第二十一話 反攻の刃 Ⅴ
学校内に立て籠もった帝国軍の精鋭達は、手には小銃を持ち、着ている服の上からベストを装着している。この場合のベストと言うのは、装備している銃火器の予備弾倉を持ち歩いたり、手榴弾などの装備品も携行できるよう作られた、所謂タクティカルベストと呼ばれる装備である。
彼らの装備は、何もかもが一年前とは別物だ。全員が自動装填式のライフルを装備し、帝国軍技術者が開発した新型の手榴弾をベストに携行している。サイドアームとして拳銃を装備しているが、これは以前のリボルバー型のものではなく、自動式の拳銃であった。自動拳銃の開発成功と採用により、拳銃の武器としての能力は大きく向上した。回転式拳銃よりも装弾数が多くなり、装填速度も飛躍的に上がったのである。
銃火器装備一式は、既に試作の域を超えている。帝国軍は今後この装備を大量生産し、帝国軍兵士全体に装備させていくのである。
「よーしお前ら!楽しい玩具は持ったか!?」
学校内の教室に集まる、屈強な男達二十人。残りの四十人は校内に散らばり、校内の窓に机や椅子でバリケードを築き上げ、防御を固めている。
教室内に集まった仲間達へ、激励を込めて呼び掛けたのはヘルベルトである。彼の言葉を受け、仲間達から邪悪な笑みが浮かぶ。
「作戦完了までの間、ここが俺達の遊び場だ。貰った玩具は好きに使っていいとのお達しだぞ。野郎共、気分はどうだ!?」
「最高っすよ!!さっさとぶっ放したくて疼いてきやがる」
「エステランの糞共は皆殺しだぜ。弾はいくらでもあるからな」
「六十対六百とか気が狂ってやがるぜ!これだから隊長の下での仕事はやめられねぇ!!」
鉄血部隊の男達は戦況が絶望的であればある程、自らの戦意を大いに高めていく。彼らは戦場にしか生き方を見いだせない、戦争中毒者の集まりなのである。故に彼らは、どんな敵が相手でも、どんなに敵の数が多くても、決して恐れない。自分が戦場で死ぬかも知れないと言う恐怖すら、彼らは楽しんでしまう。
だからこそ、ヘルベルトの言葉に彼らは歓喜している。学校を取り囲んでいるエステラン軍を、今からでも血祭りにあげようと張り切っていた。
(さて、野郎共の戦意は上々だな。お次は・・・・・・)
この教室内にはヘルベルト達の他に、校内で捕らえた人質達の姿もある。人質は、校内の逃げ遅れた教師達と、この教室の生徒達である。
人質達は皆、ヘルベルト達に怯え切っていた。突然教室内に現れ、ここを無理やり占拠されてしまい、武器を突き付けられ人質にされてしまったのである。怯えるのも無理はない。
人質が怯えていれば、こちらに対し反抗する気は起こさなくなるだろう。テロリスト側としては、怯えていてくれるのはありがたい事だ。しかしヘルベルト的には、人質である生徒達を恐がらせたくなかった。
(あー・・・・・、こりゃあ完全に恐がってるな)
ヘルベルトの視線が生徒達を捉える。
鉄血部隊が人質にしたこの幼年期学校の生徒達は、全員五歳位の子供達である。この学校は言わば幼稚園であり、貴族や金持ちの子供達に英才教育を行なう場として、二十年前に設立された学校だ。子供達はこの学校で、幼稚園のように生徒達と遊び、小学校のように勉学に励む。
この学校が設立される前、当時の貴族や金持ちの者達は、自分達の子供に幼い内から良き教育を行なう場を欲していた。貴族や金持ちの商人などは、自分の跡継ぎとなる子供を賢く育てるために、皆で相談した後、エステラン王に許可を貰い、資金を皆で出し合って学校を設立した。それがこの、ビィクトーリア幼年期学校である。
七歳以上の子供達を教育する学校は、今までいくつも国内に設立されたが、学校と言う名の幼稚園が設立されたのは、これが初めての事であった。
この学校が設立された目的は、子供達に教育を行なうだけでなく、子供達に多くの繋がりを持たせると言う狙いもある。学校に子供達が集まり、子供同士が友好関係を築けば、今度はその子供達の親達が繋がりを持つ事ができる。そうやって権力者達同士の間で関係築いていく事で、大きな力を得ようとしていたのである。
そんな子供達を人質に取り、ヘルベルト達はここに立て籠もっている。生徒である子供達を見ると、ヘルベルト達に怯え切ってしまい、恐怖で泣き出している子もいる。子供達は皆口々に、父親や母親に助けを求める声を上げ、俯き震えていた。
「恐がる必要はねぇぞ。ただ、ちょっとばかし大人しくしといてくれりゃあいいんだ。そしたら家に返してやれるぜ」
最早帝国内では一般常識となっている話だが、ヘルベルトは子供好きである。その見た目に反して、子供にはとにかく優しいため、周りからはよくロリベルトなどと揶揄われる。
「ほらおい、俺達は全然恐くねぇぞ」
子供達に近付いていくヘルベルトだが、その見た目のせいで恐がられ、子供達は泣き出してしまっている。そんな子供達の前に出て、ヘルベルトの前に立ちはだかった少女が一人。
「こっ、来ないでください!!」
「お嬢ちゃん、随分勇ましいじゃねぇか」
友達を守るため、両腕をいっぱいに広げて盾になった少女。そんな少女に近付いて、少女を見下ろしたヘルベルト。自分だって恐いのに、恐怖を堪えて友達を庇おうとしている。少女は震えも涙も必死に堪え、顔を上げて真っ直ぐヘルベルトの目を見ていた。
「・・・・・・・いい目をしてやがるぜ。最近のお嬢ちゃん達は、皆随分と大人びてやがる。俺ら大人が恥ずかしい位だ」
「!?」
「お嬢ちゃん、恐がる事はねぇぞ。俺達は見た目はこんなだが、別にお嬢ちゃん達に酷い事しに来たわけじゃねぇんだよ」
ヘルベルトは膝を付き、少女と目線を合わせて、彼女の頭を優しく撫でた。彼は笑顔を浮かべ、ズボンのポケットから小さな袋を取り出し、それを少女に手渡した。少女がそれを恐る恐る受け取り、袋を開くと、中には飴玉が入っていた。
「甘くて美味いぞ。勇気があるお嬢ちゃんにご褒美だ」
「・・・・・・くれるんですか?」
「ああ、もちろんだ。言ったろ、俺達は恐くねぇって」
本当に子供が好きな彼は、この任務に相応しくないと言えるだろう。状況によっては、人質である子供達を傷付ける恐れがあるからだ。
エステラン攻略の一環として、参謀長であるリックにこの命令を言い渡された時、最初ヘルベルトは返事を躊躇った。罪のない子供達を人質に取って戦うなど、子供好きの彼からすれば、最悪の任務であるからだ。
それでも、彼は分かっていた。自分達しか、この任務は達成できないのだとよく分かっていた。だからこそ、リックの命令を受けて行動を開始したのである。
本当はリックだって、彼にこんな仕事をさせたくなかった。リック自身がこれをやるつもりであったのだ。しかし当然、軍師エミリオの猛反対にあって、ヘルベルトに頼むしかなくなったのである。
この任務を彼に言い渡した時のリックの顔は、やはりと言うべきか、苦悶の表情であった。リックは優し過ぎる故に、自分の仲間が嫌がる命令を出すのを躊躇うのだ。敵に対してはいくらでも非情になれるが、味方に対してはそれが全くできない。ヘルベルトはその事をよく理解している。
故に彼は、命令を了承して部隊を動かしたのである。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「・・・・・・フランチェスカ」
「良い名前だな。フランチェスカお嬢ちゃん、何か困った事があったらおじさん達に言うんだぞ。お手洗いは我慢しなくていいからな」
「ありがとう・・・・・ございます・・・・・・」
子供にはとにかく甘い彼の姿。そんな彼をにやついた表情で見ている、鉄血部隊の面々。
「相変わらず子供にべた甘だな」
「子供相手だと駄目だよな、このおっさん」
「昔は血に飢えた狼って呼ばれてたのにな、今じゃこれだぜ」
「あーあ、ほんと情けねぇ」
「てめぇら好き勝手言うんじゃねぇ!!」
部下達に揶揄われ、いつものように怒鳴るヘルベルト。彼が子供を相手にしている時は、いつもこんなものである。
「お嬢ちゃん、このおっさんはどうしようもないロリコンだから気を付けな」
「おっさんが手を出して来たら俺達に言えよ。お嬢ちゃん守ってやっからよ」
「うるせえぞ!!てめぇら、さっさと持ち場に就きやがれ!」
部下達は終始ヘルベルトの事を揶揄いつつ、教室で人質を見張る者以外は、それぞれの持ち場に向かって行った。
怒鳴り疲れて溜息を吐いたヘルベルトは、勇気ある少女フランチェスカへと再び視線を戻す。
(フランチェスカ・・・・・・、このお嬢ちゃんが第一王子アーロンの愛娘か)
エステラン国第一王子アーロンの娘。それがこの少女、フランチェスカ・メイ・エステラン。
(悪いが利用させて貰うぜ、フランチェスカお嬢ちゃん)
エステラン国第一王子アーロンは今、精神状態がとても不安定である。何故ならば、彼の愛娘であるフランチェスカの通う学校が、武装集団に占拠されてしまったからだ。
エステラン側からしたら、相手は正体不明の武装集団である。フランチェスカの事を狙ってきたのかは不明だが、身代金目的の犯行だろうと誰もが予想していた。
しかし、アーロンなどの勘の良い者達は、この事件がヴァスティナ帝国によるものだと見抜いている。相手は帝国を名乗っていないが、この時期にこのような攻撃を行なってくるのは、敵対しているヴァスティナ帝国しか考えられなかったのである。
実際、人質を取って立て籠もったのは、ヴァスティナ帝国軍の精鋭部隊である。彼らの予想は当たっていたが、相手が帝国軍だと名乗っていない以上、帝国に抗議する事は出来なかった。
いや、抗議するよりも、今のアーロンは人質にされてしまった愛娘の安否しか眼中にない。報告を受けた彼はすぐさま城を後にし、現場に急行していた。現場には、学校の占拠を知って迅速に行動を開始した、アーロン派のエステラン兵士が展開している。アーロン派の兵士達は、武装勢力の排除と、王子の娘フランチェスカ救出のために行動を開始していた。
彼らの最優先事項は、フランチェスカを無事に救出する事にある。そのため、現場指揮官とその部下達は救出作戦を計画していた。アーロン派の兵士達は、普段冷静な彼が娘の事になると、我を忘れて人が変わってしまうのをよく知っている。そのため彼らは、王子がこの現場に到着する前に、フランチェスカを救出しなければと考えた。彼女が人質にされたままの状態で王子が到着すれば、どんな無茶な命令が出されるかわかったものではない。
王子はこの騒ぎの鎮圧のために、自ら陣頭指揮を執ると言うだろう。冷静さを欠き、愛娘を最優先に考える彼が指揮を執れば、無理難題の命令は必ず出される。兵士の犠牲は考えない学校への強行突入。最悪の場合は、フランチェスカ以外の人質の命は見捨て、非情な手段を講じる可能性もある。
現場の指揮官や兵士達は、それを阻止するために行動を開始した。王子が到着するよりも前にこの事態を収拾し、フランチェスカを救出する作戦を計画したのである。今ならば、学校を占拠したテロリスト側の防御態勢は万全ではないはずだ。ならば部隊を編成し、主力部隊を校門前に集結させて敵の注意を引いている間、別動隊が裏手から侵入して人質を救出する。単純な作戦計画だが、王子が到着する前に事態を収拾するには、この方法しかなかった。
しかし、この場の兵士達は致命的なミスを犯していた。彼らは皆、テロリスト側の戦力を過小評価していたのである。
「来ましたぜ部隊長!奴らが集まってきやがった」
「思ったより早かったじゃねぇか。奴ら、よっぽど死にたいらしいな」
仲間の一人に部隊長と呼ばれたのは、この部隊の事実上の指揮官であるヘルベルトだ。
学校内に立て籠もり、校内の廊下の窓から外を見ると、校門前にエステラン国の兵士が集結していた。兵力数は三百を超えているだろう。集結しているエステラン兵は全員武装しており、鎧を装着し、鉄製の剣と盾で武装している。集結しているこの兵士達が、これから学校内へ突入を開始しようとしているのは、誰の目から見ても明らかだった。
「・・・・・こいつは臭うな」
「奴らは囮じゃないっすか?どうせ別動隊を後方から侵入させる腹ですぜ」
「まあそんなところだろ。裏手を守ってる奴らに連絡しとけ。敵が来るってな」
「了解です」
部隊の一人がヘルベルトの命令を受け、学校の裏手を防衛している者達のもとへ駆けて行った。鉄血部隊六十人の内、十人が人質を見張り、二十人が裏手を見張り、残り三十人が正面を防衛している。
敵軍三百人に対し、正面を守るのは三十人である。戦力的に不利なのは、彼ら鉄血部隊だった。
しかし彼らは、精鋭の戦闘狂達である。そして彼らは、帝国が生産した最強の武器で武装しているのだ。鉄血部隊全員、与えられた新しい玩具を使いたくて疼いている。本格的にこの玩具を運用するのは、南ローミリアの存亡をかけた「南ローミリア決戦」以来であった。今までお預けを食っていた分、彼らの士気は旺盛である。
「部隊長どうします?人質表に集めて脅しますか?」
「ああん、そんな事するかよ馬鹿野郎。子供達が可哀想だろ」
「おいおい、それじゃあ何のために人質取ったのかわかんねぇですぜ」
「いいか、人質はまだ子供なんだぞ?お前らは純粋無垢な子供達を人質にするってのか?ぶっ飛ばすぞ」
ヘルベルト以外の全員が溜息を吐いた。彼の悪い病気が始まってしまったと思い、人質を使うのを諦める。
「それにな、人質なんか使っちまったらせっかくの玩具が使えねぇだろ」
そう言った彼は、自分が持つ小銃に視線を落とす。彼もまた、この玩具を使いたくて仕方がないのである。
全員がその言葉を受け、邪悪な笑みを浮かべた。彼らも気持ちは同じなのである。
「いいか、無駄弾は使うんじゃねぇぞ。だがな、ありったけの弾を奴らにぶち込んでやれ」
「「「「「「うおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」」
殺る気十分の鉄血部隊。戦闘態勢に入った彼らが配置に就いてすぐ、戦闘は開始された。
校門前に集結していたエステラン兵達が、盾を構えてゆっくりと進軍を開始した。校門から学校までの間には、石造りで造られた一本の道があり、周りは庭園に囲まれている。エステラン兵はその道を通り、学校の正面玄関を目指して進攻している。
正面玄関の外には鉄血部隊の面々は展開していない。正面を防衛している部隊は、全員校内にて戦闘態勢に入っている。正面玄関にはバリケードが既に構築されており、ヘルベルト達はそこで武器を構えた。鉄血部隊各員は、完全に籠城の構えを取っている。この学校は三階建てであり、二階と三階にも数名の部隊員が配置されている。迎え撃つ用意は出来ていた。
そして、エステランの兵士達が、ヘルベルトの考える十分な距離まで近付いた。
「撃ちまくれえええええええっ!!」
ヘルベルトの号令とともに、銃を構えた全員が発砲を開始した。
銃弾は目に捉えられない速さで放たれ、真っ直ぐエステラン兵士達へと向かって行く。進攻してきていたエステラン兵から悲鳴が上がったのは、発砲を開始した直後だった。
盾を貫通し、鎧も撃ち抜いたライフル弾が、兵士達の体を撃ち抜く。エステラン兵達が次々と銃弾の餌食となり、その命を落としていった。
「おらおら!こいつは俺の奢りだ!!」
「ぶっ殺せぇ!!あいつらは皆殺しだ!」
「ぶっわははははは!!見ろよおい、あいつら混乱してやがる!」
鉄血部隊の男達が、銃撃を続けながらご機嫌な様子で叫ぶ。彼らは皆、久々に使う銃火器が快調に敵を殺す様を見て、楽しくて仕方がないのである。
銃撃は止まらない。鉄血部隊の男達は銃撃を続け、弾が切れれば銃弾を再装填する。銃撃の命中率も高く、彼らの放つ弾丸は正確に相手の頭部や心臓を捉えていた。学校の二階と三階では、鉄血部隊の狙撃手達も発砲を開始しており、彼らの弾丸はエステラン兵に対しヘッドショットを決めている。
一方的な戦いとなっていた。盾を構えて近付いて行ったエステラン兵達は、鉄血部隊の銃撃に為す術がなく、一人、また一人と命を落としていく。戦闘開始から僅か五分で、エステラン兵の戦死者は三十人を超えていた。
しかし、それでも尚エステラン兵の進攻は止まらない。数の有利を活かして、全員が突撃を開始した。勢いに任せて突撃し、学校内へなだれ込もうとしているのだ。
「ちっ、奴ら無理やり突破して来るつもりだぞ!」
「だったら丁重に御もてなししてやれ!おい、あれ持ってこい」
「わかりましたぜ部隊長!ヒャッハー!!死体製造機のお披露目だぜ!!」
部隊員の一人がヘルベルトの命令を聞き、正面玄関に配備されていた切り札を準備し始める。その切り札は銃火器なのだが、ヘルベルト達が使う小銃とは明らかに違う。
「ヒャッハー!喰らいやがれ!!」
その銃は、かつて「南ローミリア決戦」の時、一人の女性兵士が参謀長を助けるために使用した、凶悪な銃器である。強力なライフル弾を、弾の続く限りフルオートで発砲し続ける、敵からすれば最悪の兵器。帝国軍参謀長リクトビア・フローレンスは、この銃の事を機関銃と呼んだ。
機関銃を持った部隊員は、給弾ベルトを銃本体に装着し、腰だめの射撃姿勢を取った。安全装置を解除し、引き金に指をかける。狂った叫び声を上げるこの男は、突撃して来るエステラン兵に狙いを定め、引き金を引いた。
唸りを上げた機関銃。弾丸を次々と撃ち出していく機関銃は、耳を塞ぎたくなる程の発砲音を響かせ、弾丸を連射させていく。
フルオートで放たれた機関銃の弾丸がエステラン兵に襲いかかり、秒単位で兵の命を奪い去っていく。人が将棋倒しの如く打ち倒されていき、突撃を続けていたエステラン兵達が血祭りにあげられた。まさにこの男が叫んだ通り、この銃は死体製造機である。
「ヒャハハハハハッ!!見てくれよ部隊長、あいつら皆死んでくぜ!」
「調子乗って銃身が焼けるまで撃つんじゃねぇぞ!壊して帰ったらあの発明馬鹿がうるせぇからな」
機関銃と小銃を撃ちまくる鉄血部隊の攻撃に、為す術が無いエステラン兵達。彼らは突撃を中止し、負傷者を連れて後退を始めてしまった。
「おらおら、逃げるんじゃねぇよ!」
「糞野郎共が!俺はまだ撃ち足りねぇんだよ!」
「こうなったら追撃戦だぜ!全員俺がぶっ殺す!!」
「やめねぇか馬鹿共!!俺達の任務を忘れんじゃねぇ!!」
血気盛んな鉄血部隊の面々が、一人でも多くのエステラン兵士を殺すため、まさかの追撃戦を開始しようとするが、ヘルベルトの怒鳴り声で渋々諦める。
彼らのこういう危険なところは、昔から変わらない。
鉄血部隊はヘルベルトが作り上げた傭兵部隊だった。彼は自分と同じように、戦場でしか生きられなくなった危険な者達を集め、数々の戦場を渡り歩いてきた。その中で多くの仲間を得て、多くの仲間が死んでいった。
部隊の創設者であり、鉄血部隊の隊長であったヘルベルトがこの部隊を作った理由。それは、自分と同じ者達と共に、戦場で戦い続けたいと思ったからだ。戦争に飢え、戦場でしか渇きを癒せなくなった戦争中毒者となってしまった彼は、戦場で生き続けるために戦友を欲したのである。そして彼は、自分と同じ戦争中毒となってしまった者達に居場所を与えるためにも、この部隊を作った。
自分達は他者とは違う、生き方を間違えた狂った存在。だからこそ彼らは、そんな自分達の居場所を欲した。故に彼らはヘルベルトのもとに集まり、傭兵部隊「鉄血部隊」は誕生したのである。
鉄血部隊の隊長はヘルベルトだった。彼は自分のもとに集まった者達と、激しい戦場の中を生き続けたが、その途中で物足りなくなっていった。もっと激しく、もっと熱く、もっと絶望的で、もっと大きな戦いを望んだのである。そんな時、リックが現れた。
彼はヘルベルト達に最高の戦場を用意した。鉄血部隊の誰もがその時の渇きを癒し、大満足した。そしてリックは、この先も最高の戦場を用意してやると、そう言った。ヘルベルトを含む全員が、その言葉に歓喜し魅せられた。故に彼らは、自分達の新しい隊長をリックと決め、彼に従っている。ヘルベルトがリックを隊長と呼び続けるのは、それが理由だ。
リックのお陰で、鉄血部隊は常に激しい戦場を用意され、その渇きを癒し続けている。そして今も、彼らは素晴らしく絶望的な戦場で戦っている。敵国のど真ん中で、周りを敵兵に完全に包囲された、孤立無援のこの状況下。彼らにとって、この状況が楽しくないはずがない。
「聞け、エステランの腰抜け共!!こいつは挨拶代わりだ。俺達に近付くとどうなるか身に染みたろ。でもな、あんまり調子乗った事してると人質の命は保証しねぇ。よく覚えときやがれ!!」
後退を開始したエステラン兵達に、ヘルベルトが叫ぶ。エステラン兵に対し、脅しをかけたのだ。
こうして緒戦は、鉄血部隊の圧勝で終わったのである。




