キミの違和感
咲音が泣いている。あぁ、これは夢なんだ。まだ小学校低学年くらいの咲音は泣いていたのに俺を見つけると満面の笑みを溢した。
いつも俺よりも強くて俺よりも一生懸命。そして、たまに不器用なところがほっとけねぇんだ。
ニュースで台風が来るとか耳にした今日この頃。普通の学園生活が戻って来た。ハブられてたのが嘘だったかのように俺は確かに存在していた。
「かーじき!メシ行こうぜ。」
「わり。ションベン行ってから行くわ。」
2、3人のクラスメイトに誘われるのにさすがにまだ違和感があって、俺の中の何かが拒絶する。
「それでも人間かよ。」
廊下でそう呟くと、咲音と目が合った。学校ではだんだん話さなくなったけど、今日は何か違和感があった。
「どうした?」
すれ違いざまに腕を掴むと咲音は下を向いているまま動かない。おかしい。いつも前向きで笑顔が眩しい咲音がそこにはいなかった。
「大丈夫。ちょっと具合が悪いだけだよ。」
「…そっか。」
目をそらすと言うことは生理か。女子も大変だな。なんて中1の男子らしからぬ事を考えてると咲音は俺からすり抜けて行った。
思えばあの時、俺は気付いていたのかもしれない。
やっと手に入れた『普通』を手放したくなかった。知らぬ間に避けていたんだ。
自分が可愛くて。