第十六話 新しい明日へ 前編 Ⅳ
ヴァスティナ帝国軍実験場。
この場所では日々、帝国軍の新兵器開発が行なわれている。成功や失敗を繰り返し、実験に合格した装備が次々と、日々この場所で生み出されるのだ。
そして、この実験場の支配者にして、新兵器開発の最高責任者。数々の帝国軍用新兵器を生み出し、帝国の勝利に貢献し続けた責任者の名は、シャランドラ。
特殊な言葉遣い(似非関西弁)で話す、ヴァスティナ帝国一の発明家である。
「ふっふっふっ、うちはついにやったで!!」
自信満々意気揚々。
自らの発明品に絶対の自信を持って、今まさに、完成させた発明品を起動しようとしている、帝国一の発明家シャランドラ。
完成させた喜びで、高笑いをしている彼女の後ろには、不安そうな表情で見守る、技術開発班一同。
「あっ、あのー・・・・・、シャランドラ班長」
「なんや?暗い顔してどうしたん?」
「今回こそは大丈夫なのでしょうか、その機関・・・・・・」
シャランドラが作り上げ、今まで失敗を繰り返し続けた、前代未聞の発明品。
大型の試作機械。この発明品を彼女はこう呼ぶ。
「魔法動力機関(仮)」が、この大型試作機械の名前である。
「まかしとけや!うちが三日前から徹夜して調整したんやで。今日、この日のために!!」
「それは知ってますけど・・・・・・」
「まあまあ、不安になる気持ちはわかるで。今までは、動かんかったり暴走したりしてたもんな。でも今回は、ぜーーーーーーったい大丈夫や!!」
その自信は何処から来るんだと、ツッコミをいれたい技術者一同。
どうせ、言っても無駄だろうが・・・・・・。
「この起動実験が成功した暁には、街で皆で一杯やろうや!いや~、三徹後の一杯は絶対格別やわ」
(((((それ、絶対失敗するフラグでは!?)))))
ここで止めればよかったのだ。そうすれば、あんな事にはならなかった。
殴ってでも止めればよかったと、技術者一同は後に反省する。
いや違う。最も反省するべき人物は、彼女だ。
「ほないこか。魔法動力機関、起動!!」
ポチッ。・・・・・グオングオングオン、キュイーーーーーーーン!
「よっしゃ、起動はじゅんちょ--------」
プシューーーーーーー・・・・・・、カチッ。
「ありゃ?」
次の瞬間、予想できた大爆発は起こってしまう。
技術者一同は爆風に吹き飛ばされ、シャランドラは爆発に巻き込まれてしまった。この魔法動力機関の爆発が、今回の騒動の原因である。
実験場での騒ぎは、シャランドラが開発し続けていた魔法動力機関が暴走し、爆発したのが原因だった。
起動は成功したものの、魔力を増幅させる装置の調整が甘かったらしい。それが暴走の原因であると考えられた。起動した本人であるシャランドラは、機関の近くにいたせいで、爆発に巻き込まれてしまったのである。
重傷者シャランドラは何とか一命を取り留め、爆風に吹き飛ばされた技術者達は、全員軽傷で済んだ。魔法動力機関は残骸と化し、実験場では小規模の火災が発生した後、兵士達の消火活動で火は消し止められた。
こうして、実験場での爆発事件は死傷者無しで終わり、事態は少しずつ収拾されている。
シャランドラは兵士達の手当てを受け、用意された担架で運ばれていった。運ばれたシャランドラを見送ったリックは、彼女の命を救ったミュセイラに振り返る。
「ありがとう。お前がいなかったら、今頃は・・・・・・」
さっきまでの態度が嘘のように、今はとてもしおらしい。
態度があまりにも違うせいで、少し動揺してしまう。
「べっ、別に私は、お礼を言われたくて助けたんじゃありませんわ。それに私のした事は、決して感謝されていいものではありませんの」
「怪我をした人間を助けるのが、どうして感謝されない事になる?」
「私の魔法は一種の治癒魔法ですけど、正確に言うと、怪我を魔法の力で治療したわけではありませんの」
そこでリックは気付く。
彼女は何故、シャランドラの身体の中だけを治療したのかと。魔法で怪我を治せるならば、切り傷や擦り傷も治療できたはずなのだ。
「さっきも言った通り、この魔法は人間の自然治癒力を無理やり活性化させるものですわ。魔法が治癒力を何倍にも強力にして、怪我の治りを急速に早める代わりに、身体に大きな負担をかける事になりますの」
「それって・・・・・・」
「簡単に言いますと、私は彼女の寿命を削って怪我の治療をしたんですわ。だから、感謝される事ではありませんの」
ミュセイラが、この魔法を最後の手段としていた理由。外側の怪我を治さなかった理由。二つの理由は共通している。
この魔法を使って怪我を治療すれば、急速な自然治癒によって傷が再生する。しかし代償として、寿命を失う。これが理由だった。
肉体の自然治癒力を、魔力で無理やり活性化させるため、細胞などにかける負担が大きくなってしまう。今回ミュセイラが治療したのは、シャランドラの損傷した内臓のみ。この魔法による内臓治療は、身体にとても大きな負担をかけてしまうため、寿命が大きく削られてしまうのだ。故に、これ以上の寿命の減少を防ぐためには、最低限の治療しかできなかったのである。だから彼女は、外側の怪我を魔法で治さなかった。
もしも、全ての怪我をあの状況で一気に魔法で治していたならば、かなりの寿命を失ったはずである。下手をすれば、全身の自然治癒力を一気に活性化させた影響で、身体に負担がかかり過ぎ、逆に死に至っていたかも知れない。
「そうだったのか・・・・・。でも、お前の治療がなかったらシャランドラの命はなかった。お前のお陰であいつが救われた事には変わりない。感謝してる」
深く頭を下げて、シャランドラに代わり感謝を示す。
てっきり、非難を浴びると思っていたミュセイラは、リックの行動に動揺を見せた。
「本当にありがとう。お前には、どんなに感謝しても足りない」
「そんなに感謝されるなんて・・・・・。いつも、私がこの魔法を使って誰かを治療した後は、決まって非難を受けますわ。人の寿命を勝手に削るなと、必ず怒られてしまいますの・・・・・」
目の前で失われようとしている命を、どうしても救いたいと思い、彼女はこの力を使った。今回と同じような状況は、今まで何度も経験し、その度に魔法を使って、人の命を救って見せた。
だが決まって、感謝はされない。命を救われた者たちは皆、寿命を削られた事を恨むからである。
「私、感謝されるのには慣れていませんの・・・・・・」
「そうだったのか。まあいい、ともかくお前の-------」
「待って下さいまし。いい加減、お前って呼ぶの止めて下さる?私には、ミュセイラ・ヴァルトハイムと言う名前がありますの」
「わかったよミュセイラ」
「いきなり名前!?しかも呼び捨てですの!」
「ヴァルトハイムって呼ぶのめんどくさい。だから別にいいだろ」
「良くないですわ!!ほんっと、失礼な方ですわね」
シャランドラが担架で運ばれ、二人が会話で盛り上がっていると、爆発に気付いて実験場へと向かっていた、帝国軍所属の者達がようやく集まった。
「おいリック!何があった!?」
気品のある、整った顔立ちの青年が、剣を携えこちらに向かって来る。金色の髪が特徴的で、如何にも女受けの良さそうな青年だ。
青年はリックの傍まで駆け寄り、彼の無事を確認すると、安堵の息を吐いた。
「お前に怪我はないみたいだな。実験場で爆発があったて聞いたけどよ、あの発明馬鹿がやらかしたのか?」
「ああ。今回ばかりは冗談で済まない失敗だったけどな。彼女のお陰でどうにかなった」
「なんだこの女?生意気そうな奴だ」
「ちょっ!?初対面なのに失礼すぎますわ!!」
「クリス、彼女はシャランドラの命の恩人なんだ。気持ちはわかるが、言葉には気を付けろ」
「気持ちはわかるってなんですの!?」
クリスと呼ばれたこの青年は、初めて見たミュセイラの顔を睨み、警戒の眼差しを向ける。睨み続け、三つを数える時が経ち、彼の警戒は解かれた。
リックが命の恩人だと教えた事で、怪しい者ではないと判断したのだ。
そしてやはり、ミュセイラの文句は無視である。
「まあ何にせよ、お前が無事で眼鏡女も生きてるんなら、大惨事ってわけじゃなさそうだ。慌てるまでもなかったぜ」
「心配かけて悪かった」
「気にすんな、俺はお前の剣なんだぜ?謝る必要なんてねぇよ」
「無視しないで下さいな!」
「ああ?妙な言葉遣いで気色悪いな。おいリック、何者なんだよこの騒音女?」
「騒音ですって!?」
早速、彼の得意なあだ名付けが行なわれた。
自分の言葉を騒音呼ばわりされて、流石の彼女も怒りが頂点に上る。彼女がクリスに、さらに文句を言ってやろうとした時、騒ぎを聞きつけ、遅れてやって来た兵士達が集まった。
集まった兵士達の先頭には、槍を手に持った赤い髪の少女がいる。少女はクリスと同じように、慌てた様子でリックの傍まで駆け寄った。
「参謀長閣下、お怪我は!?」
「ない。怪我をしたのはシャランドラ達だ」
「!!」
「心配ない、皆無事だ」
やはり少女もまた、彼と仲間の無事を知って、安堵の息を吐く。
ただ、少女はクリスと反応が少し違った。少女はシャランドラの怪我を知った時、驚きの反応を見せた。その時少女は、シャランドラの身を案じると同時に、もう一つ、別の事を考えているように見えた。
シャランドラの身に何かあれば、不味い事になってしまう。彼女の驚きには一瞬、そういう思考が見え隠れした。
(いえ、そんな事どうでもいいですわ!今、何と仰いましたの!?)
そうだ。今はそんな事よりも、重要な事がある。
この少女は今、リックの事を何と呼んだ?
「レイナ、クリス。後は任せるぞ。俺は陛下のところへ報告に行く」
「はい」
「めんどくせぇが、お前の命令なら仕方ねぇ」
事後処理を二人に任せ、この場を立ち去ろうとするリック。
背中を向けた彼に向かって、慌ててミュセイラは声をかけた。
「お待ちになって!まさか貴方が!?」
「・・・・・・そうだ。俺がヴァスティナ帝国軍参謀長、リクトビア・フローレンスだ」
呼び止められ、振り向いた彼は答える。自分こそが、リクトビア・フローレンスだと。
ミュセイラは立ち尽くし、何と言っていいのか迷っている。
迷うのも当然だろう。知らなかったとは言え、会いたかった人物に無礼な発言を繰り返してしまったのだから・・・・・・。
「閣下、この女性は何者ですか?」
「ミュセイラ・ヴァルトハイムって言うらしい。俺に用事があるそうだ。それと、彼女はシャランドラの命を救ってくれた恩人だ」
立ち尽くす彼女の代わりに、ミュセイラを紹介するリック。
命の恩人だと聞かされ、姿勢を正し頭を下げた、このレイナと呼ばれた少女は、クリスと違い礼儀正しい。礼節を弁えていると言うべきか。
「我らの仲間を救って頂いた事、感謝の言葉もありません」
「いっ、いえ・・・・・、別にそれはいいんですのよ・・・・・。それよりもあなた、私を騙していましたの!?」
「騙してはいない。黙ってただけだ」
彼女は改めて思う。この男は嫌いだと・・・・・・。
「最悪ですわ。そこの剣士さんもそうですけど、少しはこの礼儀正しい彼女を見習ってはどうですの!?」
「ふざけんな!なんで俺が脳筋槍女を見習わなきゃいけねぇんだ。いい加減うるせぇぞ、騒音女!」
「なんて口が悪いのかしら!気品があるのは見た目だけですわね!」
「やめろ破廉恥剣士。何があったかは知らないが、どうせ貴様に非があるのだろう」
言い争いで盛り上がり始めたこの場を、治めようとする者は誰もいない。周りの兵士達は、自分達に飛び火するのを恐れて見ているだけだ。「また始まった・・・・・・」という、呆れた表情を浮かべながら・・・・・・。
「やめろお前達」
治めようとはしないが、命令し、無理やり争いを終わらせようとするのは、レイナとクリスの主であるリックだった。彼の命令に、渋々従う二人。
あのまま放っておけば、また戦闘に発展していたかも知れない。
「俺は城に戻るが、その前にミュセイラ」
「はい?」
「用事があるんだろ、俺に。教えて貰おうか、その用事ってやつを」
ずっと会いたいと思っていた男が、目の前にいる。
まさかこんな男が、帝国の参謀長だと思っていなかったため、驚きのあまりその事を、すっかり忘れてしまっていた。
ミュセイラは意を決した。
深呼吸して落ち着きを取り戻し、彼女はようやく己の目的を話し始めた。
「私、ミュセイラ・ヴァルトハイムは、ヴァスティナ帝国軍に入隊を希望します。帝国軍参謀長リクトビア・フローレンス様、私を軍師として入隊させて下さいな」
彼女、ミュセイラ・ヴァルトハイムの目的。
それは、この国の軍隊で軍師となり、己の力を試す事であった。彼女は軍師となるために、帝国軍最高責任者である参謀長に、直談判しようとしていたのである。
まさか入隊希望だとは思わず、眼を見開くリック。呆れてものが言えないクリスと、驚くレイナを無視して、彼女は言葉を続ける。
「私、この国の軍隊は将来、必ず大きな力を持つようになると確信していますの。だから私--------」
「おいリック!この頭のおかしい騒音女を、まさか入隊させようとか考えてないだろうな!?」
「邪魔しないで下さいまし!まだ私の話は--------」
「黙ってろ!大体てめぇはなんなんだ!?いきなり入隊させろとか、ふざけるのも大概にしやがれ!!」
「・・・・・・これと似た事が前にもあったぞ、破廉恥剣士」
「言われなくてもわかってる!あいつは結局大丈夫だったがな、こいつはどうだかわからねぇ。てめぇ、どこの生まれだ!?」
彼女の正体を知るために、乱暴に出身を問いただす。出身だけでなく、クリスは彼女に、他にも聞きたい事が山ほどある。
「生まれって・・・・・・。私はジエーデル国の-------」
ミュセイラが言い終わらない、その一瞬の事だった。
彼女の喉元に、槍の切っ先が向けられている。喉元と切っ先の距離は、数センチしかない。
「今・・・・・・、なんと答えるつもりだった?」
「ひっ!?」
気が付けば、ミュセイラに一瞬で近付いて、十文字槍の切っ先を向けているレイナ。
彼女からは鋭い殺気が放たれ、視線はミュセイラの瞳を見つめて動かない。もしもここで、少しでも抵抗しようものなら、確実に殺される。そう思った。
少女が放つ殺意に、彼女は完全に恐れをなしてしまった。恐ろしすぎて、足が動かない。
「答えろ。貴様はどこの生まれだ?」
「だっ、だから私は、ジエーデル国の出身だと答えようとして・・・・・・」
場の空気が豹変した。兵士達は武器を構えてミュセイラを取り囲み、クリスもまた剣を抜く。
そしてリックは、一連の出来事に驚愕し、目を見開いたまま立ち尽くしていた。
「正体現しやがったな!ジエーデルの糞女!!」
「待って下さいまし!私が何をしたと言うんですの!?」
「うるせぇ!あの国の人間なら生かしとくわけにはいかねぇぜ。おい槍女、早くやっちまえ!」
「だめだ。まだ企みを聞き出してはいない」
殺気が渦巻く。レイナもクリスも、彼女を取り囲む兵士達も、鋭い視線と殺気を向けている。
皆、彼女を完全に敵だと考えていた。
「参謀長閣下に近付き、何を企んでいたのか教えて貰う」
ジエーデル国。この国の名前は、レイナ達にとって、特別な意味を持つ。帝国の人間達は、あの国を憎んでいる。
いや、レイナ達以上に、ジエーデルと言う国を憎んでいるのは・・・・・・。
「お前が・・・・・・ジエーデルの・・・・・」
ジエーデルという言葉は、リックから冷静さを奪う。
憎むべき国の生まれの彼女は、自分にとっての、かけがえのない仲間の命を救ってくれた。冷静ではいられず、だからといって、彼女を憎む事が出来ない。彼は混乱し、これ以上言葉が出せずにいる。
「連行しろ」
レイナの命令を受け、兵士達はミュセイラを拘束し、連行しようとする。
彼女は抵抗しようとするが、相手は訓練された兵士だ。彼女一人ではどうしようもない。武器を突き付けられ、抵抗できないように腕を掴まれ、リックから引き離されていく。
「待って、まだ私は!」
ミュセイラの叫びは届かない。
彼女は目的を達する事が出来ぬまま、帝国軍に捕らえられてしまったのである。
彼女の名は、ミュセイラ・ヴァルトハイム。
使い方のおかしいお嬢様言葉を使う、真面目で意外と頑固な性格の、独裁国家ジエーデル国生まれの女の子である。
彼女は今、人生最大の危機に直面している。
この時、彼女はこう思っていた。正直に答えすぎると、損をしてしまうばかりだと・・・・・・。




