「いいな、俺が指揮を執ればこの戦いは勝てる。俺に従い続ければ後悔はさせないぞ?」


 不敵な笑みを部下達へと浮かべたルドルフ。彼の言葉の意味を理解し、部下達の顔にも欲望の笑みが浮かぶ。

 ルドルフはアーレンツの支配者となる。そのためには、この戦いに勝たなくてはならない。彼はこの戦いを、己に与えられた試練と考えていた。攻略の容易い、素晴らしき試験だと・・・・・・。


「たっ、大佐!!急ぎご報告がっ!」

「!?」


 半壊した研究施設内の通路を、一人の局員が大慌てで駆けていた。その局員はルドルフの姿を見つけると、彼の階級を大声で叫びながら、慌てて彼の目の前までやって来たのである。

 その局員は、ルドルフの部下の一人であった。自分の上官であるルドルフに、緊急事態を伝えるべくこの場に現れたのである。


「一大事です!!ジエーデルの戦力が我が国に侵攻を開始しました!!」

「なっ、何だとっ!?」


 攻略の簡単な戦争などない。

 何故なら、戦争とは常に予想外の事態が起こるものだからである。

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