帰り道
何があっても部活だけは休まず出ている。テツ先輩は噂とか気にしない唯一の人物だからだ。
「おう、楓。最近調子良いんじゃないか?」
ガッシリした体型のわりに可愛い笑顔のテツ先輩は俺の肩を組んで来た。悪いが暑苦しい。
「痛いっすよ。」
次の練習試合にピッチャーとして初出場できるかも知れないと聞いて楽しみでもあるし、咲音にも言おうか迷っている。
「まどかも見に来るらしいから、気合い入れて行くぞ。」
『まどか』とはテツ先輩の妹で、咲音の親友だ。かなりの美人らしく(好みじゃない)、先輩から人気らしいがテツ先輩と言う鉄壁のガードが邪魔してるとかしないとか。
練習試合とは言え、とにもかくにもテツ先輩とのバッテリーでの初試合だ。気合い入れて行くぞ。
部活が終わって、咲音のいる教室を横切ると人の気配がした。
「幸田?」
咲音は一人席に着いていた。
「あれ?もうこんな時間?」
「まさか、俺を待ってた?」
なんて自惚れ発言をしたが、咲音は無反応だ。
教室に入り、咲音の隣に座ってみるとビクリと肩を動かした。
「やっぱ何かあったんじゃねぇの?」
「宿題してたら遅くなっちゃっただけだよ。」
「あっそ。じゃあ、帰るか。」
自分の汗臭さがバレないか心配しながらの二人で帰る道のりは、長いような短いようなこしょばゆい時間で、気恥ずかしいからバカな話ばかり選んで俺だけが無駄に喋っていた。
「で、練習試合だけど。」
「…。」
「聞いてねぇのかよ。」
ドキドキしてんのは自分だけだと思うとさすがに切ないな。
「上の空だな。」
「へ?あ、ごめん。」
それからは走って帰った。それが、中学時代最後の二人で帰る時間だなんて知るよしもなかった。
その日、俺は丸刈りにした。