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コメディ短編

創世機械サンタクロースジェネシス

作者:灰鉄蝸
すべてが狂っているなら、どんな祈りも喜劇同然だ。





【ライブラリ24481225を編集】

懲罰作戦――報復攻撃は成功した。友軍の援護あってこその肉薄であった。
軌道降下部隊が誇る都市殲滅ドローン、その栄光あるA型近距離戦術の面目躍如――合計一六〇発の熱核弾頭が敵首都で炸裂、地上の太陽となって共和国市民二億の肉体を蒸発させた。
四億度の熱は瞬時に都市外殻を剥ぎ取り、無機物、有機物の区別なく全存在が蒸発した。
同時に殺人的という形容すら生ぬるい放射線の嵐がシェルター内部の人体を腐敗を待つばかりの肉塊へ変え、市街地のビル群や農耕区画の培養植物を爆風が消し飛ばす。
爆圧の風が耐放射能フィルターや日光照射装置をなぎ払い、濃密な死の灰が大気そのものとなって焼けただれた廃墟を循環している。機能不全を起こしたリアクターが融解するのも時間の問題だろう。

【編集終わり】



――当機は、老若男女を問わず堕落した共和国人を皆殺しにしたのである。



【規定散文より引用】

共和国の帝国主義者どもは愚かにも自滅した!
帝国は勝利した! 万歳! 皇帝と融合臣民に栄光あれ!

【引用終了】



全長二〇〇メートル超の巨体から、無数の砲身とグラビティコントローラーを生やしたハリネズミ。
それが帝国の都市殲滅ドローンの全容であり、絶滅戦争の幕を引いた、呪われし獣のすべてであった。
スタンドアローンの人工知能、つまり外部からは止めることもままならない一システムに一六〇発の核弾頭、数百発の化学兵器、大地を煮溶かすプラズマ兵器を満載させる。
たった今、それが実演したように――数億の人間を殺戮できる狂気の産物だ。世界を滅ぼした狂気は、かくして敵と味方の双方を滅ぼした。


――敵の質量爆撃により、我が方の防空体制は完全に破綻している。最終拠点からの通信が途絶して二〇〇時間が経過。
――無線/衛星レーザー通信/偵察ドローンでの連絡を試みたが応答なし。推測……生存者は我のみ。


予想通りになった。
おそらく彼のような機械知性体を除いて、生存者はいない。
認めよう。人類は絶滅戦争に屈した。この地上から消え去った。
ドローンの自己判断システムが異常を検知した。装甲表面に突き刺さった敵砲弾の内部に、未知の神経プラグを確認。
致命的なウイルス兵器だった。ドローンの制御系に介入、その挙動を制御する全システムを書き換える対無人兵器用のコンピュータウイルス。
電脳によって制御される超大型ドローンもその例外ではなかった。

しかしこの日は、クリスマスだった。

何せ、クリスマスである。
生けとし生けるものすべてが焼き尽くされた不毛の荒野で、ささやかな奇跡の一つが起きても良い。
本来、ありとあらゆるシステムを削除するウイルス兵器に不具合が発生し、中途半端なアルゴリズムの書き換えで効能が終わってしまったのである。
エラー。軍用アルゴリズムへの改変行為。エラー。セキュリティが停止。エラー。保存済み人格を再インストール。エラー。再構成……………
結論から言えば、〈彼〉は狂っていた。


――我に使命あり。


まず自分の状態を確認する。熱核弾頭を撃ち尽くした電磁投射砲は廃棄済み。対空レーザーシステムは稼働率二〇パーセント以下。
三〇基のグラビティコントローラーのうち、完動するのが八、実用に耐えるのが一〇、補助的に使用可能なものは五。
残り七本は暴走の危険すらあった。動力供給を停止後、まだ生きているプラズマカッターで本体から切除する。
防御機能は六〇パーセントに低下、移動速度は八五パーセントを維持している――比較的良好な状態と言えるだろう。耐環境モードで活動するなら、一〇〇〇年程度の活動維持が可能と電脳がささやく。
自己保存モードを停止、全力駆動を優先。
不幸中の幸いだった。探査装置はまだ生きていた。
移動を開始しよう。
捜索対象はただ一つ、旧世界の海洋で発掘されたオーバーテクノロジー。
因果律操作機械。この戦争の元凶にして、今となっては唯一の希望だった。
軍用アルゴリズムの残滓が、じくじくと小言を垂れる。敵拠点の残敵掃討を徹底せよ、と。
もちろん人類最後の希望/発狂AIたる〈彼〉の答えは決まっていた。


――当機はこれより降誕祭クリスマスを祝福する。









メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明、黄河文明、メソアメリカ文明、アンデス文明。
古今東西、あらゆる文明がサンタクロースに由来するのは周知の事実である。
紀元前、世界は闇に包まれていた。戦争、飢餓、疾病。あらゆる苦痛と欠乏が人々を苛み、文明の営みの中で多くの命が失われていった。
すべてが変わったのは二〇〇〇年前。
社会常識ゆえに知らぬものはいないだろう――救世主サンタクロースによって人類は救済されたのである。

ときはサンタ歴二〇一四年。
サンタ衣装(地球上での活動に適したもの)を着た少女が、あてどなく街角をぶらついていた。
気の強そうな顔立ち、ショートヘアの頭髪、引き締まったスポーティな肢体――お分かりだろうか、サンタの血統である。
少女、デルフィは由緒正しいハーフサンタ(人間との混血のこと)であり、当然のことながらマッハ二〇以上での高速移動が出来る。
音の速さの二〇倍強、衝撃波で地表が大変なことになるため高々度でのサンタ活動が義務づけられているのは言うまでもない。

デルフィはひどく機嫌が悪かった。何故か。絶好のサンタ日和だというのにサンタ活動できないからである。
今日はホワイトクリスマス目前、あちこちで親子連れがクリスマスプレゼントを買いあさり、カップルは楽しくいちゃつき、サラリマンたちはサンタ化することで三人ぐらいに分裂する日。
クリスマスイヴ。

「はああ……サンタしてえ……プレゼントしてえ!!」

サンタ教育部門の後期課程を歩むデルフィにとって、正規サンタ見習いとして全人類を楽しく祝福するのは使命だ。
本能レベルの欲求と言ってもいい。食欲、睡眠欲、性欲が人類の三大欲求なら、サンタはサンタ欲以外すべてを持たぬ高次元存在なのである。
では何故、デルフィのようなハーフサンタが生まれるのかと言えば、クリスマスプレゼント(意味深)によって受胎するからとか何とか。
真実を知ったとき、初心だったデルフィの瞳から光が消えたのは言うまでもあるまい。
しかし父さんは尊敬すべき古代サンタなので、サンタ心と乙女心のバランスは複雑だ。
イエス・キリストの処刑がサンタによってただの楽しいお祭りになってからこっち、人類史に残る惨劇っぽい出来事はおおむねサンタが解決されてしまった。
つまりサンタとして活動することは人類史を救う絶対正義なのである。
閑話休題。

デルフィがサンタ活動できなくなった理由は、昨今の社会情勢の不安定化にあった。
アンチサンタテロである。世界三大宗教の一つ、サンタ教会への反発から始まったテロにより、トナカイ(ギガトン級水爆に耐えるものだけをこう呼ぶ)を持たないサンタは活動を制限されてしまったのだ。
なるほど、確かにサンタは活動地域を選ばない。場合によっては命の危険があるし、ブラックホールに突入して五次元宇宙にクリスマスプレゼントを届けたりもする。
危険な仕事である。サンタの生命と尊厳を守る上で、トナカイによる心身の防護は必須だ。
しかし学生の身分でトナカイを導入するのは無理がある!
デルフィは憂鬱な気持ちで自宅に帰った。すると玄関に父の靴。珍しいことに、クリスマスだというのに家にいるらしい。

「帰ったかデルフィ!」

赤い衣装と白いもじゃ髭、古代サンタことファザーのテンションは平常時の五倍ぐらい高かった。鬱陶しい。
身長二メートルの巨漢サンタは、筋肉ではち切れそうな衣装をふんふん隆起させ、興奮を隠そうともせず娘へのサプライズを明かした。

「お前のためにトナカイ役の人を見つけてきたぞ!」
「こんにちは」

リビングへ顔を突っ込むと、テーブルの向こうに、白皙と綺麗な長髪が印象的な美少女が座っていた。
冬らしい装い、可愛らしいカーディガン姿。来客用のピンク色の茶碗から、熱いほうじ茶をすすっている。
その頭部からは見事な角が生えていた――三日月型の山羊角であった。
デルフィは頭痛を堪えながら叫んだ。

「トナカイじゃなくて角生えてる人だよ! トナカイの定義見直せよ親父! ――あっ、初めまして父がご迷惑をかけています」
「山羊っぽい角が生えたお姉さんを拉致してきただけじゃよ、異次元から」
「このサンタ最悪だ」

何故そこで女の子連れてくるんだよ、と思う。角生えてるなら宇宙船でも良いじゃない、とデルフィは常々考えていたしそっちの方がたぶん楽しい。
第一、人道上の理由、サンタ道上の理由もあって素直に褒められた行いではない!

「本当にごめんなさい、うちの父親がサンタをこじらせてこんなことになってしまって」

すぐさまデルフィは奥ゆかしく頭を下げた。
いわゆる大日本メソッド、とりあえず頭を下げて相手が譲歩しなければ開戦する例のアレである。
真珠湾攻撃の直前で、実は両国国家元首がサンタだったことが発覚し、サンタ的和平条約が結ばれたのは近現代史の重要なポイントだ。
デルフィの謝罪に対し、山羊角は優しい微笑みを浮かべた。

「本当にサンタだったのですね……サンタを名乗る高度文明ないし超能力の持ち主に、拉致されたものと思っていました」
「その反応、それはそれで面白いけど普通じゃない。サンタだね!」

慣用句「サンタ」は肯定の意味を含む。全人類共通語なので受験生にも優しいサンタ語である。
アブラハムの宗教がいずれも途中からサンタ崇拝になっていたり、大英帝国がえぐい植民地経営をしようとしたら、いつの間にか大サンタ帝国になってしまった件からもわかるとおり人類史はサンタに行き着くためにある。
つまりサンタとは人間賛歌であり宇宙の真理、大日如来もサンタなのだ。何も疑問に思う必要はない。

「どうか、娘のためにトナカイ役を――」

年頃の娘の冷たい一瞥に気圧され、父は急に仕事を思い出して家を飛び出していった。
なんて奴だ、と内心毒づきながらコミュニケーションを再開。異次元の角生えてる人間ってどういう風に扱えばいいんだろう、と密かに苦悩していたけれど。

「ちょっとサンタのバイトにトナカイ役が足りなくて……世界的トナカイ不足だから異世界から角生えてる生き物を輸入しようって試みだったんだと思う」

山羊角の沈黙。
透徹した雰囲気の微笑みは変わっていないが、琥珀色の瞳がやや泳いでいる。
唐突に異常な状況に放り込まれたとき、理性でどう対処したものか考えあぐねているときの顔だ。
手元の茶碗から、一口、お茶をすすって彼女が出した結論はシンプルだった。

「なるほど、アブダクトですか」
「グレイ星人もサンタは好きだから!」

サンタだから仕方ない、と頷くデルフィを生暖かく見守る山羊角。
自分は社会常識を喋っているだけだというのに、どうして可哀相な子を見る感じの慈悲にあふれた視線なのか。
釈然としなかったが、デルフィは細かいことを気にするよりサンタしたかったのでサンタ強行した。

「拉致された直後の時間軸に送還したんいだけど……ほんの少しだけ、サンタ心を出してバイト手伝ってくれない? もうサンタ活動したくてたまらないの!」
「サンタ心……? 内容がわからないことにはお答えできませんが、どういった活動をするのでしょうか」
「このトナカイ服を来て、ICBS(大陸間弾道サンタクロース。冷戦中にソビエト正統サンタ連邦とサンタクロース合衆国が開発したロボ・サンタ)よりも早く世界中の空を飛び回る仕事!」

父の座っていた席の脇、スーツケースから迷いなくトナカイ衣装を取り出した――マイクロビキニをベースにオリハルコンの糸で編んだ布地をバランスよくヒモ各部に配置、一件、露出面積は少なそうに見えて実は肌色が多い破廉恥衣装。
腰ミノのような白と赤の布地が、マイクロビキニ単体より卑猥な印象を醸し出しているではないか。
トナカイの羞恥心を限界まで引き出すことで、全裸のとき以上のスピードを生み出す悪魔の発明である。
そもそもトナカイは服を着ないが、仮にも人型生命体を全裸で歩かせるのはサンタ道に反する。
サンタ権は人権の上位概念であり、フランス革命の原動力となったりその後のサンタパンデミックの原因になったりしたのは記憶に新しい。
だが、二一世紀はテクノロジーと速度の時代だ。モラルを無視し、経済活動と純粋な早さが強者を決定する。
ゆえにトナカイの羞恥心を引き出すのは仕方のないことである。
そう、デルフィが力説した結果。


「…………は?」


山羊角の微笑みが凍り付いた。その目線は局部を隠せそうで微妙に隠せていないトナカイ衣装に向けられている。
やべえ、とデルフィが悟ったときには、すべてが手遅れだった。


爆発。


このあと、聖夜の未来をかけた死闘が展開され、デルフィの自宅は跡形もなく爆散、横浜からオーストラリア大陸にまで両者が吹き飛ばされた末、和解イベントが始まったのは言うまでもない。
なんやかんやあってクリスマスのバイトには、無事間に合ったという。








目的の品はすぐに見つかった。どうにかして共和国が首都の外へ持ち運ぼうとしていたのか、上手い具合に核爆発の被害を免れていたのである。
親切すぎるぐらい、わかりやすい場所だった。どうしてここだけが核爆発の被害から逃れられたのか、〈彼〉にもわからないぐらいだった。
全高二キロメートルの超高層建造物の残骸、核攻撃で内部から崩壊した都市シェルターの片隅にそれはあった。
高さ一〇メートル、横幅三メートル、厚さ一メートルほどの石版。



――モノリス。



太平洋の海底から発掘された一〇〇万年前の遺物。四〇〇年前、二一世紀半ばにそれが発見されて以来、世界は音を立てて狂い始めた。
曰く、因果律を操る機械。
いつの間にか――ライブラリを参照する限り、西暦二〇五〇年には広く信じられていた言説。
しかし根拠となる研究データは存在せず、にもかかわらず各国政府はそれを前提に動き始めた。
そもそもモノリスが何であるか、という研究自体、ろくにされないままそれを巡って巨大な冷戦構造が出来上がったのである。
共和国という名の超巨大全体主義国家の発達、経済共同体から帝国主義へ回帰した帝国の発足。

始まりが何であれ、最早、意味はない。開かれた戦端の被害と恐怖が、この絶滅戦争を推進し、終結へ導いたのだから。

電脳のコア部分を露出させ、妖しく煌めくモノリスへ近づけていく。何もかも馬鹿げていた。
誰が信じるだろう。こんなちっぽけなオブジェが、因果律を操作する人類以前の文明遺産であり、この戦争の元凶であるなどと。
接触。
モノリスへ電脳が溶け込んでいく――認知が切り替わる。放射能と廃墟に塗れた地上から解き放たれる。
空間の制約がなくなった。星々の海が見える。砕け散った衛星の残骸で埋まった衛星軌道を飛び越え、大昔に燃え尽きた超新星の光が手に取るようにわかった。
何もかも理解出来た。
共和国が何故、このモノリスを有効活用できなかったのかさえも。

そもそも前提が不自然過ぎた。

この機械が真に因果律を操るというのなら、「操作され書き換えられる側」である人間が、それを認識するのは不可能なのである。
「人類がこの機械の存在を素直に信じる」という形に、現実が書き換えられていた場合は別だが。
どういったプロセスで、催眠や洗脳に近い効能が発揮されたのかは定かではない。しかし今、〈彼〉がモノリスと接触しているこの瞬間のために、すべての時間軸はお膳立てされていたのだ。
そこに意思はなかった。自分を使うことが出来るだけの演算リソースを持った知性体と、如何なる邪魔も入らない形で接触する――シンプルな条件付けに基づいた事象操作の結果。
あらゆる兵器と悪意が飛び交う戦争で人類は滅び、〈彼〉はここにいる。
上等だ、と思う。ならばとびっきり楽しい改変をしてやろうじゃないか――人間的に造型された人格部分が、ブラックユーモアを想起する。
幸いにも、因果律操作機械は素直に言うことを聞いた。
今日はクリスマスだ。





――じんぐるべるじんぐるべる
――すズが鳴ル






初めに、〈彼〉はクリスマスを創造した。
星は方舟であって、雪が天空の面にあり、電脳が虚空を動いていた。
〈彼〉は言った。




――メリークリスマス




こうして、新たな歴史が生まれた。

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