第二十話 揃いし力 Ⅷ
その後、この魔物討伐作戦がどうなったか?色々ありはしたものの、作戦は成功したのである。
魔物達を旧ラムサスの街まで押し返し、完全に包囲した後は、徹底的な殲滅戦を行なった帝国軍。魔物達は全て討伐され、旧ラムサスの街に作られていた魔物の巣も含めて、全て処理された。これでもう、この一帯が魔物の脅威に怯える事はなくなったのである。
帝国軍は魔物の討伐を成功させ、現在は事後処理に取り組んでいる最中である。全部隊は旧ラムサスの街で合流を果たし、残敵の確認や怪我人の手当てなどを行なっている。
事後処理の指揮はリックとエミリオが執り、参謀長配下の者達もこの地に集結していた。
「すげぇかっこよかったんだよ!あいつは本物の正義の味方だぜ!」
「今日だけは貴様に同意だ。戦いの最中、これほどまでに感動したのは本当に久しぶりだ」
「必殺技がすげぇんだよ!バンッってなって、ドカッバキッ、ドカーンってなってよぉ!!」
「そうだな、貴様の言いたい事はとてもよくわかるぞ!私も同じ事を考えていた」
正義の戦士仮面ライガーの戦いを見て感動し、未だその熱が冷めず、興奮した様子で語り合っているレイナとクリス。その熱に全く付いて行けず、大いに困っている者達がいる。皆と同じようにこの地に合流を果たした、ヘルベルトやイヴ、ゴリオンとエミリオは、この二人の仮面ライガー話に捕まっていた。
「「とにかく、仮面ライガーはかっこいい!」」
「へっ、へえー・・・・・・そうなんだね」
「珍しく仲良いな、こいつら・・・・・・」
「仮面ライガーってなんだな?うまいんだか?」
「どうやら二人は、話に聞く仮面ライガーに相当お熱なようだね」
レイナとクリスの目がキラキラしている。純情な少年少女の目だ。
「ほんと何者なんだろうな・・・・・、正体が気になるぜ」
「先程参謀長に聞いたのだが、仮面ライガーは変身ヒーローと呼ばれるものらしい。変身する事であの姿になるそうだ」
「さっすがリックだぜ、何でも知っていやがる!って事は、変身する前の姿があるわけか」
「きっと、とても威厳ある姿をしているに違いない。熟練の騎士か兵士か、それとも・・・・・・」
未だに二人は、仮面ライガーの正体に全く気が付いていない。
良く言えば純情、悪く言えば単純なこの二人だからこそ、未だに気付く事ができていないのである。仮面ライガーの正体を知っているエミリオや、薄々正体に気が付いたイヴやヘルベルトなどは、ここまでお熱状態の二人に対して、何と言って良いのか困っている有り様だ。
実はレイナやクリスなどは、仮面ライガーことライガ・イカルガの変身魔法を知らないのである。実際にあの魔法を目撃しているのは、リックやミュセイラ、演習場で彼と戦ったゴリオンと、一部の兵士のみである。
何故、彼の変身魔法の事が広まっていないのか?その理由は、リックが彼らに口止めをしたからだ。
初めてライガの変身魔法を見て、彼を拘束したあの日。リックはその場にいた者達に、彼の変身魔法の事は他言無用だと命令した。その理由は、あの時この能力の事をレイナ達に話していたら、ライガを連れ帰る事ができなかったはずであるからだ。
特殊魔法を使えるのを理由に、生かしておくのは危険だと言う事になり、彼を殺さなければならかったかも知れない。少なくとも、彼を拘束から解き放ち、帝国内での自由を与える代わりに見張りを付けると言う、通称「イヴ案」は通らなかっただろう。
ミュセイラの時にもこれと似たような案が出て、その時は却下されたが、あの時のライガは誰の目から見ても、他国の工作員の類には見えなかった。どう見ても単純馬鹿だったからこそ、あの案は通ったのである。
もしもあの時、彼が特殊魔法の使い手だと知られていれば、皆が思う彼に対しての危険度が上がり、簡単にはいかなかったはずだ。それがわかっていたからこそ、前以ってリックは口止めをしておいたのである。
そのため、レイナとクリスはライガの変身魔法を知らないのもあって、正体に全く気が付いていないのである。
ちなみに、シャランドラやエミリオは無理やり協力させられたため、リックから変身魔法の事を聞いていた。イヴやヘルベルトが薄々正体に気が付いた理由は、仮面ライガーと言う名前と、前にチャルコ国であった「怪人アリミーロ事件」を思い出したからである。どうせいつもの悪ノリだと、二人は経験のお陰で気が付いたのだ。
「まさかここまで影響を受けるなんてな・・・・・・」
「あの二人、本当に気付いていないようですわね」
レイナとクリス達の様子を、少し離れたところで見ているリックとミュセイラ。
ライガを仕込んだリックも、まさかあの二人がここまで影響を受けるなど思っても見なかった。ちょっとした遊び心のつもりだったのだが、こうなると仮面ライガーの正体をばらす事が出来なくなる。
何故ならば・・・・・・・。
「師匠!!オレ、正義の味方になれてたか!?なあ師匠!!」
何故ならば、正体がこれであるからだ。
もしも今、二人に仮面ライガーの正体がこれだと話したら、きっと二人は酷く落ち込む事だろう。二人の夢をぶち壊してしまうのだから、仕方のない話だ。
純情な少年少女の夢を壊すなど、流石のリックにもできない事である。そのため彼は、二人には仮面ライガーの正体を明かさず、秘密にしておく事にした。
「ライガ、もう俺を師匠と呼ぶな」
「!!」
「お前は今日、修行の成果を存分に活かして見せた。俺から教える事はもう何もなない」
「でもオレは、まだ師匠から学びたい事がいっぱいある!」
「師匠と呼ぶなと言っただろ、馬鹿弟子が」
何はともあれ、今回ライガは敵との戦闘中、ちゃんと考えて戦い、最後は勝利を収めて見せた。全体的に見ても、作戦の成功に貢献したのは間違いない。ライガは確実に成長したと言える活躍を見せたのである。
ならば、師弟関係はこれで卒業しなければならない。
「お前がこれから学ぶべき事は、俺が教える事じゃない。自分で考えて学んでいく事のはずだ。ライガ、今のお前にはそれができるはずだ」
「リック・・・・・・・」
「これからお前は、ヴァスティナ帝国軍の一人の兵士として生きろ。でもお前にだけは、皆にはない特別な権利を与えたいと思ってる」
「特別な・・・・・権利?」
彼は自分の信じる正義を探し続ける。その生き方を自ら選んだのだ。
リックは彼のその生き方を尊重している。故にリックは、ライガ・イカルガと言う人間を帝国軍の所属としたが、仮面ライガーは帝国軍の所属としないと決めた。
「帝国の兵士として生きる以上、女王陛下と俺の命令は絶対だ。女王と帝国のために戦うのが、これからのお前の使命になる。でもそれは、ライガ・イカルガだけに与えられたものだ」
「どう言う意味だ・・・・・?」
「仮面ライガーは正義の味方だ。正義の味方は誰にも囚われない。お前がその力で自分の正義を貫く時、たとえそれが帝国のためにならない事であろうと、俺は止めないつもりだ」
リックがライガに与えようとしている、特別な権利。簡単に言えばそれは、仮面ライガーの行動の自由である。
仮面ライガーは帝国軍の兵士ではない。正義のために戦う存在だ。
ライガの様な正義の味方は、誰かの下で戦ってはならない。何故ならば、誰かの命令で戦うと言う事は、自分の正義ではなく、他者の都合による正義のために戦う事になるからだ。
そうなってしまっては、ライガがバンデス国の兵士として戦わされていた時と、何も変わらなくなってしまう。リックは彼に、そうなって欲しくないのである。
「その力で自分の正義を貫け。そしてもしも、お前の信じる正義が俺を悪と思う時が来たら、その時は俺を殺しに来い」
「!?」
「・・・・・・・ただし、その時は俺も全力で抵抗させて貰うけどな」
そう言って、少し笑って見せたリックだが、ライガは彼の今の発言が冗談の類ではないと、すぐに気が付いた。彼は覚悟を決めている。仮面ライガーが帝国女王の敵となるならば、仲間である彼と戦うのも辞さないと、そう決めているのだ。
ライガは将来、リックの敵になる可能性を秘めている。だがリックは、それでも彼を仲間に加えた。かつて、イヴを仲間に加えた時の、彼の悪い癖が出たのである。
皆が言う、リックの悪い癖。その悪い癖は、彼の配下達の心を動かす、言うなれば救いの様なもの。
ある者はこれに救われ、ある者は欲していたものを得た。ライガの場合は、救われもしたし、欲していたものを得たとも言える。
ライガを仲間にする覚悟。レイナやクリスのように、絶対の忠誠を誓うわけではないライガを、自らの仲間とする責任を負う覚悟。
その覚悟を感じ取り、ライガは答える。
「わかった・・・・・・、オレはオレの正義を貫く。リックを悪だと思う時が来たら、その時は・・・・・オレがお前を倒す」
「それでいい。お前は、そうやって生きていけばいいんだ」
そう言って、本当に嬉しそうに微笑んだリック。彼の成長とその答えが、嬉しくて仕方がなかったのである。
「中二病」
「うっ・・・・・」
「言動が中二病なんですのよ、いつも言っていますわよね?いい加減治して下さいまし、見ているこっちが恥ずかしいですわ」
「ううっ・・・・・・」
二人を見ていたミュセイラからの、容赦のない指摘。これには流石のリックも、返す言葉がなかった。
今、とにかく彼女は、文句とツッコミを入れたくて仕方がないのである。その内容は当然、仮面ライガーの事であった。
「それよりもあれは何ですの。仮面ライガーでしたかしら?私、何も聞かされていないですわよ」
「えっ、だって何も言ってないもん。内緒にしてたからお前が知ってるわけないだろ?」
「しばきますわよ参謀長。あんな恥ずかしくて馬鹿らしい事をするために、ここのところずっとあんな事をしていましたの?馬鹿なんですの?やっぱり一度、病院にでも連れて行って貰った方が良いのではなくて?」
「あれは男の浪漫だぞ。仮面ライガーは正体不明の正義の味方として、もっと別のタイミングでお披露目しようと思ってたんだ。だから内緒にしてたんだよ」
「下らない茶番はやめて下さいまし。ほんと、これだから男の方々はいつまで経っても子供なんですのよ。男の浪漫とか馬鹿らしいですわ」
こう言う時、彼に対してミュセイラは本当に容赦がない。まあ、彼女の言う事は尤もなので仕方がない。リックの悪ノリからきた男の浪漫など、女の彼女からすればどうでもいい事この上ないのだ。
呆れ顔の彼女の冷たい視線を受けて、少し落ち込んでいるリックだが、ミュセイラに馬鹿にされてばかりなのは嫌なので、こんな捨て台詞を吐いた。
「・・・・・・後で覚えてろよ」
「?」
絶対に仕返ししてやる。そう言う顔をしているリックだが、「どうせ負け犬の遠吠えですわ」と思い、あまり深く考えなかったミュセイラ。
リックの事よりも、先程から彼女はもう一つ気になっている事があった。
「・・・・・・・」
あの戦闘が終わってから、どこか上の空な状態である女性がいる。それはアングハルトだ。
それが気になって仕方がないミュセイラは、アングハルトの傍に近付き、声をかけてみる。彼女と同じで、リックもまた気になっていたため、アングハルトの傍まで近付いた。
「どうしたんですの?何か気になる事でもありますの?」
「・・・・・いえ、そう言うわけではありません。ただ、少し驚いてしまっただけです」
そう、彼女はあの仮面ライガーの登場に驚き、あれが頭から離れないのである。
魔物との戦いでは戦闘に集中していたのだが、戦闘が終わってしまってから、あの時の光景が思い出され、つい考えてしまっていたのだ。
「あれに驚いてしまったわけですわね。気持ちはわかりますわよ。私だって、あんな馬鹿らしくて恥ずかしいものを見せられて、正直怒りたい位ですもの。アングハルトさんも文句の一つや二つ言ってやって下さいまし」
「文句などはありません。ですが、一つだけ言いたい事はあります」
「うっ・・・・、やっぱり呆れちゃったのか。まあ、そりゃあそうだよな。あんな茶番劇なんて付き合いきれないよな、普通」
「ちょっとお待ち下さいな参謀長。私とアングハルトさんだと、随分態度が違いますわよ。彼女だとあっさり自分の愚かさを認めるんですわね」
当然だと言わんばかりに、頷いて答えて見せるリックに対し、「いつか殴ってやる」と心の中で決意するミュセイラだった。
「仮面ライガーと言いましたか。あれは・・・・・・私もかっこいいと思います」
「マジですの!?」
「よし!流石アングハルトだ、男の浪漫をわかってくれてる」
レイナやクリスと違い、仮面ライガーの正体がライガだと知っていても、彼女はあれをかっこいいと言ってくれる。
正体はともかく、仮面ライガーの戦い振りを見て、その力に感心したのである。今までのライガは、味方の命令を聞かず、何も考えずに単独行動をする迷惑な戦士だった。アングハルト自身、そんな彼の様子を訓練の時に何度も見ている。
それが今日は、まるで見違えた。戦闘時は敵の戦闘力を分析し、目標を確実に撃破して見せた。襲われていた村の人々も守り抜き、今回の討伐作戦に貢献したのは間違いない。
今日初めて、彼女はライガの力を認めたのである。帝国参謀長の為に戦う同じ仲間と認め、新たな仲間の参入を喜んだのである。
「ミカヅキ隊長やクリスティアーノ隊長が、あれをかっこいいと思う気持ちもわかります。助けを求める者達の前に現れて、悪を倒す正義の戦士。昔読んだ絵本の主人公の様です」
「へえ~、そんな絵本があったんだな。知らなかったよ」
「私も昔は憧れたものです。きっと御二人もそうなのでしょう。だからつい、憧れていた存在を現実に見る事が叶い、興奮してしまったのだと思います」
「まあ、良く言えば純情、悪く言えば単純だからな、あの二人は」
「それに今回の戦闘は、彼の活躍もあって村の防衛が無事に終わり、魔物を殲滅してラムサスの街解放も叶いました。彼には感謝し切れません」
ラムサスの街はアングハルトにとって、因縁の地と言えるだろう。
彼女はここで仲間達を失い、自分自身はこの世の地獄を見た。その体は弄ばれ、大勢の男達に汚され、あと少しで殺されるところだった。しかし彼女はリックと出会い、その命を救われた事によって、己の人生を大きく変えたのである。
今のアングハルトが抱える闇を生み出し、優しき救世主と初めて出会った地。それがラムサスの街だ。
あの日失われてしまったこの街を、ようやく魔物から解放し、今回は付近の村人達も救う事ができた。あの日何も守れなかった時とは違う。自分やライガ、そして帝国の多くの戦士達の活躍により、あの日守れなかったものを守り、失われてしまったものを取り戻したのである。
だからこそアングハルトは、正義の味方を目指すライガに感謝している。そして、彼にも・・・・・・。
「参謀長」
「んっ?」
「参謀長の御力のお陰で、私は今日、ラムサスの街を解放する事が叶いました。本当に感謝しております。これでこの街の人々は、再びこの地で生活する事ができるでしょう。死んでいった者達も、きっと浮かばれます・・・・・・」
少しだけ、アングハルトの目が潤んでた。込み上げる嬉しさと、彼女自身の悲願が叶い、目から涙が溢れそうになっていた。
そんな彼女を見て、リックは微笑みを浮かべながら傍まで近付き、アングハルトを優しく抱きしめた。
突然の事に驚くアングハルト。しかしリックは、抱きしめるのをやめはしない。
「参謀長!?」
「嬉しくて泣きたいなら、泣けばいい。って言うか、感謝するのはこっちの方だ。お前のお陰もあって、今回の作戦は無事成功したんだぞ。さっきは背中守って貰ったし、何かお礼させて欲しい」
優しい温もりに抱かれながら、彼女は思った。自分が初めて出会った時の、あの時の彼が戻って来たと。
嬉しくて仕方がない。だからつい、普段は妄想しても絶対に頼まない事を口に出してしまった。
「・・・・・・・デートして下さい」
「いいぞ」
あっさり了承したリック。その言葉で、次の瞬間、顔を真っ赤にさせて棒立ちとなるアングハルト。そして、開いた口が塞がらないミュセイラ。
「どっ、どいつもこいつもこんな男のどこがそんなに良いって言うんですのよ!?皆さん病気なんですの!?それとも参謀長、まさか皆さんに怪しい薬でも盛ってるんじゃ--------」
「してないから!!そんな惚れ薬みたいなのあるってんなら欲しくらいだ!」
「変態!破廉恥!下衆!男として最低ですわよ、このエロ大魔神!!」
「そこまで言うのか!?お前絶対泣かせてやるからな、後で覚えてろよ!」
リックとミュセイラの口喧嘩が始まった。こうなると、リリカでもいない限り喧嘩は中々終わらない。
口喧嘩の五月蠅さで、二人が揉めているのに気が付いた他の者達。アングハルトを抱きしめているリックに対し、アングハルトが羨ましいと思う者も居れば、面倒な喧嘩が始まったと思う者も居る。
リックの周りに仲間達が集まり、喧騒や笑い声が上がる。
この雰囲気は、本当に久しぶりだった。ミュセイラとライガは初めて見る、リックとその仲間達の楽しそうな会話。
ミュセイラとライガを除く仲間達は皆、同じ気持ちを抱いていた。自分達の主が、ようやく絶望の底から戻って来たと。
そしてこの少女もまた、絶対の忠誠を誓った主が笑っているのを見て、同じ気持ちを抱く。少女は、主を救い出すきっかけを作った二人へと視線を移す。
(この二人がいたからこそ、参謀長は・・・・・・・リック様は・・・・・・)
ミュセイラとライガの姿を見て、最後にリックへと視線を向ける、赤髪の少女。
彼女は口元に少しだけ笑みを浮かべ、リックと仲間達の様子を嬉しそうに見ていた。
「おい槍女、リック見て何にやついてやがる。気持ち悪いんだよ」
「・・・・・・・・・・やはり私はお前が嫌いだ」




