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第二十六話 狂犬と番犬 Ⅲ

 ミュセイラ率いる第二軍と、バンデス国反乱軍との戦闘は、第二軍による威力偵察から始まった。

 武装蜂起した反乱軍が占拠している、バンデス国の砦。これは、対ジエーデル国との戦闘を前提として構築された、非常に強固な砦であった。石造りの高い城壁と、防衛用の大砲や据え置きの大型連弩に加え、大型の投石器まで配備されており、砦を攻めてくる相手への迎撃態勢は徹底されている。また、砦の地下には武器と食糧の備蓄倉庫が多数造られており、防衛線時の長期間の戦闘継続を可能にしている。

 まさに、要塞と呼ぶに相応しきこの砦に対し、ミュセイラは攻略作戦の第一段階を発動した。威力偵察のために攻撃を行なった第二軍は、正面から砦に攻撃を行なったのである。

 短期決戦を望んでいる帝国は、戦力を敵砦の正面に展開し、基本的な攻城戦を行なった。砦に対し、エステラン国軍が使用していた大砲や、火矢を用いて支援攻撃を行ないつつ、歩兵部隊は城壁に取り付き、攻城戦用の梯子をかけて、砦内への侵入を試みた。だがやはり、敵の防御態勢は万全であり、かけた梯子はすぐに外され、歩兵部隊は大砲や弓矢の脅威に晒されるお陰で、満足な攻撃が行なえなかった。城壁に備え付けられた連弩も強力であり、支援攻撃部隊にも被害が及んだのである。

 作戦の第一段階は、想定通り第二軍の敗北に終わった。しかし、この敗北のお陰で第二軍は、砦の防衛能力を把握し、反乱軍を油断させる事に成功する。反乱軍はこの勝利に士気を大きく向上させ、自分達の勝利に酔いしれていた。

 全ては、ミュセイラの狙い通りである。彼女は砦を完全包囲せず、砦の正面に戦力を集中し、攻撃を開始した。自分達が、短期決戦を望むあまり、焦って戦力集中による一点突破を狙っている軍団と、そう思わせるために。ミュセイラの思惑に、反乱軍はまんまと引っ掛かっていた。

 彼女は砦を包囲する事はなく、敵の補給線などはそのままにしていた。これにより反乱軍は、各地から搔き集めた食糧や武器を、無事に砦へと運搬できていたのである。ミュセイラはこの補給線を利用し、作戦の第二段階を既に発動していた。

 反乱軍の補給部隊が砦に到着する前に、帝国軍はこの部隊の一部を襲撃した。襲撃を担当したのは、ヘルベルト率いる鉄血部隊の面々である。彼らは、補給部隊の一つに奇襲をかけ、その部隊を瞬時に制圧した。反乱軍の兵士達から必要な情報を聞き出した後は、兵士達を捕虜として別部隊に預け、自分達は反乱軍兵士達の服に着替え、見事にすり替わったのである。

 鉄血部隊の面々と、帝国軍の工作部隊による、共同作戦。彼らの目的は、敵の補給部隊になりすまし、砦内に侵入後、外で待機している第二軍の主力のために、砦の門を開き、内部で破壊活動を行なう事である。破壊活動行なうための爆薬も装備されており、作戦開始となれば、砦内の至るところで派手な爆発が発生するのだ。

 補給部隊を出迎えるであろう反乱軍は、第二軍に勝利した後の興奮冷めぬ状態である。彼らはバンデス国の兵士であるために、ジエーデルとの戦闘が多く、圧倒的な軍事力差に敗走を重ねた経験が多い。そのせいで、勝利に慣れていないのだ。彼女の師である軍師エミリオ・メンフィスから、その事を聞いていたミュセイラは、勝ち目のない正面攻撃を行ない、敗走を演出して見せたのである。これにより反乱軍は、自分達が勝利出来た事に興奮し、ほとんどの者達が浮かれてしまった。

 勝って兜の緒を締めよということわざがあるが、この時の反乱軍には、この言葉が求められていたと言える。勝利の熱に浮かれた状態で、自分達が戦うために必要不可欠な、武器と食糧が届けられるのだ。反乱軍の士気は一層上がる事だろう。そのような精神状態で、補給部隊に疑いを持つ事など不可能だ。

 恐らく、簡単な確認をした後に、そのまま通す事だろう。鉄血部隊は補給部隊の兵士達を尋問し、彼らの部隊名や確認時の合言葉などを得ているため、警備の眼を誤魔化す対策も用意されている。

 補給部隊に扮した鉄血部隊が、無事砦内に侵入を果たす事ができれば、作戦の第二段階は完了である。作戦は最終段階へと進み、本格的な攻略が始まるのだ。

 ミュセイラは待っている。自分の作戦が最終段階へと駒を進めるのを、全ての準備済ませ、ただ静かに待っているのであった。






 同じ頃、第一軍も戦闘を開始しようとしていた。

 激しい紛争を繰り返している、二つの国。国の名は、マンチリー国とダミア国という。この両国の軍隊は現在、とある街を戦場として、激しい戦闘を継続している。

 戦場となっている街の名は、サザランド。この街は、マンチリー国の重要拠点となっている、マンチリー国軍の生命線である。マンチリー国軍はここを拠点として、各地に部隊を派遣し、補給線を構築しているのだ。ダミア国軍がここを潰せば、戦局は一気にダミア国側に傾くと言われている。

 他国に泥沼を予想させているこの紛争。決着の付かない膠着を状態に陥る事を阻止すべく、ダミア国は一気に勝負をかけたのである。総力を結集したダミア国軍は、マンチリー国軍が守るこの最重要拠点に対し、第一軍が到着する前に攻撃を開始していた。

 当然の事ながら、マンチリー国軍の迎撃は凄まじく、ダミア国軍の苛烈な攻撃を何度も跳ね返し、戦局は膠着状態の様子を見せ始めていた。マンチリー国軍は街の中に防衛線を構築し、ダミア国軍を街の中に引き込んで、ゲリラ戦を展開したのである。

 街を防衛する彼らの目的は、援軍の到着までここを死守する事である。ダミア国軍はマンチリー国軍のゲリラ戦に見事に嵌まり、被害を拡大させていた。しかし、決戦を決めたダミア国軍の戦意は非常に高く、一歩も引かずに戦闘を継続したのである。

 一見、防衛に成功しているマンチリー国軍が有利に思われるが、ダミア国軍の攻撃は苛烈を極めている。仲間の屍を増やしながらも、ダミア国軍兵士は突撃を諦めないのである。正直、どちらが勝ってもおかしくない戦いと言える。

 そんな戦場に、この男は現れた。


「よーし、お前ら耳の穴かっぽじってよく聞け!!俺達はヴァスティナ・エステランによる混成軍、暴竜師団だ!俺達はお前達に宣戦を布告する!!」


 戦場となっているサザランドの街から少し離れ、この男は高らかに叫んで宣戦布告を言い渡した。とは言っても、明らかに両軍には届かない距離からである。


「お前達マンチリー国とダミア国は、周辺の平和してる国家群に対して迷惑行為を繰り返している!よって我が師団は、お前達の自分勝手な野望を打ち砕くべく、これより介入行動を開始するものとする!月に代わっておしおきしてやるから覚悟しとけ!・・・・・以上!!」


 街から避難してきた人々と、男が率いている配下の兵士達一同、「この人、一体何がしたいんだろう・・・・・」という目で、男の背中を見ていた。男はとても満足した様子で、戦場となっているサザランドの街を見ている。


「ふう・・・・・・、これで準備完了」

「参謀長・・・・・、先ほどのあれは一体・・・・・?」

「そりゃあお前、言った通り宣戦布告だよ。ちゃんと聞こえるように叫んだろ?」

「自分達は聞こえましたが、恐らく戦闘中の両軍には聞こえなかったと思います・・・・・」

 

 兵士の一人が男に話しかけ、先ほどの宣戦布告について尋ねてみるが、やはり理解不能であった。一番聞かせなければならない相手の耳に、この言葉は届いていない。男が叫んだこの宣戦布告は、まったくもって無意味と言える。

 だがしかし、この男は何故か満足気であった。男の名は、帝国参謀長リクトビア・フローレンス。愛称はリックである。ヴァスティナ帝国軍参謀長であり、今は暴竜師団第一軍の最高指揮官でもある。


「いいんだよ別に。あそこで戦ってる馬鹿共には聞こえなくても、俺達が保護したあの街の避難民には聞こえたろ?」

「間違いなく聞こえたと思います。だからこそ、皆が参謀長に視線を集めているわけですから・・・・・」

「俺は間違いなく宣戦布告した。この事実は、サザランドの街の住人が証人になる。これで俺達は大手を振って攻撃をかけられるわけだ」


 邪悪な笑みを浮かべたリックが、自身の両の腰に差していた剣を鞘から抜く。両手に剣を持ったリックは、自らも最前線で戦うつもりなのだ。


「俺達は宣戦布告なしに奇襲を仕掛けた卑怯者じゃない。ちゃんと宣戦布告して奇襲攻撃をかけた軍隊になるわけだ。理解したか?」

「それはそれで卑怯です!」

「まあまあ、細かい事は気にするなって」


 尋ねた兵士が驚き叫ぶ中、リックは邪悪な笑みを浮かべ続け、自分がこれから向かう事になる戦場を、じっと見つめていた。彼は仲間達を率いて、これから狩りを行なうのである。自分が獲物と定めた二つの軍隊を壊滅させるまで、彼らの狩りは終わらないだろう。


「それじゃあ行くぞ!これより我が軍は、マンチリー国軍並びにダミア国軍に対して奇襲攻撃を開始する!全軍、我に続けええええええええええっ!!」


 リックの号令と共に、第一軍の兵士達が雄叫びを上げて進軍を開始する。軍団の先頭にいるのは、やはりリックであった。一番槍は、きっと彼の手柄となるだろう。

 第一軍による、マンチリー・ダミア国攻略作戦が、今始まる。

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