表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君が見つけた空  作者: にゃろめ
〜君の見つけた空〜
8/27

フィレンツェの午後にて

今日のフィレンツェはこれまでにないほどの快晴で、雲ひとつない青空が一面に広がっていた。

古い街並みをヒカリと並んで歩く。

ほどよい風が俺たちの間を駆け抜けて、まるで背中を押してくれているようだった。

「ねぇ、これから行く「ドゥオーモ」にはいったい何があるの?」

隣でイタリア・フィレンツェの観光パンフレットを広げているヒカリはそれを見ながら声をかける。

俺はそんなヒカリを横目で見ながら歩き続けた。

「それは秘密。」


えぇ!といってこちらを見上げるヒカリは、もう高校生だ。

ちょうど、俺たちが出会った頃と同じ。

全体的に色素が薄いのか、肌の色も白ければ、髪の毛も太陽に透けて金色に近い色に見えるときもある。

それに何より、目の色が鳶色でヒカリはそれがほかの人と違っていて嫌なのだそうだ。

小学生くらいの時には友達に「外人」と仲間外れにされ、泣いて帰ってきたこともあった。

今ではそんなことはまったくないのだが。


「それにしても本当に英語ペラペラだね。イタリア語もそれなりに聞き取れてるみたいだし、すごいよね。」

「いや、イタリア語は俺も実はあんまりなんだ。大学時代に友人に教えてもらった程度だし。」

「…へぇ、それって昨日のレイナさんって人?」

急に声色を変えたヒカリはニヤニヤしながらこちらを見る。

何を想像しているのかは大体予想がつくのだが。

「まぁ、そうだな。」

「もしかして、レイナさんと大学時代に付き合っていたとか?」

「それはない。」

やっぱり、と自分の勘を誉めてやる。

付き合ってはいないが、確かにそうゆう雰囲気は出ていたのかもしれない。

あの頃もよく周りから恋人同士だと間違われていたのだから。

ヒカリもそっか、と言ったきりその話を振ってくることはもうなかった。


「今日が終わったらね…。」

日本へのお土産を選んでいる最中、なぜかダビデ像のミニチュアを手にしながらヒカリが話し始めた。

だがそのあとの言葉はなかなか続いてこない。

じっとミニチュアを見つめるその目は少し寂しげだった。

「それ、欲しいの?」

そういってダビデをヒカリの手から取り上げると、はっとしたように慌てて両手を振る。

「いや、違う。それは特に欲しくない!ただ、見てただけで…そうじゃなくて。」

やっぱりいいや、とヒカリはまたお土産を見始めてしまった。

何を言いかけたのか気になるが、きっと今日が終われば自分からまた話してくれるだろう。

背中を向けたヒカリは今日は薄い藍色のワンピースを着ていた。

本当にもう、高校生なんだなとその後ろ姿を見て思う。

それと同時に一瞬懐かしさと、寂しさが心をかすめていく。

昔と重ねてみてしまうのは今日がまだ終わっていないから。

今日が終わったら。


俺はヒカリの手をそっととった。

彼女は突然のことに目を大きく開いてこちらを見る。

「なにやってんの?!恥ずかしいよ!もう子供じゃないんだから。」

「イタリアの人が見たら、日本人なんて俺だって子供に見られるさ。」

「えぇ?もう40近いのに?」

「うるさい。」

始めは振りほどこうとしていたが、しばらくして俺の左手をぎゅっと握り返してきた。

それに負けないように俺もまたヒカリの右手を握り返す。

もう何年も前にこうして手をつないで歩いた記憶。

あの頃よりずいぶん大きくなったヒカリの手。

きっとこの繋いだ手を離さないでいてくれるのは俺を気遣ってくれているのだろうと思う。

約束の時間はもうすぐだった。


ここは以前来た時とまったく変わっていなかった。

時を止めた街フィレンツェ。

俺はもう何年も前に2度、ここに来た。

一番最初の時はまさか自分がまたこの地に足をつけるだなんて想像もしていなかった。

「ねぇ、あそこに見えるのは?」

ヒカリが斜め上の方に大きく指をさした。そこには赤い半円の屋根が堂々と座っている。

「あれがドゥオモだよ。」

「あれが…。もしかして天辺はあそこ?」

「そう。クーポラを上るのは本当に大変なんだ。まるで天国への階段のような長さで、真っ暗だし。高すぎて俺でも最初は足がすくんだよ。」

そう言って笑うと、ヒカリは信じられないといった顔で眉間にしわを寄せた。

ドゥオモは堂々とそこに立っている。


18年前、一番最初にフィレンツェを訪れた時。

俺の隣に立っていたのは、俺の友人。

人づきあいが得意ではなかった俺にできた初めての友人で、そして親友。

そう、人生でたった一人の。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ