第二十九話 アーレンツ攻防戦 Ⅰ
第二十九話 アーレンツ攻防戦
中立国アーレンツ。ローミリア大陸内で中立を宣言している、情報国家と呼ばれている国である。
かつて、この大陸全土を戦火に包んだ「ローミリア大戦」。大戦後に建国されたこの国は、長きに渡り中立を貫き続けていた。
しかし今、その中立は破られようとしている。アーレンツの変革を望む者達が権力を握り、急速に国内支配を進めているからだ。この先アーレンツは、急速に改革と軍備拡張を推し進め、大陸各国に宣戦を布告するだろう。最初の攻撃目標は、アーレンツへと徐々にその牙を近付けている、独裁国家ジエーデルとなる。
だがアーレンツには、ジエーデル国と戦う前に、撃退しなければならない敵がいる。それは、アーレンツを滅ぼさんと侵攻を開始した、南ローミリアの盟主ヴァスティナ帝国である。
アーレンツとヴァスティナ。大陸各国が予想もしていなかった戦争が、まもなく幕を上げる。
中立国アーレンツ国には、国家保安情報局と呼ばれている諜報組織が存在する。大陸中から情報を収集し、他国との取引材料を用意するこの組織こそ、アーレンツの実質的な支配権を握っていると言っても過言ではない。この組織なくして、アーレンツは国家を維持できないのだ。故に、アーレンツの今後の方針を決めるのもまた、国家保安情報局となる。
アーレンツ国内にある、国家保安情報局本部では現在、上層部の主だった者達を集めた、特別緊急会議が行なわれていた。会議の内容は、アーレンツの外に展開している、ヴァスティナ帝国軍迎撃に関してである。
情報局本部内の会議室に集まった幹部達は、対ヴァスティナ帝国戦の迎撃態勢について話し合っている。帝国軍の接近を察知はしていたが、彼らが予想した以上に、帝国軍の侵攻は早かった。既に帝国軍は、アーレンツから少し離れた地点に展開しており、攻撃準備をほぼ終えている。これに対し上層部は、直ぐに軍と連携を取り、防衛線の構築準備を開始した。
「それで、帝国軍の戦力は?」
「はい。兵力に関しては、帝国軍約六千と、エステラン国軍約四千の、総兵力約一万の戦力であります」
「思ったより少ないな。エステランの戦力が少ないようだが」
「エステラン国軍の主戦力は、南ローミリアの防衛線強化にまわされております。帝国軍は自国の守りをエステランに任せ、この地に主戦力を結集したようです」
会議室内での話し合いの最中、幹部の一人の問いかけに対して、説明役の局員が答える。彼の言う通り、帝国軍は総力を結集して、この地に陣を構えた。そのため、南ローミリアの防備は手薄になってしまう。帝国軍はその状況を良しとせず、エステラン国軍の戦力を国防にまわしたのだ。
今の帝国軍は、帝国参謀長をアーレンツに奪われた状態であり、国防の危機的状態に陥っている。一刻も早く参謀長を奪還しなければ、この機に乗じて、帝国へ侵攻を行なう国家がいるかもしれない。それに対する備えとして、帝国軍は同盟関係にあるエステラン国の戦力を、自国の防備にまわしたのである。
帝国軍は今回の侵攻作戦のために、約一万の兵力を集めた。これは、帝国軍が今まで結集した事のない大部隊であり、本気の構えと言っても過言ではない。だがアーレンツ側からすれば、敵戦力は予想以上に少ないと言える。何故ならアーレンツは、帝国軍以上の軍事力を保有しており、兵力だけで言っても、圧倒的優位に立っているのだ。
上層部は、帝国軍がエステラン国軍の主力も集め、最低でも二万以上の大軍を用意すると予想していた。ところが、この地に結集した敵戦力は約一万人であり、帝国軍がアーレンツを攻略するには、あまりにも少ない兵力数であった。
「主戦力を集めたと言っても、たかが一万の兵力だ。我が国の鉄壁の防御を破る事など不可能だろう」
「その通り。我が国自慢の鋼鉄防護壁を破りたければ、十万を超える兵力が必要だからな」
アーレンツは自国の領土内に、砦などの防衛陣地をほとんど構築してはいない。その理由は、自国を防衛するために造り上げられた、「鋼鉄防護壁」と呼ばれている壁が、自国の周囲を完全に囲んでいるためである。
この壁は高さ五十メートル以上あり、石材などで造られた壁を、分厚い鉄板で覆っている。単純な造りだが、これによりこの壁は、通常の攻城兵器では破壊が非常に困難であり、アーレンツそのものを鉄壁の要塞と変えているのだ。
鋼鉄防護壁がある限り、アーレンツの守りは非常に硬い。この壁はどんな攻城兵器も、どんな魔法攻撃を受けても、破壊される事はないのである。この壁を越えようと、梯子や縄などを使って登ろうとしても、壁自体が高すぎて、防護壁の上に辿り着く事も難しい。もしも順調に登る事ができたとしても、登る途中で防衛部隊の攻撃を受け、何の抵抗もできぬまま死ぬだけだ。絶対に破られないこの壁が存在するため、アーレンツは自国の領土内に、防衛用の砦を構築する必要がないのである。
「敵軍に対しての、こちらの迎撃戦力は?」
「緊急展開致しました国防軍約一万の兵力が、正面防護壁にて迎撃態勢を整えております。先日の混乱が軍内部にも影響を与えてしまい、指揮命令系統の整理が未だ終了いないために、部隊召集が遅れておりますが、さらに五千の戦力を正面に配備する予定です」
「穏健派に組していた軍内部の者達も逮捕したからな。これはやむを得ないか」
「正面に一万五千人を配置し、残りの部隊は防護壁の周囲に展開させます。別動隊が存在する可能性がありますので、これはその備えとなります」
鉄壁の防護壁と、敵軍を上回る兵力数。これだけで、アーレンツの勝利は目に見えている。
この場に集まった上層部の者達は、帝国軍が目前に迫った危機的状況下でありながら、とても落ち着いている。その理由は、圧倒的優位に立つ精神的余裕と、勝利を確信しているが故であった。
だが、アーレンツ軍兵士の練度は、帝国軍に比べれば遥かに低い。何故ならアーレンツ軍は、中立国であったがために、今まで実戦を経験した事がほとんどなかったのである。しかしアーレンツには、諜報活動だけでなく、実戦経験も豊富な戦力を保有する、国家保安情報局が存在している。情報局の精鋭部隊が出動すれば、軍の練度不足も補強できるのだ。彼らが勝利を確信しているのは、情報局の戦力の存在が大きい。
「情報局の精鋭二個小隊も迎撃にまわす。これだけで十分だろう」
「いや、特別処理実行部隊も投入しよう。奴らを甘く見るのは危険だ」
「では、国防軍の精鋭にも出動を要請しよう。彼女の率いる騎士団ならば、必ずや帝国の精鋭を撃破できる」
「そう言えば、グリュンタール大佐が例の試作品を実戦に投入すると言っていたな。大佐は今どこに?」
「試作品の最終調整のために研究施設にいるそうだ。大佐殿自慢の玩具もあれば、備えは十分過ぎるだろう」
幹部達から様々な意見が上がり、帝国軍迎撃態勢は着々と進められていく。今回彼らの祖国を脅かす敵は、南ローミリアの盟主であり、これまで数々の大国を打ち破って来た、強国ヴァスティナ帝国なのである。小国と油断すれば、彼の国に敗北していった大国と、同じ末路を辿る事になってしまう。その過ちだけは避けるべく、彼らはこうして万全の備えを用意しているのだ。
「帝国の目的はファルケンバインが拉致してきたあの男だ。人質として利用する手もあるが、帝国軍が現れてしまった後ではな・・・・・」
「人質として使えば、あの男を拉致したせいで帝国が現れたと、国民に知られてしまうでしょうな。そうなれば、我々の今後に悪影響を及ぼしてしまう」
アーレンツに帝国軍が現れたきっかけは、情報局が拉致した帝国参謀長の存在である。帝国軍の目的は参謀長の奪還であり、参謀長の存在がこの国にある限り、この地は戦場と化すのだ。その参謀長を利用すれば、帝国軍との戦闘を有利に運ぶ事も可能だろう。しかし情報局は、帝国参謀長を人質とした作戦を実行できない理由がある。
第一に、今回の帝国軍侵攻は、情報局幹部の独断が原因で発生した、祖国を脅かす非常事態である。参謀長を人質に利用し、帝国軍を上手く退けた場合、国民や軍部に、情報局の失態が露見してしまうのだ。そうなれば、情報局は国内においての信用を大きく失う事となり、今後の情報局の方針に大きな影響を及ぼしてしまう。それを阻止するためには、表向きは「勢力拡大を目的として侵攻を開始したヴァスティナ帝国軍を、情報局と国防軍が連携を取り、祖国防衛のために迎撃した」という事にして、失態が露見しないよう処理しなければならないのである。
第二に、この先アーレンツは中立を捨て、大陸全土を支配するべく、武力を行使していかなければならない。だがアーレンツは、軍事力こそ充実してはいるものの、国防軍として組織された自国の軍隊は、実戦経験が非常に少ない。そのため情報局上層部は、現在の危機的状況を逆に利用しようと考えた。
南ローミリア最強の軍隊であるヴァスティナ帝国軍に、アーレンツ国防軍が勝利を収める事ができれば、国防軍に対する国民の信頼を勝ち取る事ができるのである。世論を完全に大陸全土支配に向けるためにも、この状況を利用しない手はない。国民から信頼を得るためにも、人質を使った戦術ではなく、正面から敵を迎え撃ち、見事撃破して見せる事が求められるのだ。
「人質など使わずとも、あの程度の兵力で我が国の防護壁を突破する事など不可能だ。国防軍を活躍させるには絶好の機会だろう」
「帝国自慢の例の兵器も、鋼鉄防護壁の前では無力だ。国防軍も大佐の玩具も、試すには丁度いい」
「想定よりも早い帝国軍の到着には驚いたが、所詮は一万の軍勢。こちらから平野での戦闘を仕掛けるならば話は別だが、防護壁で迎え撃つ限り、我が国の勝利は揺るがない」
アーレンツの迎撃態勢を考えれば、圧倒的に帝国軍が不利である。攻撃側でありながら、総兵力数で既に負けており、侵攻しようにも、鉄壁の防護壁が立ちはだかる。その事を理解していない帝国軍ではないはずだが、彼らは正面から攻撃を開始しようとしている。
情報局も国防軍も、帝国軍の勝利はあり得ないと考えていた。これは慢心ではない。彼我の戦力を分析して出した、揺るがぬ事実なのである。
まもなく幕が上がる、アーレンツを舞台とした決戦。この国の未来を決める戦いは、アーレンツが圧倒的有利な状況下で、始まりを迎えようとしていた。
国家保安情報局本部にて、上層部の緊急会議が行なわれている、その頃。この地に現れた帝国軍迎撃に、自慢の新兵器を実戦に投入するべく、情報局の研究施設に姿を現した男がいた。
「どれくらいかかる?」
「試験段階だったものは全て最終調整にかけておりまして、あと半日は必要かと」
「遅すぎる。一時間で済ませろ」
「しかし、指示調整にはどうしても時間が------」
「多少命令を聞かなくとも、戦闘ができれば十分だ。それとも貴様、俺の命令が聞けないと抜かすつもりか?」
「いっ、いえ・・・・・。作業を急がせます」
国家保安情報局研究施設の地下に、彼の姿はあった。薄暗い研究施設の中、彼の視線は、目の前にある鏡張りの部屋の中へと向けられている。彼の傍には四人の部下と、白衣を着た、この施設の研究所長の姿があった。
彼の見据える先には、実験台に置かれた兵器達と、白衣を着た研究者達の姿がある。研究者達は、台の上に置かれているその兵器達の体に、様々な薬品を注射していた。
「ふん、帝国の奴らが大人しく待っていればいいがな」
新兵器の最終調整が終わるのを待ち焦がれている、情報局所属のこの人物の名は、ルドルフ・グリュンタール。「暴豹」という異名を持つ、情報局大佐にして、情報局強硬派の主要人物である。
(帝国との戦いには間に合いそうだが、その後は・・・・・・)
情報局上層部は、ルドルフがこの兵器の準備を急がせている、その本当の理由をわかっていない。この兵器は帝国軍迎撃に使用する予定でもあり、万が一他国の侵攻があった場合の備えでもある。ルドルフが特に警戒しているのは、この機に乗じる可能性が一番高い、ジエーデル国の存在だった。
(帝国の奴らは防護壁の正面に展開している。どうせ奴らは囮だ。本命は恐らく・・・・・)
アーレンツに現れた帝国軍の存在を、ルドルフは囮であると考えている。主力を結集したとはいえ、帝国軍はアーレンツ軍を下回る戦力を、全て正面に展開した。帝国軍は、全戦力を囮とした作戦を展開している可能性がある。そうルドルフは読んでいた。
軍事力の差を考えれば、帝国側が圧倒的不利である事実は揺るがない。それは帝国側も理解しているはずである。お互いの軍が平野でぶつかり合うのであれば、練度の差で勝機を見出す事もできるが、アーレンツ側は鉄壁の壁を利用しての迎撃態勢を整えている。無策で突っ込めば、返り討ちに遭うのは明白だ。
ならば、何かしらの策がある可能性は非常に高い。帝国の国力を考えれば、別動隊による奇襲は考えにくい。他に考えられる可能性は、他国との連携なのである。
この短期間で、他国と協力関係を築き、自国の主力を囮として使い、他国の軍隊に奇襲攻撃を行なわせる。それが帝国軍の狙いではないかと、ルドルフは警戒しているのだ。そしてもし、その他国の軍隊というのが、ジエーデル国の軍隊であるのならば、圧倒的有利にあるアーレンツは一変して、危機的状況に陥ってしまう。
(ジエーデルが現れるのであれば、こいつが必要になる。試作品でどこまでやれるか、今から楽しみだ)
ルドルフは今、気を抜けば表に出してしまいそうなほどの、湧き上がる興奮を覚えていた。この新兵器は彼にとって、自分の権力をより強固なものとするための、軍事面での切り札なのである。その切り札が、これから本格的な実戦に投入され、その威力を披露する事になるのだ。興奮を覚えるのは無理もない。
(ゼロリアス帝国が研究している、人造魔人。奴らの技術がどこまで使えるか、この俺が見定めてやろう)
ルドルフの眼に映る、最終調整中の兵器達。それは、ゼロリアス帝国から手に入れた研究資料を基に製造した、「人造魔人」と呼ばれる兵器である。
魔人と呼ばれる、魔物を超えた伝説の存在。大陸最強の軍事力を保有する国家ゼロリアス帝国が、兵器として研究を進めている人造魔人。人間を超え、魔物すら超えた、生物の頂点に君臨する存在が魔人であり、最強の生物兵器を作り上げる事こそが、ゼロリアス帝国の「人造魔人研究」の目的である。
情報局の研究者達は、ゼロリアスから入手した少ない研究資料で、何とか実戦に投入可能なものを作り上げた。薬物を使用した人体実験を繰り返し、人間に魔物を移植する事に成功した実験体が今、ルドルフの目の前で最後の調整が行なわれていく。
「アーレンツに立ち向かってくる奴らに地獄を見せるには、丁度いい玩具だ」
そう言って、冷酷な笑みを浮かべたルドルフもまた、勝利を確信していた。だが彼は、アーレンツに忍び寄る、真の敵と言えるジエーデルの足音を、聞き逃す事はない。
勝利のために全ての敵を喰い荒らすべく、「暴豹」は研ぎ上げた己の牙を輝かせていた。
「噂通り、高く頑丈そうな壁だね」
「鉄壁の要塞と呼ばれているだけありますわね。でも、メンフィス先輩の作戦通りに事が運べば、あの壁と正面からぶつかる事はなくなりますわ」
アーレンツから約二キロメートル離れた地点に、彼らは展開を終えている。今や、南ローミリア最強の軍隊と呼ばれ、これまで数々の戦争で勝利を収め続けてきた、ヴァスティナ帝国軍。エステラン国軍四千の兵力を加えた一万の戦力は、エステラン攻略戦以来の大規模侵攻作戦を開始した。
帝国軍の目的は、中立国アーレンツを攻略し、帝国参謀長リクトビア・フローレンスの奪還である。帝国軍最高司令官である彼は、アーレンツに捕らわれたままだが、最高司令官を欠いた状態であっても、軍の士気は非常に高い。
「各部隊の準備はどうだい?」
「終了したと、先ほど報告を受けましたわ。シャランドラさんの準備も終わっていますわ」
「では、そろそろ攻撃を開始しよう。皆、我慢の限界だろうからね」
アーレンツ自慢の鋼鉄防護壁を見つめ、攻撃開始の号令をかけようとしているのは、現在帝国軍の全指揮権を握っている、軍師エミリオ・メンフィスである。エミリオの傍には、彼を先輩と呼んで尊敬している、軍師ミュセイラ・ヴァルトハイムの姿もあった。
この決戦のために、二人はあらゆる準備を行なった。兵力を搔き集め、強力な兵器を揃え、勝利を得るための作戦を立案した。二人はこの瞬間のために、全ての準備を済ませたのである。だが、相手の戦力は未知数であり、作戦通り事が運ぶ保証はどこにもない。
「・・・・・メンフィス先輩」
「どうしたんだい?」
「私達は・・・・、本当に勝てるのでしょうか?」
保証がない故に、ミュセイラは未だ不安を感じ続けている。命令を下す指揮官の一人である以上、兵士達に無用な不安を与えないため、平常を装っていても、彼の前では本心を口に出してしまう。
決定的な兵力差。巨大な鋼鉄の壁。精鋭一個小隊で一個大隊相当の戦闘力を持つと言われる、国家保安情報局精鋭部隊。強力な戦力を有する今回の相手に対し、帝国参謀長を欠いた状態で、果たして勝利できるのか。軍を指揮する者の一人として、彼女が不安を覚えるのも無理はない。
俯くミュセイラとは対照的に、エミリオは笑みを浮かべ、彼女の肩に優しく手を置いた。顔を上げたミュセイラが見た彼の眼は、「心配はいらない」と彼女にそう訴えているようだった。
「不安に思う気持ちはわかる。私だって君と同じさ」
「・・・・・・」
「でも、大丈夫だよ。リックを想う、仲間達の力を信じるんだ」
「!」
エミリオは信じている。参謀長リクトビア・フローレンスに忠誠を誓い、彼を愛する愛しき仲間達。彼女達ならば、武器を手に戦えない自分の代わりに、必ずやリックを救い出してくれると、そう強く信じている。
リックのもとに集った、歴戦の勇士達は、戦闘開始の号令を待っている。待ち侘び過ぎて、早くエミリオが号令を出さなければ、勝手に飛び出してしまうかもしれない程だ。
「ジエーデルとの戦いの時も、エステランとの戦いの時も、皆はその手に勝利を掴み取って見せた。違うかい?」
「・・・・・・そうですわね。私達は、皆さんの勝利を信じるだけですわ」
勝利する以外に道はない。そんな戦いを、これまで何度も行なってきた。今回もそれは同じだ。状況が圧倒的に不利であろうと、やる事は変わらない。これまで数々の激戦を戦い抜き、勝利を挙げ続けてきた最強の戦士達を、いつものように信じ続けるだけなのだ。
「さあ、ミュセイラ。用意はいいかい?」
「はい、メンフィス先輩!」
この戦いは、必ずや後の戦史に記される。大陸一の中立国アーレンツに対し、南ローミリアの盟主ヴァスティナ帝国が侵攻を行なう、大陸全土を震撼させた侵略戦争として・・・・・・。
「全軍、作戦開始!!」