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第十九話 甞めるなよ Ⅱ

「ごっ、ごめんなさい・・・・・・」


 二人のメイドが侵入者を処理した、同時刻。


「ばっ・・・・・ばかな!?」

「ひい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・・!」


 城内の別の場所では、一人のメイド少女と五人の襲撃者が戦闘状態となっていた。

 しかし、ここでの戦いは既に決着している。

 作戦行動中、一人のメイドが立ち塞がったため、迅速に障害を取り除こうと動いた、この襲撃者達。どう見ても、内気で臆病そうな、ただのメイドにしか見えない事もあり、彼らは少しだけ油断してしまった。

 その油断が命取りであるとも知らずに・・・・・・。


「動けん・・・・・!」

「我々が、こんな小娘に後れを取るなど・・・・・!」


 メイドを殺そうとした彼ら五人は、全員その場で動かなくなっていた。まるで凍り付いてしまったかのように、腕一本も動かせない。

 彼女を殺そうと接近した彼らは、彼女の数歩手前で何も出来なくなった。動きを封じられてしまったのである。彼女が仕掛けた、ワイヤートラップによって・・・・・・・。


「ううっ、静かにしていて下さい。あんまり騒がれると、陛下が起きてしまいます・・・・・・」


 内気で弱気な感じの、このメイド。本当にこのメイドが、彼らをワイヤーで捕まえたと言うのか、疑いたくもなる。

 だが、彼らを捕まえたこのワイヤーは、紛れもなく彼女が仕掛けたものだ。その証拠に、彼女の両手の指には、よく見ると微かに、細い蜘蛛の糸のようなものが見える。

 このワイヤーは彼女の武器。ワイヤーが仕掛けられたこの場所は、彼女の領域だ。何も知らずに一度踏み込めば、ワイヤーは蜘蛛の糸のように、獲物の身体に巻き付いて動きを封じてしまう。

 目には非常に捉えにくい、細く丈夫な鋼のワイヤー。彼らはこれに捕まった。

 そして、彼らの命は、彼女の思いのままとなる。


「静かにして欲しいので・・・・・・、これで終わりにします」


 メイドは右手の人差し指を、少しだけ動かした。

 彼女の両手には、ワイヤーを操るための道具が装着されており、仕掛けられていたワイヤーは、彼女が指を動かすだけで、凶器と化す。

 少し指を動かしただけで、ワイヤーに拘束された五人は、次の瞬間、体中を引き裂かれた。頭も、腕も、胸も、足も、綺麗に切断され、五人は一瞬にして、ばらばらの肉片と化した。城の床に散らばった、侵入者達の肉片と、床を真っ赤に染め上げる、五人分の出血。

 たった一人のメイドによって、潜入と暗殺に長けた五人は、簡単に殺されてしまったのである。


「あっ!ゆっ、床を汚してしまいました!お掃除しないとメイド長に怒られる・・・・・・」


 このメイドは、人を殺してしまった事よりも、城内の床を汚してしまった事の方が、自分の中ではよっぽど大問題なのである。床をこのままにしておいては、後でメイド長の逆鱗に触れてしまう。それが恐ろしくて仕方ないのである。

 

「ううっ、お掃除しないといけないけど・・・・・・、他の侵入者を警戒しないと・・・・・。あうあうあうあう・・・・・・」


 どっちを優先するべきか、それが問題だった。頭を抱えて悩みに悩む、ワイヤー使いのこのメイド。

 彼女の名はアマリリス。どんな仕組みなのか誰も知らない、鋼のワイヤーを使って人を殺す、見かけに反して恐ろしいメイドである。


「どうしよう・・・・絶対怒られちゃう・・・・・・・」


 この後待ち受けるであろう、メイド長の説教に怯えるアマリリス。

 結局彼女が選択したのは、掃除ではなく、侵入者への警戒だった。






「あ~ん、久々の血の臭いは格別ね~」


 城内のまた別の場所でも、侵入者達が逆に襲撃を受けていた。

 彼らは通路を移動中、何の前触れもなく襲撃を受け、全員負傷して動けなくなっている。彼らを襲撃したのは、妖艶に笑う、大きな鎌を持つメイドだった。


「まだ死んでないわね~。じゃあまずは・・・・・こっちの男からいこうかしら」


 彼女は五人の襲撃者達を襲撃し、己の得物である大鎌で、彼ら五人を斬り裂いた。死なない様、急所を外して彼らを斬り裂いた彼女の周りには、両足を失くした五人が苦痛に呻いている。彼女はこの大鎌で五人を襲撃し、その両足を一瞬の内に斬り落とした。

 彼らを殺さず、逃げ出せないように足を奪い、笑みを浮かべるこのメイド。彼らを生かしているのは、自分の愉悦のためだ。


「があああああああああっ!!??」

「いい声で鳴くわね~。もっと感じさせてあげるわ」


 足を斬り落とした五人の内、一番近くに倒れていた者目掛け、大鎌の切っ先を振り落とす。切っ先は男の腹に突き刺さり、鮮血が飛び散った。それだけでは終わらず、メイドは突き刺したままの大鎌を、左右にぐりぐりと動かして、男の傷口を広げていく。

 その痛みに苦しむ様を見て、メイドは楽しそうに笑い続ける。

 そう、彼女は楽しんでいるのだ。侵入者の男が痛みに苦しむ様を見て、愉悦に浸っている。誰が見ても、彼女は明らかに異常だ。


「ごはっ!!」

「んん~?あらあら、もう死んでしまったの?つまらないわ~」


 一人は死んだ。残りは四人。

 この愉悦のためだけに、彼女は彼らを生かしている。足を斬り落として動きを封じ、男達が死ぬ間際までの苦しむ様を見て、興奮を感じる。

 それが彼女、名をノイチゴと言うメイドだ。


「じゃあ・・・・・次はこっち」

「ぐはっ!!」


 二人目。大鎌を死体から引き抜き、別の男に向かって、その切っ先を振り下ろす。

 今度は刺すのではなく、男の胸を綺麗に斬り裂き、大きな傷口を作った。だが、それだけでは終わらない。恐ろしい事に彼女は、何の躊躇いもなく、その傷口へと手刀を捻じ込んだのである。


「あがああああああああああっ!!!!」

「ああん!もっとよ、もっと感じなさい!!ここでしょ、ここが気持ちいいんでしょ!?私の左手、今あなたのどこ掴んでると思う?これはねぇ、肝臓よ、か・ん・ぞ・う♡」


 本当に、心の底から楽しそうに、男の傷口に左手を突っ込み、内臓をその手に掴む。そして・・・・・。


「えいっ♪」


 ぐちゃっ、という音が鳴る。彼女はその手に掴んだ内臓を、握りつぶしたのだ。

 内臓を握りつぶすだけでは終わらず、そのまま左手で、内臓をぐちゃぐちゃになるまで捏ねる。まるで、ハンバーグでも作るかのように、男が絶命するまで、ずっと笑みを浮かべて・・・・・・。


「んっ?・・・・・あらあら、もう果てちゃったのね。もっと私を感じさせてから死になさいよ」


 二人目も死んだ。死体となった男の傷口から、ようやく左手を引き抜いた彼女は、視線を残りの三人へ向ける。

 どろどろで、真っ赤に染まった彼女の左手。血みどろの自分の左手を、舌を出してねっとりと舐めまわし出す、大鎌使いのノイチゴ。そんな彼女を見て、化け物でも見たかの様な、恐怖に青ざめた表情を見せる、残りの三人。

 

「さてと、これであと三人」


 二人の死を見てしまった残りの三人は恐怖している。今まで彼らは、これほど恐ろしい光景を見た事がない。彼らの目の前で起こったのは、まさに地獄の光景だった。この地獄が、今から自分達を襲うのだと知り、自ら命を絶とうとする。

 どうせ死ぬなら敵の手にかかるのではなく、苦しまずに死のうと考えた彼らは、傷の痛みを堪え、装備していた短剣で自害しようとするが・・・・・・。


「ダ・メ・よ♡」


 自殺など許されない。彼女の大鎌が風を切り、一瞬にして三人の腕を斬り落とす。

 腕を斬り落とされた激痛で、彼らの絶叫が響き渡り、その声が、彼女をさらに興奮させた。


「うふふふふ、もっと遊びましょう。本当は女の子と遊びたいけれど、今夜はあなた達が私の渇きを潤す玩具よ。この私、ノイチゴ様の玩具になれた事を悦びながら、逝きなさい」


 そして、新たな悲鳴と絶叫が響き渡った。






 さらに別の場所でも、謎のメイドによる一方的な殺戮が行なわれていた。

 暗闇から現れた彼女の手には、大きな鋏が握られている。両手でなければ扱えない、通常よりも遥かに大きなこの鋏は、彼女自慢の武器である。彼女はこの鋏で人間の胴体を切断し、殺戮を行なう。


「・・・・・・」


 一言も発しない彼女は、ただ黙々と、目に付いた獲物を一人ずつ切り殺す。

 人が紙を切る場合などに使う、あの鋏とは違う。この大鋏は、刃渡り一メートル以上の両手で扱う武器である。メイドはこの大鋏で、人間の腕や脚、腹や首までも切断する。時にはその鋭い刃を人間の胸に突き刺すなど、彼女の大鋏による殺戮方法は、意外と多彩だ。

 城内を見つからぬよう移動していた彼ら五人の侵入者は、背後から突然襲われた。後方を警戒していた一人が最初の犠牲者となり、暗闇から突然襲撃をかけてきたメイドの大鋏は、彼の胴体を切断した。

 そこからは一瞬だった。一人を真っ二つにして殺害した瞬間、残りの四人にも襲い掛かり、己の大鋏で切り落とせるものは、何でも切ってしまう。目に付いた、首も胸も腕も脚も、彼らの持つ短剣の刃でさえ、彼女は切断する。

 大鋏を振りまわすこの無口なメイドの襲撃に対して、彼らの一番先頭にいた一人が、メイドから距離を取った。一番先頭にいたおかげで、襲われる前に反応する事が出来たのである。

 しかし、彼女と大鋏は、獲物の逃走を許さない。


「無駄・・・・・・」

「!!?」


 メイドは四人を断裁し、最後の一人を仕留めるために駆け出した。

 大鋏を閉じて、その刃を前に突き出し、猛然と突撃するメイド。彼は回避が間に合わず、彼女の大鋏の餌食となった。刃は彼の腹に深く突き刺さり、そのまま貫通する。

 大量に吐血した男。その瞬間、メイドは大鋏を引き抜く。

 大穴の開いた腹部から、溢れ出す鮮血。その傷の深さでは、彼はもう助からない。


「ぐはっ・・・・・・」

「・・・・・・」


 侵入者達の死を確認し、その場を後にする大鋏使いの無口メイド。

 彼女の名は、ラベンダー。一分も経たない内に、五人の男を殺害できる程の実力を持つ、メイドの格好をした殺人鬼だ。

 とにかく無口で無表情な彼女は、感情を表に出さない。これだけの殺戮を行なったというのに、眉一つ動かさないのである。最初は誰もが思う、「感情を失った人形の様な女性だ」と。

 だが彼女は、感情を表に出さないだけだ。そう、表には・・・・・・。


(陛下は御無事だろうか・・・・・・。まあ心配する必要はないかも。陛下の傍にはメイド長が控えている。残りは放っておいても、メイド長達が何とかするだろう。眠い・・・・・・、こんな時間に侵入して来ないで欲しい。残りの侵入者を処理したら、後で絶対城中を掃除しないといけなくなる。リンドウもラフレシアもアマリリスもノイチゴも加減を知らない。たぶん血だまりをその辺に量産してるから掃除が大変になる。面倒臭い、眠い・・・・・・)


 このように、彼女は心の中ではよく喋る。普段の無口さとは正反対だ。

 彼女もまた、他のメイド達と同じ様に、絶対の忠誠を誓った主に仕える、人殺しを得意としたメイドである。彼女も他の者達と同じで、主からの信頼厚いメイド長指揮下のメイドで、この場所で侵入者を襲撃したのは、メイド長の指示を受けたからである。

 メイド長が彼女達に下した命令は、「何者かの侵入を察知した場合、陛下に危害が及ぶ前に、これを全力を持って排除せよ」であった。とは言え、メイド長の命令を受けていなくとも、彼女達は主を守るために行動する。守る為ならば、人殺しも辞さない。

 いや、寧ろ彼女達は、メイド仕事よりも、殺しの方が得意だ。


「・・・・・・」


 五人の死体を一瞥し、もう一度彼らの死亡を確認すると、この場から背を向けて、次へと移動する。

 次と言うのは、残りの侵入者達の事である。彼女の仕事はまだ終わっていない。この城の中に侵入した者達を全員排除するまで、彼女の仕事は終わらないのである。

 大鋏を、シャキ・・・・シャキ・・・・・・と鳴らしながら移動する彼女の姿は、まさに死刑執行人。彼女の手による処刑は、まだ始まったばかりだった。

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