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第二十話 揃いし力 Ⅲ

 帝国軍兵器開発実験場、秘密の部屋にて。


「で、何でオレは拘束されてんだよおおおおおおおおおっ!!!?」


 薄暗い部屋。蝋燭の灯だけが部屋を照らし、三人の人物を照らし出す。

 一人はライガ。彼は何故か、円形のテーブルの様な物の上に仰向けで寝かされ、腕と足を手枷で拘束されている。

 どうして自分が拘束されたのか全く理解できず、自分を拘束した者達に向かって叫ぶ。

 彼を拘束した二人の人物。一人はリック、もう一人は帝国一の発明家シャランドラであった。


「ライガ、お前は正義の味方になりたいんだよな?」

「そうだ!だけど、それとこれと一体何の関係があるんだ!?」

「そうか、お前は知らないんだったよな。教えてなかったが、正義の味方になるためには決められた順序があるんだよ」


 そう、正義の味方にはお決まりの展開がある。最初にあるのは、力を手に入れてしまうと言う、お決まりの展開だ。


「ライガ・イカルガ。今からお前を改造する」

「はあ!?」


 言っておくが、リックは本気である。冗談に聞こえるが、冗談ではない。


「これからお前は改造手術を受ける事になる。それは正義の味方が誰しも通る道であり、運命なんだ。お前はヴァスティナ帝国の平和を守る改造人間になるためにここにいる。多分暴れると思ったから拘束させて貰った」

「多分暴れるって、オレに何をする気なんだよおおおおおおおっ!?」

「だから改造手術だって。準備できたか、シャランドラ?」

「ええでリック!人間ばらすなんてあん時以来やけど、腕が鳴るわ!」


 何やら鋸の様な刃物を右手に持ち、左手にはハンマーを持っている、超ご機嫌な様子のシャランドラ。眼鏡をかけた発明少女のマッドサイエンティストな笑みが、薄暗い部屋のせいで一層恐ろしく見える。

 人をばらした経験があるようだが、聞くのが恐ろしくて、そこに関しては何も言わない。だがライガは、何も言わない代わりに滅茶苦茶抵抗している。


「くっそおおおおおおおっ!!お前らオレを殺す気かあああああああああっ!!!」

「大丈夫大丈夫。ちょっと身体をいじって、最後に脳を弄るだけだから。まああれだ、脳を弄られる前に助けが来てくれる事を願うんだな」


 そう、悪の組織に捕まり、改造手術を受けてしまった者は、脳味噌弄られる前に助け出され、正義の味方となって悪の組織が差し向けた怪人達と戦う。そう言う宿命にあるのだ。


「ほんじゃまあ、早速始めようやないか。心配せんでも平気やライガ、痛い事はせえへんから・・・・・・・多分」

「多分!?」

「まあ落ち着け、改造手術と言う名の耐久テストをするだけだ。痛い事はしない。ただ、ちょっと地獄を見て貰うだけさ」

「地獄!?」


 実際改造手術と言うのは、リックの悪戯心と遊び心から来る演出である。本当に人体解体ショーを行なったり、洗脳手術を行なうわけではない。ただ・・・・・・耐久力のレベルアップを図るだけである。


「覚悟は良いな?」

「ほないくで!うちの指技が火を噴くで!!」

「やっ、やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 数分後、彼は確かに地獄を見る。

 悪魔の様なこの二人よる、「地獄のこしょぐり攻撃」のせいで、彼は笑い地獄を見たのであった。






 次の日。


「ライガ。お前はトラだ、トラになるんだ。俺の後に続けて言ってみろ!トラ・トラ・トラ、だ!!」

「トラ・トラ・トラ!!」


 演習場でランニングをさせられているライガと、彼の修行を見ているリック。

 リックは彼の師匠となったため、朝早くから彼の修行に付き合っていた。


「これが正義を目指すお前の力か!だが足りない、まだ足りないぞ!」

「!?」

「お前に足りないものは、それは!情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そして何よりもおおおおおおおおおおおおおっ!!速さが足りない!!!」

「わかったぜ!うおおおおおおおおおっ!!!」


 熱く叫ぶリック。同じく、その言葉に熱く答えるライガ。

 ペースを守ってのランニングから一転し、全力で駆け出したライガは、あっと言う間に見えなくなった。そのスピードは、まさに馬の如し。止まる事を知らない彼は、帝国を一周するまで帰って来ないかも知れない・・・・・・。


「なあ、隊長とライガの野郎は何してんだ?」

「さあ?いつもの悪い癖だと思いますぜ」


 リックとライガの修行を少し離れたところで見ていた、帝国軍精鋭部隊の面々。元傭兵部隊隊長のヘルベルトは、仲間達共に修行を見学していたのだが・・・・・・・。


「やっぱりよお、隊長って頭おかし--------」

「ヘルベルト、お前減給」

「何で聞こえてんですかい!?俺の悪口に対しては地獄耳かよ!?」






 また次の日。

 ヴァスティナ帝国城下の広場にて。


「いいかライガ、お前に決定的に欠けているのは冷静さだ。戦闘の時に熱くなるのは良い。でもな、心は熱く、頭はクールにいかないと駄目だ。これからは、決して冷静さを失うなよ」

「わかったぜリック!」

「違う、俺の事は師匠と呼べ!わかったか馬鹿弟子が!」

「はい!師匠!!」


 いつも通り平穏な、帝国城下の広場の風景。

 子供達の遊び場でもあるこの場所で、人目もはばからず、無駄に暑苦しくて五月蠅い二人がいる。勿論それは、リックとライガの事だ。


「瞑想して、集中力を極限まで高めろ。周りの音に惑わされるな」

「集中・・・・・・集中・・・・・・」


 広場の地面に座り、深呼吸した後に目を瞑り、瞑想に入るライガ。ここまで落ち着いた彼を見た事がないと言う位、彼は集中している。

 広場で遊ぶ子供の声や、鳥の鳴き声、風の音すら、今の彼の耳には入らない。リックに言われた通り、極限まで集中力を高めているのだ。


「明鏡止水、されど心は烈火の如く。その感覚を忘れるな」


 完全に師匠気分なリックと、馬鹿弟子気分のライガ。

 確かにリックの言う通り、ライガは素直な男である。やれと言われた事に、彼は文句一つ言わず従っている。


「ねぇ、リック君達何してるんだろ・・・・・・」

「わかりません。ですがきっと、参謀長には深いお考えがあるのでしょう」

「そんな風に思えるのはセリちゃんだけだよ、多分」


 偶然二人を見つけ、一体何をしているのか見学していた、帝国軍一の狙撃手イヴ・ベルトーチカと、帝国軍所属の女兵士セリーヌ・アングハルト。

 リックとライガの様子を見つつ、会話を聞いていたイヴは、彼の悪い癖がまた出たのだと気付く。

 

「私は参謀長に忠誠を誓う兵士です。ならば、参謀長が何をしようと信じるのみです」

「そうだけど・・・・・・、偶には疑ってもいいと僕は思うよ」






 そのまた次の日。 

 ヴァスティナ帝国城参謀長執務室。


「いいか、お前はとにかくダサい」

「なっ、何だって!?」

「まず、そのネーミングセンスから直せ。攻撃に正義って付けたら必殺技になるわけじゃないぞ。あと、変身の時のセリフだけど、正義の味方は装備って言って変身しないから」


 参謀長執務室にて軍務を行ないながら、ライガに教育を行なっているリック。教育内容は、「正義の味方の見た目について」である。


「正義の味方って言うのはな、その存在がかっこよくないと駄目なんだよ。発言と見た目でかっこいいって思わせたら勝ちだ。と言うわけで、俺とエミリオが考えた台詞一覧が書かれた本を渡す。これを完全に暗記しろ」


 執務室の机で軍務を行ないながら、リックは一冊の本を机の引き出しから取り出した。その本を傍に居たエミリオへ渡し、彼の手でライガに渡させる。


「これが君の演技指導本だよ。それと、これは参考資料だ」

「演技指導本?参考資料?」

「こっちの本は読んで覚えればいいだけだよ。参考資料の方は、ご覧の通りさ」


 エミリオが手渡したのは、ライガ用に作成した本と、一枚の紙である。その紙には絵が描かれており、一種のデザイン画の様なものであった。

 

「一つ確認したいんだが、お前の変身魔法って形を自由に変えられないのか?」

「そんな事ないぜ。何て言うか、頭の中で絵を描いて、これを着たいって思ったら変身できるんだよ。すっごく考えて、ちゃんと形にしないと駄目だけど」

「成程な。つまり、集中力と想像力、それとセンスの問題か。ならいけそうだ」


 リックとエミリオが何を考え、何をさせようとしているのか。ライガ自身は、全く理解できていない。

 ただ彼は、直感的に理解する。この二人は、自分の今までのやり方そのものを、根本的から変えようとしているのだと・・・・・。


「とりあえず、その本の台詞は全部頭に叩き込め。後でテストするぞ」

「リックの演技指導に合格したら、次はこの参考資料だよ。これが無くても、絵の内容を細部まで思い出せる位にはなって欲しい」


 ライガは知らないのだが、この本と参考資料は、八割方リックとエミリオのノリと勢いで作られている。リックはともかく、あのエミリオまでが、呆れるしか出来ないこのノリに付き合ってしまったのは、所謂深夜テンションのせいであった。執務室にて夜遅くまで、二人で軍務に励んでいたのがいけなかったのである。

 

「なあリック、この本------」

「師匠と呼べ、馬鹿弟子」

「・・・・・・・師匠、この本って何頁あるんだ?」

「エミリオが気合入れて作った傑作だからな。確か・・・・・、三百頁位か?」

「正確には二百九十七頁だよ」


 約三百頁の大ボリューム。ちなみに、ライガは見た目通り勉強が苦手である。暗記ならば出来なくもないのだが、この本の中には文章題なども含まれており、正解を考える事も必要なのである。

 どちらかと言えば、体を動かす修行の方が得意な彼にとって、これはまさに苦行と言えた。そのせいで、いつもの様なやる気が起きないのである。


「正義の味方になるんだろ?」

「!!」

「馬鹿は正義の味方になれない。わかったらさっさと覚えろ」

「・・・・・・そうだな!こんな本、まるっと全部覚えてやるぜ!うおおおおおおおおおおっ!!」


 雄叫びを上げて、最初の一頁目を捲ったライガが、口に出して文章を読み上げる。その声量は、執務室の外にまで丸聞こえであった。


「それでも、守りたい世界があるんだああああああああああああ!!!!」

「うるさいぞ馬鹿弟子!執務室で叫ぶな!」


 完全に騒音レベルのライガの雄叫び程、執務室での軍務を妨害するものはないかも知れない。

 その後ライガはあまりの五月蠅さ故に、リックに部屋から叩き出される。その彼が、城内の至る所で台詞を大音量で読み上げ、城内で働く多くの人物に多大な迷惑をかけてしまったため、リックのもとに処理し切れない量の苦情が殺到する事になるのだが、それはまた別のお話である。

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