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第二十話 揃いし力 Ⅴ

 旧ラムサスの街跡地で行なわれた、魔物討伐作戦。前回は様子見の威力偵察であり、大量発生した魔物の数や質を調べ、次の本格的な掃討作戦のための情報収集が行なわれた。

 掃討作戦の準備は順調だった。作戦決行の日時も決まっていたが、状況は突然変化した。

 大量に溢れてしまった魔物達は、自分達の腹を満たすため、食料を求めて動き出したのである。大量の魔物達は分散し、ラムサスの街周辺の動物を襲って喰らい、さらには人の住む村々を襲い出した。全ては、食べ物を得るためである。

 突発的なこの事態も、ある程度は予測されていた。そのため周辺の地域には、いざと言う時のための防衛戦力が配置されており、現在はその戦力が魔物討伐にあたっている。しかし、現場の戦力不足は歴然であった。

 これらの報告を受けた、ヴァスティナ帝国軍参謀長リクトビア・フローレンスは、直ちに全帝国軍部隊へ戦闘準備を命じた。命令を受け、慌しくなる帝国軍兵士達は、即座に戦闘態勢を整え待機する。

 当初の計画よりも早まってしまったが、魔物掃討作戦が決行される事が決まった。掃討作戦の指揮は参謀長が直々に執る事となり、全軍の士気は高い。

 命令が下ったその日中に、掃討作戦に参加する帝国軍部隊は出撃した。

 リクトビア・フローレンス指揮下の精鋭達は、皆がそれぞれの得物を用意し、魔物掃討のために戦意を燃やす。出撃した彼らの眼は、まさに狩人の眼であった。

 戦いと言う名の狩りに出た帝国軍。その中には新軍師ミュセイラと、自称正義の味方ライガの姿もあった。






 魔物掃討作戦は決行された。

 ラムサスの街跡地から各地へと分散した魔物に対し、出撃した帝国軍は部隊を複数に分け、襲撃を受けている村々へ急行した。

 分散している魔物を各部隊が一斉に攻撃し、魔物達の巣窟となっているラムサスの街へと押し戻す。その後は、一か所に集めた魔物を全部隊で完全に包囲し、一匹残らず駆除する。

 この作戦の立案者はミュセイラだ。口で言うのは簡単な作戦だが、実行するとなれば難しい。この作戦は、各地の魔物を追い込んでいく歩調を合わせる必要がある。分散した魔物を逃がさず確実に包囲するためには、各部隊が包囲に穴を空けないよう、綺麗な包囲網を築かなければならない。どれか一つの部隊でも歩調を乱せば、そこに穴が生まれて魔物が逃げ出す恐れがあるからだ。

 大量発生した魔物を確実に根絶やしにするためには、包囲殲滅作戦が妥当である。簡単そうで難しいこの作戦は、ミュセイラの綿密な計画のもと実行された。

 まず現地に到着した帝国軍は、各地に分散した魔物の戦力情報を集め、その質と数を計算し、どの部隊をどの魔物集団に当たらせるかを決定した。

 比較的数の少ない集団には、数十人規模の部隊。数は少ないが、凶暴性の高い魔物集団には、帝国軍の精鋭部隊。空を飛ぶ魔物が多い集団には、飛び道具を主兵装とする部隊。このように、現場から伝令によって伝えられた情報を基に、複数の敵魔物集団に対して、対応のし易い部隊を当たらせる事により、魔物集団を撃退する歩調を合わせようとしているのだ。

 それさえ合えば、包囲網に穴が空く事無く、魔物を逃がさず追い込む事が可能である。この作戦のために、ミュセイラが編成した部隊内容は隙が無かった。威力偵察時の情報を基に、魔物の全体規模と戦力内容を考え、最適な部隊編成を整えていたのである。大量発生した魔物が集団を形成し、各地の村々を襲う可能性を想定していたのだ。

 各部隊が攻撃する集団は決まり、一斉に展開を開始した帝国軍。

 しかしここで、ミュセイラの想定していなかった事態が発生する。帝国軍参謀長リック指揮下の部隊が、予想外の敵戦力に苦戦を強いられていたのである。






「はあっ!!」


 激化する魔物集団との戦闘状態。

 帝国軍部隊を指揮し、自らも最前線で戦っているリックが、中型規模の蜥蜴の様な魔物を蹴り飛ばす。全長だけで言えば六メートル以上はある魔物だが、リックの強力な一撃で頭を蹴られ、たった一撃で絶命した。

 

「ちっ、切りがない。機関銃でもないと駄目だなこりゃ」

「さっ、参謀長!?諦めるの早過ぎです!」


 魔物を殺し続けても切りがなく、面倒臭そうな表情を見せるリック。そんな彼を見て、部下達からの悲鳴が飛ぶ。

 だがしかし、リックが機関銃を欲しがるのも無理はない。魔物の数が想定よりも多く、手強い種も現れたのである。

 村を襲っていた時の規模は、情報通りで間違いなかった。しかし、帝国軍が到着した瞬間、突然魔物の数が増加したのである。その理由は、地中の中に潜んでいた魔物達が、帝国軍の到着で地上に出現したからであった。

 地中に潜んでいた魔物は、土の中に埋まっていた畑の作物などを食べていたのだが、帝国軍の出現を察知し、敵が現れた事を本能的に理解して襲いかかったのである。

 地中より現れた様々な種類の魔物達。大小数多くの魔物達の登場で、敵魔物集団の戦力は二倍近く増加した。これにより、戦力不足に陥った帝国軍は、敵集団の数による攻撃に苦戦を強いられる事になった。

 中型種の魔物が増えたのも苦戦の理由である。地中より現れた爬虫類型の魔物達。猛毒を持つ無駄に長い蛇や、土竜の様に土の中に潜れる魔物。人間を串刺しに出来る角と牙を持つ猪の様な魔物や、牙があって羽毛がない、本来鳥と呼べない鳥の様な魔物など、凶暴性の高い魔物達が兵士達に襲いかかった。

 小型種だけならば、兵士達もそれほど苦戦しない。しかし中型種は体長が大きく、殺すには兵士達の連携が必要である。駆除の難易度や必要な戦力数が、小型種と比べればまるで違うのである。お陰で帝国軍兵士達は、多数の中型種相手に投入する戦力が足りず、小型種の相手で手一杯となっていた。

 そのためリックは、少しでも中型種の数を減らすために、武器を片手に一人で戦いを挑む。彼の驚異的な身体能力から繰り出される一撃は、確かに中型種を容易く殺せる。だが彼の一撃は、体力の消耗が激しい技だ。

 既に二十匹近く中型種を始末しているリック。体力的にはまだ余裕はあるが、数に切りがないため、苦戦しているのは変わらない。だが彼は、自分の疲労の事よりも、先程から気になって仕方ない事がある。


「キュキュ、キュシャーーーーーーーッ!!」


 とある一匹の魔物の奇怪な鳴き声。先程から彼は、この魔物が気になって仕方がない。

 何故ならば・・・・・・。


「キュキュ?」

(何でチュパカブラがここに居るんだよおおおおおおおおっ!?)


 チュパカブラ。

 南米で目撃されたと言う、未確認生物である。ヤギなどの家畜の血を吸う事で有名で、未だその存在は確認されていない。この謎の生物が今、リックの目の前に存在しているのである。


(やばい、マジでチュパカブラだ。どうしよう、こっち見てる・・・・・・)


 チュパカブラの視線はリックに釘付けである。狙われているのだろうか?

 二足歩行で動きまわり、身長は大人の男位はある。全身が毛に覆われ、大きな赤い目を持ち、牙があって、背中に棘状のよく分からないものが生えている。有名な絵の通りの外見だ。しかもこの生物、先程から村の家畜を襲い、その血を吸っているのだから、間違いなくチュパカブラである。


(捕まえるべきか・・・・・・。でもこの世界じゃただの魔物なのかな・・・・・、本当だったらエリア○○に電話しなきゃ駄目かもだけど・・・・・)


 ファンタジー世界の魔物チュパカブラ。この世界で何と呼ばれているかは不明だが、どう見てもチュパカブラであるこの生物を、果たして殺してしまうのか?それとも捕まえるべきか?未確認生物チュパカブラを知っているリックからすると、ただ魔物として始末してしまうのは、どうしても勿体無い気がしてならない。


「参謀長、先程から何を見て・・・・・、あれはチュパカブラ!家畜を襲うので有名なあの魔物までいるとは!」

「やっぱりチュパカブラだよなあれ!って、チュパカブラはチュパカブラなのかよ!?」


 兵士曰く、あれはやはりチュパカブラらしい。

 

「まあいい、あのチュパカブラもそうだが、とにかく数が多い。援軍はまだか?」

「一番近くにいる友軍部隊はミカヅキ隊とレッドフォード隊です!既に伝令を出し、救援要請を出しています!」

「よし、だったらレイナとクリスが来るまで耐えるまでだ!全軍、もうすぐ犬猿の仲の二人が援軍に来る!あいつらに獲物を横取りされたくなかったら目に付く魔物は全部殺せ!!楽しい楽しい害虫駆除の時間だぞ!!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」


 やはりリックが前線に立つと、それだけで兵の士気が高くなる。リックの気合の入った言葉が、苦戦を強いられていた兵士達を鼓舞し、その闘志を復活させる。

 一応これでも村を救いに来た軍隊なのであるが、リックがいつものやり方で指揮すると、まさに愚連隊だ。しかし、彼ら以上に頼もしい愚連隊はいないだろう。

 士気を取り戻した帝国軍兵士達が、雄叫びを上げて突撃し、剣や槍で次々と魔物を討ち取っていく。

 地面を這っていた昆虫型の魔物を、剣で串刺しにして殺す兵士。空を飛ぶ鳥型の魔物に、槍を投擲する兵士達。弓を連射し、素早く動きまわる蜥蜴の様な魔物を射殺す兵士。帝国軍の精強な兵士達が、それぞれの武器で魔物を殺しまわる。

 

「アングハルト!左の集団は任せる、派手にやってやれ!」

「了解!!」


 リックの指揮するこの部隊には、女兵士セリーヌ・アングハルトの姿もある。両手に槍、両の腰に剣を二本ずつ差し、背中には弓と矢を装備している。相変わらずの重武装だ。

 彼女もまたリック同様に、手にする武器を最前線で振りまわし、魔物を殺しまわっている。他の兵士が一人では倒せない、厄介な中型種の魔物達を仕留めていく。

 雄叫びを上げ、両手の槍で猪の様な魔物を串刺しにし、槍から手を離して腰の剣を抜き放つ。抜いた剣の切っ先を、魔物の頭部目掛けて突き刺す。苦しみもがく魔物が絶命するまで、彼女は剣を突き刺し続けた。傍から見れば猟奇的だが、これは彼女なりの「敵の確実な殺し方」であるのだ。


(ヴァスティナ帝国女性陣は皆恐いな・・・・・・。滅茶苦茶強いし、敵は確実に殺すし、俺要らないんじゃないかな・・・・・・)


 今更そんな事を考えてしまうリックだが、恐ろしくとも彼女達が頼もしいのは事実である。

 

(って言うか、何となく楽しそうに見えるな・・・・・・・アングハルト)


 普段以上に生き生きと戦い、消える事が無さそうな熱い闘志を燃やし続ける、帝国軍の精鋭アングハルト。彼女がいつも以上に元気な理由は、単純明快である。

 

(参謀長と同じ戦場!参謀長と共に戦っている!参謀長は、私が命を懸けて守る!!)


 表情こそ真剣で、雄叫びを上げて戦闘に集中しているアングハルトだが、心の中ではリックの事ばかり考えている。大切な彼の身を守ろうとする信念と、彼と共に戦える喜びで、現在アングハルトは超ご機嫌状態なのである。いつも以上に元気で、楽しそうに見えるのはそのせいだ。

 

「参謀長!右翼を抜かれました!」

「っ!!」


 アングハルトが率いる部隊に左翼を任せてすぐ、右翼側の前線が魔物に突破されてしまった。部下からの報告を受け、焦りを覚えるリックだが、頭を冷静に保ち思考する。

 現在リック率いるこの部隊は、敵魔物集団をこれ以上村の中心に侵攻させないよう、必死の防衛線を展開していた。防衛線を展開しつつ、魔物集団を押し戻そうとしていたのだが、それは敵戦力の増加で難しくなった。

 帝国軍は現状、魔物を押し戻すどころか、魔物の侵攻を抑えるので精一杯である。彼らの後ろには、未だ村人の避難が完了していない村があり、帝国軍兵士達は必死に防衛線を保っていたが、右翼側担当の部隊の一瞬の隙を突き、魔物集団の一部が村の中心部を目指したのである。そこにはまだ、逃げ遅れている村人達が残っている。


「お前達はここで魔物を喰い止めろ!突破した魔物共は俺が片付ける」

「了解し・・・・、えっ!?」

「お待ち下さい参謀長!一人では危険過ぎます!!」


 この場を部下達に任せ、自分は突破した魔物集団を追いかける。ここでの戦闘指揮を中断し、しかも一人で後方へと駆け出したリック。普通ならば、指揮官がいきなり前線から居なくなるなど、戦闘時にあってはならない事である。

 だがリックは知っている。ここに居る兵士達は、自分の指揮などなくとも、与えられた任務は必ず完遂する事を、よく知っている。そう出来るよう訓練されているからだ。だから信頼できる。

 そして、リック自身は気付いていないが、彼がこのような単独行動に出た場合、兵士達は彼を早く助けに行くため、普段以上の力を発揮するのである。忠誠心が高く、絶大な信頼を彼に抱いているからこその、為せる業である。

 そのため帝国軍に限っては、指揮官が突然前線から居なくなろうとも、それ程問題はない。勿論、頻繁にこんな事をされても困るのだが・・・・・・。

 部下達がリックを制止しようとする声を聞き、真っ先に反応したのはアングハルトであった。


「参謀長!?私は参謀長を追う!ここは任せるぞ!」

「ちょっ、分隊長!?あんたまで一人で行くのかよ!!」


 一人では行かせられない。その強い想いに逆らわず、リックを守るために彼女も駆け出す。自分の分隊の仲間達に、この場を預けて・・・・・・。


「畜生!うちの分隊長の悪い病気だ!参謀長追いかけて行きやがった!!」

「恋の病だからな、仕方ねぇさ!」

「流石、参謀長を追いかけて軍に入隊したってだけあるぜ!」


 兵士達の文句や冗談が飛ぶ。こんな事は、ヴァスティナ帝国軍では日常茶飯事だ。故に兵士達は、それ程慌てない。勿論、限度はあるが・・・・・・。


「いくぞ野郎共!!魔物共なんざ皆殺しだ!ヴァスティナ帝国万歳!!」


 士気の高さならばどんな軍隊にも引けを取らない、南ローミリア最強の兵士達が魔物を駆逐していく。彼らの戦意は、魔物が全て駆除されるまで消えないだろう。

 そんな彼らにこの場を任せ、リックが単身魔物を追いかけたのには理由がある。

 村では避難活動が行なわれているのだが、その避難の指揮を執っているのは、リックの大切な仲間達だったのである。

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