第二十八話 激動 Ⅶ
「あれ・・・・・・・?」
ここはどこ?私は誰?・・・・・・って、自分の事くらいわかる。俺の名前はリクトビア・フローレンス。別に記憶喪失になったわけじゃない。
なら、ここはどこだ?周りは明りの全くない闇が広がっている。何も見えない、漆黒の闇の中に、俺一人だけ・・・・・。夢か、それとも幻か?ともかく、周りが真っ暗闇過ぎて、ここがどこで、自分がどういう状況にいるのかもわからない。
「!」
何も見えない闇の空間だった場所に、突然光が現れた。光と言っても、砂嵐を見せる画面の光だ。
「テレビなのか・・・・・・?」
闇の中に現れた、彼のよく知る機械。現れたのは紛れもない、テレビの画面であった。どうしてこんなところにテレビなんかがあるんだ?テレビを見るの何て、久しぶり過ぎる。
砂嵐を起こし続けている画面。すると突然、画面は切り替わる。
「これって・・・・・・」
画面に映っていたのは、何処かの葬儀場で行なわれている、葬式の光景だった。喪服を着た大人達が集まって、死者に最後の別れを告げている。
この葬式の光景を、俺は知っている。見た事があるんじゃない。この葬式には俺もいた。だってこの葬式は・・・・・・。
「そう、これはお前の母親の葬式だ」
「!?」
俺以外、ここには誰もいなかったはずだ。なのに突然、そいつは俺の傍に現れた。暗くて顔はよく見えないが、こいつが男で、手にリモコンのようなものを持っているのだけはわかった。
「誰だ・・・・、お前?」
「気にするな。それより画面を見て見ろよ」
画面に注目してみると、そこには過去の自分が映っていた。まだ子供だった時の、自分の姿。母親を失い、父親と共に葬儀場にいる、昔の嫌いな自分の姿。こんなものを、こいつは俺に見せたかったのか?
「じゃあ次にいくぞ」
「はっ?」
こいつはリモコンを操作して、テレビの画面を切り替えた。映し出されたのは、別の葬儀場の、別の葬式の様子。そこにはまた、子供の時の俺が映っていた。この葬式は、俺の父親の葬式だ。
「ある日突然母親が死んだと思ったら、今度は父親までご臨終だ。不幸な子供時代だったな」
「・・・・・・」
リモコンを持っているこの男は、俺の過去を知っているのか?
この男の言う通りだ。俺は子供の時に、まず母親を病気で亡くした。その後父親は再婚して、俺の新しい生活が始まったと思ったら、程なくして父親も、交通事故で死んでしまった。実の両親を失った俺は、父親の再婚相手に連れていかれ、また新しい生活が始まった。
新しい俺の母親は、その後すぐに再婚したから、俺は新しい両親の子供という事になった。ちなみに、再婚相手の父親は子持ちで、一人っ子だったはずの俺に、いきなり兄弟までできてしまった。弟と妹が一人ずつだ。
「次に飛ぶぞ」
男はまたリモコンを操作した。再び画面が切り替わり、映し出された映像は、成長した俺の姿。学生服を着た、中学生時代の俺が通学している光景が、テレビ画面に映し出されている。
「俺の半生メモリーなんか見て楽しいか?」
「全然面白くないに決まってるだろ」
真顔でそう言い放ったこの男・・・・・・・、何だかイラっと来る。取り敢えずこいつの事は、リモコンを持っているからリモコン男と命名するか。
画面に映る中学生の俺は、血の繋がった両親を失いはしたが、ごく普通の生活は送れていた。まあ俺は、義理の夫婦の子として学校にも行かせて貰ってはいたが、家族内では煙たがられていた。血の繋がりのない、再婚相手の義理の息子なのだから仕方がない。
毎日毎日、何不自由ない窮屈で退屈な生活。家は居ずらかったが、学校はそうでもなかった。部活をやっていたし、友達もいた。親しい奴は俺を宗一と呼んだりして、一緒に遊びに行ったりもしたっけ。まあ、それなりに楽しんでいたさ。当たり前の日常だが、まあまあの生活だったかな。
勉強は苦手だったから、学業の成績はそんなに良くなかった。でも得意科目はあって、歴史関係は勉強してて楽しいと思ったし、お陰でそれだけは割と成績もよかった。過去を遡って、先人達から色々な事を学ぶって事が、凄く面白いと感じたんだ。
そうそう、ちょうどこの頃だ。何気なく友達からゲーム機とソフトを借りて、暇潰しにプレイしてみたら、思ってた以上に面白く感じて、どんどんのめり込んでいった。それがまあ、一人称視点の戦争ゲームだったんだよな・・・・・。
ゲーム機が進化してたから、映像も綺麗で、昔よりもずっと出来が良かった。そのせいでのめり込んでいって、ゲーム内で使われる銃とかに興味が出ちゃって、色々調べたな。一時期そんなのにはまったお陰で、今はその時得た知識が良い感じに活かせてるから、勉強しといて良かったと思う。
「ちょっと時間を進めるか」
リモコン男がまた操作して、また画面が切り替わる。今度は高校時代の映像だった。高校で部活動をやっていた時の光景だ。俺は運動部で、あの頃はサッカーをやっていた。自慢じゃないが、運動神経は結構よかったから、部活じゃレギュラーだったんだよな。
この頃の俺は、退屈な毎日に嫌気が差してた頃だ。家は相変わらず居ずらかったし、何をやっても面白いと感じなくなっていた。難しいお年頃というやつで、悩みや不安、そこからくる苛立ちや苦しさに、どんどん自分が壊されていくような、そんな感覚。俺が自分で自分を苦しめ続けた、最悪の時期かもしれない。
そんな中この時の俺は、何か面白い事をやってのけたい思いがあった。面白いと言っても、別に笑えるような事じゃなく、夢中になれるような、今の自分を変えてくれるような、この退屈で苦しい世界から解き放ってくれるような、そんな漫画みたいな事をしてみたかった。
そのために俺は、取り敢えず何でもやってみる事にした。高校でも部活をやっていたのは、そのせいだ。
「ありゃりゃ、酷い負け方してるじゃないか」
「うるさい・・・・・」
リモコン男が映した画面には、俺のチームが惨敗した映像が流れていた。最後の大会の予選第一試合だったか。優勝候補筆頭校と当たって、本当に呆気なかった。
元々、俺の高校はそんなに強くなかった。だから俺は、そんなチームで大会に優勝出来たら面白いかもしれないと思って、必死になって部活をやっていたんだ。
「お前は頑張ったよ。ただ、お前の周りはそうではなかった。その事に苛々したんだよな?」
「・・・・・・」
リモコン男の言う通りだ。結果だけを言えば、俺は空回りしてただけなんだ。
勝つために部員を集め、勝つために練習して、勝つために自分が部長になった。でも、上手くいかない事はいっぱいあって、その度に苛立ちながら何とかしようと頑張ってみた。まあ、ほとんど上手くいかなかったけど・・・・・・。
この時の俺が一番失敗したなと思っている事は、周りの全員を気にし過ぎた事だ。どんな手を使ってでも勝ちたいという思いに反して、俺は周りに甘すぎた。練習の時も、試合の時も、誰かが部を去る時も、俺の甘さが邪魔し続けた。
俺の甘さに、周りも甘えていたと思う。だからあいつらは、最後の最後まで本気になり切れなかったんだ。この結果は自分のせいだと思った。でも同時に俺は、周りに凄く腹が立った。
「他人の事なんか気にしすぎるから馬鹿を見た。そうだろ?」
「・・・・・・」
「他人の事ばっか優先するなんて阿保らしい。優先するべきは常に自分自身。自己中万歳だ」
「俺もそう思ったさ・・・・・。だから俺は・・・・・」
俺の考えを察したのか、リモコン男はボタンを押して、またも画面を切り替えた。映し出された映像は、高校を卒業し、大学に入学した俺の姿。何もかもに嫌気が差し、何も考えず、ふらふらと街中を歩く様子が映っている。
こうやって今見ると、あの頃の俺は、本当に退屈そうな顔をしている。あの頃は苛々してから、街中でちょっとチンピラに絡まれただけで、すぐに殴り合いをしたもんだ。そのせいでよく怪我をしたが、喧嘩相手は病院送りにしてやってた。あの頃は、少なくとも喧嘩中は何も考えずに済んだし、鬱憤を少しは晴らせたから、喧嘩に明け暮れてたのかも・・・・・。
ああ、思い出した。喧嘩中の俺はどうもテンションがおかしかったらしくて、狂った笑い声を上げて、喧嘩相手を殴り殺す勢いでぼこぼこにしていたらしい。俺自身はあんまり覚えてないんだけど、相当イカれてたって聞いたな。
俺に喧嘩を売ってくる奴は、どんな相手だろうと叩き潰す。俺は喧嘩相手を、人型サイズの害虫くらいにしか考えてなかったから、そういう気持ちで相手を叩きのめしていたんだ。
「だからお前は、自分以外を信じなくなった。自分以外の存在を邪魔に思っていた。違うか?」
「ああ・・・・・、そうだ」
「お前は屑だ。自分の思うままにいかないからって、自棄になって何もかもを憎んで、人を人とも思わなくなった。最低の下衆野郎だよ」
「まあな・・・・・、よく言われるよ」
そう、こいつの言う通りだ。俺は最低の、屑で下衆な男だ。
自分勝手な理由で苛立って、周りに八つ当たりして、最悪な野郎だ。そこら辺のチンピラと変わりない。俺みたいな奴を、世間一般では社会不適合者と呼ぶのかもな。
「きっかけは両親の死かもしれないが、お前は自分で自分を壊していった。だから簡単に人も殺せる。この世界の初陣で、お前は一体何人殺した?」
画面はまた切り替わる。そこに映し出されていたのは、俺の初陣の光景。ヴァスティナ帝国をオーデル王国の侵略から救った、業火戦争の光景だ。
炎に包まれた周りの中で、短剣を片手に持つ俺が、一人の男の死体を見つめている。その死体は、この時王国軍を指揮していた王子のものだ。
「初めてのくせに、お前は躊躇いなく人間を殺した。まともな精神の奴にそんな事はできない。それがいくら、大切なものを守るためだったとしてもな」
確かにそうだ。この時の俺は、この王子だけじゃなく、たくさんの人間を殺したと思う。戦いの後、体中に浴びていた返り血が、それを証明している。
「お前はこの世界に来て壊れたんじゃない。最初から壊れてたんだ。本当はもうわかっているんだろう、リクトビア・フローレンス」
屑で下衆で、最低最悪の頭のイカれた糞野郎が、俺なんだ。あの頃から何も変わっちゃいない。相変わらず俺は、自分が敵と思った奴を人とも思わないしな。
だけど、それの何が悪い?これが今の俺の生き方で、今の俺は、己の思うまま生きている。あの頃感じていた退屈さと窮屈さは、今はない。
ただ、今の俺を苦しめるのは、あの頃とは全く違うものだ。悲しみと憎しみ、怒りと殺意が、今の俺を苦しめ続ける。それから解放される日は、永遠に訪れないかもしれない。
だからなのか、いつも思うんだ。このリモコン男の言う通り、俺は最初から壊れていた。だがもし、俺が壊れていなかったら、彼女達を失う事は無かったのかもしれないって・・・・・・。
人を人とも思わず、邪魔者を全て排除する。そんなやり方でしか、俺は彼女達を守れなかった。でも俺が、もっとまともな人間だったら、もっと上手いやり方で彼女達を守れたかもしれない。俺に優しい温もりをくれた彼女達を・・・・・・、腐っていた俺を救ってくれた彼女達を、俺は・・・・・・。
「・・・・・・おいリモコン男。お前は、一体誰なんだ・・・・・?」
「もうわかってるんだろ、リック」
ああ、お前が誰かなんて薄々気付いてたさ。だってお前が傍に居ると、苛々して仕方ないんだよ。俺がこの世で最も憎み、最も殺意を抱く相手、それがお前だ。そうだとわかってしまったから、本能的に苛立ちを覚えたんだ。
この空間に目が慣れてきたのと、テレビの光のおかげで、ようやくリモコン男の顔を見る事ができた。そこにいたのは、俺が予想した通りの男だった。
「俺の名は長門宗一郎。お前が殺したいと願ってる、お前自身だよ」




