第二十四話 謀略の果てに Ⅷ
帝国参謀長リクトビア・フローレンスと、エステラン国王ジグムント・ネ・エステランが凶弾に倒れたという話は、すぐにエステラン国中に広まった。
この一大事に対し帝国軍は、驚くほど迅速に対応を行なったのである。まず、帝国参謀長リクトビアは大急ぎで仮設駐屯地まで運び込まれ、狙撃による負傷の手当てが行なわれた。幸いな事に彼は一命を取り留め、今は仮設駐屯地の医務室で、絶対安静の状態であると伝えられている。
リクトビアを仮設駐屯地に運び込むのとほぼ同時刻、帝国軍の一部隊が、銃火器の発砲音が聞こえたとされる塔を見つけ、その塔の頂上に上った同部隊は、そこで一丁の狙撃銃と一人の兵士の死体を発見した。発見された銃器は、昨夜帝国軍の仮設駐屯地で盗まれたものであり、死体となって発見された兵士は、昨夜失踪した元第一王子派の兵士であったのである。
頂上で発見された空薬莢は、三発だった。二発はリクトビアとジグムントの狙撃に使われたもので間違いなく、三発目の薬莢は、兵士が自殺するために使用したものであると断定された。何故ならば、兵士の額には弾痕があり、現場の状況から、この兵士が二人を狙撃した後に自殺したとしか考えられない、そういう現場だったからである。
現場の状況から、絶対安静の帝国軍参謀長に代わり、帝国軍師エミリオ・メンフィスは、これは旧第一王子派の謀略であると断定した。旧第一王子派が、邪魔者であるリクトビアとジグムントを抹殺し、幽閉されているアーロンを解放して、実権を取り戻そうとしたと考えられたのである。
その日の深夜から、帝国軍は大胆かつ迅速な作戦行動を開始した。軍師エミリオ・メンフィスの指揮のもと、完全武装した帝国軍部隊は仮設駐屯地から出撃し、一隊はエステラン城を目指し、残りの隊はエステラン国軍兵舎を目指した。
帝国軍の狙いはただ一つ。帝国参謀長の暗殺を謀ったとされる、旧第一王子派の排除である。
帝国軍の精鋭である鉄血部隊は、部隊長であるヘルベルト指揮のもと、エステラン城に侵入を果たし、幽閉されていた第一王子アーロンを拘束した。さらに、旧第一王子派の政官なども拘束し、突然の襲撃で城内の人間が混乱している隙を付いて、アーロン達を仮設駐屯地まで連行したのである。
エステラン国軍兵舎へと向かった帝国軍部隊は、原隊に復帰していた旧第一王子派の兵士達を襲撃した。兵舎を奇襲した帝国軍部隊は、大混乱に陥った旧第一王子派の兵士達を拘束していき、逆らう者は武力を持って排除していった。
大人しく拘束された者もいれば、武装して反撃に出る兵士達もいた。反撃に出た兵士達は、発明家シャランドラ御手製兵器の餌食となったのである。量産された機関銃や小銃が、反撃に出た兵士達を瞬く間に殲滅し、奇襲作戦を成功に導いたのである。
帝国軍決戦部隊と本隊が作戦通りに勝利を収めたため、鉄血部隊に持たせた分以外の銃火器が活躍する機会がなかったのだが、今回の襲撃作戦で見事大活躍を果たしたのだった。
日の出を迎える頃には、全てが終わっていた。幽閉されていた第一王子アーロンは帝国軍に拘束され、旧第一王子派の多くの兵士達が、拘束もしくは殺害されたのである。
たった一晩の内に、エステラン国内の状況は大きく動いた。国王ジグムントは暗殺され、第一王子アーロンは帝国軍の手に落ちた。旧第一王子派の幹部達は全員捕らえられ、参謀長と国王の暗殺容疑がかけられた後、数人の幹部は帝国軍の尋問を受けたのである。
当然の事ながら、エステラン国側はこの一大事件に対し、帝国側へ抗議を行なう姿勢を見せた。しかしエステラン側の対応は、何もかも後手にまわってしまったのである。
エステラン国の抗議よりも早く、帝国軍は今回の暗殺事件の首謀者を突き止めた。旧第一王子派の幹部達を尋問した結果、今回の事件を計画した首謀者は、幽閉されていた第一王子アーロンであったと、尋問された幹部達は答えたのである。
これにより帝国軍は、第一王子アーロンと彼の臣下達の処刑を決定した。エステラン側の抗議が行なわれた時には、ジグムント暗殺はアーロンの仕業であると、エステラン国中に広められており、アーロン処刑の機運が生み出されていたのである。
国王殺しの重罪。実権を取り戻すため、両国の代表者を観兵式の最中に暗殺し、旧第一王子派の兵士達を武装蜂起させ、新しく国王の座に就こうとした。それが、今回の暗殺事件の真相だったとして、帝国側はエステラン側の抗議を跳ね除けたのである。
帝国軍の行動は誰にも止められなかった。アーロン達を拘束し、事の真相を突き止めたその日に、彼らの処刑を決定し、次の日には彼らを処刑台へと上げていた。第二王子メロースを処刑したのと同じ場所で、アーロンの処刑も実行されたのである。
多くのエステラン国民が処刑台に詰めかけ、アーロン達の処刑を待った。アーロンもその元幹部達も、処刑台の上で己の無実を訴えていたが、彼らの訴えは完全に無視され、その日の内に全員の絞首刑が実行されたのである。
第一王子アーロン・レ・エステランもまた、帝国軍の手によって処刑された。これによりエステラン国は、国王と次期国王候補であった存在を失い、国の支配者を完全に喪失したのである。
エステラン国はこの日、国を動かす事のできる支配者を全員失った。処刑を強行した帝国側に対抗する事も、政治と軍事を動かす事もできない、支配者を失った国家。国の崩壊は、最早時間の問題であった。
エステラン城内の政官や、軍首脳部の将軍達などは、この事態に対して緊急の会議を開いた。帝国軍の独断にやる軍事行動のせいで、エステラン国は王族を失った。王政国家であるこの国は、新しい国王を立てる事で、国家の存続を成しえなければならない。しかし、この国にはもう、国王の座に就ける存在が残ってはいなかったのである。
国王を失った事により、帝国側と事を構えることもできなければ、国を動かす事もできない。あまりに突然の事件の数々により、国民も混乱している。国家を纏める存在なくして、この国は成り立たない。このまま事態を放っておけば、エステラン国に残された未来は破滅しかない。
政官や軍官達の中から、次期国王を立てる事も考えられたが、この案は会議の場で大論争を巻き起こしてしまった。誰がこの国の実権を握るかで、大いに揉めたのが原因である。
会議は平行線となり、有効な対応策を取れないまま、時間だけが過ぎていった。残された者達では、この事態を解決する事は出来ない。今必要なのは、残された者達の上に立って皆を導く、新しい支配者である。
そして現れたのが、エステラン国第一王女ソフィー・ア・エステラン。この国に残された、王族最後の血筋である。




