第二十六話 狂犬と番犬 Ⅵ
「「!!」」
「どうしたの二人と-------」
第一軍が制圧した地点の中心部は、街の広場の一つである。指揮所である天幕から外に出て、直接命令を下しているリックの傍には、彼の護衛をするべくレイナとクリス、そしてイヴが張り付いていた。
忙しく走りまわる兵士達。命令を飛ばす怒号に似た声が、この拠点内の至る所で叫ばれている。その声を聞くと、ここは戦場なのだと改めて理解できる。制圧している地点の街の建物は、住民がいないためとても静かであり、人の気配を感じない。リックの立っている戦場は、こんな様子だった。
そんな様子の中、彼の傍にいるレイナとクリスの様子が変わった。レイナは槍を構え、クリスは剣を抜く。少し遅れてイヴも、急に自身の狙撃銃の引き金に指をかけ、辺りを見渡し始める。
「三人ともどうした?急に武器構えて・・・・・・」
三人の異変に気付き、どうしたのかと尋ねてみるリックだが、三人の様子を見て、瞬時に何が起きたか理解した。帝国軍内でも、この三人の危機察知能力は群を抜いている。その三人が、それぞれの得物を構えて警戒態勢に入ったのである。ならば、答えは一つしかない。
「気付いたか、破廉恥剣士」
「ああ、そこら中から向けられてやがる。上手く隠してやがるがな」
「建物の中と屋根の上、それに兵士さん達の中からも・・・・・・。僕達、囲まれてる」
レイナとクリスが逸早く気付き、遅れてイヴも気が付いた、この場の者達へと向けられている気配の正体。それは、殺気だった。
「・・・・・・イヴ、敵は何人だ?」
「気配隠すの結構上手いからわかんないけど、たぶん三十人くらい」
「参謀長、私から離れないで下さい」
「へっ、面白くなってきやがったぜ・・・・・」
イヴの言葉が正しければ、三十人ほどの敵兵が、第一軍の本陣に乗り込んできた事になる。防衛線も構築しており、見張りだって当然立てている。それにもかかわらず、第一軍の最高指揮官がいるこの場所に、小隊規模の敵兵の侵入を許してしまったのだ。
敵の狙いはリックで間違いない。だからこそ、敵はここまで危険を顧みず乗り込んできたのである。
恐らく敵は知っていたのだ。今この場所には、リック達の他に、帝国軍とエステラン国軍の兵士達がいる。しかし、その人数は百もいない。伝令兵、衛生兵、工兵、参謀長の護衛などしかいない、極めて無防備な状態であるのを、敵は知っていたのだ。
レイナとクリス率いる部隊の内、防衛線に派遣されていない部隊は、ここから少し離れたところで待機している。イヴの率いる部隊は、防衛線に配置されたままだ。今ここでリックを守れるのは、この三人しかいない。
「来るぞっ!!」
クリスが叫んだのと同時に、隠れていた敵がその姿を現す。
建物の屋根、そして屋内の窓から弩で武装した男達が姿を現し、一斉に矢を放った。男達の狙いは、リックを護衛している兵士達である。弩から放たれた矢は、敵の存在に気付かなかった兵士達を次々と仕留めていく。
リックの傍に居るレイナ達へも、放たれた矢が迫りくる。だが、矢の切っ先が彼女達を仕留める事はなかった。レイナは槍で、クリスは剣で矢を叩き落とし、イヴは矢を狙撃銃で撃ち落としたのである。
「敵襲だ!全員応戦しろ!!」
敵の襲撃を叫んだリックは、腰のホルスターから自身の愛銃であるリボルバーを引き抜き、建物の中から姿を現した敵へと銃撃を行なう。彼と同じように、イヴもまた狙撃銃を屋根の上に構え、現れた男達へと銃撃を行なった。
弩を構えた男達は、リックとイヴの銃撃にすぐに反応し、物陰に隠れるなどして二人の銃撃を躱し、再び弩に矢を補充して、再度矢を放つ。またも兵士達が仕留められ、それに怒ったリックが、弾切れとなった自身のリボルバーに弾丸を装填し、応戦のために銃撃するが、やはり敵には躱されてしまう。
突如として現れたこの敵は、練度が非常に高い。しかもこの敵は、銃の存在と性能を理解しているらしく、リックとイヴの銃撃に対して、冷静に対応している。でなければ、剣や槍、弓や魔法を駆使して戦うこの大陸において、まだまだ未知の武器である銃の攻撃を、物陰に隠れて躱すなどできるはずがない。
「参謀長!!」
「!」
敵の攻撃は弩だけではない。いつの間に入れ替わったのか、第一軍の兵士に扮した敵が、武器を手にしてリック達へと迫る。人数は五人。敵は全員剣を握りしめ、次の瞬間には、リック達に斬りかかる寸前であった。
味方に扮していた敵の動きに反応したレイナが、リックに危険を伝えるべく叫ぶ。建物の敵に気を取られていたリックは、別の敵の動きに気付けず反応が遅れ、敵の攻撃を躱す事ができない。
「破廉恥剣士!」
「黙ってろ!」
普段は犬猿の仲だが、こういう時はしっかりと連携を取る。レイナとクリスは同時に動き、前後左右から迫りくる五人の敵を仕留めにかかる。敵の動きは速いが、この二人が相手では役不足である。戦場で神速と呼べる技を放つ、この二人の動きには反応できない。
レイナとクリスは、それぞれの得物を構え、リックを守るべく敵に向かっていく。レイナの槍が、クリスの剣が、神速の突きを放って敵の心臓を貫き、まずは五人の内二人を仕留める。次の瞬間には、息絶えた敵の身体から得物の刃を抜き、リックに最も近い付いている敵を次の獲物と定め、それに向かっていく。
敵が二人の接近に気付いた時には、既に二人の得物の切っ先が、胸を刺し貫いている。更に二人の敵が、帝国軍随一の実力を持つ二人に討ち取られた。
五人の内四人の敵を秒殺し、二人が最後の一人を討ち果たそうとした瞬間、最後の一人は一発の銃声と共に頭を撃ち抜かれ、息絶えた。
驚いたレイナとクリスが銃声のした方を向くと、そこにはイヴの姿があった。彼は左手に狙撃銃を持ち返し、狙撃スコープを覗き、片手で狙いを定めて銃撃を行ないながら、右手にリボルバーを持って立っていた。何とイヴは、相手を見ずに気配だけを読んで、最後の一人を撃ち殺したのである。
「レイナちゃん!クリス君!この人達すっごく手強いから気を付けて!!」
レイナもクリスも、現れた敵を秒殺し、イヴも敵を殺している。だがイヴの言う通り、敵は手強いのだ。この三人は敵を殺していても、他の兵士達は弩によって殺されてばかりで、建物の敵を排除するべく一部の味方が突入したが、容易く返り討ちに遭って終わった。
レイナとクリスは、戦いで培われたの己の勘で感じ取り、こう思った。敵の練度は、自分達が率いている部隊の兵士達と同等か、それ以上だと・・・・・・。
「まだ来るぞ!イヴ、破廉恥剣士、参謀長の護衛だけに集中しろ!私達が隙を見せれば、敵はそこを突いてくる!」
「お前に言われなくてもわかってる!おい女装男子!飛び道具使ってる奴らはお前が片付けろ!!」
「任せて♪リック君を狙う悪い子は、僕が全員撃っちゃうから♪♪」
味方に扮していた敵の五人が殺された事で、敵の次の部隊が動き出す。どこに潜んでいたのか・・・・、いや、どうやってここまで接近していたのか、今度は十数人ほどの敵が姿を現す。
建物にいる敵も、新たに現れた敵も、全員黒い軍服のような格好を身に纏い、黒い軍帽を深く被っている。彼らの姿は、マンチリー国軍でもダミア国軍の兵士でもない、明らかに別の国の軍隊であった。
新たに現れた兵士達も、狙いはリックで間違いない。何故ならば、敵は全員リック達目掛けて駆け出したからである。その動きに対して、レイナとクリスは先ほどと同じように動き、新たな敵兵を仕留めにかかる。イヴは弩を放ち続ける敵に集中し、自慢の狙撃技術で一人ずつ確実に敵を仕留めていった。
「おいリック!後ろに一人いるぞ!!」
「わかってる!」
クリスの警告を聞き、自分の背後から迫ってきていた敵の斬撃を躱したリックは、相手の頭にリボルバーの銃口を向け、引き金をひく。放たれた弾丸は頭を貫通し、敵兵を一発で絶命させた。
「これだと、一秒も気は抜けないか・・・・・・。参ったなこりゃあ」
「心配すんなリック。こんな雑魚共、俺が全員討ち取ってやるぜ。お前はそこで紅茶でも飲んでな!」
「冗談を言っている暇があったら戦え、破廉恥剣士!そっちに行ったぞ!!」
「うるせぇぞ槍女!お前は黙って戦いに集中してろ!!」
「喧嘩しててもちゃんと連携はしてるよね。やっぱり二人共、ほんとは仲良いんじゃ-------」
「「良くない!!」」
レイナ、クリス、イヴの活躍によって、敵は確実にその数を減らしている。味方の損害は増すばかりだが、このまま三人が敵を倒し続ければ、この戦いは乗り切れる。そう考えているからこそ、戦いながらも冗談が飛んだのである。
だが、レイナ達が合計して十五人の敵を殺したところで、敵の動きに変化が現れる。敵は全員、諦めたのか一斉に後退を始め、リック達から距離を取った。
その動きと同時に、リック達の身を、圧倒的な殺気が貫いた。リックも、レイナも、クリスも、イヴでさえも、突如として現れた殺意に一瞬硬直し、恐怖を覚えた。まるで、一瞬心臓を刃物か何かで貫かれたような、そんな感覚を味わったのである。
敵の後退は、この殺気を察知したのが理由であった。敵兵全員、自分達が彼女の邪魔にならないよう、急いで後ろに下がったのである。
そう・・・・・、殺気を放ったのは彼女である。彼女はゆっくりと歩を進めながら、リック達の前にその姿を現した。
「総員傾注。後は私がやる」
現れたのは、一人の少女だった。彼女は全てが黒く染まっている。その身に纏う軍服とスカートも、履いているブーツも被っている軍帽も、全て黒を基調としていた。短く整えられた髪の色も黒に染まっているため、リックは一瞬、死神でも現れたのかと思ってしまったほどだ。
そして、一番目を引くのが、彼女の右目を覆い隠す、黒い眼帯である。負傷か病かはわからないが、恐らくその眼は失われているのだろう。
「おい槍女、こいつは・・・・・・・」
「わかっている。この女は、私が今まで戦ったどんな敵よりも危険だ・・・・・」
戦わずしてもわかる、戦士の直感が告げているのだ。目の前の眼帯少女は、この場に現れた敵達の中でも、群を抜いた実力者であると・・・・・・。
場を支配する圧倒的な殺気は、彼女から放たれているものであった。この少女は、レイナとそう歳が変わらないような見た目だが、歳不相応な異様過ぎる存在感を持っている。少しでも動けば殺されると、そう思わせてしまうような恐怖を、彼女は放ち続けているのだ。
「女装男子、リックの傍を離れるんじゃねぇぞ。槍女、こいつは俺がやる」
「馬鹿を言うな破廉恥剣士。貴様一人で手に負える相手ではない」
帝国軍最強の二人が覚悟を決めて、眼前の眼帯少女にそれぞれの得物を向ける。クリスは一人で戦うと言ったが、レイナはそれを許さない。何故なら、クリス一人では勝てないと直感したからだ。
イヴはクリスの指示に大人しく従い、リックの傍によって、彼の前に立つ。自分の身を盾にしたのである。イヴが文句一つ言わずクリスの言葉に従ったのは、新たに現れたこの敵が、冗談抜きで本当に危険だと感じたからだ。
「たった二人で私の前に立つか。劣等人種共」
「ああん!?てめぇなんざ俺一人でも十分なんだよ!」
「挑発に乗るな破廉恥剣士」
自分の前に立ち塞がったレイナとクリスに対し、眼帯少女の放った言葉は明らかに挑発であった。相手の冷静さを失わせる、彼女の戦術の一つである。
しかし二人は挑発に乗らない。クリスは言葉こそ乱暴で、猪突猛進タイプの戦士だが、敵の策を見抜けないほど馬鹿ではない。当然レイナも、敵の挑発に乗る事はないのだが、眼帯少女の言葉を受けて、クリス同様に闘志を燃やしている。
「吠えるな、下劣な下等生物風情が」
「その糞ったれな挑発が二度と聞けねぇ様にしてやるぜ!はああああああああっ!!」
「覚悟しろ!貴様の命は、我が槍が討つ!!」
レイナとクリスが同時に動いた。二人は駆け出し、いつもの神速の速さを持って、眼帯少女との距離を一気に詰める。クリスは彼女の正面から、レイナは彼女の右側から迫り、次の瞬間、二人の得物の切っ先は、彼女目掛けて放たれていた。
常人には回避不可能な、レイナとクリスの必殺の一撃。この技で二人は、これまで多くの敵を討ち取り、多大なる戦果を挙げてきたのである。先手必勝を見事に体現した二人の技が、彼女の命を奪うべく放たれたが、彼女は一切動じていない。
そして、レイナの槍とクリスの剣の切っ先は、彼女の身体を刺し貫くべく真っ直ぐ放たれるが・・・・。
「「!!」」
「所詮この程度か」
二人の得物の切っ先は、二本の大きな刃物の刃によって、綺麗にいなされていた。突然現れた二本の刃物は、この眼帯少女の武器である。彼女は腰に二本の刃物を携帯していた。それを瞬時に抜き放ち、二人の神速の攻撃を躱すのに利用したのである。
眼帯少女の出した得物は、刃の大きなナイフであった。所謂、ククリナイフと呼ばれる武器によく似た物を、両手に持っている。
「失せろ」
彼女はククリナイフを振り、レイナとクリスの得物を勢いよく弾いた。金属同士がぶつかる音が鳴り響いたかと思えば、レイナは槍の切っ先を弾かれた衝撃で、一瞬体勢を崩して隙を生み出してしまう。クリスも同様で、剣の切っ先を弾かれ、一瞬無防備となった体勢を見せてしまった。
その隙を彼女は決して見逃さない。隙を見せたレイナに対しては、腹部に一撃足技を叩き込み、彼女の身体を蹴り飛ばした。クリスにはククリナイフの乱舞が襲い掛かり、眼帯少女が繰り出す素早い動きのナイフ捌きが、彼を防戦一方とさせた。
眼帯少女のククリナイフの攻撃を、自身の剣でどうにか防ぎ続けるクリスだが、彼女の乱舞は確実に彼を追い込んでいた。
「邪魔をするな、雑魚め」
「!」
ククリナイフばかりに気を取られていたせいで、彼女の動きに反応が遅れてしまった、彼女はクリスの隙を付いて、左足を振って彼の顎を蹴り上げたのである。蹴り上げられた力によって、クリスの身体が持ち上がり、彼の両足が地面から離れる。そして彼女は、宙に持ち上げられた彼の腹部目掛け、強烈な回し蹴りを放ち、そのままクリスを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた二人は地面に叩きつけられ、苦しそうに呻くものの、何とかすぐに立ち上がって、己の得物を再度握りしめ、眼帯少女を睨みつける。絶対に彼女から目を離すわけにはいかないからだ。一瞬でも目を離したり、隙を見せたりしたら最後、確実に殺されるとわかっているからである。
「ぐっ・・・・・この野郎っ!」
「ごほっ、ごほっ・・・・・・、強い・・・・っ!」
目にも止まらぬ速さで繰り出された、二人の神速の突きは、簡単に防がれてしまった。これはつまり、ククリナイフを自在に操る彼女は、レイナとクリスの速攻に、初見で対応できた事を意味する。帝国軍として今まで二人が戦ってきた相手で、そんな事ができた者はほとんどいない。
だが、かつて帝国最強と呼ばれていた彼女であれば、この眼帯少女と同じ事ができた。
「くたばりやがれ!奔れ、雷光っ!!」
「焼き尽くせ、焔っ!!」
蹴り飛ばされた事で彼女と距離が開いたため、今度は同時に魔法攻撃を放つ。レイナの魔法による炎と、クリスの魔法による雷が、生き物のようにうねり、一匹の蛇の如く彼女へと向かっていく。炎と雷の攻撃が自身に迫っても、彼女は驚きもしない。攻撃の動きを見切り、左に跳躍して魔法攻撃も躱す。
回避した彼女へと、追撃の魔法攻撃が放たれる。レイナの炎属性魔法がまたも彼女へと向かっていく。だがやはり、魔法攻撃の動きも見切られているため、今度は右側に跳躍して躱す。
「おらあああああああああっ!!」
「!」
レイナの追撃は囮である。本命は、レイナに気を取られている内に彼女に急速接近していた、クリスの斬撃である。彼女の右側に迫ったクリスが、剣を横一閃に振るう。彼女の回避は間に合わない。
「・・・・・貴様達の動きは既に見切っている。何度やっても無駄だ」
「!!」
彼女の首を斬り落とそうとしたクリスだったが、振った斬撃は、彼女のククリナイフによって防がれてしまっていた。回避は間に合わないとわかった彼女は、自分の武器をクリスの斬撃以上の速さで操り、彼の刃を自身の得物で防いだのである。
二人が放った最初の突きを彼女が避けなかったのは、二人の動きと技を見切るためであった。たった一度見ただけで、彼女は帝国最強の二人の全てを見切ったのである。
「邪魔だと言った。二度も言わせるな」
そう言った瞬間、彼女のククリナイフがクリスの剣を弾き返し、彼女の放った膝蹴りが彼の腹部に命中する。鉄の棒で思いっきり殴られたような、そんな衝撃を受けて、苦痛に呻いたクリスの動きが止まる。完全に隙だらけとなった彼を殺すべく、彼女のナイフが振り下ろされようとしていた。
「させないっ!!」
クリスを救うべく、レイナが槍を構えて駆け出した。
このままではクリスが殺される。彼の危機を救うべく、レイナは彼女に急接近し、槍の切っ先を前に突き出した。クリスが斬られる前に、彼女を己の槍で刺し貫くつもりなのだ。
「ふんっ」
レイナの接近に対しても、やはり彼女は動じない。一瞬の判断で、クリスにナイフを降ろすのを止め、ナイフを持ったまま彼の服を掴み、片手だけで彼の身体を投げ飛ばした。投げ飛ばされたクリスの身体は、レイナへと向かっていき、驚いた彼女は、切っ先が彼に刺さらぬよう槍を逸らし、クリスを受け止めようとするが、間に合わなかった。槍が彼の身体を傷付ける事はなかったが、受け止める事に失敗したのである。眼帯少女のせいで、クリスとレイナの身体が激しくぶつかり、彼女が体勢を崩したために、地面に叩き付けられた。
「二人がかりでこのざまか」
「がはっ!?」
地面に倒れた二人に、彼女は追い打ちをかける。クリスをブーツで踏み付け、彼を逃がさないようにしたまま、右手のククリナイフを腰にある鞘へ収め、同じく地面に倒れていたレイナを見下ろす。殺気を込めた視線でレイナを睨み付けたまま、彼女の首を右手で掴み、彼女を片手で持ち上げた。
「ほう・・・・・、貧相な身体つきだが顔はいい。槍の扱いよりハニートラップの方が向いている」
「ぐっ・・・・・・!」
先ほどから、少女とは思えない筋力を披露し続ける、この眼帯少女。彼女はレイナを片手で持ち上げ、片手の握力だけで首を締め上げる。呼吸ができなくなり、苦しそうに呻くレイナに、彼女は左手のククリナイフを突き刺そうと構えた。
「レイナちゃん!クリス君!」
レイナの危機に対し、リックを守っていたイヴが、彼女を助けるべく狙撃銃で銃撃を行なった。放たれた一発の弾丸は、眼帯少女の頭を狙っていたが、彼女はそれを容易く躱す。彼女は次の銃撃に備え、イヴの射線上にレイナの身体を持ってくる。レイナの身体を盾にしたのだ。
こちらの二撃目以降の射撃には、レイナを盾にして対処するだろうと予測していたイヴは、狙撃銃から手を離し、両手を懐に突っ込み、中から手榴弾を取り出して、歯で安全ピンを抜き、両手に持った手榴弾を下投げで彼女へと投げつけた。
これもどんな武器か知っているのだろう。彼女はこれを爆弾であると瞬時に理解し、レイナの首を絞めたまま後ろへと跳躍し、回避行動に入る。そこにいては、爆殺されると予想したからだ。
しかしこの手榴弾は、殺傷目的の爆裂型のものではない。もしそんなものを使えば、レイナとクリスを巻き込んでしまうからだ。
投げられた手榴弾は二つ。安全ピンが外された二つの手榴弾が、次の瞬間、眩い閃光を発して破裂した。この場のほとんどの者達が、突然の光を眼に受けて、あまりの眩しさで視界を光に奪われる。閃光に眼をやられなかったのは、使用者本人であるイヴだ。彼は瞼を閉じて、腕で眼を隠し、閃光手榴弾の光をやり過ごしたのである。
今ならば勝機はある。そう直感したイヴは、光に眼をやられているであろう彼女へと、一気に距離を詰めていく。銃撃したいところだが、彼女は未だレイナを手放していないため、流れ弾が命中してしまう危険性が高い。そのためイヴは、自身の拳銃を右手に握りしめ、至近距離から相手に銃撃を加えようとしているのだ。
彼女の懐に飛び込んだイヴが、彼女の胸目掛けて銃を構えたその時、彼の銃を握る右手は、彼女の左手に捕まれていた。
「!?」
閃光に視界を奪われ、今の彼女は何も見えないはずだった。しかし彼女は気配を読み、左手に持っていククリナイフと、右手に掴んでいたレイナから手を離し、イヴへと襲い掛かったのである。
彼の腕を掴み上げ、自身のもとへと勢いよく引き寄せた彼女は、彼の胸目掛けて掌打の一撃を放った。
「かはっ・・・!!」
「小賢しい」
イヴに決定的な一撃を与え、苦痛のあまり動けなくなり、隙だらけとなった彼の身体を、彼女は拘束にかかる。リックのいる方へと振り向かせ、銃を叩き落とし、右腕を彼の背中へとまわして、首を腕で締め上げる。
右腕でイヴの右手を掴み上げ、左腕でイヴの首を締め上げる。イヴを完全に拘束した彼女へと、リックは自身の拳銃を向けた。
「にっ・・・・逃げて・・・・・リック君・・・っ!」
「武器を捨てろ、リクトビア・フローレンス。さもなければ、こいつの命はない」
「・・・・・!」
突如現れた圧倒的実力者は、瞬時に帝国自慢の精鋭達を無力化し、精鋭の一人であるイヴを人質にとって、次はリックへと狙いを定める。彼女はリックの護衛に付いていた、この三人を無力化するべく、ここに姿を現したのだ。
イヴを人質に取り、リックを睨み付ける眼帯の少女。自分の配下を倒した少女に銃口を向けるリック。
リック率いる第一軍の戦いは、予想外過ぎる急展開を迎えたのだった。




