第二話 狂犬の戦士たち Ⅶ
「痛い」
「死ぬ。あの塗り薬マジで死ぬぜ」
「こっ、これも修行です。痛っ・・・・・」
街に着いた瞬間、力尽きて倒れ伏した三人を、近くにあった診療所へと運んだリリカ。この診療所で治療を受け、現在ベッドで療養中である。全治一週間だそうだ。
診療所に三人を預けたリリカは、早速集会所に向かい報酬を受け取り、その金は治療へと使われた。強奪した金品も診療所へと預け、市場で食料を調達し、動けない三人に食事を与えた。
何かと世話を焼いてくれたリリカではあるが、「強奪した金品は全て私の物だよ。わかっているね?」と宣言されてしまった。無論抗議したが効果はなく、一日の内に、仲間の中で一番のお金持ちとなった、我らの女王様。
もしかすると、決闘をけしかけた理由は、こうして全てを自分の物にするためだったのかも知れない。この女性ならばありえる話だ。
そんなやりとりがあった後、今後のことを話し合い始めた一行。この先どうするのかが、主な議題となった。
この先のことは、全て宗一である。リリカは宗一に付いて行くと言い、レイナとクリスは奴隷決定となっている。そうなれば、全ては宗一しだいなのだ。
「リリカ。俺の代わりに調べて欲しいことがある。耳貸してくれ」
「なんだいリック?」
レイナとクリスに聞こえないように、宗一へと近付いたリリカの耳元で、頼みを話す。明らかに何かを企んでいるのだ。とても狂った何かを。
リリカを使って、彼はその下準備をしようとしている。だが、敗者は勝者に逆らえない。
「わかったよ。相も変わらず命知らずだね」
「なんだよおい!なに企んでやがる!?」
「はっはっはっ。お楽しみだ」
「笑顔が怖いです、リック様」
このやり取りの後は特に何事もなく、この日は診療所のベッドで夜を明かした。
そして次の日の夜、お楽しみと言われた企みは始動したのだ。
トロスクスの街、酒場前。
酒場の外にいても、中からの活気が溢れる声が聞こえてくる。大人の男たちの声が外まで響き、酒場の賑わいが想像できるのだが、ここに集まっている四人の旅人は、賑わう酒場で、酒を酌み交わそうとしているわけではない。
一人の未熟な旅人が企んだ計画が、実行されようとしているのだ。他の旅人はと言うと、自称美人で自由な旅人は、妖艶な笑みを浮かべるばかりで、槍を持った少女と剣を持った青年の二人は、嫌な予感をずっと感じ続けていた。
「さて、情報ではここであっているはずだよ」
「この店って、俺らが食い逃げしたところだよな?また来ることになるとは・・・・・」
とある情報収集を、無傷のリリカへと頼んだ宗一は、この街で初めて入ることとなった酒場を目にし、運命めいたものを感じていた。
今回は客として来たわけでも、再び食い逃げをしようとしているわけでもない。勿論、食い逃げした時の代金を払うわけでもない。またこの店へと訪れたのは、別の目的があるためだ。
感の良いリリカだけは、宗一の考えを読んでいるのだが、嫌な予感は感じてはいるものの、レイナとクリスは、未だ宗一の考えが読めないでいる。
企むことを楽しんでいる宗一に、何も聞かされず、無理やりここへと連れて来られたのだ。決闘に負け、勝者の奴隷とされた故に、逆らうことができなかったためだ。
武術家だからなのか、それとも真面目なのか、宗一の無理やりな決定に、異議を唱えない二人。普通は負けたからといって、奴隷にするなどと言われれば、全力で抵抗するはずだ。二人はそんなこともなく、つきつけられた決定を、潔く受け入れている。
しかし先の決闘での怪我は、三人ともまだ治りきっておらず、レイナとクリスの心境としては、正直体を休めていたいのである。
「なあリック。今からなにを始めるんだ?」
「世界大戦。その前菜と言ったところだな」
「どう言う事でしょうか?」
「はははっ、すぐにわかるさ」
決闘の時と同じように、邪悪で狂った笑みを見せ始める、その男の顔を眺める少女が彼に感じたのは、恐怖ではない。
不安はあるのだが、それ以上に、この男が行おうとしていることに、胸が高鳴るのだ。これから何が起ころうとしているのかは、彼女には全く想像ができない。にもかかわらず、胸の高鳴りを感じ、槍を握る手に力がこもる。
少女は、この男ならば、自分を変えてくれるのではないかと感じ始めている。そう感じてしまうのは、この男が今まで出会ったことのない、常軌を逸した人間であるが故。さらに、自分を素手でもって倒したことに、心から尊敬をしたことも理由の一つだ。
恩返しをしなければならないと、ここまで宗一とリリカに付いてきた。恩を返すどころか、世話になるばかりであり、あろうことか、恩返しの相手と戦うまでに至った。あの戦いで、槍を恐れず短剣片手に現れ、明らかに実力は、自分よりも下のはずであったにもかかわらず、実力差など関係ないとでも言うかのように、簡単に覆して見せた。
勿論レイナ自身は、自分の実力に絶対の自信があるわけでも、慢心していたわけでもない。相手との力の差があろうとも、知恵と精神力によって打ち破ることができると、彼が証明して見せたことに、尊敬を覚えたのだ。
その証明は、レイナ自身が成し得たいことでもある。
「どうしたレイナ?俺の顔になにかついてるのか?」
「いっ、いえ、なんでもありません」
「なんだなんだ、脳筋槍女様はリックに夢中か?」
「そっ、そっ、そんなことは断じてない!無礼者め!」
顔を赤らめ、必死に否定するレイナ。全力で必死に否定されたことに、内心少し傷ついた宗一と、彼女の恥じらう顔を可愛らしく思うリリカ。
そして、出会ったその日から、彼女の最大の敵となったクリスは、事あるごとに、レイナだけにちょっかいを出す。そうして、言い争いが何度も行われているのだが、彼が自分の何が気にいらないのか、彼女には未だにそれがわからない。
レイナからすれば、クリスは破廉恥で失礼な軽い男で、嫌いな性格の人間である。剣の腕は称賛に値するが、だからといって、好きになれるはずもない。
(初めて会った時、確かこの男は私を中途半端な女だと言っていた。胸と身長は気にしているというのに・・・・・)
初めての出会いで言われたことを思い出し、気にしていることをつかれ、内心再び怒りを募らせる。いつか必ず、この青年に目にものを見せてやると誓う。
そして、活気溢れる酒場の扉を開いた宗一が中へと進み、他の三人も続く。広い酒場の中は、男たちで溢れて満席であり、酒の匂いが充満していた。酒場を満席にしている男たちには共通点があり、皆が武器を所持して、身体に胸当て等の防具を付けている。
兵士の類であることはすぐにわかり、人数は五十人を超えている。屈強な体をもった者が多く、その風格から、実戦慣れしていることが感じられ、クリスが街で葬った傭兵たちや、討伐した野盗たちとは、明らかに実力差があると予想できた。
統率がある軍隊には見えないため、恐らく傭兵部隊であるのだろう。レイナとクリスは、男たちを見てそう予想した。
「お前たちの指揮官は誰だ!答えろ!!」
突然、酒場の隅々まで届くように叫んだ宗一に、それまで酒を飲んで、陽気でいた男たちの視線が集まる。男たちは瞬時に殺気を放ち、それぞれの武器に手をかけた。
今この瞬間、宗一は明らかに喧嘩を売ったのだ。
周りが静まり返り、一触即発の状況の中、酒場の奥の席から一人の男が現れる。体は屈強で引き締まり、肌は日に焼けている。手には剣を持ち、その男の目からは、殺気を帯びた鋭い視線を感じとることができる。
しかし、五十人を超えている男たちの、殺気を帯びた視線を浴びながらも、怯えることなく、寧ろ悪巧みを考えた笑みを見せている宗一。いつ戦闘が発生してもおかしくない状況だが、この男は、それすらも楽しんでいるようなのだ。彼の常識外れの神経など、レイナには到底理解できない。
レイナの隣でクリスもまた、宗一の大胆さに驚いている。リリカに関しては、依然妖艶な笑みを見せているだけだ。この状況を宗一と同じように、楽しんでいるのがわかる。
「なにもんだお前?ここはガキの来るとこじゃねぇぞ。死にてぇのか」
奥から出てきた男が、この集団の指揮官的立場なのは理解できた。そして、この男が一言「やれ」と言えば、周りの男たちが四人を殺すため、瞬時に動き出すだろう。その時が来れば、この場で殺し合いが起こるはずだ。
「ここにいるのは傭兵集団鉄血部隊。お前が指揮官のヘルベルトだな?」
「そうだ。それで、この俺に何の用だ?礼儀知らずのクソガキが」
「おっと、これは失礼。俺の名前はリックで、通りすがりの旅人だ。用件だけ言わせてもらうと、お前たち傭兵部隊が欲しい。俺に従え」
宗一の無茶苦茶な話に、何の冗談かと、大声で笑い出した周りの男たち。ヘルベルトと呼ばれた男もまた、同様に笑い出した。
(鉄血部隊!?噂に聞く、命知らずの傭兵集団であったはず・・・・・・)
旅の途中、レイナが耳にした話では、鉄血部隊と言う傭兵部隊が存在し、命知らずの彼らは、どんな戦場であろうと生き残り、多くの敵を殺すという。かなり名の知れた、有名集団であったはずだ。その集団が今、自分の目の前にいる。
同じく、旅人であるクリスも知っているようで、レイナ同様に驚きを隠せない。
大いに笑った鉄血部隊の男たちは、酒の酔いが一気に覚め、突如として現れた宗一に、再び視線を送る。その視線には、先程までの殺気の他に、怒りが含まれていた。
いきなり現れて何を言うかと思えば、「俺に従え」などと言うのだ。怒りを覚えないはずがない。 あの決闘と同じように、宗一は再び、己が欲するものを得ようとしているのだ。
彼らからすれば、嘗めた男であろう宗一に、席を立ち、武器を持って近付く男が一人。
「おいてめぇ、死にたくなかったらさっさと---------」
「うるさい」
近付いた男に、いきなり拳打を放った宗一が、酒場の壁まで男を殴り飛ばす。壁に叩きつけられ気絶する男。
周りの空気が一気に変化する。ヘルベルトも臨戦態勢に入った。
「このガキが!ふざけやがって!!」
「ふざける?はっ、ははははははっ!人が真面目に話したのに、笑い出したお前らがふざけるなだって!?調子に乗るなよ傭兵共がっ!従わないならここで全員叩き潰してやる!!」
「嘗めやがって!」
「上等だ!ぶっ殺してやる!」
「野郎どもやっちまえ!」
傭兵全員を敵にまわした宗一に、男たちの殺意が集まる。だが、殺意を向けられているのは宗一だけではない。
一緒にいたために、レイナとクリスも敵と認識され、それぞれ殺意が集まった。
「レイナ!クリス!出番だぞ!こいつら全員殺さず倒せ!さあ、楽しい楽しい大乱闘の始まりだ!!」
そう叫んだ宗一が、近くにいた傭兵を殴り飛ばして、戦いの火蓋が切って落とされた。
傭兵全員が襲いかかり、レイナもクリスも覚悟を決めて、それぞれの得物を構える。槍で傭兵の武器を弾き飛ばし、刃の無い方へと構え直し、鳩尾目掛けて一撃を打ち込むレイナ。同じように剣で武器を弾き、一瞬の隙をついて蹴り飛ばすクリス。そして、狂った笑いを見せながら、傭兵たちを殴り飛ばし蹴り飛ばし、掴み上げて投げ飛ばしたと思えば、今度は酒入りの瓶で傭兵の頭を殴る、大乱闘の原因である宗一。
テーブルや椅子までも武器として使い、暴れまわる宗一の様は、まさしく狂犬と呼べるだろう。
人数差があるにもかかわらず、無双状態で暴れている三人。流石の傭兵たちも驚愕しているが、重い一撃を受けても尚立ち上がり、再び戦いを挑む傭兵たちの頑強さもまた、三人を驚愕させていた。
酒場は戦場と化し、店の中は一瞬で滅茶苦茶になり、男たちの怒声と狂い笑う声が響き渡る。
大乱闘の最中、三人より離れたところで観戦していたリリカにも、傭兵の男たち数人が近付く。
「お前ら全員生きて帰れると思うなよ!」
「ふふっ、それは私たちの言葉だよ。怪我をしたくなかったら家に帰るといい」
絶対の自信があるリリカに対して、怒りが頂点に達している傭兵たちが襲いかかる。傭兵たちの武器による攻撃を、流れるように躱したリリカは、瞬時に傭兵たちの急所目掛け、拳打を打ち込んだ。
鋭く正確な攻撃に、苦痛でその場に蹲る傭兵たち。よもや、こんな女性が戦えるなどと、一体誰が思うだろう。レイナたちですら、彼女の戦闘力について、何も知らなかったのだ。
「三人ほどではないけど、護身術は身につけているのさ。女だからと油断してはだめだよ」
意外な戦闘力を見せつけたリリカに、再び傭兵たちが襲いかかる。だが今度は、宗一がリリカの盾となり、襲いかかった男たちを蹴散らし始めた。技などあるはずもなく、完全な喧嘩殺法で暴れる宗一に、傭兵たちも手を焼いていた。
「お前たちの敵は俺だ!もっと俺を楽しませろ!!」
口ではそう言いながらも、彼がリリカを庇ったことはすぐにわかる。冷静さの欠片もないように見える彼だが、彼女のことが大切で仕方ないようだ。
二人の間に何があるのかを、レイナは知らない。ただ一つ、大切にしているという事だけは理解できた。
「どうだ二人とも、楽しいか?もっと楽しめ!完膚なきまでに叩き潰して、こいつらに力を見せつけろ!」
宗一の言葉に、笑みを浮かべてしまったレイナとクリス。それに気が付き、慌てて笑みを隠すレイナは、わかってしまった。
宗一と共に戦うことに、喜びを感じている。クリスも同様だ。
未だ完治していない怪我の痛みを忘れる程に、戦闘に熱中し始めた三人の戦いは、熾烈なものへとなっていった。
傭兵集団鉄血部隊、兵力五十人以上。旅人一行、兵力四人。
圧倒的な人数差であるこの大乱闘は、夜のトロスクスの街を騒がせ続け、戦いは深夜まで行なわれていたのだった・・・・・・・。
一か月後。
「えーと。集めた軍資金がこれだけあって、鉄血部隊が全部で六十人だから・・・・・・。一人あたりの装備の金額は・・・・・」
酒場の席に、レイナと共に座る宗一は、目の前のテーブルに置かれた、金と紙と格闘していた。ローミリア語が未だわからないため、レイナに書類の通訳を頼み、軍資金の確認をしていたのだ。
一体どうして、このようなことをやっているかと言えば、その理由は宗一が、傭兵集団鉄血部隊の新しい指揮官になったためである。
「機動力が欲しいから防具は軽くしたい。重い甲冑とかはいらないから、資金節約はここでしよう」
「わかりました。後ほど市場で見てまいります」
酒場での大乱闘は激闘の末、ボロボロになりながらも宗一たちが勝利した。全治一週間であった怪我が、全治二週間まで伸びてしまったが、何とか傭兵部隊の男たちに殺されず、勝利を勝ち取ることが出来た。
倒した傭兵たちが起き上がるのを待ち、話ができる状態になった後、滅茶苦茶になってしまった酒場の中で、宗一の話が始まった。
再び従えと命令した宗一の言葉に、負けたとはいえ、正直納得できない傭兵たち。傭兵たちは自由と戦いを求めており、誰かに命令されて従うことが、納得できないのだ。
それでも、指揮者が居なければまとまらないため、一番の実力を持つヘルベルトが指揮を執っていたが、正規の軍隊のような規律はなかった。
この話の続きは、大乱闘後の酒場にまで遡る。
「お前たちは俺がリリカに調べさせた、最高の傭兵部隊だ。俺はお前たちの命知らずの強さが欲しい」
「だからよう、俺たちは自由にやりたいんだよ。負けた俺たちに文句は言えねぇが、従いたくはねぇんだ」
ヘルベルトを筆頭に、従うことを拒む傭兵たち。だが、実力を見せつけ勝利したために、最初の時よりも、彼らは素直になっている。
診療所でリリカに頼んだこととは、実力のある傭兵部隊探しである。情報収集のため、トロスクスの街で聞き込みなどを行ったリリカが見つけたのが、傭兵集団鉄血部隊であった。
とある仕事を終えた鉄血部隊が、稼いだ金で一杯やるために、酒場に向かうという情報を手に入れたリリカは、診療所に戻り、宗一だけに報告したのだ。これをチャンスだと考えた宗一は、勝利のためにレイナとクリスを無理やり連れて、あの大乱闘を引き起こした。
全ては、旅の目的達成のためである。
「鉄血部隊は戦場を求める戦争中毒者の集まりだって聞いてるが、事実なのか?」
「まあそうだな。俺たちは戦場の血の匂いを知っちまったイカレ集団だ。戦場でしか生きられないようにできてるのさ」
「なら問題ない。俺に従えば、お前たちの欲を満たせる」
宗一が何を言っているのか、まるで理解できない傭兵たち。
鉄血部隊の傭兵たちは、金よりも戦いを求めている。戦場の興奮と緊張感、殺すか殺されるかの世界にはまり、脳細胞の末端に至るまで、戦いが体に染み付いている。
戦い失くして生きられず、戦いがなければ、砂漠の真ん中で水を渇望するかの如く、苦しい渇きに襲われるのだ。
戦争が彼らを狂わせ、戦地を求める生き方しかできなくしたことを、宗一は理解している。つまり彼らを従わせるには、戦いの場が必要で、それを用意することができればいいのだ。
「もっと大きく激しい戦場が欲しくないか?俺が進むこれからの道には、そんな戦場が待っている。ここにいる鉄血部隊も、レイナとクリスも、そして俺ですら最後まで生き残れるかわからない戦いだ。どうだ、一緒に戦わないか?俺は、お前たちが狂おしいほどに欲しい」
宗一の言葉は、彼らの心に何かを感じさせた。
確信があるわけでも、信用できるわけでもないが、この男には、戦争に飢えた傭兵たちを惹き付けるものがある。
本当にそんな戦いが待っているのか、確証がないにもかかわらず、宗一が言ったことに、魅力を感じずにはいられないのだ。
何より、戦争しか能のなく、他人に煙たがられている彼らを、宗一は狂おしいほどに欲しいと言ったのだ。
彼らを雇う者たちは、彼らのことが気に入らなくとも、戦いの勝利のためにと雇う。しかし宗一は、そんな彼らを気に入り、彼らの全てが欲しいと言っているのだ。こんな人間との出会いは初めてだった。
レイナやクリスのように、彼らもまた、宗一を気に入ってしまったのだ。
そして現在。
鉄血部隊全員は、宗一に従う事を決めた。一人で始めた旅が、二人になり、四人になり、今は六十人以上の大所帯である。おかげで、旅の目的は達成された。
この旅の目的は自分自身の修行と、ローミリア大陸の勉強のためでもあったが、その最大の目的は、女王陛下との約束を果たすための、戦力を集めることであった。
レイナとクリスという、戦局を左右できる力と、実戦経験豊富な私兵を手に入れた宗一は、帝国を旅立って、一か月と少ししか経過していないにもかかわらず、目的を達成してしまったのだ。
今現在行なっているのは、軍資金稼ぎと情報収集をクリスと傭兵たちに行なわせ、宗一とレイナは、事務的なことに取り掛かっている。これも全て必要な作業だ。
軍資金がなければ、武器や食料などの、戦場で必要なものを揃えられない。リリカの物になってしまった金品を使う手もあったが、酒場での乱闘の後、店を滅茶苦茶にされたことで、鬼神のように怒る店主に、酒場の弁償を迫られた宗一が彼女に泣きつき、いくつかの条件を提示されて、なんとか弁償金を肩代わりして貰っている。
それ故に、これ以上彼女に頼ることができない。ここで彼女に借りを作り過ぎると、後が恐ろしいのである。
クリスと傭兵たちは集会所で仕事を受けて、軍資金稼ぎに動きつつ、住民や商人、他の傭兵たちから旅人に至るまで、今ローミリア大陸で起こっている、様々な出来事の情報を集めさせた。
それらの情報は書類にまとめられ、レイナに通訳を経て、宗一の頭へと入っていく。
「戻ったぜリック」
「仕事終わりましたぜ。酒飲んでいいですか、隊長」
酒場の扉から、クリスとヘルベルトを先頭に、十数人の傭兵たちが現れた。隊長と言うのは、勿論宗一のことである。彼らは集会所の仕事を終え、宗一のもとへと報告に来たのである。
「ご苦労さま。酒飲んで休んでもいいぞ」
「私も戻ったよ。ところでリック、語尾はどうした?」
「・・・・・・・・おかえりなさいにゃ。・・・・・・ご主人様」
今度はリリカが、街の散策から戻ってきた。彼女の言葉に、恥ずかしがりながら無理やり語尾をつけ、彼女をご主人様と呼ぶ。
これが弁償金肩代わりの条件である。しばらくの間リリカをご主人様と呼び、語尾に「にゃ」をつけることが、肩代わりの条件の内容であった。
クリスとヘルベルトたちが笑い出し、レイナも笑いを必死に堪えている。赤面する宗一と、面白がっているリリカ。このようなやりとりが何度も行なわれ、時が経つにつれて、お互いの信頼を深めていた。
「なあヘルベルト----------」
「語尾を忘れてはだめだよ」
「・・・・・・・他の奴らはまだ戻らないのかにゃ」
「もうそろそろ戻って来るだろうぜ。しっかし、ほんと隊長はリリカ姉さんにだけは勝てねぇんだな」
妖艶な美貌と、女王様気質のリリカは、皆から姉御のような扱いを受けている。美しく、強く、賢い彼女は、傭兵たちのまさにアイドルである。やはり、戦争中毒者の男たちであっても、美しい女性には弱いのだ。
今では隊長である宗一よりも、姉御的存在となったリリカの言う事に従うことも、しばしばある状態だ。
「ところでリック。さっき旅の商人から聞いた話がある。あっ、語尾と呼び方はもういいよ」
「やっとか・・・・・。それで、どんな話を聞いてきたんだ?」
「大国オーデル王国が出兵したそうだ。侵略先は、ヴァスティナ帝国」
彼女の言葉に突然立ち上がり、その場で硬直する宗一。突然のことに驚いた全員は、彼の見せた、初めての顔に衝撃を受けて動けない。
彼らは宗一の普段の表情と、戦いの場での狂った表情しか知らない。宗一は今、何がそこまで気に入らないのか、怒りに我を忘れた、憤怒の表情を見せている。
「奴ら・・・・・・、まだ殺され足りないようだな・・・・・・」
「りっ、リック様。一体どうなさったのですか」
宥めようとしているレイナの言葉は届かない。この場で宗一のことを最も理解しているリリカに、怒る宗一のことを、何とかして貰おうと考えたレイナであったが、彼女を見ると、いつもの余裕の表情はなく、信じられないものを見てしまったかのような表情で、完全に立ち尽くしていた。
周りが驚愕する中、憤怒する宗一は怒りながらも思考する。そして・・・・・。
「ヘルベルト、大至急全員を集めろ。戦争に行くぞ」




