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第二十一話 反攻の刃 Ⅰ

第二十一話 反攻の刃







「これでよしと・・・・・・」


 ここは、とある男の執務室。私は今、この執務室の主の机を無断で借りて書類整理を終えたところですの。机を借りたのは、その方が作業しやすかったからですわ。

 私の名はミュセイラ・ヴァルトハイム。南ローミリアの盟主、ヴァスティナ帝国の軍隊に所属する新米軍師ですわ。

 

「んっ~・・・・・・流石に疲れましたわ」


 昨日から徹夜で作業していたんですもの、仕方ないですわよね。

 でも、これは次の大きな戦いに備える重要な仕事でしたの。だからついつい、止められなくなってしまいましたわ。

 私が整理していた書類は、軍団編成に関する書類ですわ。

 書類には各部隊の編成内容や、各部隊の指揮官となる者の名前が記されていますの。帝国参謀長配下の精鋭が、鍛え抜かれた帝国の兵士達の指揮を執り、この国に勝利を齎すのですわ。

 

(編成は・・・・・・これで本当に良かったのでしょうか・・・・・・)


 不安な気持ちはどうしても消えない。だからつい、再度書類に手を伸ばして、中身を読み返してしまいますの。

 私が手にした書類の一枚目には、軍の最高指揮官である帝国参謀長の忠臣であり、右腕と呼べる少女の名前が記されていますの。

 彼女の名はレイナ・ミカヅキ。帝国軍最強の槍使いであり、その力は戦場で一騎当千を披露しますわ。

 神速の槍捌きは敵の急所を突き、彼女の槍は戦場で踊る様に舞いますの。しかも彼女、炎属性魔法も操りますのよ。戦場での彼女は、まさに烈火。彼女が戦う事で、味方の士気は大いに上がりますの。

 そして、二枚目の書類に目を通すと、そこには帝国最強の剣の名前がありますの。

 彼の名はクリスティアーノ・レッドフォード。参謀長の左腕であり、レイナさんとは犬猿の仲の剣士ですわ。彼の剣技もまた、戦場では神速。おまけに雷属性魔法も操る、まさに雷の剣士ですの。

 彼の力もまた、戦場では味方の士気を大いに上げる力がありますの。でも私、あの人は嫌いですわ。すぐに怒りますし、人に変なあだ名付けますし、男好きですし・・・・・・・、初めて会った時から苦手ですわ。

 とは言え、彼もまた帝国の主戦力の一人。性格に問題ありでも、使わないわけにはいきませんわ。

 私達の国ヴァスティナ帝国には、二つの軍事力が存在しますわ。その一つは帝国騎士団ですの。この国を治めている女王陛下の盾であり、女王と国を守護する武装警備部隊ですわ。

 そしてもう一つが帝国軍ですの。警備部隊である騎士団と違って、私達の仕事は多岐にわたりますわ。国内外の治安維持に、野盗や魔物の討伐、そして戦争。女王陛下の剣となって戦うのが、私達の仕事なのですわ。

 そんな帝国軍の主戦力が、レイナさんとクリスさんですわ。二人は帝国の最強戦力であり、切り札でもありますの。ですから二人には、精鋭部隊を率いて戦って貰う予定ですわ。

 二人にはそれぞれ三百人の兵を率いて貰いますの。レイナさんが率いる兵は槍を、クリスさんが率いる兵は剣をそれぞれ得意とする、槍と剣の精鋭部隊。今はミカヅキ隊とレッドフォード隊と呼んでいますけど、その内もっと格好の良い名前を付けたいですわね。

 

(次の戦いでも、この二人の力には大いに頼る事になりますわね。だからこそ、二人を支援する部隊が必要不可欠ですわ)


 二枚の書類を机に置き、三枚目と四枚目の書類を見ると、そこにもまた名前がありますの。

 三枚目の書類には、攻防一体の支援部隊の指揮官の名前がありますわ。その名前はイヴ・ベルトーチカ。彼女・・・・・ではなく彼は、銃火器と呼ばれる兵器の扱いに長けた、帝国一の狙撃手ですわ。イヴさんに狙われてしまったら最後、相手は確実に死に至りますわ。

 イヴさん旗下の部隊は、二個分隊(約二十人)規模の、狙撃銃を扱う部隊ですの。進攻時や防衛時に敵の飛び道具射程距離外から、敵軍の指揮官達を排除して混乱を誘発させる事を目的とした、特殊部隊の一種ですわ。狙撃部隊ベルトーチカ隊は、敵軍と接近戦を行なう味方を支援する、強力な部隊なんですのよ。

 そしてもう一つ、最前線で戦う部隊が後退を始めた時、後退を支援するために前に出て戦う部隊がありますの。四枚目の書類に記された指揮官の名前はゴリオン。剛腕にして鉄壁の巨体を誇る、帝国軍の盾ですわ。

 彼の鋼の肉体と、圧倒的な力技は、どんな敵の進軍も阻止しますの。あまりにも常識外れなせいで、敵軍からは怪物と恐れられていますわ。

 ゴリオンさんの部隊もまた、味方を助ける支援部隊ですの。その数は今のところ約二百人ですわ。味方が後退や撤退を始めた時に前に出る、最後の盾。最も危険な戦いを行なう殿部隊、それがゴリオン隊ですの。


(この四人の部隊の力は確かに強力ですわ。でも、個々の力だけで勝てる程、戦争は甘くないですわ)


 それは、私の先輩軍師であるあの方に教わりましたの。私が最も尊敬する先輩であり、参謀長の頭脳である天才軍師、エミリオ・メンフィス先輩に・・・・・・。

 メンフィス先輩は、私を自分の補佐として扱いつつ、私に軍師となるための教育を行なってくれていますの。先輩のお陰で私は、今や軍団の作戦指揮まで任されたりしますのよ。今回の軍団編成も、メンフィス先輩が私に任せてくれたんですの。

 次の戦いは、私と先輩の二人で立てた作戦を基に展開されますわ。個々の力以上に重要なのは、戦争で確実に勝利を収めるための作戦ですの。私と先輩の肩には、帝国の命運が握られていると言っても過言ではありませんわ。

 作戦だけではありませんの。さらに重要なのは、私達が立てた作戦を、忠実に遂行してくれる兵士達の存在ですわ。全軍の兵士が、作戦を展開する能力を持ち合わせていなければ、作戦は意味を成さなくなってしますの。

 とは言っても、帝国軍兵士の方々は皆精強ですから、心配はないかも知れません。

 参謀長配下の精鋭。元傭兵達の集まりである精鋭部隊、鉄血部隊。部隊の指揮官であるロリ・・・・じゃなくてヘルベルトさん達は、全兵士のお手本となってくれていますの。鉄血部隊というお手本があるからこそ、帝国兵士全体の能力向上に繋がっていますの。彼らは所謂、帝国軍の教導部隊になっているのかも知れません。

 まあ、鉄血部隊の方々の飲んだくれっぷりまで見習われても困りますが・・・・・・・。

 

(やっぱり、一番見習うべきは彼女ですわね・・・・・・)


 多分彼女は、帝国軍兵士の鏡と言える存在ですわね。

 帝国軍に所属する女性兵士、セリーヌ・アングハルト。その武勇は、あのレイナさんやクリスさんに勝るとも劣らず、男顔負けの活躍を戦場で見せますわ。そして彼女、真面目で忠誠心も高く、とても好人物なんですの。

 私も、アングハルトさんを見習いたくなる時はよくありますわ。でも、彼女が参謀長にぞっこんなのだけは、今でも全く理解できませんの・・・・・・・。


(軍団の編成はこれで大丈夫そうですけど、後は兵器の生産次第ですわ・・・・・)


 帝国軍の兵力は少ないですわ。しかし今度の敵は、我が軍以上の兵力を有していますの。

 その兵力差を補うのは、作戦と個々の戦闘力、そして帝国軍製の新兵器ですわ。銃火器という兵器がもっと沢山あれば、敵との兵力差を埋めるだけでなく、帝国軍全体の戦闘力向上に繋がりますわ。

 その鍵を握っているのが、帝国軍兵器開発の中心人物であるシャランドラさんですの。彼女は帝国の勝利のために、日々新兵器の開発と生産を行なっていますわ。

 彼女の元には、帝国中から技術者が集められ、新しい生産工場も用意されましたの。帝国内だけでなく、南ローミリアにいる技術の才能を持った人々を集め、彼女自身が教育し、兵器開発と生産の戦力としていますわ。

 今では、銃器開発と生産が可能な技術者達が、技術班設立当初から約三倍まで増員された形となり、銃火器の生産能力は飛躍的に向上しましたの。

 銃火器と弾薬の生産が間に合えば、一年前の「南ローミリア決戦」で消費し尽くしてしまった弾薬が補給される形となり、帝国軍は再び戦場で銃火器を全力投入できますのよ。

 敵国の魔法兵部隊すら凌駕できる、この力があれば・・・・・・・・。


(あら?誰か忘れているような・・・・・・・)


 何だか私、誰かの事を忘れている気がしますの。無駄に暑苦しい男の事を忘れているような・・・・・。


(あれは・・・・・・実戦で役に立つのかしら・・・・・・)


 私が心配している、帝国軍の不安要素。彼の名はライガ・イカルガ。無駄に暑苦しい自称正義の味方ですわ。

 あれが命令無視でもしたらと思うと、不安で仕方がありませんの。確かに彼の実力は認めますわ。認めわしますけど、五月蠅いし暑苦しいし変身するし、本当によく分からない人ですの。理解不能ですわ。

 ですが、使えそうなものは何でも使っていかないと、この先の戦いは勝てませんの。彼をどう使いこなしていくのかが、今後の私の課題になりそうですわね。


「さてと、そろそろですわね」


 書類の整理は終わっていますの。この書類を、すぐに参謀長に確認させなくては。

 まだ参謀長は寝室で眠っていると思いますわ。起こすには少し早いかもしれませんけど、今日は沢山仕事して貰わないといけませんから、そろそろ起こさないといけませんわね。


「私が徹夜して用意したこの書類、しっかりと目を通して頂きますわよ参謀長」

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